チェーンコードに注目
2021年5月4日(火)に配信を開始したアニメ『スター・ウォーズ:バッド・バッチ』は、『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』(2005) の直後、帝国が設立される時代を描いた「スター・ウォーズ」最新作。ドラマ『マンダロリアン』(2018-) と同じく、ジェダイ以外のキャラクターの視点から新たな物語を描き出している。
『バッド・バッチ』でメインキャラクターに据えられているのは、クローン兵のエリート部隊であり“異端”でもあるバッド・バッチの面々。バッド・バッチが訪れる惑星での出会いを通して帝国の支配が始まる時代の“民衆史”が語られている。
『バッド・バッチ』第2話に登場して話題を呼んだのは、帝国支配下で市民の身分証のような役割を果たす“チェーンコード”だ。チェーンコードがなければ共和国時代の旧通貨から帝国クレジットへの換金もできず、移動の自由もままならない。帝国の圧政が始まることを予感させる重要なアイテムとなっている。今回はその仕組みと登場シーンをおさらいしてみよう。
不良部隊 “バッド・バッチ”
彼らの冒険が始まったー。本日(5/7)第2話配信開始‼️#ディズニープラス オリジナル
『#スターウォーズ:#バッドバッチ』毎週金曜16時より新エピソードを日米同時配信中! pic.twitter.com/cNvmcc6iub
— ディズニープラス公式 (@DisneyPlusJP) May 7, 2021
以下の内容は、ドラマ『マンダロリアン』シーズン2の内容に関するネタバレを含みます。
チェーンコードはマイナンバー?
スター・ウォーズ公式サイトでは、チェーンコードについて以下のような解説が掲載されている。
帝国の黎明期には、市民は自ら追跡されるための手続きをとっていった。チェーンコードを登録することで、新たに成立した独裁国家で使える新しいクレジットを換金していた。この身分証明書は、これなしには惑星間を移動することはほとんど不可能になったが、十分な技術と適切なデータディスクがあれば偽造することが可能である。
また、公式による『バッド・バッチ』第2話の解説では、「米国におけるソーシャル・セキュリティ・ナンバー(社会保障番号)に似ている」と紹介されている。ソーシャル・セキュリティ・ナンバーはSSNと略される個人番号で、米国市民だけでなく外国人労働者にも発行されるが、不法滞在の状態にある移民や職を持たない留学生などには発行されない。米国のSSNは納税やコロナ禍における現金給付に活用されている。
浸透の度合いは大きく異なるが、米国のSSNは日本のマイナンバーと同等のものであり、チェーンコードも日本でいうマイナンバーと同じと考えてよいだろう。移動・旅行や換金にマイナンバーが必須になったら……と考えるだけで帝国が急激に押し進めた制度の“しんどさ”が想像できるだろう。
『マンダロリアン』での登場シーンをおさらい
何よりチェーンコードが注目されたのは、ドラマ『マンダロリアン』で既にチェーンコードが登場していたからだ。チェーンコードは旧作には登場せず、『マンダロリアン』で初登場を果たしたディズニー印のアイテムだ。『マンダロリアン』ではシーズン1の第1話からチェーンコードが登場。マンダロリアンが惑星ネヴァロで帝国の残党と繋がりのあるクライアントから、後にベイビー・ヨーダだと分かる“獲物”の捕獲を依頼されるシーンだ。
マンダロリアンは獲物の正体を知るために、クライアントに「チェーンコードは?」と尋ねている。クライアントは「教えられるのは最後の4桁のみ」と答え、マンダロリアンは「年齢? それだけしか教えられないのか」と不満気に口にしている。このやり取りは、チェーンコードの最後の4桁を見れば年齢が読み取れると理解することもできる。
他にも『マンダロリアン』シーズン1では第7話でグリーフがスカウト・トルーパーにチェーンコードの提示を求められる場面が登場する。また、キャラ・デューンはマンダロリアンに同行を求められた際に自身の経歴が“終身刑レベル”であることから「新共和国に登録されている正規の船を予約しただけで……」と、チェーンコードが理由で移動の自由に問題を抱えていることを吐露している。
第8話では、キャラ・デューンがグリーフの用心棒にならないかと誘われ「チェーンコードの手続き問題がね」と返答している。就職にも影響が及ぶようだ。これに対してグリーフは「私の用心棒になるなら手続き問題など心配ない」と返答している。『バッド・バッチ』でも見られたように(また、公式の解説にもあったように)、裏ではチェーンコードの偽装や書き換えも行われていたようだ。
ボバ・フェットの心の拠り所に
そして、2020年に配信を開始した『マンダロリアン』シーズン2にはついにその“中身”が登場した。旧三部作から登場しているボバ・フェットが自身のチェーンコードをホログラムでマンダロリアンに見せ、「25年間埋め込まれている私のチェーンコード。これが私、ボバ・フェット、そして父、ジャンゴだ」と父ジャンゴの情報と思われるデータを表示している。マンダロリアンは「父親は孤児か」と返答していることから、チェーンコード上では家族のデータまで読み取れるようだ。
ボバ・フェットはバッド・バッチと同じくクローンで惑星カミーロの出身。同時に、全てのクローンの遺伝子ホストになったジャンゴ・フェットの遺伝子に手を加えずに生まれた唯一のジャンゴ・フェットの純粋なクローンだ。幼少期はジャンゴによって育てられている。ボバ・フェットは『エピソード6/ジェダイの帰還』(1983) で怪物サルラックに飲み込まれて以来の登場だったが、父の記録が刻まれたチェーンコードは決して手放さなかったのだ。
なお、ドラマ『マンダロリアン』は『エピソード6』から5年後、『バッド・バッチ』から28年後を舞台にした作品だ。ボバ・フェットの「25年間埋め込まれている」という台詞からボバ・フェットは帝国成立の3年後にチェーンコードを手に入れた(またはアーマーに埋め込んだ)ことになる。
なお、ボバ・フェットを主人公に据えたドラマ『ザ・ブック・オブ・ボバ・フェット(原題)』は、2021年12月の配信開始を予定している。
なお、スター・ウォーズ公式サイトでは、「このシリーズ(『バッド・バッチ』)では、チェーンコードについて詳しく語られているだけでなく、市民個人を追跡する手段が採用されたことで、銀河に起きた急激な変化を垣間見ることができる」と、チェーンコードの導入を通して帝国時代が急激に加速したことが示唆されている。
新3部作で栄華を極めていたジェダイが、旧3部作でほとんど知られていない状態になった理由のヒントはここにある。「ジェダイが忘れ去られた理由」の詳細はこちらの記事にまとめている。
次々とその役割が明らかになっていくチェーンコード。身分証であり記録媒体として非常に使い勝手の良いアイテムであることが分かってきた。また、制度やテクノロジーが人々の暮らしを変えていくという側面も照らし出している。今後のシリーズではどのように活用されるのか、引き続き注目していこう。
『スター・ウォーズ:バッド・バッチ』と『マンダロリアン』はDisney+で独占配信中。
第2話のネタバレ解説はこちらの記事で。
第3話のネタバレ解説はこちらの記事で。
第1話のネタバレ解説はこちらから。
『バッド・バッチ』から『マンダロリアン』につながるもう一つの要素、ダーク・トルーパーについての考察はこちらの記事で。
『バッド・バッチ』第1話で発覚した帝国がクローン兵の利用をやめた理由はこちらの記事で。