ネタバレ考察『ボーはおそれている』何が現実で何が〇〇? 8つの伏線を読み解く | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ考察『ボーはおそれている』何が現実で何が〇〇? 8つの伏線を読み解く

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『ボーはおそれている』公開

2024年2月16日(金) より日本で公開された映画『ボーはおそれている』は、『ミッドサマー』(2019) などで知られるアリ・アスター監督の最新作。主演に『ジョーカー』(2019) のホアキン・フェニックスを迎え、“オデッセイ・スリラー”と銘打ち悪夢の2時間59分を描く。

『ボーはおそれている』の魅力は、ミステリー要素にもある。ラストでは意外な事実が明らかになるが、約3時間の旅の中にその伏線が張り巡らされている。今回は、『ボーはおそれている』に隠されていた8つの伏線を読み解いていこう。

なお、以下の内容は『ボーはおそれている』のネタバレを含むため、必ず本編を劇場で鑑賞してから読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『ボーはおそれいてる』の内容に関するネタバレを含みます。

『ボーはおそれている』8つの伏線を考察

観ていて夢か現実か分からなくなるボーの旅は、そのラストで全てが母のモナに仕組まれていたことが分かる。どのシーンが現実として起きたことで、どのシーンがモナによる罠だったのか、劇中の演出を踏まえて振り返ってみよう。

1. セラピストのジャーメイン

冒頭に登場するスティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン演じるセラピストのジャーメインは、終盤で母モナの元に登場する。モナはジャーメインとボーの全てのセッションを聞いており、ジャーメインもモナが運営するMW社の社員であったことが分かる。

冒頭のカウンセリングのシーンでは、ジャーメインが旅をすることについて聞いたり、「安全な緯度の水を飲むためにもう一度井戸に行くか」とボーが家に帰りたくなるように誘導する言葉を投げかけている。加えて、「母の死を望むか」と、忠誠を確認するような質問もしており、これはモナからの指示だったと考えられる。

2. タトゥーの人物

ボーがカウンセリングから家に帰るまでの間、アパートの玄関でボーは上半身と顔にタトゥーの入った人物と遭遇する。遭遇するやいなやこの人物はボーに向かってきて、ボーは激走してアパートの中に入っている。このタトゥーの人物、後にボーが母モナの家で見る従業員の顔写真で作られたフォトモザイクのモナの肖像画の中にその顔を確認できる。

つまり、このタトゥーの人物はモナに雇われており、意図的にボーに対して威嚇的な行動をとっていたと考えられる。ボーはこの人物に見つかる前から走り出しているので、日常的に恐い思いをさせられていたのではないだろうか。それからボーはモナに電話をかけるのだが、タトゥーの人物の登場は、ボーに実家に帰りたいと思わせるための策の一つだったと考えられる。また、この一連のシーンでは、外にMW社のロゴが入った看板も見え、母モナの影響力が示されている。

3. ボーが住むアパート

その後に登場するボーが住んでいる家は、ボーが母モナの家で見ていたポスターの内容からモナの会社が運営する集合住宅であることが分かる。モナのMW社は、全国38の社会復帰地区を運営しており、これは「ビッグWハウジング」というプロジェクト名で呼ばれている。

おそらく「ビッグWハウジング」は薬物依存や精神疾患を抱える人々が社会復帰を目指すためのプロジェクトで、ボーはそこで安全を保障されて暮らしていたのだろう。もちろん、モナの監視下にあったことは間違いないが。

このアパートがある地区一帯がモナ(の会社)の監視対象にあると考えられるが、そうするとあそこまで治安が悪化しているのはボーの妄想だとも考えられる。モナは何より安全を重視していたからだ。オートロックのドアを突破して周辺の人々がボーの家に大挙したことも、ドアを開けっぱなしで来たから「そうなってしまうのではないか」と不安になったボーの妄想なのかもしれない(処方されたジプノチクリルの副作用かも)。

また、鍵が盗まれた件についてはモナは嘘だと主張していたが、これもまたボーが単に鍵をなくしただけという可能性もある。一方で、直後にアパートで働いている人から「お前はもう終わりだ」と言われたのは、雇い主であるモナが怒っていることを知っていたからかもしれない。また、水道が出なくなった場面は、ボーを外に出すためにモナの指示で水道を止めたと考えることもできる。

