『高い城の男』シーズン1で日本人キャラを演じたキャストをおさらい―Vol.2 木戸大尉を演じた俳優の秘めたる想い | VG+ (バゴプラ)

『高い城の男』シーズン1で日本人キャラを演じたキャストをおさらい―Vol.2 木戸大尉を演じた俳優の秘めたる想い

via: Photo by Liane Hentscher © Amazon Studios

シーズン1の登場キャストを振り返り

フィリップ・K・ディック原作の人気ドラマ

2015年にAmazonビデオでシーズン1の配信が始まった『高い城の男』も、早くもシーズン3の公開を迎えた。フィリップ・K・ディックによる歴史改変SF小説を原作としたSFサスペンスドラマは、シーズンが進むに連れて注目度を増している。『高い城の男』の製作総指揮を担当するのは、『ブレードランナー』(1982)などで知られるリドリー・スコット監督。シーズン3からは新たにエリック・オーバーマイヤーがショーランナーに就任し、日本でも多くのファンが新たなエピソードを楽しんでいる。

シーズン1のキャストをおさらい

そんな新シリーズの公開に合わせて、VG+では、シーズン1から登場している同作の日本人キャラクターとそのキャストをおさらいしておきたい。『高い城の男』シーズン1では多くの日本人が登場し、日本のファンを楽しませてくれた。一方で、アノ人の存在感は別格だったのではないだろうか。今回は、視聴者を震え上がらせた冷徹なあの人物と、それを演じた俳優のルーツに迫る。

冷徹に忠を尽くす憲兵隊幹部

二つの顔を持つ人物

シーズン1で最も印象を残した日本人の登場人物といえば、日本太平洋合衆国の憲兵隊幹部、“木戸大尉”だろう。冷酷な決断も辞さない彼の姿に衝撃を覚えた方も多いはずだ。一方で、組織に対する忠を尽くす真面目な人物でもある。完全な善人/悪人は存在しないという『高い城の男』のコンセプトの一つを体現するキャラクターだ。

人気キャラだが原作では…

シーズン1の序盤では、日本から日本太平洋合衆国を訪れていた皇太子に対する暗殺未遂事件が発生。木戸大尉は犯人の捜査を担当する。容疑者として執拗にフランク・フリンクを追うが、捜査ミスが発覚した際には切腹を試みるなど、筋が通った人物でもある。シーズン1だけなく、シーズン2でも活躍を見せる人気キャラクターとなったが、実はドラマオリジナルの登場人物。フィリップ・K・ディックの原作小説には登場していない。お手本が存在しない木戸大尉を演じたジョエル・デ・ラ・フエンテは、どのようにして彼を人気キャラに育て上げたのだろうか。

“木戸大尉”が生まれるまで

演じたのはフィリピン系俳優

木戸大尉を演じたジョエル・デ・ラ・フエンテは、ニューヨーク生まれのアメリカ人。両親はフィリピンからの移民だ。90年代前半からスリラー/ホラー作品を中心に活躍しており、ドラマ『LAW & ORDER:性犯罪特捜班』(1999-)への出演等で知られる。2018年3月に公開されたスパイ映画『レッド・スパロー』には、アメリカの上院議員役で出演したが、『高い城の男』では重要な役柄でのレギュラー出演。彼の名を世界に知らしめる機会となった。8月には、著者のピーター・トライアスが「『高い城の男』の精神的続編」と位置付ける『メカ・サムライ・エンパイア』のオーディオブックに起用されることが発表された。木戸大尉は原作に登場しなかったが、意外な形で新世代との架け橋の役割を果たすことになったのだ。

当初は田上大臣役を希望していた!?

だが、ジョエル・デ・ラ・フエンテがこの役を演じる過程には、意外な経緯があった。フエンテ本人が、Parade誌のインタビューで以下のように語っている。

木戸大尉と田上大臣、どちらの役のオーディションを受けるか選ぶことができたんだ。原作については知っていたし、田上大臣が本の中では良い人で、木戸大尉は原作に登場しないことも分かってた。だから、考え続けてこう思ったんだ。「やるべきだ、田上大臣のオーディションを受けた方がいい」って。

by ジョエル・デ・ラ・フエンテ

そう、フエンテは当初、ケイリー=ヒロユキ・タガワが演じることになる田上大臣役のオーディションを受けようと考えていたのだ。では、なぜ最終的に木戸大尉を演じることになったのだろうか。フエンテはこう続けている。

でも、木戸のことが気になったんだよ。あのキャラクターに何かを感じたんだ。スクリプトに書かれていた説明書きは「丸メガネをかけた男」という戦時中の日本人に対するステレオタイプなイメージだった。だけど、そんな典型的なキャラクターをゼロから演じてみたいと思ったんだ。

ステレオタイプな設定が組まれていたからこそ、ゼロから演じてみたかったというのだ。あえてイバラの道を行く――彼の役者魂が垣間見えるエピソードだ。

木戸大尉の内面と外見が意味したもの

「自分とは全く異なる性格」

Vol.1では、田上貿易担当大臣を演じたケイリー=ヒロユキ・タガワの役者としての苦労と覚悟に迫った。“善人のアジア人”というキャラクターが存在しない時代に演技の仕事を始め、キャリアを通して悪役を演じ続けてきたタガワは、『高い城の男』でようやく自身の性格に近い田上大臣を演じることになった。

一方で、ジョエル・デ・ラ・フエンテは、木戸大尉のことを「自分とは全く異なる性格」と語り、故にかなりのリサーチと役作りを行う必要があったと話している。「スター・ウォーズ」シリーズに登場するダース・ベイダーのマスクとケープを例に挙げ、木戸大尉にとっては帽子とコート、それにあのメガネが、彼のイメージづくりに大いに貢献したとも語っている。タガワとは反対に、性格が異なる役柄を演じるにあたっては、努力と工夫は必須だったようだ。

アジア人の主要キャラが生まれた背景

だが、異なるのは性格だけではない。フィリピン系のフエンテにとっては、自身と異なるルーツの役柄を演じたことになる。それでも彼は、“アジア人”として中心的な役割を演じられた背景について、以下のように語っている。

ストリーミングメディアと、そこで配信されている新しいコンテンツをみると、多くの有色人種の人々が中心的な役割を果たしていることが分かるよね。それは番組のレギュラーだったり、作家だったり、プロデューサーや監督だったりね。

この問題 (映画/ドラマ界にアジア人が少ないということ) は、システム上の問題なんだ。一緒に物語を届けられるように、僕らの業界には多様な人々が揃わないといけない。それが、多様性ってものさ。多様性っていうのは、全てを含むんだよ。女性のことでもあり、人種のことでもある。

by ジョエル・デ・ラ・フエンテ

自分がアジア人のメインキャラクターを演じられる理由は、ストリーミングメディアの登場によることが大きいというのだ。『高い城の男』のオーディションに際しても、Amazonスタジオの作品に出演すること、Amazonビデオを観ているファンがどんなものを期待しているかを意識したという。

タガワより20歳近く若い彼にとっては、役者として脂が乗った時代にストリーミングメディアという新しい世代の媒体が登場したことは、大きなチャンスだったのだろう。アジア人である彼が、Amazonビデオでこうした中心的な役割を演じたことで、上記のように業界に多様性があることの重要性を説くこともできる。自ら険しい道を選び、人気キャラクターを生み出したフエンテの奮闘に、天晴れだ。

Source
© 2018 AMG/Parade

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