2期7話/19話ネタバレ感想&解説『機動戦士ガンダム 水星の魔女』親子対決への道筋 | VG+ (バゴプラ)

2期7話/19話ネタバレ感想&解説『機動戦士ガンダム 水星の魔女』親子対決への道筋

© 創通・サンライズ・MBS

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』第2期放送中!

2023年4月9日(日)より、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』2期が放送中だ。ガンダムテレビアニメシリーズ初の女性主人公作品ということでも話題を呼んだ本作。2022年10月より放送された1期で積み残された数々の謎の真相も次第に明かされつつある。ネタバレありで早速2期7話/19話「一番じゃないやり方」の感想、および解説をしていきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、TVアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』2期7話/19話の内容に関するネタバレを含みます。

アーシアンとの交渉に赴くミオリネ

‟ガンダム”を兵器としてではなく、その技術を利用して医療用途で製品化すべく株式会社ガンダムを立ち上げたミオリネ。プロスペラの乗るガンダム・エアリアルを伴い、グエルとともに地球へと降り立ちアーシアンとの交渉に臨む。

これまで筆者は度々『機動戦士ガンダム 水星の魔女』世界における‟国家”や‟軍隊”の位置付けがどうなっているのかという感想を述べてきた。ことここに至り、いよいよそうした背景事情を無視できなくなってきた印象だ。ミオリネの交渉相手は反スペーシアン組織「フォルドの夜明け」の代表という訳ではなく、スペーシアン取り分けベネリットグループによる‟企業統治”に異議申し立てをするアーシアンの代表ということらしい。

2期6話/18話で総裁選への実績作りのためにミオリネに地球行きを焚きつけたのはプロスペラだった。そして今回、プロスペラはエアリアルに乗ってミオリネに同行した地球で、アーシアンのデモ隊の戦車をハッキングして自らを攻撃させた。そして、それへの自衛を口実に秘密裡に十機単位で保管されていたガンダム・ルブリス量産タイプを、エアリアルのビームライフルを最大出力で放って壊滅させる。

これまでの感想としてはスレッタに主体的な欲望が描かれず、従って何かに挑み、挫折や成功を通じた変化や成長といった主人公にあるべき‟ドラマ”の不在を物足りないと感じていた。一方で、スペーシアンとアーシアンといった大きな対立やその格差を是正しようとするシャディクや、対極としてひたすら個人的な状況の変化に晒されることで否応なく成長させられたグエルの物語を楽しんできた。

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』における対立関係

だが、2期も終盤へと差し掛かり、当初より謎だったスレッタの出自も明かされた今、これまで描かれてきた個々のドラマが全体として収斂していくことを期待したい。そうなると、やはりスペーシアンとアーシアンの対立はそもそも何を巡るものなのかということがはっきり捉えられる必要があるだろう。

劇中ではスペーシアンとアーシアンの経済格差がその原因であると描かれた。それは初代『機動戦士ガンダム』(1979~1980)においてスペースコロニーであるジオン公国が地球連邦政府へと独立戦争を挑んだ頃からのガンダムの変わらぬテーマとも言える。だが、『機動戦士ガンダム』においてはそもそも宇宙側のジオン公国と地球側の地球連邦政府はそれぞれが一枚岩の組織であり、したがって対立関係が明白だった。何より、戦争の初期においてジオン公国は地球へとスペースコロニーを墜落(コロニー落とし)させており、それによって地球/宇宙合わせて莫大な人命が失われた。

即ち、『機動戦士ガンダム』においては対立の最も根本的な原因となる事件と、その事件に責任を負うジオン公国=悪であるという図式は物語開始当初から明確に示されていた。一方、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』における対立関係は極めて複雑だ。

そもそも劇中に出て来る組織だけでも膨大な数だ。ベネリットグループの中には御三家と呼ばれるグラスレー社、ペイル社、ジェターク社がある。そしてベネリットグループが運営する学園が物語の舞台であるアスティカシア高等専門学園であり、その中には主人公であるスレッタの所属する地球寮をはじめとしていくつもの寮がある。その学園における‟決闘”を司るのが決闘委員会だ。

更にはベネリットグループとは異なるスペーシアン側の組織として宇宙議会連合があり、地球側の反スペーシアン組織として「フォルドの夜明け」がある。PROLOGUEの因縁にまで遡れば、‟ガンダム”を作っていたオックスアース社、それを実力で鎮圧したドミニコス隊、その上位組織であるカテドラル、カテドラルが所属するモビルスーツ開発評議会…と組織図の把握だけでも一苦労だ。そのそれぞれにキャラクターが所属し、それぞれの思惑で動いていくためにストーリーの大枠としての対立関係すら未だ不透明だ。

