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小説原作のSFファンタジードラマが熱い
外出自粛の日々が続く。全国に拡大した緊急事態宣言下で休館になっている映画館も多く、映像作品はストリーム配信などで楽しんでいるという人も多いだろう。
Amazonプライムの会員であれば誰でも視聴できるAmazonプライムビデオでは、オリジナルドラマシリーズが魅力の一つだ。
フィリップ・K・ディックの同名小説をドラマ化した『高い城の男』(2015-2019)、ジェームズ・S・A・コーリイの小説シリーズを実写ドラマ化しシーズン4からAmazonスタジオが製作を手がける『エクスパンス -巨獣めざめる-』(2015-)、シモン・ストーレンハーグのイラスト集をドラマkした『ザ・ループ TALES FROM THE LOOP』(2020)、コミックを実写ドラマ化した『ザ・ボーイズ』(2019-)など、SFファンタジーを実写化した人気作品が並ぶ。
また、Amazonスタジオでは、2020年2月の時点で27のSF作品の製作が進められていることが明らかになっている。
今回は、Amazonがドラマ化を進めるSF小説およびファンタジー小説を5つご紹介しよう。今から原作小説を読んでおくことで、配信が始まった時に更に楽しむことができるはずだ。
Amazonプライムビデオで実写ドラマ化が進むSFファンタジー小説5選
(括弧内は英語版の発表年)
『指輪物語 (ロード・オブ・ザ・リング)』(1954-1955)
2017年にAmazonでのドラマ化が発表されたJ・R・R・トールキンの『指輪物語』。トールキンが創り上げた緻密な神話体系を含む広大な世界で、“一つの指輪”を巡る戦争と冒険の物語が描かれる。今から約20年前にあたる2001年から2003年に公開された映画「ロード・オブ・ザ・リング」の大成功は記憶に新しい。
ドラマ版『ロード・オブ・ザ・リング』とも呼ばれるこのAmazonシリーズは2021年の配信開始を予定していたが、2020年3月に新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、製作は一時休止している。
Amazonスタジオは、『指輪物語』のドラマ化にあたって、製作権の獲得に2億5,000万ドル (約269億円) を投じている。さらに製作費用は10億ドル (約108億円) と見積もられており、Amazonの本気度が伺える。
ドラマ版で描かれるのは、映画第1作目の前日譚で、映画『ジュラシック・ワールド/炎の王国』(2018)で知られるJ・A・バヨナ監督が指揮をとる。キャストでは、オウェイン・アーサー、ナザニン・ボニアディ、ロバート・アラマヨの三人がメインロールを務める。
『指輪物語』の文庫版の新版は瀬田貞二、田中明子の翻訳で評論社から発売されている。誰もが知るファンタジー小説の名著をこの機会にチェックしておこう。
『パワー』(2016)
2016年に英語版が刊行されるや、2018年に早くもドラマ化が発表されたナオミ・オルダーマンの『パワー』。その物語は、女性たちが手から電流を放出する力を得たことで、次々と“力”を手に入れていくというもの。男性に対する抑圧が進み女性優位の社会が築かれていくが、それは現実社会で起きている差別構造を逆にしただけというつくり (ミラーリング) になっている。
日本でも2018年に河出書房から安原和見の翻訳で日本語版が発売され、話題になった。
『パワー』の監督を務めるのは、マーガレット・アトウッドの小説『侍女の物語』(1985)をドラマ化した『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』(2017-)の監督として知られるリード・モラーノ。モラーノは、『ハンドメイズ・テイル』でエミー賞監督賞を受賞した他、SF映画『孤独なふりした世界で』(2018)や、マーク・バーネルの小説『堕天使の報復』(2000)を実写化した映画『ザ・リズム・セクション』(2020)などを手がけてきた。
リード・モラーノは、女性が抑圧されるディストピアを描いた『侍女の物語』に続き、女性が力を持つ世界を現実社会のミラーリングとして描いた『パワー』の実写ドラマ化に挑む。
