甘い魔法で不条理な社会を変える『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』 ネタバレ感想&考察 | VG+ (バゴプラ)

甘い魔法で不条理な社会を変える『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』 ネタバレ感想&考察

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ウィリー・ウォンカがチョコレートにかけた魔法のルーツを巡る物語

ロアルド・ダール原作の児童小説『チョコレート工場の秘密』(1964)で描かれた天才パティシエにして、チョコレートの魔術師「ウィリー・ウォンカ」。ウィリー・ウォンカがチョコレート工場を開く前を描いた前日譚『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』が本国アメリカに先駆けて2023年12月8日(金)に日本で全国公開された。

「夢見ることを禁じられた町」グルメガレリアで亡き母との叶えたかった夢を叶えようとするウィリー・ウォンカだが、主演のティモシー・シャラメが、パレスチナがイスラエルから侵攻を受けて多くの人々の命が奪われている中で、ハマスをジョークにした『サタデー・ナイト・ライブ』(1975-)のコントに出演し、強い批判を浴び、小人症の俳優がウンパルンパにキャスティングに苦言を呈するなど映画外からのノイズの多い作品でもあった。

しかし、それでも映画の中ではある一つの強いメッセージが描かれており、それをチョコレートかキャンディか何かでコーティングすることで、甘く美しくし、そして苦しい現実の問題も誰の喉元をも通るようにしている。それによって、『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』で伝えたいメッセージが誰にでも伝わるというわけだ。

本記事では、『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』で語られたメッセージなどの感想と考察を述べていこう。なお、本記事には『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』のネタバレを含むので本編視聴後に読んでいただけると幸いである。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』の内容に関するネタバレを含みます。

甘いチョコレートに隠された苦い現実

砂糖漬けされたディストピア

『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』ではメインのメッセージとして、「夢を見ることからすべてがはじまる」という言葉がウィリー・ウォンカの亡き母の言葉として語られている。その一方で、その言葉の裏に存在するのは夢を見ることもできない格差社会や貧困問題が存在しているものとして描かれていると考察できる。

ウォンカたちを借金漬けにしたミセス・クラビットとブリーチャー、そして大企業としてチョコレート組合を作り、チョコレートを水で薄め、安価でチョコレートを売るウォンカを文字通り潰そうとするアーサー・スラグワースらがその例だ。『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』の舞台となる「夢見ることが禁止された町」グルメガレリアは夢を描くウォンカの視点から描かれているため世界が美しく映るが、その実態は大企業による搾取と貧困問題の象徴だ。

ウィリー・ウォンカと共にミセス・クラビットによって働かされるアバカスたちは、長い苦役の中で夢を見ることを忘れ、それどころか希望を持つこともない。ウォンカが善意を持ってヌードルにチョコレート「ひとすじの光」をあげた際、ヌードルがチョコレートの味を知ったことでチョコレートの無い毎日がより一層辛くなると嘆いたのがその最たる例だと考察できる。

チョコレート組合は警察や教会などを買収しており、そのような権力者によって一般市民は逃げ場のない生活を送っている。『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』の世界は夢を見ることに罰金があるなど、思想までチョコレート組合に管理されており、チョコレートとキャンディで彩られた甘く美しい世界とは裏腹にディストピアを描いていると考察できる。

チョコレートの現実

『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』のディストピアは何も映画の中だけではない。チョコレートはその産業そのものが貧困問題、格差社会、搾取といった負の側面を持っていることは有名な話だ。カカオはその名の由来を「神の食べ物」と呼ばれるほど貴重なものだった歴史があり、チョコレートが世に広まると大量に貴重であるはずのカカオ豆が必要になった。そこで行われたのが児童労働だ。

2001年4月13日に西アフリカのギニア湾で、10歳から14歳の子ども139人を乗せた船が消息を断った事件が報道された。その船に乗っていた子供たちは近隣国から連れてこられた子供たちであり、つまりチョコレートを作るために人身売買が行なわれていたのである。IITA(国際熱帯農業研究所)が実施した西アフリカのカカオ生産における児童労働の調査ではコートジボワールだけで約13万人の児童労働が確認されている。

そしてそのような児童労働で栽培されたカカオ豆の多くが私たちの食べているチョコレートの原材料となっている。カカオ農園の子供たちの多くは『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』のヌードルのようにチョコレートを食べられない人生を送り、それどころか児童労働の末に夢を見ることもなく大人になるという現実が待っている子供も多い。

それでも「夢を見ることからすべてがはじまる」と言い続ける理由

夢を見ることだけはあきらめてはいけない

『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』で描かれるウィリー・ウォンカはとにかくお人好しで、性善説を信じているような人間だ。さらに魔法のようなチョコレートをつくることはできるが、チョコレートの勉強や研究旅行にばかり行っていたため文字を読むこともできない。児童小説『チョコレート工場の秘密』を通り越して童話の中の登場人物のような存在だ。その性格のせいで皮肉などもわからず、更には何度も人に騙されることになる。

