Netflix実写ドラマ版から見る魚人族差別と現実の人種差別『ONE PIECE』ネタバレ解説&考察 | VG+ (バゴプラ)

Netflix実写ドラマ版から見る魚人族差別と現実の人種差別『ONE PIECE』ネタバレ解説&考察

(C) 尾田栄一郎/集英社

2023年8月31日よりNetflixにて世界独占配信

2016年から7年の歳月をかけ、原作者である尾田栄一郎監修のもとで実写ドラマ化された『ONE PIECE』が2023年8月31日より、Netflixで世界独占配信が開始された。莫大な予算をかけて世界観を再現し、原作版『ONE PIECE』の風景を撮るべく南アフリカで撮影され、麦わらの一味の船であるゴーイングメリー号や海上レストランのバラティエなどの船を実際に製作するといったこだわりを見せる実写ドラマ版『ONE PIECE』。

原作版『ONE PIECE』の連載開始から26年が経ち、実写ドラマ化にあたって現代的な問題などの面でもブラッシュアップがなされた実写ドラマ版『ONE PIECE』だが、その中で特に生々しく、現実の社会問題にも刺さるのがアーロン一味ら魚人族と人間の間のわだかまりの強調だろう。本記事では、アーロンの台詞などから実写ドラマ版『ONE PIECE』世界の魚人族差別と現実世界の人種差別について解説と考察をしていく。なお、本記事は実写ドラマ版『ONE PIECE』のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただけると幸いである。

ネタバレ注意
以下の内容は、実写ドラマ版『ONE PIECE』の内容に関するネタバレを含みます。

アーロンの持つ台詞の生々しさ

アーロンとはノコギリのアーロンという異名を持つ魚人族の海賊で、かつて天竜人こと世界貴族の住む聖地マリージョア襲撃事件を起こし、奴隷を解放した探検家フィッシャー・タイガーのタイヨウの海賊団に所属していた人物である。かつては人間に対して嫌悪感を抱いていたが、人間を含めた奴隷解放運動を行っていたフィッシャー・タイガーを尊敬していた。

しかし、フィッシャー・タイガーは人間の少女を奴隷の身分から救い、家族のもとに連れていくも人間の裏切りに遭い死亡。最期に自身が奴隷にされていたこと、そして頭でわかっていても人間を許しきれず、人間の血の輸血を拒絶し、差別の連鎖を残さないように言い残した。

その他にもリュウグウ王国の王妃オトヒメも人間との共存を訴えたが、オトヒメも暗殺されてしまったため、アーロンの心には深い人間への憎悪が残った。それは何もされていないにも関わらず人間を憎悪する「実体のない空っぽの敵」であるホーディ・ジョーンズに受け継がれることになる。

実写ドラマ版『ONE PIECE』ではシャボンディ諸島編やホーディ・ジョーンズらが登場する魚人島編を踏まえ、アーロン一味の持つ人間への感情をより生々しく描いている。そこに現実の人種問題を想起させる要素を加えている。

現実の人種差別問題

マッキンリー・ベルチャー演じるアーロンが抱える魚人と人間のわだかまりは海上レストランのバラティエの襲撃時に、現実でもあり得そうな形で描かれている。受付を担当していた魚人の男性に対し、魚人の男性が客に奉仕するという単語を使ったことに対して、顔では笑みを浮かべているが奉仕という言葉に嫌悪感を抱いている。

また、アーロンが賄賂で抱き込んでいるネズミ大佐との会話の中で実写ドラマ版『ONE PIECE』の世界政府は魚人族への奴隷制を廃止したこと、そして世界政府は魚人族と人間のより良い関係を築こうとしていると表明していることを明らかにしている。だが、それは建前であり、現実的とは言い難い。アーロンは怯えて食事を見てくるバラティエの客に対し、このように発言している。

「どうした?魚人の食事がそんなに珍しいのかよ。人間様の知ってる魚人は船の修理だの、家の掃除ばっかりしてるもんな」

このことからも実写ドラマ版『ONE PIECE』の世界では、今も魚人族への差別と偏見が続いていることがより鮮明になっている。原作版『ONE PIECE』でも魚人族への差別と偏見は続いており、人身売買も暗黙のものとして世界政府は黙認しており、魚人族や人魚が売買されている。さらには、天竜人こと世界貴族は平然と奴隷制度を利用している。それもあってかアーロンは人間の言葉に棘を感じており、ネズミ大佐の「意外に賢いんだな」という発言に以下のように返している。

「魚人に知性や野心があるのが意外か?力仕事以外の能力があるのに驚いたのか?」

黒人の友人を持つ私は、人種差別主義者ではない

その後、ネズミ大佐は弁明のために世界政府の意向と、自分たち海軍は王下七武海という形で海賊の海侠のジンベエこと2代目ダイヨウの海賊団と組んでいることを明らかにしている。だが、それは余計にアーロンの逆鱗に触れ、アーロンはジンベエを人間の犬と蔑んでいる。この自分たちには有色人種の友人がいるので差別主義者ではないというのは「黒人の友人を持つ私は、人種差別主義者ではない(I’m not racist, I have black friends/Some of my best friends are black)」といった著名な慣用句そのものだ。

この慣用句は2010年代半ばに人気を博し、多くの白人至上主義者が、自身が有色人種に対して人種差別的ではないことを正当化する際に用いられた。あくまでも実写ドラマ版『ONE PIECE』では王下七武海は政府が強大な海賊との交戦をさけるために味方に引き入れ、汚れ仕事をさせているということが強調しているが、ジンベエに対するネズミ大佐の対応はまさしく「黒人の友人を持つ私は、人種差別主義者ではない」と言えるだろう。

「世界は不公平だ。だが秩序と無秩序の間に立ちはだかる存在は海軍のみ。どうだ?この現実は、受け入れられるか?」

これは王下七武海という制度を含めた海軍など世界の持つ不公平さについて、モーガン・デイヴィス演じるコビーへヴィンセント・リーガン演じるモンキー・D・ガープ中将が向けた言葉だ。コビーを演じたモーガン・デイヴィスはトランスジェンダーであることを公表しており、ある意味で世界の不公平さにさらされた当事者だと言える。だからこそ、アーロンら魚人族差別問題と現実の人種差別問題の関連性に注目していきたい。

Netflixシリーズ『ONE PIECE』はNetflixにて2023年8月31日(木)より独占配信。

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【ネタバレ注意!】ドラマ版第1話の解説・考察・感想はこちらから。

ドラマ版『ONE PIECE』で描かれた女性の強さと自立はこちらから

実写版キャストのまとめはこちらの記事で。

フォクシーやベラミーの姿もあった公式予告はこちらから。

実写バギーやシャンクスらが初登場したティーザー映像はこちらの記事で。

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映画『ONE PIECE FILM RED』のネタバレ解説はこちらから。

映画『ONE PIECE FILM RED』の音楽紹介はこちらから。

 

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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