『機動戦士ガンダム 水星の魔女』第2期放送中!
2023年4月9日(日)より、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』第2期が放送中だ。ガンダムテレビアニメシリーズ初の女性主人公作品ということでも話題を呼んだ本作。2022年10月より放送された第1期で仕込まれた数々の謎が徐々に明かされつつあり、第2期は早くも盛り上がりを見せる。ネタバレありで早速2期3話/15話「父と子と」の解説をしていきたい。
ちなみに、2期3話/15話サブタイトル「父と子と」は同じくガンダムシリーズの過去作『機動戦士Zガンダム』(1985~1986)の第5話「父と子と…」からの引用でもある。
以下の内容は、TVアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』2期3話/15話の内容に関するネタバレを含みます。
囚われのグエル
‟フォルドの夜明け”に囚われたグエルは生気を失っていた。フォルドの夜明けの根城である廃校で、スペーシアンであることからアーシアンであるフォルドの夜明けの子供たちに敵意を向けられるが、人質としての有用性を見出され無理矢理食べ物を口に押し込まれる。
2期が始まって以来姿を見せていなかったグエル待望の復活! という無邪気な感想も抱けぬほど、久し振りに画面に姿を現したグエルの表情は痛々しいものだった。最早かつての自信家の御曹司の顔は見る影もない。知らなかったとは言え自らの手で父親を殺めてしまった事実はグエルの心に暗い影を落とす。
明かされたシャディクの目的
サリウスを捕えたシャディクは自らの真意を語る。シャディクの目的は‟宇宙開発事業の莫大な費用を裏で支える戦争シェアリング”を壊すことにあるらしい。それを「浅はか」だと断じるゼネリの言に、シャディクは先回りして戦争シェアリングの利権構造を壊せば地球が代理戦争によって疲弊するリスクは自覚していると答える。その上でベネリットグループの資産をすべて地球に売り、「地球と企業の緊張関係を利用して抑止力という経済を生み出す」ことを提案する。
ここには少し解説が必要だろう。シャディクの言葉を文字通り受け取ろうとしても、やはり疑問が残る。『機動戦士ガンダム 水星の魔女』世界において「国家」の存在が描かれていないことはこれまでも指摘してきた。つまり、シャディクがベネリットの資産を売ろうとする「地球」というのはそもそも国家的な一枚岩の組織なのかどうかということだ。それはまた「企業」についても同じことが言える。
仮にAとBという個人が居て、二人は敵対関係にあるとする。その場合、第三者であるCがAとBそれぞれに武器を売り付ければ、‟AとBの間の緊張関係”がそのまま武器商人であるCの利益となる。過去のガンダムシリーズでは、「宇宙世紀」に登場したアナハイム・エレクトロニクスがまさにこのように振る舞い、地球連邦軍とそれに対抗する組織それぞれにMSを供給していた。
しかし、これはAとBそれぞれが一枚岩の交渉相手であればこそ可能なのである。もしも「地球」に統一的な政府(国家)が存在していないのであれば、シャディクは地球に存在する複数の勢力の一部にベネリットの資産を売ることになり、そうなれば地球の勢力内でその権益を巡る争いが発生することになるだろう。
かつ、シャディクが仮にベネリットグループの総裁の座に就き権力を掌握したとしても、それでベネリットの資産をすべて地球に売る=ベネリットグループを解体してしまえば、そもそも地球との間に‟緊張関係”をもたらすべき企業が存在しなくなってしまうのではないか。あるいは、ベネリットグループ以外の企業と地球との間に緊張関係をもたらしたいということなのだろうか?
戦争シェアリング
そもそも戦争シェアリングが何なのかということも気になるポイントだ。シャディクによればそこで発生した利益によって宇宙開発が進んでいるということらしい。仮にそこで行われる‟戦争”が地球を舞台にするものだとしたら、スペーシアンは地球で戦争を起こすことで自分たちの暮らす宇宙をより暮らし易いものとして開発していったということだろうか。そうだとすればアーシアンのスペーシアンに対する憎悪も頷ける。
今のところ地球側の勢力としては‟フォルドの夜明け”という武装勢力しか登場していない。フォルド(fold)とは北欧神話で「大地」を意味する。これまではシャディクの依頼によってプラント・クエタを強襲するなど金を積まれれば何でもこなす「何でも屋」のように思えていたが、大地=地球の夜明けを目指すという理念を共有する明確な反スペーシアン組織ということなのだろう。
戦争シェアリングにおける戦争がどの陣営間で争われるものであれ、それはシステム化されているという意味で通常の戦争とはやはり異なるものなのだろう。謂わばそれは‟管理された暴力”であり、その意味ではアスティカシア高等専門学園における決闘も同じだ。そしてシャディクは学園において決闘を、更にその外では戦争シェアリングというシステムそのものの掌握を目論んでいる。
シャディクは一方では「恨みで腹は満たせませんよ」と言う現実主義者でありながら、アーシアンを虐げスペーシアンのみが利益を独占する状況を変えるべく「力を奪い取る」と宣言する。その為にはミオリネを犠牲にすることさえ厭わず‟革命”を成し遂げるつもりらしい。だが、かつてプラント・クエタを襲撃させた際に結果的にデリングは生き延びて作戦は失敗に終わった。にもかかわらず、落胆というよりはそれすらも計算の内とでも言わんかのようだった不敵な笑みにはやはり謎が残る。
決闘、戦争シェアリングという管理された暴力の欺瞞を剥がし、生の暴力の機会をアーシアンにも与えることでスペーシアンと対等の立場を実現するというのがシャディクの理想だろうか。いわば、人々の自由意思を前提とし、その上でなされる損得勘定によって「争うことは無駄だ」と判断させることで結果的に平和を実現しようとしているらしい。
