ドラマ『ONE PIECE』配信開始
尾田栄一郎による世界的な人気漫画/アニメを実写ドラマ化した『ONE PIECE』が2023年8月31日(木) より、Netflixで独占配信を開始した。現在、世界一有名なコンテンツの一つでもある『ONE PIECE』に世界中が注目する中、全8話が一斉配信されている。
今回は、その実写版『ONE PIECE』より、第1話の内容をネタバレ有りで解説および考察しつつ、感想を記していこう。以下の内容はドラマ第1話のネタバレと、コミックのネタバレを若干含むので注意していただきたい。
以下の内容は、ドラマ『ONE PIECE』第1話の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
実写ドラマ版『ONE PIECE』ネタバレ解説&感想
22年前のローグタウン
実写版『ONE PIECE』の冒頭は22年前のローグタウンから幕をあける。海賊王ゴールド・ロジャーの宣言から幕を開けるのは漫画やアニメと同じではあるが、実写版ではよりディテールを描いて世界観を作り出している。ちなみにロジャー処刑の指示を出しているのはガープ中将だ。
群衆の中には緑のローブを着ている人物の後ろ姿が見えるが、これは革命軍リーダーのドラゴンだろう。また、若き日のミホーク、麦わら帽子を被った赤髪のシャンクスと思われる人物の姿も。金髪の少年はドフラミンゴだろうか。【追記:こちらはアニメ版で描かれた少年時代のスモーカーとのご指摘をいただきました。】ゴールド・ロジャーの処刑の場にドラゴンや後の七武海メンバーがいたことは、『ONE PIECE 0巻』で明かされている。
ゴールド・ロジャーの余裕の表情と演技も巧い。どこかルフィっぽさも感じさせる。また、処刑されたシーンまで細部が描かれることで、ゴールド・ロジャーが死ぬ瞬間にも笑っていたということが改めて強調されている。「富・名声・力——」というお馴染みのセリフも入り、実写版『ONE PIECE』は上々の滑り出しを見せる。
コビー登場
そして、原作漫画ではルフィの少年期に悪魔の実を食べるエピソードに移っていくのだが、実写版では現在のルフィがカモメに話しかけるシーンに移る。お馴染みの「海賊王に俺はなる」のセリフを挟みつつ、ルフィが新聞配達をしているカモメのニュース・クーを仲間に誘って振られるシーンはなんか原作にあったかも、と思ってしまうくらい原作の雰囲気を捉えている。
ルフィがタルに入って漂流し、アルビダ海賊団の船に辿り着くのは原作通りだが、原作第2話までの展開をテンポよくこなしている。そして、アルビダ海賊団の海上での戦闘シーンは、「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのようにスリル満点でワクワクするアクションシーンに仕上がっている。ちなみにこの時点のアルビダの懸賞金が500万ベリーというのは原作の本編では明かされておらず、資料集『ONE PIECE RED GRAND CHARACTERS 』(2002) で明かされた設定だ。
原作のアルビダは海賊狩りのロロノア・ゾロに狙われているのではないかと警戒していたが、実写版『ONE PIECE』では、アルビダの方がゾロを探している。船乗りは「シクシス島までは一緒だった」と話しているが、シクシス島とは小説『ONE PIECE novel A』(2018, ひなたしょう著) に登場した島で、エースが漂流してそこで出会ったマスクド・デュースと後にスペード海賊団を結成している。エースがメラメラの実を食べたのもこのシクシス島ということになっている。
そして、コビーの実写版を見事に演じているのはモーガン・デイヴィス。2020年にトランス男性であることを発表した若手俳優で、『ONE PIECE』配信時点で21歳。『ONE PIECE』の配信で今後さらに注目されることは間違いないと思える見事な演技を見せている。吹き替えは原作と同じく土井美加が演じている。
赤髪のクルーと「効かないねえっ」
次にルフィとコビーの会話から原作第1話にあたるルフィの少年時代のエピソードが描かれる。舞台は10年前のフーシャ村となっているが、これは原作通り。そしてフーシャ村の風車も完全再現されている。実写版のラッキー・ルウは荷物を運ぶ際に骨付き肉を顎で挟んで運んでいるのが笑える。
10年前のシャンクスも登場。顔の三本傷に触れてルフィに海の危険性を教えている。この傷は“黒ひげ”ことティーチに付けられたもので、これ以前にティーチとの因縁があったことを示している。ヤソップと思われる人物やベン・ベックマンの姿も確認できる。なお、赤髪海賊団のラッキー・ルウとヤソップ役には黒人の俳優が起用されているが、ヤソップの息子のウソップを演じるジェイコブ・ロメロ・ギブソンもジャマイカ生まれである。
そして現在に戻り、ルフィvsアルビダ戦では、“金棒のアルビダ”としてのアクションが存分に描かれ、ルフィのゴムゴムの能力が初披露される。原作では森の中での戦いだったが、船上での戦いとしたことでより臨場感のあるアクションシーンに仕上がっている。金棒で頭を殴られたルフィの吹き替え&字幕での「効かないねえっ」のセリフは、原作を踏襲したものだ。
ゾロが戦う相手は?
