広がりを見せる『猿の惑星/キングダム』の世界観
実写映画『ゼルダの伝説』で監督を務めることが明らかになっているウェス・ボール。その監督作品である『猿の惑星/キングダム』が、2024年5月10日(金)より全国公開された。SF映画「猿の惑星」シリーズの第10作にあたる『猿の惑星/キングダム』だが、視聴後に続編がどうなるのか興味が湧く傑作となっている。ウェス・ボール監督は米Colliderのインタビューで「ラッキーでうまくいけば私たちはもっと作りたいです」と語っている。
そのような続編制作に期待が高まる『猿の惑星/キングダム』。その続編やスピンオフ展開について、解説と考察をしていこう。なお、本記事は『猿の惑星/キングダム』のラストシーンのネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただけると幸いである。
以下の内容は、映画『猿の惑星/キングダム』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『猿の惑星/キングダム』の続編は多様化? フランチャイズ化の可能性
ディズニー傘下での「猿の惑星」シリーズのフランチャイズ化
20世紀FOXをディズニーが買収したことにより、「猿の惑星」シリーズの今後はフランチャイズ化していくと考察できる。事実、米Hollywood Reporterのインタビューで脚本家兼プロデューサーのリック・ジャファとアマンダ・シルバーが『猿の惑星/キングダム』の後に5作品制作したい旨を語っている。また、物語上では第1作『猿の惑星』(1968)では、宇宙船内時間が1972年7月14日、地球時間が2673年3月23日になっていることを確認して冷凍睡眠に宇宙飛行士たちが入っている。そして、その宇宙船が猿の惑星に不時着するというのがすべての始まりだ。
「猿の惑星」シリーズのリブート作である『猿の惑星:創世記』(2011)では、第1作『猿の惑星』の主人公たちが乗っていたイカルス号が遭難していることが新聞で明らかになっている。そのため、イカルス号が不時着するまではかなりの余白が残されていると考察することが出来る。
その余白を利用して『猿の惑星/キングダム』の続編では、様々な物語を描いていくことが予想できる。それでは、「猿の惑星」シリーズがフランチャイズ化していくという考察のもと、『猿の惑星/キングダム』の続編で描かれる物語について、更なる考察と解説をしていこう。
イーグル族の物語が広げられる可能性
まず、予想できる続編はノアたちイーグル族のサーガを描く展開だ。『猿の惑星/キングダム』では、プロキシマス・シーザーの手下であるシルヴァとライトニングにより、イーグル族の集落は焼け野原にされている。そして、長老であるオナード・エルダーがプロキシマス・シーザーに従属する選択肢を取ったため、イーグル族はプロキシマス・シーザーの王国の一部となった。
ノアの母親のダーは「ホーム(土地)を奪われた」と語っているが、それに対してノアは「ホーム(文化)は心にある」と返している。そして、人類のメイと協力して防波堤を崩壊させ、プロキシマス・シーザーの王国を崩壊に追いやっている。そして、プロキシマス・シーザーとノアの一騎打ちでは、ノアは劣勢だったがホーム(文化)の鷲への歌を歌い、それによってサン・イーグルなどの鷲を集めてプロキシマス・シーザーを倒した。
その後、ノアたちは本来の集落に帰り、その再建に努めている。そこで、イーグル族が崩壊を経験してから、イーグル族がどのように立ち上がるのかを描く可能性を考察できる。また、ウェス・ボール監督は米Colliderのインタビューで他の動物と一緒にいるエイプを想像した末にイーグル族に辿り着いたと解説している。そのため、他の動物と共存しているエイプたちの集落とイーグル族の関わりが描かれる可能性も考察できる。
イーグル族がどのようにして、鳥の匠と呼ばれる部族になったのか。また、崩壊したイーグル族が再建した集落でノアがどのような役割を果たすのかにも注目していきたいところだ。
他のエイプたちはどのような部族なのか
先ほどのイーグル族の物語が広げられる可能性の考察でも触れたが、プロキシマス・シーザーの王国のように『猿の惑星/キングダム』ではイーグル族以外の部族の存在も明らかになった。ノアがプロキシマス・シーザーの居城である廃船から見た景色を「奪われた部族」と称していることから、プロキシマス・シーザーの王国はイーグル族以外にも様々な部族たちで構成されていると考察できる。
