『指輪物語』のトールキンが、フランク・ハーバートの小説『デューン/砂の惑星』について語らなかった理由 | VG+ (バゴプラ)

『指輪物語』のトールキンが、フランク・ハーバートの小説『デューン/砂の惑星』について語らなかった理由

『指輪物語』トールキンの手紙

『指輪物語』(1954-1955) の作者として知られるJ・R・R・トールキンが、SF作家のフランク・ハーバートの小説『デューン/砂の惑星』(1965)についての感想を綴っていたことをご存知だろうか。

『指輪物語』は言わずと知れたファンタジー小説の金字塔で、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズとして映画化もされている。小説『デューン/砂の惑星』は「スター・ウォーズ」シリーズの設定にも影響を与えたとされる作品だ。

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トールキンが『デューン/砂の惑星』について綴った手紙の内容は、トールキンについてまとめたオロンゾ・チリの著作『Tolkien’s Library: An Annotated Checklist』(イギリスで2019年8月8日に発売、Kindleで購入可能)に記されている。今回、その内容が『デューン/砂の惑星』関連の情報を投稿するSecrets of DuneのTwitterアカウントで紹介されたことで話題になっている。

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トールキンが綴った二通の手紙

J・R・R・トールキンがこの手紙を書いたのは1965年11月29日のこと。1937年に出版された『ホビットの冒険』の第3版の改訂に取り組んでいた時期で、日本で初めて『ホビットの冒険』(岩波書店) が発売された年でもある。

トールキンは、『デューン/砂の惑星』の版権を勝ち取った編集者として知られるスターリング・E・ラニア(Sterling E. Lanier)に宛てた手紙で、以下のように綴っている。

ラニアさん、短期間海外に出る直前にあなたの本、『デューン/砂の惑星』を受け取りました。ですので、ご挨拶が遅れました。次に休暇を取れるまでは、読むことはできないと思います。

「まだ読めていない」という内容だが、律儀に編集者へ手紙を送るトールキン。そしてその半年後、トールキンは再び『デューン/砂の惑星』の書籍を受け取ったようだ。1966年3月12日、ジョン・ブッシュ(John Bush)という人物に宛てた手紙の中で、トールキンは『デューン/砂の惑星』について重要なコメントを残している。

『デューン/砂の惑星』を送っていただき、ありがとうございます。昨年ラニアさんからも送っていただきましたので、この本については知っています。

 

執筆に取り組んでいる作家が、同じように執筆に取り組んでいる他の作家に対して公平でいることは不可能なことです。少なくとも私はそう思います。実際、私はかなり『デューン』を嫌っています。そしてこのような不幸なケースにおいては、沈黙を保ち、意見を言わないということが、その作家に対して最良で、最も公平なことです。

はっきりと「In fact I dislike Dune with some intensity」と綴られており、トールキンが『デューン/砂の惑星』を気に入っていなかったことが分かる。それでも、ライバルである作家に対して公平でいることはできないと、自身の作品との向き合い方が一般的なものではないという留保もつけている。そして、『デューン/砂の惑星』について“語らない”という選択肢を選ぶことで、少なくともフランク・ハーバートへの敬意を示そうとしたようだ。

手紙を受け取ったジョン・ブッシュがどのような人物なのかは明らかになっていないが、少なくともトールキンの律儀な人柄が伝わる文章である。


追記:5:30pm, Feb. 25, 2020

トールキンについて研究しているMarcel Aubron-Büllesは、この記述について、Secrets of Duneが投稿したこの内容に対して、当時のトールキンの状況を丁寧に解説してくれている。この時期、トールキンはAce Bookがトールキンに無許可で出版した『指輪物語』の版権問題に苛まれており、健康面も優れていなかったのだという。

著作が世界中でヒットしたことにより、複数の著書の改訂に追われ、時差がある国から午前3時に電話を受けるなど、トールキンの生活は多忙を極めていた。66年の2月には妻とともにインフルエンザに罹患したことも紹介されている。当時、妻とトールキンは共に70歳を超えていたという。これ以外にもトールキンは望まない様々なトラブルに見舞われていたといい、確かにこうした時期に『デューン/砂の惑星』と腰を据えて (あるいはカジュアルに) 向き合うことは、困難なことだったと想像できる。

あるユーザーは1965年の手紙の全文の画像を投稿。トールキンは『デューン/砂の惑星』を受け取った際に郵送代を請求され肩代わりしたことについて、本を送ったラニアに丁寧に問い合わせている。多忙を極め、体調も優れていない時期にもかかわらず、トールキンは先方の配慮の足りない行動に対しても丁寧に対応していたのだ。Marcel Aubron-Büllesは、以下のように締めくくっている。

この件について確かなことは、J・R・R・トールキンは常に紳士的であり、冷笑したり、嘲笑ったり、からかったりしなかったということです。

追記おわり


続々映像化される二人の作品

その後、フランク・ハーバートのSF小説『デューン/砂の惑星』は、1984年にデヴィッド・リンチの手によって映画化された。同じく、J・R・R・トールキンの『指輪物語』も『ロード・オブ・ザ・リング』として2001年に映画化されている。

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そして、2020年にはドゥニ・ヴィルヌーヴ監督によってリブート版の『デューン (邦題未定, 原題: Dune)』が公開され、ドラマ化を含むフランチャイズ化が決定している。

『ロード・オブ・ザ・リング』は、Amazonプライムビデオでのドラマシリーズ化が進められており、2021年に配信を開始する予定だ。

二人の作品は、今後もまだまだ世間の注目を集めそうだ。

Source
Tolkien’s Library: An Annotated Checklist , 2019, Oronzo Cilli

VG+編集部

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