仲間も世界も犠牲にしない『バッド・バッチ』の“フリーランスの矜持” 「スター・ウォーズ」が問う生き方 | VG+ (バゴプラ)

仲間も世界も犠牲にしない『バッド・バッチ』の“フリーランスの矜持” 「スター・ウォーズ」が問う生き方

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『バッド・バッチ』の魅力

アニメ『スター・ウォーズ:バッド・バッチ』は、アニメ『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』(2008-2020) に登場したクローンの“不良分隊”ことバッド・バッチの物語を描く。ディズニー傘下に入って初めて登場した“チェーンコード”の導入や、クローン・トルーパー廃止の裏事情も描かれ、初期の銀河帝国について知ることができる貴重な作品でもある。

2021年5月に配信を開始した『バッド・バッチ』は、2023年1月4日(水)よりシーズン2の配信を開始。13年続いた『クローン・ウォーズ』に続き、人気アニメシリーズになる可能性も秘められている。今回は、シーズン2配信開始のタイミングで、『バッド・バッチ』をまだ観ていないという人と、本作のファンの方のために、改めてその魅力に迫りたい。

バッド・バッチとは誰か

バッド・バッチは遺伝子変異を持つクローン兵のエリート部隊で、正式名称は“クローン・フォース99”という。シーズン1は『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』(2005) のクライマックスであるオーダー66(ジェダイを反逆者と見做して殲滅するプログラム)の発動シーンから始まる。バッド・バッチの面々にはオーダー66が機能せず、自我を保ったまま帝国軍を離れることになる。

一方で、強化された特別なクローンであるオメガも、“特異”なバッド・バッチに親近感を抱き、旅を共にすることになる。全員がクローンでありながら個性豊かな面々が集った新生バッド・バッチは、帝国成立間もない銀河で賞金稼ぎをしながら生き延びていく。

旧バッド・バッチのメンバーでオーダー66の影響を受けたのはクロスヘアーだ。ターキン提督がコストカットのためにクローン・トルーパーを切り捨てて人間の徴兵制を導入する中、それでも帝国に忠実なエリートクローン兵として、クロスヘアーはかつての仲間を追いかける。

仲間も世界も見捨てない

この流れの中で、バッド・バッチのリーダーであるハンターは、ゆく先々の惑星で立ち位置の選択を迫られる。巨大な組織から離れたバッド・バッチにとって、そのメンバーは家族のような存在だ。組織に属さないバッド・バッチは、日々目の前の問題を解決し、日銭を稼ぎながら、流れの中で最善の決断を下していくしかない。

シーズン1第6話では、ハンターは任務後にアソーカ・タノと共闘したトレースとラファに戦略ドロイドのデータを渡す。二人の雇い主は帝国への反撃のためにこのデータを狙っていたのだ。バッド・バッチは“自分たちのこと”をやりながらも、その中で世界がマシになるような行いを積んでいく。バッド・バッチはスーパーヒーローではないが、隣の人間を大切にしながら、正義のために戦う人々を見捨てない、そんな等身大の主人公だ。

シーズン1第7話では、反乱分子のために戦おうとするレックスに対し、ハンターは「優先順位が変わった」「オメガと部隊に最良の道を選ぶ」と語り、その流れに加わろうとしない。それでも、レックスに窮地に立たされた時には連絡するよう告げる。組織には属さない、いわばフリーランスのチームのようなバッド・バッチだが、金儲けと保身に執着するのではなく、激動の時代の中で綱渡りをするように慎重に判断を下していく。

世界も仲間も犠牲にしないのが、バッド・バッチのやり方だ。バッド・バッチは当初は借金を背負っていたが、完済後のシーズン1第12話では、帝国と戦う惑星ライロスのチャム・シンドゥーラからの報酬に対し、受け取りを拒否している。間接的にライロスを支援する一方で、ハンターは、「組織しよう」と反乱勢力のオーガナイズに着手しようとするチャムのオファーにはきちんと断りを入れる。

世界を見捨てたわけではないが、幼いオメガを含む仲間を易々と危険に晒すことはできない。革命には加わらずに、まずは自分たちが生きるスペースを大事にしていくのがバッド・バッチの特徴である。シーズン1第15話では、帝国の命令に背いたことを「共和国のためか?」と問いただすクロスヘアーに対し、ハンターは「帝国ではなく仲間に忠を尽くすべきだ」と答える。ハンターは共和国のためでも、帝国のためでもなく、仲間のために生きようとしている。