4. グレースの善意

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自分の死を装ったモナだが、それでもボーは外に出ない。ボーにとっては、次の行動を自分で判断することが難しいのだ。風呂場に暮れていた人物の登場で、全裸だがようやく家を出たボーは警察から銃を向けられ、逃げる途中でグレースが運転する車に撥ねられてしまう。ボーがグレースの家に運ばれるのは、もちろんモナの計画だ。

グレースとロジャーの家で目を覚ましたボーは、その夜眠るときに枕元にあった小さなマリア像を胸のポケットにしまっている。このマリア像はボーが警察に銃を向けられた時に落として割れてしまったはずだが、ツギハギになって復活している。マリア像はボーにとって母親の代わりのようなお守りであり、モナの指示で割れた像を回収して枕元に置いておいたのだろう。復活したマリア像がこの家に置かれている時点で、何かが仕組まれていると想像がつく。

映画『ボーはおそれている』で、数少ない善意の人物がグレースだ。夫のロジャーはボーの足に「ヘルスモニター」だと嘘をついて発信機を取り付け、ボーはカメラで監視されていた。グレースはことあるごとにボーに真実を伝えようとしており、カメラがあると言おうとしたり、メモに「自分を責めないで」と書いたり、ついには監視映像が見られるテレビのチャンネルを教えたりしている。

グレースとロジャーがバーベキューの準備をしている場面では、グレースがロジャーに「契約にそんなこと書いてない」と抗議する声が聞こえる。そして、モナの家にあったフォトモザイクのモナの肖像画には、ロジャーの写真があった。つまり、モナのMW社で働いているのはロジャーだけで、グレースは契約を交わして協力していたのだろう。

5. ロジャーの嘘

ロジャーはと言うと、手術が入ったと言ってボーを送る日を先延ばしにしようとしたりする。これは母モナからのテストで、ボーがそれでも帰るという意思表明ができるかどうかを試していたのだ。それに、ロジャーは“高名な医者”のはずだが、ボーの縫われた傷口が開いていたり、すぐに傷口を縫う処置を行わなかったりと、本職が医者ではないことも示唆されている。

ロジャーに関しては、トニのことを「A**hole」呼ばわりするなど、およそ自分の娘に対するものとは思えない暴言を吐いており、ロジャーはグレースとトニとは他人であると考えられる。一方、グレースの方もボーから息子のネイサンがどの戦地で死んだのか聞かれた時に、ロジャーが会話に割って入っており、ネイサンは存在していなかった可能性もある。グレースとトニの親子関係は間違いなく事実だと考えられ、トニの死は相当な悲劇だったと言える。

家族での食事を経験させるのも、モナがボーを家に帰りたくさせるための作戦だったのだろう。それでもなかなか家に向かわないボーに痺れを切らせたモナは、グレースの実際の亡き息子であるネイサンの部屋を娘のトニにメチャクチャにさせることを思いついたのではないだろうか。先ほどのグレースの抗議は、次に起きる展開に対するものだったとも考えられる。

トニがペンキを飲んでしまうことは想定外だったのだろう、怒ったグレースが戦地帰りのジーヴスにボー追撃を指示して、ようやくボーはこの家を出ることになる。そして、『ボーはおそれている』のラストでは、チャンネル78で流されていた映像/この家で録画されていた映像は、ボーの母モナの手に渡っていたことが明らかになる。この家で起きたこと、ボーの言動はモナによって把握されており、ロジャーに早くに家に帰りたいと強く要望しなかったことで、後にボーは糾弾されることになる。

6. ドクター・コーエンのクエスト

『ボーはおそれている』のラストでモナの弁護士としてボーを糾弾するドクター・コーエンは、ボーがグレースらの家にいるときに電話越しに登場する。ここでドクター・コーエンはボーに母を弔うために早く家に帰るようミッションを与える。

ボーが家に帰るのが遅くなれば遅くなるほどに死者を辱めることになると言い、焦る気持ちを植え付けるのだ。その上でボーがどんな行動に出るのか、全ては監視されており、ラストのドクター・コーエンによる弾劾裁判(公開処刑)へと繋がっていく。

