Contents
今年の夏は、日本SFアンソロジーがあつい!
今年の夏は日本SFアンソロジーが盛り上がっています。初夏から晩夏にかけて、日本SF作家クラブ編『2084年のSF』 (早川書房)、伴名練編『新しい世界を生きるための14のSF』(早川書房) 、井上彼方編『SFアンソロジー 新月/朧木果樹園の軌跡』(Kaguya Books) 、大森望編『ベストSF2022』 (竹書房) 、『Genesis この光が落ちないように』(東京創元社)と、5冊の日本SFアンソロジーが刊行されます。
SFメディアバゴプラでは、「日本SFアンソロジーの季節」と題して、各アンソロジーの魅力を紹介する企画を実施しています。今回ご紹介するのは、8月31日に刊行された大森望編『ベストSF2022』(竹書房)。編者の大森望さんと竹書房編集部さんに4つの質問をしました。
大森望編『ベストSF2022』、8月31日刊行!
2022年8月31日に大森望編『ベストSF2022』 (竹書房) が刊行されました。『ベストSF2022』は、2021年に発表された国内のSF短編小説の中から大森望さんが選んだベスト10が収録されています。
今年の「ベストSF」の特徴は!?
2020年から毎年刊行されている大森望編ベストSFシリーズ(竹書房)は、大森望・日下三蔵編《年刊日本SF傑作選》(東京創元社) から続いている、出版社を超えた〈年刊日本SF短編傑作選〉シリーズと考えることもできます。
15年以上にわたって〈年刊日本SF短編傑作選〉シリーズと関わり続けてきた大森望さんが語る、『ベストSF2022』の特徴は、例年と比べて新人の作家が多いことです。しかも、意図して新しい作家さんを選出したわけではなく、純粋にベストテンを選んだ結果、そのような特徴になったそうです。
実際、単著がない作家さんが半数を占めており、2021年が非常に多くの新鋭の新しい書き手たちが活躍した年であったことが伺えます。日本SF界は今、新時代を迎えようとしているのかもしれません。初出も商業誌だけではなく、同人誌から3編の短編小説が収録されています。
今年のベストSFは知らない作家が多いな、という印象を持たれた方も、これからの日本SFの発展に期待を膨らませながら、2021年を代表する良質なSF短編小説をお楽しみください。
収録作品は全部で10編
『ベストSF2022』に収録されている作品と初出は以下の通りです。
酉島伝法「もふとん」(『文藝』2021夏季号)
吉羽善「或ルチュパカブラ」(『SCI-FIRE 2021』 アルコール特集号)
溝渕久美子「神の豚」(『Genesis 時間飼ってみた』)
高木ケイ「進化し損ねた猿たち」(『SCI-FIRE 2021』 アルコール特集号)
津原泰水「カタル、ハナル、キユ」(日本SF作家クラブ編 『ポストコロナのSF』)
十三不塔「絶笑世界」(『5G』)
円城塔「墓の書」(『新潮』2021年9月号)
鈴木一平+山本浩貴(いぬのせなか座)「無断と土」(『SFマガジン』2021年6月号→『異常論文』)
坂崎かおる「電信柱より」(『SFマガジン』2021年8月号)
伴名練「百年文通」(『コミック百合姫』2021年1月号〜12月号)
大森望さんに4つの質問!
『ベストSF2022』について、編者の大森望さんと竹書房編集部さんにお聞きしました。
-収録作の中で、最も虚構性の高い作品を紹介してください。
円城塔「墓の書」でしょうか。”作中死を遂げた人々のための墓”、つまり小説に登場する人物の墓について書かれた小説なので、虚構性のレベルとしては他の小説より一段階高いと言えるのでは。ちなみに作中では、”小説を盛り上げるための殺人”の犠牲となった推理小説の作中人物たちの徒労感を慰めるためにそうした墓が生まれたと主張する評論家が嵐の夜に絶海の孤島で催されたパーティのさなかに不審死を遂げることになります。
-収録作の中で、最もアクチュアルな作品を紹介してください。
現実に近いとかドキュメンタリー的であるという意味では、太平洋戦争末期の北ボルネオ戦線、いわゆる”サンダカン死の行進”を題材にした高木ケイ「進化し損ねた猿たち」でしょうか。マラリアの高熱に浮かされながら北ボルネオをさまよう日本軍の兵士・穂積は、密林の中で一頭のオランウータンと出会う……。異国での戦争の模様が日々報道されている現状に鑑みると、また別の意味でアクチュアルな小説だとも言えます。
-装幀・デザイン・編集などでこだわった点を教えてください。
イラストは「このひとが描く『SF』が見たい」と思った方に収録作品を一切読まずに自由に描いていただいています。〈ベスト短編SFアンソロジーシリーズ〉であるとともに〈ベストSFイラストシリーズ〉も目指そうかなと。デザインはいつもどおり坂野公一さんに全面的におまかせし、編集としては巻末に収録した推薦作リストで読者がいろんなタイプのSF/作家に触れられる機会を作れるようにとは思っています。(編集部)
-他の日本SFアンソロジーに負けない!という点はなんですか。
“負けない”というか、他の日本SFアンソロジーと違っているのは、いまのところ日本SF唯一の年次ベストアンソロジーであることと、前身の《年刊日本SF傑作選》(東京創元社) も含めれば2007年から毎年刊行されているという継続性です。巻末の「日本SF概況」や「推薦作リスト」も含めて、いまから10年後、20年後にかつての日本SF状況をふりかえるとき、定点観測の記録としてそれなりに役立つ本であるという資料性に関しては、他のアンソロジーにない特徴だと思っています。
大森望編『ベストSF2022』は全国の書店・オンラインストアで好評発売中。
特別企画「日本SFアンソロジーの季節」開催中
今年の夏は日本SFアンソロジーが盛り上がっています。2022年5月から9月にかけて、各出版社から5冊の日本SFアンソロジーが刊行されます。
5月には日本SF作家クラブ編『2084年のSF』 (ハヤカワ文庫JA) 、6月には伴名練編『新しい世界を生きるための14のSF』(ハヤカワ文庫JA) 、8月には井上彼方編『SFアンソロジー 新月/朧木果樹園の軌跡』(Kaguya Books) 、大森望編『ベストSF2022』(竹書房文庫) が刊行されました。9月には東京創元社から『Genesis この光が落ちないように』が刊行されます。
第59回日本SF大会にて「日本SFアンソロジーの夏」を開催
8月27日・28日に福島で開催された第59回日本SF大会にて、「日本SFアンソロジーの夏 アンソロジーの出版について出版社に聞いてみよう」という企画を開催しました。
SFメディアバゴプラの齋藤隼飛さんが司会を務め、井上彼方さん(Kaguya Books)、小浜徹也さん(東京創元社)、水上志郎さん(竹書房)、溝口力丸さん(早川書房)にSFアンソロジーの役割や魅力、今後の展望についてお話しいただきました。現在、対談の一部を文字起こしした記事をバゴプラで公開しています。