【ネタバレ考察】ドラマ『ロキ』最終話 シルヴィはなぜ〇〇を〇〇たのか 根底にあった思想とは | VG+ (バゴプラ)

【ネタバレ考察】ドラマ『ロキ』最終話 シルヴィはなぜ〇〇を〇〇たのか 根底にあった思想とは

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ドラマ『ロキ』最終話考察

『ワンダヴィジョン』(2021) から数えてMCUドラマでは第3弾となった『ロキ』は、2021年7月に全6話の配信を完了。シーズン2の製作も発表されたが、その前には8月11日(水) 16時から配信を開始するMCU初のアニメシリーズ『ホワット・イフ…?』も控えている。

『ホワット・イフ…?』では、スター・ロードになったティ・チャラやキャプテン・カーターを名乗るペギー・カーターなどが登場。予告編には「マルチバースの扉が開く」というフレーズも登場し、『ロキ』から始まったマルチバース化の流れを汲んだ作品になることを示唆している。

ネタバレ注意
以下の内容は、ドラマ『ロキ』最終話第6話の内容に関するネタバレを含みます。

なぜシルヴィは“在り続ける者”を殺したのか

今回は『ホワット・イフ…?』配信開始前に、マルチバースを解き放つ原因となった『ロキ』シルヴィの行動について整理しておきたい。『ロキ』最終話の配信開始直後、シルヴィの行動について疑問を持った方もいただろう。なぜシルヴィはマルチバースとカーン変異体を解き放ってまで“在り続ける者”を殺したのか、という疑問だ。それは見方によっては、MCUのマルチバース化を進めるための不可解な行動と捉えることもできたからだ。

『ロキ』最終話となる第6話で遂に姿を現した“在り続ける者”は、ロキとシルヴィに究極の二択を迫る。自分を殺して邪悪な変異体たちを解き放つか自分から神聖時間軸を管理する仕事を引き継ぐか……。ロキは“在り続ける者”を殺して世界が混沌に陥ることを危惧するが、シルヴィは“在り続ける者”を殺すという決意を緩めない。

ロキの意見に聞く耳を持たないシルヴィは、ロキをTVAに送り返し、“在り続ける者”への復讐を成し遂げる。こちらの記事では、シルヴィを演じたソフィア・ディ・マルティーノが語ったこの時のシルヴィの心情を紹介している。

上記の記事で語られていたのは、「自分の人生を奪った人間に対する復讐は誰にも止められない(たとえそれがロキであっても)」という被害当事者としてのシルヴィの意見だった。幼い頃に誘拐され、その後の人生を狂わされたシルヴィにとって、“世界のために”復讐を我慢するということは受け入れ難い選択肢だったのだ。

もう一つの理由

世界のために自己を犠牲にするという選択肢は、現代のエンターテインメントにおいてはそぐわない。ディズニーブランドなら尚更だ。それは、「一人は全体のために」という全体主義を肯定する考え方に他ならないからだ。そう考えると、シルヴィの行動には“当事者であること”以外のもう一つの軸が見えてくる。それは無政府主義者=アナキストとしての顔だ。

ドラマとしての『ロキ』のコンセプトの一つは、『1984年』(1949) や『未来世紀ブラジル』(1985) といった独裁と監視社会をテーマにしたディストピアSFを復活させることだった

官僚組織としてのTVA、その職員の思考、レールから外れた者をすぐに“剪定”してしまうという設定が、自由意志を奪われるロキとシルヴィの姿と合わせて描かれた。その裏で全てを操っているのが、独裁者たる“在り続ける者”なのだ。

“在り続ける者”が独裁者だとすれば、ルール無用で権力の打倒に向かって突っ走っていくシルヴィは無政府主義者だ。革命を志す社会主義者は政府を転覆し、権力を握った上で富を公平に分配していくことを考えるが、無政府主義者が求めるのは自分たちを支配する権力の打倒だ。打倒した後に自らが新たな権力になることは望まない。「その支配から逃れようと打倒した権力に、なぜ自分がなろうとするのか」というのがアナキズムの考え方なのだ。

最終話では、“在り続ける者”は自分が「マシな権力」であることをことさらに主張する。愚かな民衆ではなく、善い人間が権力を握った方がマシだというのが独裁主義の、ファシズムの考え方だ。その一方で、一人の人間や一つの組織によって(まさに独善的に)下された決定は、残酷にも幼い頃のシルヴィのような小さな存在を踏み台にして実行されていく。異なる倫理観を持つ外部からの意見が入り込む余地がないからだ。

“在り続ける者”はシルヴィに「大人になれ」と叱責するが、大人になるということが、かつての自分のような“小さな犠牲”に目をつむることなのだとすれば、シルヴィは個人的な感情としても、信条としても受け入れることはできなかったのだろう。

そして、シルヴィのこの姿勢は、民間頼みの新型コロナウイルス感染症対策や東京オリンピックの強行など、現に人々に犠牲を強いる政府を持つ私たちにとっても参考になるものだ。

緊急事態において、まず選択肢のない人々に犠牲を強いている状況も、その状況を自分たちが容認して継続していくことも拒否する——そうした民衆の姿勢なしには民主主義は成り立たない。歴史上稀に見る状況に立たされた私たちは、“独裁と自由意志”をコンセプトに作られたドラマ『ロキ』のシルヴィの行動から、そうした教訓を学んでもいいはずだ。

当事者であるシルヴィとアナキストとしてのシルヴィ。“在り続ける者”への復讐をやめなかったシルヴィの二つの顔が、MCUをマルチバースへと導いていく。『ロキ』シーズン1で広げられた大風呂敷は今後のMCUで、そして『ロキ』シーズン2でどのように回収されていくのだろうか。また、シルヴィの決断はシルヴィ自身をどのように変えていくのか、引き続き見守ろう。

 

シーズン1では損な役回りを託されたようにも見えるロキ。トム・ヒドルストンが語った最終話の意図については、こちらの記事で紹介している。

ドラマ『ロキ』シーズン1は全6話がDisney+で配信中。

『ロキ』視聴ページ (Disney+)

ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』で語られた政府と個人の関係についての考察はこちらの記事で。

ケヴィン・ファイギの発言から考察するフェーズ4におけるMCUドラマの展開はこちらから。

ロキ最終話のネタバレ解説はこちらの記事で。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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