7. 森の劇団

ジーヴスから逃げるボーは、森で妊娠している人と出会い、旅の劇団のコミュニティへと連れて行かれる。この人々は孤児の集まりだと聞かされ、ここで初めてボーは家族や親といった存在と無関係な空間に身を置くことになる。ここにはMW社の製品も広告もない。

おそらく森の劇団は『ボーはおそれている』の劇中で数少ないモナの息がかかっていない場所だったと考えられる。劇の内容が鎖を断ち切って前に進み、仕事を見つけて家族を作るというものだったのも、ボーを支配したいモナの願いとは相反するものだ。それにボーはここで、あのマリア像を知り合った女性にあげて手放してしまっている。

ボーがこの劇団に出会したのも偶然だったのだろう。劇団は旅をして暮らしているから、モナやMW社が存在を把握していなかったのかもしれない。ボーに話しかけてボーの父の世話をしていたと語った人物は、ボーの足についている発信機を見るやその場を離れてしまった。この人物はモナとの関わりを恐れて逃げたのだろう。こうした演出からも、あの森にいた人たちはMW社とは無関係だったと考えられる。

そして発信機を辿ってやってきたジーヴスが大暴れするのだから、劇団もとんだとばっちりだ。ジーヴスの暴虐も、劇団がMW社とは無関係だったからこその所業だったのだろう。

8. エレインの過去と行動

もう一つ、母と切り離されたボーにとっての“現実”がエレインの存在だ。ボーの少年時代、ボーがエレインにキスをすると、エレインは彼女の母に連れられて姿を消してしまう。このシーンでモナは「彼女は何?」と困惑しているが、その前のシーンではボーが気になっている相手としてエレインのことを認識している。エレインを遠ざけたのはモナの仕業だったと考察できる。

モナはなぜエレインを遠ざけたのか。エレインは少年のボーにキスをするかどうか選択する権利を与え、ボーはエレインに対しては人生の中で数少ない決断を自ら下した。だがボーは、鍵を盗まれた後もモナの「正しいと思うことを選んで」という言葉に「ママにとって正しいことって?」と聞き返すなど、母に対しては自分で決断を下すことができない。モナはボーが自ら判断することを望んだが、それはイコール親離れを意味している。モナはボーがエレインに奪われることを危惧したのかもしれない。

ボーの前に再び現れたエレインは、先週までモナのMW社で働いていたと明かす。単にモナが死んだからエレインはもう社員じゃないと考えているとも捉えられるが、ボーのリアクションが引っかかる。エレインはモナ死去のニュースに登場しており、ボーもそれを見て驚いていたし、その前のシーンの社員で構成されるモザイクフォトには、真ん中にエレインが写っていた。そして、エレインがもうMW社で働いていないと知った時、ボーは困惑する様子を見せている。

この時点でボーは死体が母のものではないことにも気づいており、全てが仕組まれていたことに勘付いている。しかし、目の前のエレインはこの“大きな嘘”の一部ではないことを悟ったのだろう。

母の鳥籠の外側にいるエレインに対し、ボーは自ら歩み寄ることになる。エレインはもう社員ではないからモナにとってエレインの行動は想定外で、故にモナは息子に裏切られたと感じ、最後のボーへの“罰”へと繋がっていく。

以上が、映画『ボーはおそれている』の“嘘と現実”を見分けるためのの8つのトピックだ。これ以外にも気になる点は山ほどあるが、ボー自身が“信頼できない語り手”であることから、ボーの視点ではなく、周囲の人々や環境から真実を見出していくやり方がより正確だと言える。何度も見直して“真実”を見極めるのもいいかもしれない。

なお、ボーが抱える問題と本作のメッセージについてはこちらの記事で詳しく解説している。

物語の構造と心理学的なアプローチでの解説はこちらから。

映画『ボーはおそれている』は2024年2月16日(金)より劇場公開。

『ボーはおそれている』公式サイト

A24制作、アカデミー賞7冠を達成した映画『エブエブ』のネタバレ解説はこちらから。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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