しかし、バッド・バッチは他の多くの市民が選んだような“ことなかれ”の道を進んだわけではない。帝国勃興の時期にあっても、自分たちに可能な範囲で、帝国に一矢報いようとする人々の力になる仕事と立ち位置を選んでいくのである。そこに、仕事を選び、現場で最善の判断を下す“善きフリーランス”の矜持が見える。

フリーランス、起業家、労働組合

ファシストが政権を握り、世界が不安定な状態に陥る中で、フリーランスのチームとして生き延びていくのがバッド・バッチだ。一方、『バッチ・バッチ』の後続作品では、また違ったチームビルディングのあり方が提示される。

ドラマ『ボバ・フェット/The Book of Boba Fett』(2021-2022) では、クローンのホストであるジャンゴ・フェットのオリジナルのクローンであるボバ・フェットの『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』(1983) のその後が描かれた。こちらは帝国崩壊後の不安定だが自由な空気が漂う時代が舞台。長らく賞金稼ぎとして生きてきたボバ・フェットは、雇われの身である自分たちが使い捨てにされてきた過去から、よりマシな組織を運営できると確信する。

ボバ・フェットはジャバ・ザ・ハット亡き後の惑星タトゥイーンで、善き統治者になることを目指す。「自由でいたい」と個人事業主であり続けようとするフェネック・シャンドに対しては、歩合の成功報酬も支払い、命をかけて守ることをオファーする。先住民であるタスケン・レイダーの文化も理解し、その土地に根ざして仲間を集めていくボバ・フェットはまさに起業家の鏡だ。

『バッド・バッチ』の14年後を舞台にしたドラマ『キャシアン・アンドー』(2022-) シーズン1では、人々が反乱へと突き動かされていく様子が描かれた。『バッド・バッチ』シーズン1は、まだ反乱の種を蒔かれている時期であり、選択の余地がある時代だったと言える。『エピソード4』の5年前、帝国崩壊前夜とも言える『キャシアン・アンドー』シーズン1では、キャシアン・アンドーが各地で火をつけ、帝国が市民への締め付けを強化することで反乱の狼煙が上がる。

ナーキーナ・ファイブ編で登場するキノ・ロイは、かつて労働組合のリーダーだったという裏設定があるが、『バッド・バッチ』がフリーランス、『ボバ・フェット』が起業家の物語だとすれば、反乱同盟軍を組織していく『キャシアン・アンドー』シーズン1は巨大な労働組合が結成される前夜の物語だと言える。

反乱分子も既に組織化はされているが、産業別労働組合のように横断的な組織である反乱同盟軍が結成されることで、帝国打倒の道筋が見えてくる。誰かがスーパーヒーローになるのではなく、一人一人の登場人物が選択を下していくという点も『キャシアン・アンドー』の特徴で、個々では弱い個人の集まりが巨大な権力に対峙できる勢力になっていくという労働組合論の基本が示されてもいる。

シーズン2に注目

このように、『バッド・バッチ』以降の「スター・ウォーズ」作品は、パンデミック後の不安定な世界にあって、改めて組織論や社会での生き方を問うているように見える。『バッド・バッチ』シーズン2では、ハンターたちがその生き方を貫くのかどうかに注目したい。

『バッド・バッチ』シーズン1の第12話では、反乱分子の組織化を断ったハンターに対し、後に反乱運動の中で命を落とすエレニ・シンドゥーラが「戦争が始まれば戦いは避けられない」と、未来を予言する。この忠告への回答を先延ばしにしたバッド・バッチに、シーズン2ではどんな冒険が待ち受けているのか。

アニメ『スター・ウォーズ:バッド・バッチ』はDisney+で独占配信。シーズン2は2023年1月4日(水)配信開始。

『スター・ウォーズ:バッド・バッチ』(Disney+)

シーズン2の予告編はこちらから。

『バッド・バッチ』で明かされたクローン兵廃止の理由はこちらから。

『マンダロリアン』と『バッド・バッチ』に登場した“チェーンコード”の解説はこちらの記事で。

 

主演のディエゴ・ルナが振り返ったドラマ『キャシアン・アンドー』シーズン1の魅力はこちらから。

ドラマ『マンダロリアン』シーズン3は2023年3月1日より配信開始。詳細はこちらの記事で。

『スター・ウォーズ エピソード1』の100年前を描く異色のドラマ『アコライト』についてはこちらから。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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