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『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』折り返し
MCUドラマ最新作『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』は、全6話の内、折り返し地点にあたる第3話の配信を開始。Disney+オリジナルのMCUドラマとして高い人気を誇る同作も物語は佳境を迎える。
第2話でようやく合流したサムとバッキーだったが、中盤から終盤にかけては更に複数の主要キャラクターが登場する。今回は、『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』第3話「パワー・ブローカー」をネタバレありであらすじと共に解説と考察をお送りする。
『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』第3話ネタバレあらすじ&解説
サムとバッキーはジモをどうする?
『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』第3話のタイトルは「パワー・ブローカー」。第2話で名前が登場した、フラッグ・スマッシャーズを追っていると思われる人物だ。第3話の冒頭は、サノスの指パッチンで消えていた人々に手を差し伸べると謳うGRC (Global Repatriation Council: 世界再定住評議会) のCMから始まる。GRCは「大きな変化に戸惑う多くの人々」に“元通りの生活”を提供するために「復帰、復興、復元 (Reset, Restore, Rebuid)」というスローガンを掲げている。
だが、優しい雰囲気のCMとは裏腹に、武装した兵士に護衛された物々しい雰囲気のGRCのバンから出てきたのはジョン・ウォーカーだ。フラッグ・スマッシャーズのカーリを匿っていた施設に突入すると、乱暴なやり方で尋問を進める。これまでの悩めるジョン・ウォーカーとは違う、“横暴なアメリカ人ヒーロー”をやっている。冒頭のCMといい、どこかドラマ『ザ・ボーイズ』(2019-) を想起させる。相棒のバトルスターことレマー・ホスキンスは、カーリが難民に避難所とワクチンを配っていることを説明し、力づくでは崩せないとジョン・ウォーカーに説く。やはりジョン・ウォーカーが冷静さを失っているようだ。
その頃、ジモに会いにいくことを決めたサムとバッキーもドイツにいた。遂に『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016) 以来の登場となったジモは、バッキーにマインドコントロールが効かないことを確認しつつ、かつての行いを「君に恨みはなかった」と謝罪する。新たに超人血清を生み出した人物に心当たりがあるというジモ。バッキーはサムにジモを脱獄させることを提案するが、サムはジモが国連を爆破し、ティ・チャカを死に追い込んだことを挙げて猛反対する。
バッキーが計画を説明する際にジモが読んでいる本として“マキャヴェッリ”の名前を挙げているが、手に取る本はマキャヴェッリの原著ではなく、ロジャー・D. マスターズの著書『Fortuna ist ein reissender Fluß.』(1999)。ロジャー・D. マスターズはマキャヴェッリ研究の書籍を出版しているアメリカの学者だ。なお、マキャヴェッリは『君主論』(1532) などの著作で知られる思想家で、人民を統治する君主に必要な素質などを説いた人物である。民主的に正義を執行しようとするアベンジャーズとは異なる思想であり、ジモらしいチョイスだと言える。
ジモの脱獄計画について説明するバッキーだったが、実は既にジモを脱獄させてしまっていた。ほぼジモ一人で成し遂げた脱獄とはいえ、バッキーが手助けしたのは事実。バッキーは、スティーブもバッキーのために法律を犯したと主張し、反対するサムを諦めさせる。サムはジモに「俺たちの許可なしに動くな」と指示し、ジモを受け入れる。ここで『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』のタイトルが入り、第3話は改めて幕を開ける。サムとバッキーのコンビにジモが加わったことを暗示する象徴的な演出になっている。
ジモの正体
サム、バッキー、ジモが集合していたのはジモの車庫。ジモは超人血清が広まるとアベンジャーズのような超人軍団が生まれる可能性を指摘し、サムとバッキーに協力する動機を明らかにする。「やり残した仕事」を果たしたいのだという。
ここでジモはソコヴィアでは男爵 (バロン) で元王族だったことを二人に明かす。高級な衣装に身を纏い、自家用ジェットにエズニックという名の執事が出迎える様はさながらバットマン。任務に取り掛かるにはあまりに条件が揃っており、ご都合主義な感もあるが、サムとバッキーには金持ちキャラがチームに加わった。それに、これだけの生活を手にしていながら、アベンジャーズに復讐を果たそうとしたジモは、まさに“信念のヴィラン”だったと言える。