先ほども触れた米Colliderのインタビューでウェス・ボール監督は、インタビュアーからハイエナ族などもあり得たのではないかという質問を受けている。そのため、他の動物と共存している部族や、まったく違う伝統や文化を持った部族が『猿の惑星/キングダム』の世界に広がっている可能性が考察できるのだ。そのため、『猿の惑星/キングダム』の続編やスピンオフとして、ノアたちイーグル族以外の部族に注目した物語が展開される可能性がある。
『猿の惑星/キングダム』はエイプの支配する惑星において、イーグル族のノアと高い知能を保持している人類の生き残りのメイの2人の物語であった。スピンオフや続編では、それ以外のエイプを主人公に据えて物語を広げることが可能なのだと考察できる。事実、ウェス・ボール監督はインタビューで「ノアの物語として始まり、ノアとメイの物語として終わりました。ドアは開かれており、たくさんの可能性があります」と答えている。
『猿の惑星:創世記』から始まったリブート新三部作だが、そこで主人公を務めたシーザーや、その息子で新天地に旅立ったコーネリアスなどの部族を描くことが『猿の惑星/キングダム』の続編やスピンオフでは出来そうだ。特にプロキシマス・シーザーが曲解して教義を伝えていたシーザーとコーネリアスの部族などは主人公に最適だと考察できる。
シーザー一派の分裂を描く過去編も?
『猿の惑星:創世記』から始まったリブート新三部作だが、その中心はシーザーだった。シーザーは、アルツハイマー治療用のウイルスベクター試験薬ALZ112を投与されたメスのチンパンジーのブライトアイズの息子である。そのため、新三部作ではウイルスベクター試験薬ALZ112に関連する実験によって知能が飛躍的に向上したエイプたちが中心となっていた。人類を殺害する凶悪なボノボのコバも、この実験で誕生したエイプである。
新三部作の第二章にあたる『猿の惑星:新世紀』(2014)では、ALZ113ウイルスこと猿インフルエンザの流行により人類は著しく数を減らしていった。そして最終章では『猿の惑星: 聖戦記』(2017)では猿インフルエンザによって人類は知能が低下し、反比例してエイプたちは知能が向上していった。それにより、ウイルスベクター試験薬ALZ112に関連する実験以外の高い知能を持つエイプが登場したのである。
新三部作では、混沌とした世界でもシーザーは「エイプはエイプを殺さない」や「エイプは一緒なら強い」といった教義をもとに、エイプたちを取りまとめていた。しかし、その300年後の世界を描いた『猿の惑星/キングダム』ではシーザーの存在を知らないエイプたちも登場している。主人公のノアは、オラウータンのラカに教わるまでエイプたちの起源まで知らなかった。
そのことから、シーザーの没後、後継者であった息子のコーネリアスの統治と、シーザー一派が分裂し、様々な部族が誕生していく様子を描くことも考察できる。それが間接的にイーグル族のルーツを知る物語にも繋がり、そのような歴史を知ることでノアの集落や文化がより強靭なものになっていく可能性も考察できる。シーザー一派の分裂がノアの物語に繋がる可能性があるのだ。
メイに何があったのか
これまでエイプたちに注目してきたが、『猿の惑星/キングダム』のもう1人の主人公といえば、高い知能を保持している人類のノヴァことメイだ。メイはALZ113ウイルスこと猿インフルエンザで知能の低下していない数少ない人類の1人で、プロキシマス・シーザーが狙っていた貯蔵庫の中に隠されていた人工衛星をリンクさせるハードディスクドライブを手に入れようとしていた人物だ。
ハードディスクドライブを手に入れるためなら嘘をつくことも厭わない性格のメイだが、彼女のオリジンに関して掘り下げていく可能性も考察できる。『猿の惑星/キングダム』のパンフレットではメイを演じたフレイヤ・アーランが「彼女を駆り立てるものが、両親の身に起きたことなんじゃないかと監督と考えていたんです」と述べている。
