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日本とナチスによる支配を描く『高い城の男』
Amazonプライムビデオで好評配信中
Amazonプライムビデオで配信されている『高い城の男』が人気を集めており、2019年現在、シーズン3まで配信されている。既にシーズン4の製作も決定しており、今後の展開に注目が集まっている。
同作では、第二次世界大戦で大日本帝国とナチスドイツが勝利した世界が描かれている。フィリップ・K・ディックの同名小説が原作だが、同作が持つテーマを根底に置きながら、ドラマオリジナルの展開を見せ、視聴者を楽しませてくれている。
シーズン1から登場するナチス領のキャラクターは?
VG+では、これまでドラマ『高い城の男』に登場する日本領のキャラクターとそのキャストを特集してきた。好評を頂いた前回の特集に続き、今回は、同作にシーズン1から登場しているナチス側の登場人物に焦点を当てる。Vol.1ではアメリカ人ながらナチスの中で成り上がっていくジョン・スミスと、彼を演じたルーファス・シーウェルを、Vol.2では、そのジョン・スミスの下で工作員として動くジョー・ブレイクと、彼を演じた若手俳優のルーク・クラインタンクをご紹介した。今回で、シーズン1に登場したナチス側のキャラクター特集は最終回。シーズン1以降も印象深い演技を見せ続けている、あの人物に迫ってみよう。
“母”として登場するあのキャラクター
ジョン・スミスの妻、ヘレン・スミス
ヘレン・スミスは、ナチス親衛隊大将であるジョン・スミスの妻だ。ジョンとの間に、一人の息子と二人の娘がおり、シーズン1では、かつてのアメリカにおける“幸せな(そして典型的な)家庭の母親”として登場する。シーズン1のエピソード6では、ヘレンがホームパーティに招いたジョー・ブレイクへ、ジョンとの過去を話す場面が見られる。大恐慌の最中にあったアメリカで、「私たちには何もなかった」と、辛い過去を吐露する。同時に、それを共に乗り越えたジョンとの絆が感じられるシーンでもある。ヘレンは、「彼は全て自分で築いたの」と、ジョンへの尊敬を隠さないのだ。
ヘレンを囲う価値観の正体
一方で、夫であり父親でもあるジョン・スミスを敬うヘレンは、ナチスの保守的な家族制度やジェンダー観に囚われているようにも映る。だが、それらは現代社会の保守層に共通する価値観でもあることに気がつくだろう。本特集のVol.1で、ジョン・スミスを演じたルーファス・シーウェルが「この世界にもナチスを生む素地がある」と話していたことにも繋がる。「あちらの世界とこちらの世界」と、簡単に割り切ることはできないのだ。
演じたのはカナダ人女優
『高い城の男』で助演女優賞受賞
そんなヘレン・スミスをシーズン1から演じ続けているのは、カナダ人女優のチェラ・ホースデールだ。『高い城の男』の出演者が揃って米中間選挙への投票を呼びかけた際には、アメリカの隣人であるカナダ市民として「民主主義を掴み取って」と連帯を表明している。
As a Canadian, all I can do is watch & hope. Go get your democracy on, neighbours. (that’s Canuck for neighbors) https://t.co/PjcF3uBa0C
— Chelah Horsdal (@chelahhorsdal) 2018年11月5日
1973年生まれのホースデールは、2000年代前半からテレビCMに、ドラマに、映画に、膨大な数の作品に出演してきた。2005年の『Dark Room(原題)』を皮切りに、これまでに幾度となく、自身の出身地であるバンクーバーで開催されるレオ・アワードにノミネートされてきた。これまで受賞には恵まれていなかったが、2017年、『高い城の男』のヘレン・スミス役で遂にドラマ部門の助演女優賞を勝ち取っている。
Best Supporting Performance by a Female in a Dramatic Series winner Chelah Horsdal for The Man in the High Castle – Fallout #LeoAwards17 pic.twitter.com/YldPyGABOn
— Leo Awards (@leoawards) 2017年6月5日
ナチス側の人間を演じるということ
チェラ・ホースデールは、『高い城の男』で見せたように、”母”としての役柄を演じることも多い。『AVP2 エイリアンズVS.プレデター』(2007)では行方不明になった夫と息子を捜すダーシー・ベンソン役を務めている。そんな彼女は、本作でナチス国家の一員を演じるということについて、ComicVerseでのインタビューで以下のように述べている。
よく揚げ足を取られるのは、信心深い人を演じているのに、現実ではそうではないということです。別の言い方をすれば、ナチを演じているのに、現実ではそうではないということ。でも、誰一人として、私が”母”を演じていることについては触れません。現実では母親ではないのにね。
(中略)
その役を演じる責任についてだけど、私にとって物語を紡ぐということは、そこで下される選択を支持するということではありません。物語を演じることで、これが理想的な生き方だ言っているとは思わないでほしい。むしろ、与えられた条件の下で、登場人物たちが選択を下していった結果でしかないのです。それが常に良いものだとは限りません。
by チェラ・ホースデール
ナチス側の人間を演じることが、決してその信条を支持するものではないうことは、当然のことではある。だが、ここで改めて語られているのは、『高い城の男』という作品が持つ魅力についてでもある。限られた条件の中で下す選択や、それがもたらす結果が常に”善い”ものではないということもまた、同作が持つ特徴であり、魅力の一つなのだ。
『高い城の男』の中に見る”日常”
私たちの生きる世界もまた、常に美しいわけではない。だが、その中で美しくあろうともがき、“異なる世界”の可能性に想像を巡らせる『高い城の男』の登場人物たちの姿勢は、ほかでもない私たちの姿と重なるのではないだろうか。
“ナチスドイツの一員”として、また”母”として、困難に直面し、時に正しく時に誤った選択を下していくヘレン・スミス。彼女の生き様を、自分自身の人生や日常と重ね合わせた時、少し見え方が変わってくるかもしれない。
日本領キャストの特集は↓こちらから
Source
ComicVerse