ジモはバッキーの心理を完全に読んでおり、ノートを見ただけで、バッキーが息子を殺してしまったナカジマの名前を挙げてみせる。動揺するバッキーだったが、サムはそのノートがスティーブのものだったことを見抜き、マーヴィン・ゲイのアルバム『トラブル・マン』(1972) の話に。これは『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014) でスティーブとサムが初めて出会った時に勧めていたアルバムだ。確かにこの時、スティーブは『トラブル・マン』のタイトルをメモしていた。
スティーブの話から、ジモはアメリカの超人兵士がもてはやされる状況を危惧する。ジモの言い分が正論に聞こえるのは、これまでのMCUの歴史と第3話冒頭のジョン・ウォーカーの振る舞いを見ているからだろう。一方、ラトビアはリガにあるGRCの再定住キャンプでは、カーリが死にゆく仲間を看取っていた。
マドリプールへ
サム、バッキー、ジモの3人はマドリプールに到着。かつて海賊の巣窟だったという街に変装をして潜入する。3人の車を取り囲む暴走族のようなバイクにアジア風のエキゾチックな街並み。この場面で流れている曲ははフィリピン出身のラッパーであるシャンティ・ドープ (Shanti Dope) の楽曲「Amatz」(2019) だ。
そして、この街の壁には「パワー・ブローカーが見ている (POWER BROKER IS WATCHING)」の文字。第2話でフラッグ・スマッシャーズを追っていたパワー・ブローカーが支配する街のようだ。
ジモはバッキーを“ウィンター・ソルジャー”として従えてパワー・ブローカーの取り巻きと戦わせることで、超人血清流出に関する情報を持つセルビーとの面会を果たす。セルビーに会いに行く場面で流れている音楽は、フランスのシャンソン歌手であるエディット・ピアフの「小さな男 (Le Petit Homme)」(1946) だ。
ジモは、セルビーから超人血清に関する情報を受け取る見返りとして、ウィンター・ソルジャーを譲ることを約束。セルビーは超人血清がマドリプールにあり、パワー・ブローカーがウィルフレッド・ネイゲル博士という人物に作らせたのだという。ここでサムの電話にサラからの着信が入り、変装がバレてしまう。同時にセルビーが射殺され、3人はあっという間にお尋ね者に。
逃走劇が始まるかと思いきや、ここで登場したのはシャロン・カーター。狙撃で敵を排除するが、『シビル・ウォー』での経験からジモ、バッキー、サムには恨みを持っている様子だ。キャプテン・アメリカの盾とファルコンの装備を盾を二人のために盗み、“指パッチン”で5年間消えていたシャロンは、今も潜伏生活を強いられ、家族にも会えない日々を過ごしているという。
この恨みは一時保留とし、シャロンは3人をハイタウンに匿う。シャロンは名画を盗むなどして富を築いているらしい。キャプテン・アメリカのかつての恋人の姪孫であるシャロンも、今ではすっかり悪党をやっているようだ。シャロンはヒーロー活動を「ヒーローごっこ」と呼び、星条旗を「Stars and stripes bullshit」と呼ぶなど、ジモと同じく“アベンジャーズ的なもの”に対して冷めてしまっているようだ。
シャロンがこのような状態に追い込まれた理由については、こちらの記事で考察している。
ネイゲル博士の証言
サムはシャロンに対し、汚名を晴らすために恩赦を取り付けることを約束し、協力を得る。シャロンの手配により、3人はコンテナヤード内に隠されたラボを発見。この時に流れている音楽はジャズ歌手のメル・トーメの楽曲「カミン・ホーム・ベイビー (Comin’ Home Baby)」(1962) だ。ここで3人は超人血清を作り出したウィルフレッド・ネイゲル博士と合流する。
ネイゲルは、ヒドラでウィンター・ソルジャー計画を引継いだ後、ヒドラ解体後にCIAに雇われて超人血清の摘出に成功したという。ネイゲルはこれを「アースキン以来の偉業」と自画自賛する。アースキンとは、かつて超人血清を作り出し、スティーブ・ロジャースの高潔な精神を見出したエイブラハム・アースキン博士のことだ。更にネイゲルが生み出した超人血清は、キャプテン・アメリカのように筋骨隆々にはならず、力だけを得られるという。カーリをはじめとする超人兵士達が普通の人間と見分けがつかない理由はここにあるようだ。
だが、ネイゲルもまた“指パッチン”で消えていた人々の一人。復活後にプロジェクトは中止されており、そこにスポンサーとして現れたのがパワー・ブローカーだったのだという。再生産された超人血清は20人分。全てカーリに盗まれており、これがパワー・ブローカーがフラッグ・スマッシャーズを狙っていた理由のようだ。そして、カーリは結核患者のドンニャ・マダーニを助けるよう求めていたらしい。第3話冒頭に登場した女性がドンニャ・マダーニなのだろうか。
外ではシャロンが賞金稼ぎ達を排除、これ以上は抑えきれないとラボにやってくる。そして、このラボにもう血清がないことを確認すると、ジモは単独行動でネイゲルを射殺。同時にロケットランチャーが打ち込まれて混乱の内にジモは逃走する。
