【コラボ企画】日本SFアンソロジーの季節 vol.01 『2084年のSF』(日本SF作家クラブ編) | VG+ (バゴプラ)

【コラボ企画】日本SFアンソロジーの季節 vol.01 『2084年のSF』(日本SF作家クラブ編)

今年の夏は、日本SFアンソロジーがあつい!

今年の夏は日本SFアンソロジーが盛り上がっています。初夏から晩夏にかけて、日本SF作家クラブ編『2084年のSF』 (早川書房)、伴名練編『新しい世界を生きるための14のSF』(早川書房) 、大森望編『ベストSF2022』 (竹書房) 、『SFアンソロジー 新月/朧木果樹園の軌跡』(Kaguya Books) 、『Genesis この光が落ちないように』(東京創元社)と、5冊の日本SFアンソロジーが刊行されます。

SFメディアバゴプラでは、「日本SFアンソロジーの季節」と題して、各アンソロジーの魅力を紹介する企画を実施しています。今回ご紹介するのは、5月24日に刊行された日本SF作家クラブ編『2084年のSF』。日本SF作家クラブの林譲治さんに『2084年のSF』について4つの質問をしました。

日本SF作家クラブ編『2084年のSF』、好評発売中

2022年5月24日に日本SF作家クラブ編『2084年のSF』 (ハヤカワ文庫JA) が刊行されました。『2084年のSF』は、ジョージ・オーウェルのディストピア小説『1984』の100年後にあたる2084年を舞台にした書き下ろしSFアンソロジー。23名の作家が参加しています。

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「62年後のあなたを想像してください」

日本SF作家クラブは2021年に、『ポストコロナのSF』(ハヤカワ文庫JA) の企画・編者をつとめています。『ポストコロナのSF』には、ポストコロナの世界を描いた19篇のSF短編小説が収録されています。『2084年のSF』は『ポストコロナのSF』に続く、日本SF作家クラブ編の書き下ろしアンソロジー第2弾です。どちらのアンソロジーも、近未来を舞台にしたSF短編小説が多く掲載されています。

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ジョージ・オーウェル『1984』は、1948年に執筆された古典的名作です。作中で描かれている全体主義や監視社会、言葉の崩壊などが、まるで現代社会を“予言”しているようであるとして、近年注目が集まっています。

では、2084年を舞台にした『2084年のSF』に収録されているSF短編小説は、2084年を“予言”する小説たちなのでしょうか。日本SF作家クラブ会長の池澤春菜さんは「はじめに」で、未来を当てようとすると作品は失速し輝きを失う、としてこれを否定した上で、こんな力強い言葉を書かれています。

今、ここにある問題に対して、物語ができることはあまり大きくないかもしれない。けれど、わたしたちは未来に作品を送ることができる。
[中略]
SFが生み出す新しい物語は、ビジョンは、言葉は、きっと未来において大きな力となる。

『2084年のSF』では、文化の変化、技術の変化、環境の変化、価値観の変化など、たくさんの変化がもたらす物語が描かれています。10年先はおろか、数ヶ月先の未来さえ思い描きにくい状況ですが、こんな時だからこそ敢えて、62年後に想いを馳せたSFアンソロジーを読んでみてはいかがでしょうか。

収録作品は23編

『2084年のSF』には、23編の作品が7つのパートに分かれて収録されています。執筆者は各SFコンテストの受賞者を中心に豪華なメンバーが並んでいます。

池澤春菜 まえがき

【仮想】

福田和代「タイスケヒトリソラノナカ」
青木和「Alisa」
三方行成「自分の墓で泣いてください」
【社会】

逢坂冬馬「目覚めよ、眠れ」
久永実木彦「男性撤廃」
空木春宵「R__ R__」
【認知】

門田充宏「情動の棺」
麦原遼「カーテン」
竹田人造「見守りカメラ is watching you」
安野貴博「フリーフォール」
【環境】

櫻木みわ「春、マザーレイクで」
揚羽はな「The Plastic World」
池澤春菜「祖母の揺籠」
【記憶】

粕谷知世「黄金のさくらんぼ」
十三不塔「至聖所」
坂永雄一「移動遊園地の幽霊たち」
斜線堂有紀「BTTF葬送」
【宇宙】

高野史緒「未来への言葉」
吉田親司「上弦の中獄」
人間六度「星の恋バナ」
【火星】

草野原々「かえるのからだのかたち」
春暮康一「混沌を掻き回す」
倉田タカシ「火星のザッカーバーグ」

榎木洋子 SF大賞の夜

 

日本SF作家クラブ、林譲治さんに質問!

