フェーズ4のMCUドラマに注目
2021年1月に配信を開始した『ワンダヴィジョン』を皮切りに、3月配信開始の『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』、6月配信開始の『ロキ』と、マーベルはDisney+を通して次々とドラマ作品を送り出している。フェーズ4からスタートしたMCUのドラマシリーズは、これまでに製作されたマーベルのドラマシリーズとは異なり、映画シリーズにも決定的な影響を与えることが明言されている。
米The Wrapのインタビューでは、ワンダ・マキシモフを演じたエリザベス・オルセンが「『ワンダヴィジョン』を見ずに『ドクター・ストレンジ』(の続編)を理解することはできないでしょう」と発言。MCUの中でも重要度を増していくドラマシリーズを、マーベル・スタジオ社長のケヴィン・ファイギはどのように導いていくつもりなのだろうか。
米Rotten Tomatoesのインタビューに登場したケヴィン・ファイギは、Disney+で配信されるMCUドラマの方向性について、以下のように語っている。
私はマーベル・スタジオで働き始めて21年目になりますが、チームの多くのメンバーとは10年から15年一緒に働いてきました。私たちは毎回違う種類の物語、違うタイプの映画を作りたいと思っています。今はドラマもですね。
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』『ドクター・ストレンジ』、シェーン・ブラック監督の『アイアンマン3』、そして『マイティ・ソー バトルロイヤル』。私たちはいつも新しくてユニークな声を取り入れてきました。ライアン・クーグラーの『ブラックパンサー』もそうです。それは、Disney+のドラマシリーズにおいても続いていきます。私たちに必要なのはそれを実現することです。
しかし、(ドラマシリーズは)新しいメディア(配信)と共にあります。ですから、ただ映画のジャンルを繰り返しやっていくのではなく、より特定のジャンルものに挑戦できると思っています。例えばロキがオマージュをやっているように。一番分かりやすいのがシットコムをやった『ワンダヴィジョン』ですね。
ケヴィン・ファイギが名前を挙げたドラマ『ロキ』では、監視社会ディストピアSFの『1984年』や『未来世紀ブラジル』といった作品がベースになると共に、米国では人気の高い刑事ドラマ (police procedural) の構成やタイムトラベルSFの要素をふんだんに取り入れた。
『ワンダヴィジョン』ではアメリカの伝統的なシットコム(シチュエーション・コメディ)を年代ごとに再現していくという荒技を物語に結びつけつつ実現してみせた。
このようにして、マーベル・スタジオとケヴィン・ファイギは、ドラマシリーズでにおいてはより特定のジャンルに挑戦しようとしているのだ。
どんなジャンルが来る?
一方でMCUのドラマシリーズには、『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』のように、ストレートにヒーローもの描くパターンも既に見られている。2021年後半に配信を予定している『ホークアイ(原題)』は、クリント・バートンとヘイリー・スタインフェルド演じる二代目ホークアイことケイト・ビショップのバディものになることが予想されるが、同作もサブジャンルには走らず、王道のアクションドラマになるかもしれない。
では、現在タイトルが明らかになっている以下のDisney+のドラマシリーズから、考えうるジャンルを探してみよう。
『ホークアイ(原題)』
『ミズ・マーベル(原題)』
『ムーンナイト(原題)』
『シー・ハルク(原題)』
『シークレット・インベージョン(原題)』
『アイアンハート(原題)』
『アーマー・ウォーズ(原題)』
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー ホリデー・スペシャル(原題)』
『アイ・アム・グルート(原題)』
2021年中の配信開始を予定しているドラマ『ミズ・マーベル』は、ムスリムで高校生のカマラ・カーンが主人公。海外ではティーンドラマが根強い人気を誇り、近年ではセクシャルアイデンティティや宗教をテーマにすることが多い。MCUではスパイダーマンという高校生ヒーローの前例があるが、同じ学園ドラマをムスリムの女性というマイノリティの視点から描く可能性はあるだろう。
2022年に配信を予定しているオスカー・アイザック主演の『ムーンナイト』はエジプトを舞台にする。ムーンナイトは王道の“ヒーロー”ではなく、解離性同一障がいを持つ“ヴィジランテ(自警団)”だ。コミック版では元傭兵という設定の主人公マーク・スペクターが様々な人格と職業を乗り換えていく姿は、Netflixで人気の『Lupin/ルパン』(2021-) や『ヴィンチェンツォ』(2021-) といったクライムサスペンスものが期待できるだろう。
『シークレット・インベージョン』は、成りすましを駆使して地球の侵略を進めるスクラル人にニック・フューリーとタロスが立ち向かうという物語が予想されている。誰が敵で誰が味方か予想できない展開は、伝統的な探偵もの(detective fiction)の展開が期待できる。
『アーマー・ウォーズ』は、原作コミックではトニー・スタークが開発したアイアンマンのアーマー技術が世界中のヴィランに流出してしまう物語だ。主人公にはドン・チードル演じるウォーマシンことジェームズ・ローディ・ローズが据えられられる。ドラマの一ジャンルではないが、SFのサブジャンルである“パワードスーツもの”として、様々なパワードスーツ同士の戦いを見ることができそうだ。
なお、パワードスーツものは日本でも人気があるジャンルで、2021年3月にはJ・J・アダムズ編、中原尚哉訳の小説『この地獄の片隅に パワードスーツSF傑作選』が東京創元社より発売されている。
フェーズ3までの「インフィニティ・サーガ」を終え、フェーズ4からスタートしたドラマシリーズは、まだまだたくさんの可能性を秘めている。今後どのようなジャンルが展開されていくのか、しっかり注目していこう。
Source
The Wrap / Rotten Tomatoes
ドラマ『ロキ』でオマージュされた作品はこちらに詳しい。
同じインタビューでケヴィン・ファイギが語った映画『ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー(原題)』製作の経緯はこちらから。
ドラマ『ムーンナイト』についての情報はこちらから。
ドラマ『ホークアイ』についてはこちらの記事で。