続いて新田真剣佑演じるロロノア・ゾロが登場。ゾロが弔っている遠い昔に亡くした人物とは、幼馴染のくいなのことだろう。シクシス島でMr.7と対峙するというのはオリジナルシーンではある。しかし、原作漫画ではゾロがMr.1と戦う際に、かつてゾロがMr.7にバロックスワークスへ勧誘されたが「ボスにするなら入ってやる」と言って断り、Mr.7を斬ったという話に言及される。ドラマ版ではそのエピソードを実写化したようだ。
実写版のゾロはよりオシャレに「No.1」を要求し、「1」を人差し指でなく中指を立てることで表現する。ゾロvsMr.7の殺陣もまた見事。ゾロは三刀流を披露することなく、二刀流でNo.7を真っ二つにしてしまう。これでMr.7が死に、原作でお馴染みの「スンポー」が口癖のMr.7と入れ替わったのだろう。
実写版『ONE PIECE』では第1話で早くもバロックワークスを登場させた。これには、やはりグランドライン編も描きたい、つまりシーズン2も制作したいという製作陣の強い思いを感じる。
実写版『ONE PIECE』第1話は、コビーとルフィの会話が原作漫画より長めに取られ、ルフィがコビーに教える形で少年時代の回想が挟まれる。シャンクスがルフィの傷を縫ったという設定はドラマオリジナルだが、ルフィが着ている「ANCHOR(錨)」のTシャツは原作漫画と同じである。
そして、実写化された“ゴムゴムの実”も登場。ルフィがゴムゴムの実を貪る貴重なシーンが描かれている。さらに山賊のヒグマも登場するが、こちらは原作漫画ほどは暴れていない。コビーが海軍に入りたいと語るシーンは、アルビダと戦い前から戦った後のシーンに移されている他、第8話まで登場しないナミが早くも登場。ナミがバギー海賊団の船を奪うのは第8話のシーンを踏襲している。様々な人物のストーリーを同時進行させることで飽きない作りになっている。
ルフィからコビーへの言葉
ルフィとコビーは早くもシェルズタウン海軍第153支部に到着。斧手のモーガンがいる場所だ。ここで映る壁に貼られた手配書には、グランドライン以降に登場するフォクシー海賊団船長・銀ギツネのフォクシーと、ハイエナのベラミーの手配書も含まれている。ベラミーは空島に行く直前、フォクシーは空島編の直後が初登場となるため、空島編も描きたいという意図も見え隠れする。また、キャベンディッシュと思われる手配書(「-NDISH」の名前だけ読み取れる)も貼られている。
ルフィとコビーが酒場で食事をとるシーンでは、ゾロとナミも登場。この辺りも第1話から3人を結集させるために改変が加えられている。ちなみに酒場ではバギー海賊団のカバジの姿も見られる。ゾロがヘルメッポの踏んだおにぎりを食べるシーンは原作ではゾロは捕まった状態だったが、酒場でリカにおにぎりをもらうところでヘルメッポが踏み潰したという展開に改変されている。
漫画版ではゾロはヘルメッポの飼い狼を斬ったことで捕まったという設定だった。だが、実写版では動物を斬るという設定をなくすのと、あれだけ強いゾロがどのようにして捕まったのかを詳細に説明するためにモーガン大佐のもとへ連れて行ったように思える。モーガンはここで「海軍にならなければ、二度と海軍からの懸賞金を受け取ることはできなくなる」という脅しをかけ、ゾロがはりつけの刑を7日間耐えれば解放されると信じた経緯が描かれている。
それにしても新田真剣佑のゾロ役の演技が見事だ。ゾロのシリアスさと静かな力強さを違和感なく表現している。このゾロが世界一の剣豪になっていく姿を見ていたいと思わせてくれる。
ルフィはコビーに「良い海賊と悪い海賊がいるように、良い海軍と悪い海軍もいる。良い海軍になれ」と的確な助言を与える。イニャキ・ゴドイが演じる実写版のルフィは、原作漫画の雰囲気を残しつつも、“ドラマの主人公”としての魅力も兼ね備えた人物に仕上がっている。
ルフィ・ゾロ・ナミが集結
ゾロは7日間のはりつけの刑を耐えることを決めたが、仲間に誘われたルフィから自分の夢を問われると幼馴染のくいなとの約束を思い出す。海賊になることは拒否しながらも、海賊狩りでいることをやめることを決心したのだろう。もう海軍に懸賞金をもらう必要もないのだから、はりつけに耐えることもない。
一方で、海軍の服を手に入れたナミは、海軍施設の中でグランドラインの海図を盗もうとしていた。ここで早くもナミの十八番である棒を用いたアクションを披露している。ここでナミとルフィが出会うのだが、ルフィは海兵とナミの全てを聞いており、意外とクレバーな一面を見せている。ルフィとナミは奇妙な共闘関係となるが、途端にモーガン大佐と出会してしまう。ここでナミが所属先として咄嗟に出した第77支部は、アーロン一味に立ち向かったプリンプリン中将が所属している支部である。
