『機動戦士ガンダム 水星の魔女』第2期放送中!
2023年4月9日(日)より、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』2期が放送中だ。ガンダムテレビアニメシリーズ初の女性主人公作品ということでも話題を呼んだ本作。2022年10月より放送された1期で積み残された数々の謎の真相も次第に明かされつつある。ネタバレありで早速2期8話/20話「望みの果て」の感想、および解説をしていきたい。
以下の内容は、TVアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』2期8話/20話「望みの果て」の内容に関するネタバレを含みます。
デミバーディング起動
プラント・クエタ襲撃の糸を引いていたのがシャディクではないかと疑うグエルは、ミオリネを地球に残しケナンジとともにアスティカシア高等専門学園へと戻る。それを見越して新装備のミカエリスで出迎えるシャディク。
決闘で直接ミオリネの花婿の座を争うことはなかったシャディクとグエルが遂に刃を交えた。シャディクを援護するサビーナ、レネ、メイジー、イリーシャの四人はグラスレー社のMSハインドリーで出撃する。対するケナンジ率いるドミニコス隊は、‟シャディクガールズ”が1期においてスレッタ駆るガンダム・エアリアルとの決闘に臨んだペギルペンデで応戦した。
見た目や武装から推察するにハインドリーよりもペギルペンデの方が遥かに高性能そうだが、今回シャディクガールズがペギルペンデで出撃しなかった理由は何なのだろうか? 一ファンとしては、互いが同じMSに乗り込むことでMSの性能差を打ち消した上で純粋にパイロットとしての操縦技術を競うペギルペンデ同士の対決も観てみたかった。
一方、シャディクにより一部屋に閉じ込められていたノレア、ニカ、エラン(5号)は解放され、ノレアはガンダム・ルブリス・ソーンに乗り込み再び学園を襲う。窮地に陥る地球寮メンバーの前に姿を現したのは、マルタンに連れられたセセリアとリョウジ、そしてニカだった。
愛機であるデミトレーナーを破壊されてしまったチュチュに、セセリアはブリオン社の試作MSデミバーディングを貸すと言う。その初期設定をニカに任せ、デミバーディングは起動した。果たしてデミバーディングはニカとチュチュ、地球寮メンバーの絆を取り戻す機体となるのだろうか。出撃したデミバーディングはフェルシーのディランザの窮地に駆け付ける。フェルシーの出撃が観れるとは思っていなかったので、嬉しいファンサービスだ。
このように丁寧な乗り換えと出撃のシークエンスが描かれたデミバーディングには、むしろ主役機の風格を感じる。ガンダム・エアリアル改修型に初搭乗した際のスレッタは自ら覚悟を決めたというよりプロスペラの言葉に操られていただけに見えたし、乗り込む際のシークエンスも省かれいきなりガンダム・ルブリス・ウルとの戦闘に突入してしまった。改めてデミバーディングの起動シーンと見比べるとカタルシスの不足は否めない印象だ。
奪うだけじゃ手に入らない
アーシアンとスペーシアンの格差是正のために罪を背負い、覚悟の悪となるとグエルに宣言するシャディク。しかし、そんなシャディクに「奪うだけじゃ手に入らない」とグエルは言い放つ。激しい戦いの末にダリルバルデは胴体を貫かれて撃破されるものの、遠隔AI兵器によってミカエリスの四肢を切り落としたグエルがドミニコス隊とともに勝利を収めた。
覚悟の悪として立ちはだかる相手にそれとは違う道を示すというのはこれまでもガンダムシリーズで度々描かれてきたシーンだが、筆者としては『新機動戦記ガンダムW EndlessWaltz』 のヒイロと五飛の対決シーンに似ているとの感想を抱いた。TV版において‟ガンダムチーム”の一員として共闘したヒイロと五飛。しかし五飛はリリーナ主導の完全平和主義の名の下に‟用済み”とされた兵士が切り捨てられる現実に異を唱える。
戦いの中でしか生きられない兵士の悲哀を代表して、五飛は愛機であるガンダム・ナタクでヒイロに戦いを挑む。「俺は、貴様と戦ってみたかった」と迫る五飛との戦いの終局において、ヒイロは自らウィングガンダム・ゼロのエンジンを停止させ、海中へと機体を水没させる。この際、問い掛けた「五飛、教えてくれ。俺たちは、後何人殺せばいい?」はガンダム史上に残る屈指の名台詞だ。
今回のグエルの描写はまさにヒイロを彷彿とさせるものだ。命を奪い合うしかないような断絶を感じさせる‟無自覚の悪”とは異なり、それを敢えて選んだ‟覚悟の悪”であるならば、戦いの中で互いの妥協点を見付けることもできるかも知れない。現に五飛はヒイロと戦うことによって自らの過ちに心の底から気付くことができた。最後、マリーメイアの独裁政権に抗議するデモ隊の市民の後ろに立ったガンダム・ナタクのシーンは今なお感動的だ。
全力で戦ってグエルに負けたシャディクが、その言葉によって「奪うことの不毛」に気付くことを願うばかりだ。しかし、今回で謀略が明るみに出たシャディクはベネリットグループの総裁選への出馬の道は閉ざされただろうし、MS戦でも敗北したので物語の表舞台からは退場ということだろうか。これからグエルのような成長を見せて味方側で再登板するというのは残りの尺的に厳しいか。
ところで、シャディクは何故グエルの‟父殺し”を知っていたのだろうか。あの時グエルがMSで出撃したことは誰も知らなかったし筈だし、シャディクはそもそもグエルがボブとして働いていたことすら知らなかっただろう。戦闘場面では通信も遮断されており、であるが故に悲劇は起きた。これについての感想は、シャディクを無理にヒールに仕立てようとし過ぎではないかというものだ。