コンテナヤードでの銃撃戦が始まるが、コンテナの上から登場したジモはマスクを被り、元特殊部隊の圧倒的な戦闘力で敵を排除していく。マーベルの原作コミックにも登場する“バロン・ジモ”のお出ましだ。バロン・ジモは再び高級車で2人を迎えに来る。どうやら裏切ったわけではないようだ。ここでサムは助手席に座るバッキーに席を前にズラすよう指示するが、バッキーは「断る」と返し、『シビル・ウォー』での一幕が再現される。それにしてもバッキーは助手席が好きなようだ。シャロンはここで3人と別れるが、自分の仲間と合流。再登場がありそうだ。
“愛国”への疑念
その頃、カーリはリトアニアのビリニュスにあるGRCの物資供給基地の前にいた。仲間に教師になる夢を持っていたことを打ち明けるカーリ。カーリは、人々がデシメーションから復活した後に露頭に迷ってマドリプールに行ったのだという。現在は「ママ・ドンニャ」のために戦っていると話しているが、カーリが救おうとしていたドンニャ・マダーニのことだろう。一方、ジョン・ウォーカーとレマー・ホスキンスは一足遅くジモが収容されていた施設を訪れていた。二人は“ルール無視”でサムとバッキーを追うことを確認する。
ジモの自家用ジェットに戻ったサムは、シャロンやイザイアの痛みについて考えを巡らせていた。「金属の塊でしかない盾のために何人が犠牲に?」と問いかけ、博物館に渡さず壊すべきだった」とまで言い放つ。キャプテン・アメリカの盾は愛国の象徴であり、排除と抑圧を生み出した末に、愛国心に対して懐疑的な感情を抱き始めたアメリカの人々の心情を反映していると言えるだろう。
だが、バッキーは盾が「人々の心の支えだ」と主張し、サムが壊す前にバッキーが奪うと宣言する。この場面でも、アメリカ黒人として苦痛を味わいながら生きてきたサムと、白人としての恩恵を享受できるバッキーの立場の違いが現れている。『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』では、サムがアメリカで黒人のスーパーヒーローとして生きていくことに焦点を当てることが明言されている。
ここで、サムのもとにドンニャ・マダーニの情報が入る。マダーニはラトビアにあるリガの街で既に死んだという。ジモは自家用ジェットをリガに向かわせる。
一方、フラッグ・スマッシャーズはGRCの物資供給基地から寝かされていた物資を奪っていた。難民へ配るのだろう。だが、カーリは車を爆破し、フラッグ・スマッシャーズを罵倒したGRCの軍人達を焼き殺してしまう。「この言葉が一番通じる」と話すカーリは、相当な絶望を味わったのだろう。
最後に登場したのは……
リガに到着した3人は、ジモが用意した部屋へ。だが、バッキーは小さなボールのような物体を見つけ、単独行動を始める。特徴的な見た目のその物体は、バッキーの左腕に似た模様になっている。バッキーはその持ち主が誰か分かっているようだ。そして路地裏に現れたのは、ワカンダの国王親衛隊“ドーラ・ミラージュ”のメンバーであるアヨ。
実は、映画『ブラックパンサー』(2018) よりも早く、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』でティ・チャラと共に登場している。アヨは、ティ・チャカの仇であるジモを引き渡すようバッキーに求め、『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』第3話「パワー・ブローカー」は幕を閉じる。
「ブラックパンサー」シリーズは、ブラックパンサー役で主演を務めていたチャドウィック・ボーズマンが2020年に急逝して以降、今後の展開が注目されていた。今回、チャドウィック・ボーズマンの死後に初めてMCUで「ブラックパンサー」に関連した演出が登場することになった。
また、アヨには『ブラックパンサー』で描かれなかった過去が存在しており、本作での描かれ方にも注目が集まっている。詳細はこちらの記事で。
第3話は、バロン・ジモが活躍を見せる一方で、不本意な生き方を迫られたシャロン・カーターが描かれるなど、誰もが誰かにとっての仇であることを再認識させられる回であった。また、バッキーにとってはワカンダの人々は恩人でもある。一層複雑さを増しながら、全6話の内の前半戦を終えた『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』。いよいよ後半に入る第4話では、どのような展開が用意されているのか。楽しみに待とう。
ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』はDisney+で独占配信中。
第4話のネタバレ解説はこちらの記事から。
『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』のヴィランに関する考察はこちらの記事で。
第1話のネタバレ解説はこちらの記事で。
第2話のネタバレ解説はこちらの記事で。
キャストと吹き替え声優のまとめはこちら。
『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』のエンディング曲はこちらで聴ける。