ここをうまくやり過ごし、モーガン大佐の部屋の鍵を手に入れたナミに対し、ルフィは早速仲間に誘う。しかし、海賊嫌いのナミはこれを速攻で拒否。実写版ではルフィがゾロとナミを立て続けに仲間に誘うが、海賊になるのは嫌だと断られる展開になっている。
それでも、二人は協力して海図のはいった金庫をゲット。追ってくる海兵たちに応戦する中、ルフィに助けられたゾロが加勢する。3人が揃ってモーガン大佐と対峙する胸熱シーンだ。ここでモーガンはクロネコ海賊団と戦い、百計のクロも捕まえたと主張する。これは原作でも語られていることで、モーガンとクロネコ海賊団との戦いの真相は後に明らかになる。
ナミは海兵との、ゾロとルフィはモーガンとの戦いに臨み、ゾロはついに三刀流を披露。圧倒的な強さを見せるも、原作ではゾロがモーガンを斬るところを寸止めにし、ルフィがゴムゴムの鞭で倒す展開になっている。ここでルフィは「強ェやつは技名を叫ぶんだ」と、漫画ではお馴染みだが実写化にあたっては少々不自然になる要素にちゃんと触れている。ゾロの「しねぇよ」というツッコミが笑える。
海軍メンバーも充実
3人は金庫を持って共に逃げる展開に。ここで現れたヘルメッポは、ゾロの刀を奪っていた仕返しに髪の毛を切られ、漫画でお馴染みの髪型になっている。ここに現れたコビーはイキるヘルメッポを殴り倒して海兵になるためにこの島に残ると宣言。ここでルフィと別れることになる。
原作では、コビーはルフィにヘルメッポを殴ってもらったが、実写版では自分の意思で“悪い海軍”を倒し、“良い海軍”になるためにシェルズタウンに残ることにした。実写版では、ルフィの“言葉”に動かされた感じが強くなっていた点が印象的だ。
なお、原作ではモーガンは悪徳将校として海軍に逮捕されるが、実写版のモーガンはそれほどめちゃくちゃな人物としては描かれていない。自己愛は強いが、部下に手をあげたりはしておらず、簡単に部下を斬っていた原作版よりはまともな人物として描かれている。
そして、犬の船首をつけた海軍本部の船が登場。帆に漢字で「海軍」と書かれており、その下には「HQ・3」と書かれているが、これは原作に登場するガープの船を実写化したものである。ちなみに「HQ」とは「Headquarters=本部」のことだ。
リアルに実写化された電伝虫に応答したのはガープ。グランドラインへの海図が盗まれたと聞き、表情を変えてシェルズタウンへ舵を切る。ここで部下の口からまたもバロックワークスの名前が出るのだが、クロコダイル率いるバロックワークスがイーストブルーでも広く活動していたことが伺える。
ちなみに、スーツに帽子で日本刀を携えたガープの部下は、原作にも登場するボガードという人物。扉絵連載ではコビーとヘルメッポに竹刀で稽古をつける姿も見られる。
ガープは電伝虫で海図が盗まれただけでなく、犯人が麦わら帽子の海賊であることとも聞いたと明かす。ボガードは麦わらの海賊と聞いただけで何かを察したようで、漫画版と同じくガープの右腕として親しい仲にあることが窺える。ここまでのガープは漫画版のような快活さはないが、海軍将校然とした力強い人物として描き直されている。
バギーとの因縁に発展
実写版『ONE PIECE』第1話のラストシーン。シェルズタウンにいたカバジがバギーに今回の件を報告する場面だ。ガバジがシェルズタウンにいた理由は、グランドラインの海図を盗む目的だったようだ。そして、道化のバギーのド派手な登場。重厚な雰囲気になったガープとは逆に、DCコミックスのジョーカーのようなマッドさを孕んだ人物として描かれている。
実写版『ONE PIECE』は、第1話からルフィ・ゾロ・ナミが揃い、アルビダとモーガンとの戦い終えつつ、バギーとの因縁を作り出すスピード感のある展開。それでも、アクションと各キャラの魅力をたっぷり詰め込んだ1時間だった。これが全8話で描かれるというのだから贅沢だ。シーズン2への更新を期待しつつ、最後まで楽しもう。
実写版『ONE PIECE』はNetflixにて2023年8月31日(木)より独占配信。
原作漫画は最新刊の第106巻が発売中。
実写版『ONE PIECE』には、海外の評論家や記者からは高い評価が出ている。詳しくはこちらの記事で。
実写版キャストのまとめはこちらの記事で。