対して、プロスペラの理想である‟クワイエット・ゼロ”とはむしろアーシアン、スペーシアンを問わず全人類を管理下に置くことで物理的に争いの機会をなくす方向であるようだ。人々が自由であるが故に生じる争いを、同じくその自由によって抑止し結果としての平和を実現しようというのがシャディクの発想だとしたら、プロスペラはそもそも人々から争いの機会としての自由な思考を奪うことで物理的に平和を実現するつもりらしい。この二人の‟理想”はやはりどこかで衝突するのだろうか。
追い詰められる‟フォルドの夜明け”
プラント・クエタ襲撃の主犯として、ベネリットグループの地球駐留部隊が‟フォルドの夜明け”の捜査に動き出す。モビルスーツを用いたものなので捜査というよりは最初から殲滅を目的とした動きなのだろう。カテドラルに借りを作らない為にベネリットグループが直接動いたということのようだ。
しかし、デリングが未だ昏睡状態にある中、この指令を下したのは一体誰なのだろうか。ベネリットグループのナンバー2は御三家の中の誰かであるとしても、ラウダはジェターク社CEOに就任するやランブルリングにより負傷、ペイル社CEOたちは表立って何かしらの意図を持った動きを見せていないことを考えると、これもやはりシャディクによるトカゲの尻尾切りということだろうか。
それにしても、資源に乏しいとは言えガンダムという強大な兵器まで所有するフォルドの夜明けが、リスクや退路を考えずにシャディクの依頼を引き受けてプラント・クエタを襲撃したとは考え難い。結果的に非対称な戦力のままベネリットグループのモビルスーツ部隊との交戦を強いられることとなったが、本来シャディクが提示した計画ではよりフォルドの夜明け側に旨味があったのだとも考えられる。
復活のグエル
ベネリットグループのモビルスーツ部隊の攻撃を受ける中、グエルは自らの命を狙った孤児のシーシアを背負い移送車両を目指す。しかし、グエルの努力も空しくシーシアは息を引き取ってしまう。人質にしていた筈の自分の手錠を外したオルコットに向けて、グエルは軌道エレベーターまでの行き方を教えてくれと頼む。
ケナンジによれば、オルコットの本名は‟リドリック・クルーヘル”というらしい。元ドミニコス隊のメンバーで自分の正義を貫いていたが、最後はアーシアンに襲われて息子を失った。そんな彼が反スペーシアン組織であるフォルドの夜明けに参画している理由は何なのだろうか。
2期3話/15話サブタイトル「父と子と」で描かれたのはシャディクとサリウスの義父子関係、そして息子を失った父=オルコットと父を失った子=グエルの疑似親子関係だ。ラストでオルコットがグエルに向けた「俺はお前の親じゃない」という台詞が象徴的だ。
グエルは『機動戦士ガンダム 水星の魔女』劇中で、今のところ状況に最も翻弄されたキャラクターだ。花嫁としてのミオリネを得て、ジェターク社CEOの座に就き、ゆくゆくはベネリットグループ総裁を狙うという物語開始当初の目論見からは最も離れた場所に身を置いている。そうであればこそ、様々な経験をし、それによって価値観が変化していくことで「この先どうなるのかを見たい」と強く我々視聴者の目を惹き付けている。
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』が全体として過去の因縁、それによって仕組まれた謎の真相を巡って物語が動いていく中で、そうした因縁や陰謀と無縁でありのままに身一つで状況を生き抜く中で変化/成長していくグエルは視聴者と最も近い場所に居るキャラクターと言えるだろう。
これまで自分に道を示していた父親が居なくなったことで、それに対する悔いがありながらもグエルもいよいよ自らの進むべき道を自分自身で決めねばならなくなった。スペーシアンの御曹司でありながら荒廃した地球に暮らすアーシアンの現実を目の当たりにしたグエルの目標は、今更ジェターク社のCEOになることではないだろう。ここまでは王道の貴種流離譚が展開されている。シャディクとプロスペラ、強大な野心が物語を動かしていく中で、野心を捨てたグエルが何を見出し、どう動いていくのかに注目したい。
OP映像にはダリルバルデの姿も確認できるので、これからグエルが再びダリルバルデに乗って活躍することにも期待したい。2期2話/14話において惜しくも散ったソフィだが、乗機であるガンダム・ルブリス・ウルはほぼ無傷であった筈なので再び戦場に姿を見せることも考えられる。その時は別のパイロットが乗るのか、それとも同じルブリスシリーズであるガンダム・ルブリス・ソーンと合体ないし追加武装として加工されることも考えられるだろう。
そして、EDには改修前のガンダム・エアリアルが描かれていることにも改めて注目したい。ミオリネがクワイエット・ゼロの真相に迫る中、状況のこれだけの変化にもかかわらずスレッタ自身の立ち位置や感受性は物語開始当初からそれほどの変化を遂げていないように見える。ほとんど別人のように変化したグエルとの再会がスレッタにいかなる変化をもたらすのかにも注目しながら続きを観ていきたい。
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』Season2は、毎週日曜午後5時~MBS/TBS系全国28局ネットで放送中。バンダイチャンネル、ガンダムファンクラブ、dアニメストア、アニメタイムズ他各種配信サイトでも配信中。
2期3話/15話はAmazonプライムビデオ他で配信中。
1期はAmazonプライムビデオ他で配信中。
Blu-rayはvol.1〜4が発売中。
2期1話/13話のネタバレ感想&解説はこちらから。
2期2話/14話のネタバレ感想&解説はこちらから。
1期最終回12話のネタバレ感想&解説はこちらから。
1期1話のネタバレ感想はこちらから。