そのため、メイの両親とエイプの間に何かがあったと考察できる。プロキシマス・シーザーの部下のゴリラのシルヴァやライトニングは、人間狩りに勤しんでいる。そして、プロキシマス・シーザーが会食の際に「人間狩りの中で言語を操れる人間の重要性を考えずに殺してしまった」といった旨の発言をしている。その他にもメイの連れを殺したとも語っているため、メイの両親はエイプの人間狩りに巻き込まれて死んだ可能性も考察できる。
その他にも、メイの両親はALZ113ウイルスこと猿インフルエンザに感染して死亡した可能性も考察できる。その場合、メイは猿インフルエンザを運んできたエイプを恨んでおり、それがノアやラカへの最初の不信感にも繋がったと可能性もある。その場合、メイは逆恨みに近い感情を抱いている可能性もあるが、『猿の惑星/キングダム』の世界の人類自体がエイプにそのような感情を抱いている可能性を考察できる。
人類たちのレジスタンス
メイによってハードディスクドライブを獲得した高い知能を保持している人類だが、生き残りはメイとトレヴェイサンだけではなく、数多く生存していたことが明らかになった。生き残った高い知能を保持していた人類はシェルターに籠もり、猿インフルエンザの感染を防ぎ、衛星通信で他の生存者を探していた。
『猿の惑星/キングダム』のラストシーンでは、衛星通信で散り散りになった人類と繋がることに成功し、メイの派閥以外の高い知能を保持する人類の勢力が存在したことが判明した。生き残った高い知能を保持する人類の存在に歓喜した『猿の惑星/キングダム』の人類だが、彼らが集結する可能性が考察できる。
集まった高い知能の保持する人類は何をするのだろうか。プロキシマス・シーザーはメイたちのハードディスクドライブを回収しに行った部隊を殺害したことを語っている。そのことから、人類に牙をむくエイプに対して戦争を仕掛ける可能性が高いと考察できる。
世界各地に散り散りになった人類が集まり、エイプに対してレジスタンス活動を行なうのかもしれない。そうなると、猿インフルエンザに感染して知能が著しく低下し、エイプたちに人間狩りの獲物にされている人類を同じ人類とみなすかどうかなど様々な考察の余地が生まれる。
人類とエイプの戦争
前述した通り、生き残った高い知能を保持する人類とエイプたちとの部族との戦争の可能性が、『猿の惑星/キングダム』の続編で描かれる可能性が高いと考察できる。イーグル族も人類をエコーと呼び、巨漢のオーダが厄介者として追い払っていたことが序盤で描かれている。そのため、イーグル族も人類に対しては迫害をする側でもあったのだ。
そのため、人類を信じるという選択肢を取ったノアやラカたち以外は、他の部族もあわせて基本的にエイプは人類を害獣扱いしている可能性が高いと考察できる。それが戦争の火種になってしまう可能性もあり得るだろう。そこには、まず知能が低下した人類を高い知能を保持している人類が同じ種族だと考えているかどうかが重要になってくる。
これまで、「猿の惑星」シリーズのフランチャイズ化による様々な続編やスピンオフの可能性について考察してきた。第1作『猿の惑星』に繋げるとすれば、人類とエイプの戦争を避けることはできないだろう。人類とエイプの最終戦争を前に、様々な派生作品や過去編が描かれる可能性が高いと考察できる『猿の惑星/キングダム』。今後のウェス・ボール監督のインタビューなどに注目していきたい。
映画『猿の惑星/キングダム』は2024年5月10日(金)より全国の劇場で公開。
Source
Collider Interviews (YouTube)/Hollywood Reporter
「猿の惑星」は、第1作目からリメイク版までの6作品がセットになったBlu-rayセットが発売中。
リブート三部作=プリクエル・トリロジーのBlu-rayセットも発売中。
『猿の惑星/キングダム』のラスト解説と考察はこちらから。
「猿の惑星」全10作の時系列とタイムラインの解説はこちらの記事で。
ウェス・ボール監督が明かしたエンディングの意図とノア&シーザーの血縁関係についてはこちらから。
『猿の惑星/キングダム』に登場する独裁者プロキシマス・シーザーについての解説と考察はこちらから。
メイ視点で振り返ることで見えてくる事実はこちらの記事で解説している。
『猿の惑星/キングダム』におけるシーザーの遺産(レガシー)とも呼べる教義についてはこちらから。
ウェス・ボール監督が手がける実写版『ゼルダの伝説』の情報はこちらから。