つまり、大きな「アーシアンとスペーシアンの対立」を描くためにも、そもそもそれぞれの陣営はどの程度統一的な意思決定が可能な組織構造をしているのかを示す必要がある。ここで、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』世界においてそうした統一された政治的主体としての‟国家”や‟軍隊”がどのような形態/機能で存在しているのかということはやはり描かれねばならないだろう。

それが描かれぬ限り、シャディクが問題とする‟戦争シェアリング”の欺瞞と、実際の国家同士が軍隊を用いて行う‟戦争”との区別がはっきりしないためだ。仮に戦争を避けるための「一番じゃないやり方」が戦争シェアリングなのだとして、しかしそれによって実際に人が殺され、環境が破壊され、経済的搾取が進行するのであれば、それは結局のところ実際に戦争をしているということだからだ。

アーシアンとスペーシアンの血を引くシャディクがその格差是正のためならば暴力をも厭わずに覇道を進むのは理解できる。偶然とはいえ地球で暮らすアーシアンの惨状を目の当たりにしたグエルがミオリネの「医療技術としてのガンダム」という理念とともに宇宙と地球の架け橋になるべく動くことも分かる。

だが、やはりプロスペラの真の目的は未だ掴めていない。デリングに夫と恩師を殺され、娘と二人命からがら逃げ延びたヴァナディース事変から21年。再び表舞台に出てきたエルノラは仮面を被りプロスペラと名乗った。それはデリングへの復讐のためかと思われた。しかし…

ようやく手を汚したプロスペラ

プロスペラの目的はGUNDのデータストームを用いて世界を争いのないものへと‟書き換える”ことにあるらしい。クワイエット・ゼロと呼ばれるその計画の元の発案者はデリングの妻であるノートレット・レンブランだった。故に、プロスペラはクワイエット・ゼロ成就のためにデリングとも手を結んだ。

それもこれも‟データストームの先”に生きるエリクトの生き易い世界を実現するためだ。しかし、それだけがプロスペラの目的なのだろうか? クワイエット・ゼロを成就した後、用済みとなったデリングへの復讐を未だに目論んでいるのではないだろうか。そしてそれは、デリングの命を直接奪うことによってではなく、娘であるミオリネを身体的または社会的に抹殺することによって果たされる可能性もある

いずれにせよ、これまで「何だか悪役っぽい…」という印象を視聴者に植え付けてきてはいたものの具体的な悪事が描写されることのなかったプロスペラが、遂にその手を汚したのだ。争いを治めるべく地球へと赴いたミオリネの眼前で自作自演によって争いの火種を作り、交渉を決裂させるとともにミオリネの顔を潰した。実際に人命も多く失われただろう。『機動戦士ガンダム 水星の魔女』において、プロスペラは名実ともに‟ヒール”となった

だが、プロスペラがエアリアルによって放ったルブリス掃討のビームはまさに‟復讐の一撃”だっただろう。自分たちが人類の宇宙進出のために欠かせないものとして研究していた‟ガンダム”を武力で封じた上で、奪った者たちがそれを兵器として独占して量産していたとあってはプロスペラが許せる筈もない。

宇宙議会連合のフェンによれば、ガンダム・ルブリスを量産していたのはオックスアース社であり、ヴァナディース事変により壊滅させられた筈のオックスアース社は秘密裡に宇宙議会連合の上層部から資金援助を受けて生き延びていたらしい。「フォルドの夜明け」にプラント・クエタやアスティカシア高等専門学園を強襲させたシャディクは、当然地球でガンダム・ルブリスが量産されていることは知っていただろう。

ということは、やはりプロスペラの敵は、自分たちの理念を汚し技術を奪ったデリングをはじめとするスペーシアンだということだろうか。そのためにアーシアンのスペーシアンに対する憎悪感情を利用するという意図の下に今回行動したように見えるが、その場合クワイエット・ゼロによって「争いのない世界」を実現したいという望みは嘘なのか

いずれにせよ、個人的な実感や欲望とそれを超えた大きな公的な枠組みにおける価値判断の間で常に引き裂かれるのが個人の人生の実情だろう。プロスペラが個人的な‟復讐”のために動いているとしても、エルノラ時代に人類の宇宙進出という公共的な仕事に誇りや希望を持っていたこともまた事実だろう。プロスペラが現在、スペーシアンとアーシアンの対立自体をどのように捉え、コミットするのかにも注目していきたい。