俳優陣では、市長マーゴットの娘ジョスリンを『モアナと伝説の海』(2016)で主人公モアナの声を担当したアウリイ・クラヴァーリョが、カルト教団のリーダーになるアリーをハル・ブッシュが、最強の力を持つロクシーをリア・ズミトロヴィッチが演じる。なお、原作者のナオミ・オルダーマンもプロデューサーとして製作に加わる。
『時の車輪』(1990-2013)
ロバート・ジョーダンの長編ファンタジー小説「時の車輪」シリーズもAmazonプライムビデオで実写化される予定だ。2018年にドラマシリーズ化が発表された。「時の車輪」シリーズは『指輪物語』と同じく、神話体系を含む世界観が丹念に構築されている。女性だけに“異能者”としての力が残されているという設定や、“闇王”と“竜王”の復活をめぐる物語などがその特徴となっている。
ドラマ『エージェント・オブ・シールド』(2013-)にも参加したレイフ・ジャドキンスが脚本と製作を手がけ、主人公のランド・アル=ソア役をジョシャ・ストラドウスキが、モイレイン役をロザムンド・パイクが演じる。レイフ・ジャドキンスは、自身のInstagramでジョシャ・ストラドウスキが写った撮影風景の写真をアップしている。
小説「時の車輪」シリーズは、日本では斉藤伯好および月岡小穂の翻訳で早川書房から12巻まで出版された。また、2021年10月には『ホイール・オブ・タイム』のタイトルで再刊されている。
再刊版の詳細はこちらの記事で。
『ワイルドシード』(1980)
1980年に発表されたオクティヴィア・E・バトラーのSF小説『ワイルドシード (原題: Wild Seed)』は、2019年3月にAmazonプライムビデオでの実写ドラマ化が発表された。『ワイルドシード』は人を殺す能力を持つDoroと人を癒す能力を持つAnyanwuという二人の不死身の男女が、17世紀のアフリカが出会って以降、様々な時代で出会い、すれ違う物語。
ドラマ版では、LGBTの権利を扱った映画『ラフィキ』(2018)で知られるワヌリ・カヒウが監督と脚本を担当し、SF小説「ビンティ」(2015)でSF最高賞のヒューゴー賞とネビュラ賞をダブル受賞したンネディ・オコラファーが共同で脚本を手がける。また、俳優でプロデューサーとしても活躍するヴィオラ・デイヴィスが『ワイルドシード』をプロデュースする。
ドラマ化の詳細は以下の記事に詳しい。
原作小説『ワイルドシード』は邦訳されていないが、英語版はKindleで購入できる。
『Dawn』(1987)
オクティヴィア・E・バトラーが1987年に著した『Dawn』もAmazonプライムビデオでドラマ化される。こちらは2020年2月に実写化が明らかになったばかりだ。『Dawn』の舞台は、核戦争が勃発してから250年が経過した世界。黒人女性の主人公リリス・イヤポは、エイリアンと共に人類を復活させることを試みる。
監督を務めるのは、『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』(2019)でセカンド・ユニットのディレクターを務めたヴィクトリア・マホーニー。「スター・ウォーズ」シリーズの制作において、女性としても黒人としても初めて主要な役を担った人物として知られる。また、映画『グローリー/明日への更新』(2014)やNetflixドラマ『ボクらを見る目』(2019)など、アメリカ黒人への人種差別をテーマにした作品を指揮してきたエイヴァ・デュヴァーネイが製作総指揮を手がける。
『ワイルドシード』同様、『Dawn』は邦訳されていないが、英語版はKindleで読むことができる。
オクティビア・E・バトラーは、『ワイルドシード』を含めて一挙に二作品がAmazonで映像化されることになった。一方で、伝説的なSF作家であるにもかかわらす、邦訳された作品は多くない。この機会にバトラーの邦訳作品が増えることを願おう。
以上が、注目のAmazonでドラマ化が進む注目のSFファンタジー小説だ。
映像技術の進化も合わせ、Amazonに限らず、往年のSFファンタジー小説の実写化/再映像化が増加傾向にあることは明らかだ。映画では、ワーナー・ブラザースがフランク・ハーバートによる小説『デューン』(1965)の再映画化が進められている。
外に出にくいこの時期を活用して、そして再び映像作品の製作が再開する日を心待ちにして、SFファンタジー小説を楽しもう。