それを知っていたこと自体に無理を感じる上、知ってなお何ら自責の念に捕われることなくむしろ煽る姿が描かれたシャディク。しかしシャディクの目的はグエルに父親殺しをさせることではなかったのだから、その‟事故”に責任を感じる描写くらいあって良かったのではないか。そもそもシャディクは決闘委員会に所属していた頃にはグエルを認めていて、それは確かに本心だっただろう。悪役として必要な立ち回り以上に格を落としてほしくはないというのが正直な感想だ。
大人の不在
さて、気になってくるのは今後の展開だが、やはりラスボスはプロスペラということなのだろうか。PROLOGUEで悪役を演じたデリングはいつの間にか免罪されており、シャディクも今回2期8話/20話で報いを受けた。となると、これまで悪役の立ち回りをしてきて健在なのはプロスペラだけということになる。
それにしても、改めて振り返ると『機動戦士ガンダム 水星の魔女』という作品には‟大人”が存在していないという感想を抱かざるを得ない。初代『機動戦士ガンダム』(1979~1980)の頃から、ガンダムシリーズの魅力というのはロールモデルにせよ反面教師にせよ大人との交流の中で主人公である少年少女が自らを見出していく成長物語の部分にあった。そこでは、当然大人の魅力、魅力的な大人が描かれてきた。
しかし、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』において大人は水星と同じくらい描かれていない。デリング、プロスペラ、サリウスなど大人のキャラクターは出て来るが、いずれも単に表層的な記号として登場するのみなのだ。つまり、子供たちとがっぷり四つに組み合うシーンが描かれておらず、大人同士で単に陰謀を巡らせるのみだ。
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』開始当初は、物語のテーマは子供たちによる大人の抑圧からの解放、革命の物語ということなのかと思っていた。しかし、2期も終盤に突入した今、それは見当外れであったと言わざるを得ない。‟大人”は‟水星”と同じく単に表面的な造形、ないし言葉の上での設定に止まり、大人として説得力のある描かれ方をしていない。
正直な感想としては、そのことが物語を空回りさせていると思う。というのは、「学園モノ」と「戦争モノ」を掛け合わせるにあたり、本来‟先生”‟国家”‟軍”という要素は必要不可欠な筈だ。しかし、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』においてこれらの要素が透明化されている。先生という役割を演じる大人、政治家という役割を演じる大人、軍人という役割を演じる大人が不在なのだ。
もしもこれらの大人がきちんと描かれていれば、例えばプラント・クエタ襲撃事件だって国家レベルで綿密な調査が行われただろうし、そうすればシャディクはその時点で捕えられていた筈だ。更に言えば、そもそも‟国家”が存在するのか、劇中で度々言及される「企業行政法」とは何に根拠を持つ法律なのかということが疑問だ。ベネリットが持つ言わば私兵としての軍事力以外に国家が持つ公的な軍事力が存在するのかで状況は全く異なってくる。
地球寮のメンバーは今回もアスティカシア高等専門学園の惨状を目の当たりにして「これは夢じゃない、現実だ」と思い知るシーンが描かれたが、1期最終回/12話のプラント・クエタ襲撃、そして2期2話/14話のアスティカシア高等専門学園襲撃に続いて今回で3度目だ。さすがに物語が停滞しているのではないかという感想を持ってしまった。
ここで本来役割を果たすべき先生、政治家、軍人といった大人たちがきちんと描かれてさえいれば、彼らの行動によって悲劇は未然に防がれただろう。あるいは大人たちの行動があってさえ起こってしまった悲劇であれば、その悲劇に説得力が増す。『機動戦士ガンダム 水星の魔女』においては子供を守るという役割を果たすべき大人が不在の中で悲劇だけが繰り返されるので、その悲劇に説得力が伴わず物語のご都合主義的に見えてしまう。
その中で唯一ケナンジだけは今のところグエルや視聴者にとって‟頼れる大人”を演じている。しかし、PROLOGUEでの蛮行は未だ報いを受けておらず、本編登場に際しては‟丸くなり”、その上キレ味も失わずにそれなりの出番を稼いでいるということを顧みれば死亡フラグが立ちまくっている気がするのは筆者だけだろうか。『機動戦士ガンダム 水星の魔女』においては貴重な頼れる大人枠なので、何とか生き延びてほしいものだ。
今回、惜しくも退場してしまったノレアの遺志を継いでエランが復讐鬼として立ちはだかるのだろうか。噛ませ犬かと思いきや意外な実力を見せ付けたエラン(5号)の今後の活躍にも期待しつつ、スレッタが再びMSに乗るとしたらそれはどの機体で何のためなのかに注目していきたい。残り話数も4話となり、クライマックスの展開に目が離せない。
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』Season2は、毎週日曜午後5時~MBS/TBS系全国28局ネットで放送中。バンダイチャンネル、ガンダムファンクラブ、dアニメストア、アニメタイムズ他各種配信サイトでも配信中。
2期8話/20話はAmazonプライムビデオ他で配信中。
1期はAmazonプライムビデオ他で配信中。
Blu-rayはvol.1〜4が発売中。
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