それでもウィリー・ウォンカは挫けず、チョコレート工場の夢を持ち続ける。ウォンカというキャラクターは『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』で登場するフラミンゴに象徴されていると考察できる。キリンのアビゲイルのミルクを搾りに行く際にヌードルから「フラミンゴはなぜ逃げないの?」と聞かれた際にウィリー・ウォンカが「リードするフラミンゴがいないからね」と返している。つまり、ウォンカは夢を見ることを忘れた人々をリードする人物だと考察できる。

現実のフラミンゴが動物園から逃げないのはリードするフラミンゴがいないわけではなく、動物園の檻の中では飛ぶために必要な助走の距離が取れないためである。そのため、これは一種の比喩なのだが、ミセス・クラビットのもとからは逃げられないと絶望していた人々に対し、少しの工夫で変わることもあるとリードしている。

そのようなウォンカの心も折れることもある。そのとき、ウィリー・ウォンカをリードするのはウォンカに誰かにリードされることで人は羽ばたけると教えてもらったヌードルや、やられっぱなしではなくやり返せと教えるウンパルンパだ。とくにウンパルンパは黙っているだけではなにも変えられない、行動しなければならないと説いている。

母親が金色のチケットに込めた意味

ウィリー・ウォンカたちは最後、チョコレート組合が隠していたチョコレートを上水道に流し、そしてみんなに分け与えている。それによってチョコレート組合の違法な資金プールは切り崩され、チョコレート組合と買収された人々の逮捕へと繋がる。そこでウォンカの母親が遺したチョコレートの秘密にウォンカは気づく。

それはウィリー・ウォンカの母親の遺した「チョコレートを美味しくする秘密」とは、チョコレートを誰かと分かち合うことであった。そしてチョコレートの溝に沿って母の形見であるチョコレートを友人たちと分け合うのだった。現実のチョコレートの溝は表面積を増やして冷却のスピードを上げるためなのだが、『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』はそこにチョコレートの秘密を込めたのだと考察できる。

このチョコレートを分かち合うという場面は苦いチョコレートの現実とリンクしている。カカオ豆の生産現場で児童労働が関わっていることが明らかになってからは、フェアトレードチョコレートの取り組みが進んでいる。フェアトレードは直訳すると「公平・公正な貿易」を意味し、生産者の労働環境や生活水準がちゃんと保証され、環境にもやさしい配慮がなされる持続可能な取引のサイクルをつくるための「貿易のしくみ」のことだ。

噴水からチョコレートが噴出し、それを掬って老若男女、人種問わずみんなで分け合う姿は『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』における抽象化されたフェアトレードチョコレートの姿だと言える。夢を見ず、現状は変わらないと嘆くのは簡単だ。しかし、その中でも「リードするフラミンゴ」となるために努力している人たちがいる。その人たちを笑うのも簡単だが、何度裏切られようとも信じ続けるウィリー・ウォンカの姿こそ、この『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』に込められたメッセージだと考察できる。

実はバッドエンド? その後に待ち受けるビターな現実と続編の可能性

最後、ウンパルンパを味見役として雇い、チョコレート工場をつくりにいったウィリー・ウォンカ。しかし原作である『チョコレート工場の秘密』では工場をつくって有名になった直後のことが語られている。そこでウィリー・ウォンカのチョコレートのレシピを狙って従業員にスパイが侵入。レシピを盗まれてウィリー・ウォンカのチョコレート工場は閉鎖に追い込まれた。その際、人間不信に陥ったウィリー・ウォンカは従業員を大量に解雇している。

そして新しいフレーバーを求めてルンパランドへとたどり着き、ウンパルンパ族と出会い、ウンパルンパに一定量のカカオ豆を報酬として渡すことを条件にウンパルンパに働いてもらっているのだ。『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』ではルンパランドにウィリー・ウォンカは行ったものの、そこでウンパルンパには出会っていない。つまり、まだバットエンドの可能性はあると考察できる。

純粋無垢なウィリー・ウォンカが人間不信に陥るところは見たくはないが、原作である『チョコレート工場の秘密』ではそう描かれている。しかし、原作を順守するのならば、工場を新しくつくった後に工場のエレベーターが宇宙へ飛んで行ってしまうという『ガラスのエレベーター 宇宙にとびだす』(1972)という続編もある。そのため『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』にも続編の可能性があると考察できる。その点に希望と夢を持って、今後に注目していきたい。

『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』は2023年12月8日(金)より全国公開。

『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』公式サイト

Source
NGO Ace/フェアトレード・ジャパン

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『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』のキャラクター&キャストはこちらから。

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鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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