『2084年のSF』について、日本SF作家クラブ内で『2084年のSF』のコーディネートを担当した林譲治さんにお聞きしました。

-収録作の中で、最も虚構性の高い作品を紹介してください。

『2084年のSF』の収録作の中で、虚構性の高い作品は何かというのはかなり難問ですね。好きな作品はどれですか? の方がずっと優しい。私なりに分類すると、このアンソロジーの作品は、

1 未来の人の有り様(変容)を描く
2 未来のディストピアを描く
2-A ラストに希望がある
2-B ラストに希望がない
3 ディストピアかユートピアか読み手の価値観による

に分けられるのではないかと思う。そうだとすると社会総体より、社会を構成する人の変容に寄り添った方が虚構性は高いのではないかと思う。それでも具体的な作品を選ぶのは難しいが、あえて選ぶとすれば、麦原遥さんの「カーテン」と十三不塔さんの「至聖所」と個人的には思う。

-収録作の中で、最もアクチュアルな作品を紹介してください。

これに関しては収録作のほとんどがアクチュアルな作品であるといえます。『2084年のSF』というタイトルからも分かるように、このアンソロジーはオーウェルの『1984』を底本としています。
しかし、『1984』を底本にすると言っても、個々の作家がこの作品を如何に読み込み、解釈しているか? その認識は作家の数だけあると言えるからです。
言い換えるなら、『1984』が自分たちの社会を考察するための原点として機能するならば、このアンソロジーは先の『ポストコロナのSF』と同様に個々の作家にとって否応なくアクチュアルな問題意識となり、今回はそうしたアンソロジーを目指しました。

-装幀・デザイン・編集などでこだわった点を教えてください。

今回の『2084年のSF』の作家陣については、その前の『ポストコロナのSF』と一連の流れになっています。SF作家クラブ側としては、第七、第六世代の作家の方々にこのアンソロジー企画によって、作品発表の場を提供するという意図もありました。とはいえ『ポストコロナのSF』にしても収録数は20に満たないため、作品発表の場としては不十分な面は否めません。なので今回のアンソロジーについては、「前回のアンソロジーに作品を発表していない作家から選ぶ」というのが一つの条件となり、このような作家陣となりました。それでもこれだけの陣容が揃うわけですから、素晴らしい時代になったものです。

-他の日本SFアンソロジーに負けない!という点はなんですか。

現代日本SFの精華とも称すべき豪華執筆陣、これにつきます。

 

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特別企画「日本SFアンソロジーの季節」開催中

今年の夏は日本SFアンソロジーが盛り上がっています。2022年5月から毎月、各出版社から5冊の日本SFアンソロジーが刊行されます。

日本SF作家クラブ編『2084年のSF』 (ハヤカワ文庫JA) に加え、6月には伴名練編『新しい世界を生きるための14のSF』(ハヤカワ文庫JA) 、8月には新たなSFレーベルのKaguya Booksから『SFアンソロジー 新月/朧木果樹園の軌跡』(社会評論社) と、大森望編『ベストSF2022』 (竹書房文庫) 、9月には東京創元社から『Genesis この光が落ちないように』が刊行されます。

「日本SFアンソロジーの季節」を実施

そして、SFメディアのバゴプラでは、「日本SFアンソロジーの季節」と題して、各アンソロジーの魅力を紹介し、日本SFアンソロジーを盛り上げていく企画を実施します。以下の企画を通して、出版社や組織の枠を越えた国内SFアンソロジーの魅力を読者の皆さんにお届けしたいと思います!

企画① リレー記事「日本SFアンソロジーの季節」
企画② 第59回日本SF大会福島にて自主企画開催
企画③ 図書カードプレゼントキャンペーン

企画の詳細はこちらをご覧ください。

第59回日本SF大会福島にて開催した対談企画「日本SFアンソロジーの夏」は、対談の一部を文字起こしした記事をバゴプラで公開しています。

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