ミオリネの本当の望みは…

対して、ミオリネはプロスペラと逆に実は「個人の欲望」が描かれていない点は実はスレッタと共通するポイントかも知れない。スレッタと異なり、ミオリネは自ら主体的に動き状況を変えていく。だが、その行動原理は実はいつも「誰かのため」なのだ。

自分のために行動したのは1話で地球へと脱出しようとした時くらいで、その後はスレッタとエアリアルを引き離さないために決闘をお膳立てし、株式会社ガンダムを作り、そしてスレッタをプロスペラから引き離すために小細工までしてグエルと決闘させホルダーの座から降ろした。今度はアーシアンとスペーシアンの対立を治めるために地球に行った。

1話のミオリネは成績優秀ではあれ、実際に会社を経営したこともなければ実戦を目の当たりにしたこともない‟箱入り娘”だった。地球を目指したのは純粋に自分のための逃避行だったのだろう。しかし今は違う。自分が生きる世界の実情に多少なり触れ、それを自分なりに解決したいと行動している。しかしミオリネは、何故そうまで他者のために行動することができるのだろうか。

スレッタに「母親に言われれば何でもするのか」とその主体性を問うたミオリネの主体性は、しかしその態度と裏腹にどこまでも利他的なものだった。そんなミオリネが心の底から自分のために伸ばした手を掴むのが、スレッタであることを祈りたい。

2期も7話、通算19話目となり物語はいよいよクライマックスへと突入しつつある。これまで母であるプロスペラを一度も疑ったことがなく、ミオリネに「母親に言われれば何でもするのか」と問われてさえ「何でもする」と答えたスレッタが初めてプロスペラへの違和感を口にし、自分をエアリアルから降ろしたエリクトの真意を悟った。ヒールとしての本性を現してきたプロスペラとスレッタが戦う‟親子対決”への道筋が見えてきたと言っていいだろう。

これまでにもプロスペラに違和感を感じるべきシーンはいくらでもあり、しかしその度にスレッタは素でそれに気付かない様子を描かれてきたので、ここでいきなり常人並みの判断力で「お母さんならこうするって…」と状況を把握するのは多少唐突に思えなくもない。欲を言えば1期最終回/12話の「やめなさい!」シーンの後、ミオリネに拒絶されたタイミングでもっと苦悩が描かれて欲しかったし、その苦悩からプロスペラへ疑念を持つ描写が欲しかったところだ。とは言え、これでようやく主人公であるスレッタが「向き合うべき相手」ができたということだ。

あらゆる要素が複雑に絡み合い、全く予断を許さない『機動戦士ガンダム 水星の魔女』。敵が敵として、主人公が主人公としてようやく立ち上がる中、それでも未だ描写が物足りないと感じるのはタイトルにある‟水星”だ。

物語当初のスレッタの目的である「水星に学校を作りたい」という欲望も、水星の描写が一切なされていない現状では単に言葉だけのものとしか捉えられず、視聴者がそこに共感を抱くことは難しい。このままでは『猿の惑星』(1968)よろしく、2期最終回で「これまで地球だと思われていたものが実は水星だった」というくらいの大どんでん返しでもしない限り『機動戦士ガンダム 水星の魔女』という作品において水星が意味を持つことは難しいのではないだろうか。

冗談はおくとしても、そもそもヴァナディース事変によってエルノラとプロスペラが逃げ延びた先が水星だっただけで、二人は水星出身という訳でもない。スレッタは確かに水星生まれなのかも知れないが、具体的な生活描写がなくドラマの舞台としても描かれていないので単に言葉の上での設定止まりの印象だ。全体のストーリーは非常に楽しんでいるので、これから最終回に向けて「だから‟水星の魔女”なのか!」と納得させられる作劇に期待したい。

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』Season2は、毎週日曜午後5時~MBS/TBS系全国28局ネットで放送中。バンダイチャンネル、ガンダムファンクラブ、dアニメストア、アニメタイムズ他各種配信サイトでも配信中。

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』公式サイト

2期7話/19話はAmazonプライムビデオ他で配信中。

1期はAmazonプライムビデオ他で配信中。

第12話 機動戦士ガンダム 水星の魔女

Blu-rayはvol.1〜4が発売中。

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腐ってもみかん

普段は自転車で料理を運んで生計を立てる文字通りの自転車操業生活。けれど真の顔は……という冒頭から始まる変身ヒーローになりたい。文学賞獲ったらなれるかな? ラップしたり小説書いたりしてます。文章書くのは得意じゃないけどそれしかできません。明日はどっちだ!
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