ネタバレ解説『ボーはおそれている』 ヒーローズ・ジャーニーとユング心理学から見るボーとは? 考察&感想 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説『ボーはおそれている』 ヒーローズ・ジャーニーとユング心理学から見るボーとは? 考察&感想

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母親の怪死からはじまるボーの奇妙な旅路

『ミッドサマー』(2019) で知られるアリ・アスターが監督を務め、『ジョーカー』(2019)で主演を務めたホアキン・フェニックスが主人公ボー・ワッサーマンを演じ、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022)のA24スタジオによる制作の最新作『ボーはおそれている』が2024年2月16日(金)に公開された。その内容は難解で、様々な神話学や心理学の要素が詰め込まれている。

そのため、『ボーはおそれている』のストーリーを理解するには、前提となる知識がある程度必要な作品とも言える。約3時間の悪夢の中でボーの奇妙な旅路を描く『ボーはおそれている』。本記事では、その旅路に含まれた神話学や心理学の要素を紐解いていこう。なお、本記事は『ボーはおそれている』のネタバレを含むため、必ず本編視聴後に読んでいただける幸いである。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『ボーはおそれている』の内容に関するネタバレを含みます。

ボーの奇妙な旅路と英雄の旅

英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)とはアメリカの神話学者ジョーゼフ・キャンベルが晩年に各地の神話に登場する英雄の物語の構造を示したものとして発表したものである。そこでは古今東西の神話の英雄譚には共通点があるとされた。『ボーはおそれている』はボーという中年男性の英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)を描いているのではないだろうか。

英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)では英雄はまず非日常世界へと旅をし、イニシエーション(通過儀礼)を経て、元の世界へと帰還するという構造だとジョーゼフ・キャンベルは考察した。それを詳しく書いたのが以下の通りである。

1. 天命
2. 旅の始まり
3. 境界線
4. メンター
5. 悪魔
6. 変容
7. 課題完了
8. 故郷へ帰還する

「スターウォーズ」シリーズから「指輪物語」シリーズ、「マトリックス」シリーズに至るまで多くの作品がこの構造を持っているとされ、特に「スターウォーズ」シリーズの生みの親であるジョージ・ルーカスはこれに大きな影響を受けている。ジョージ・ルーカスがジョーゼフ・キャンベルの著作『千の顔を持つ英雄』(1949)を「スターウォーズ」シリーズを生み出すにあたって取り入れたのは有名なエピソードである。

『ボーはおそれている』もこの英雄の旅路(ヒーローズ・ジャーニー)に当てはまると考察できる。しかし、ボーはこの英雄の旅路(ヒーローズ・ジャーニー)を成功したと言えるのだろうか。ジョーゼフ・キャンベルの考えた神話構造を踏まえて、『ボーはおそれている』でのボーの奇妙な旅路について考察していこう。

ボーに下された天命

ボーは裕福な実業家の母親モナ・ワッサーマンとは異なり、架空の州コリーナで質素に暮らしていた。このコリーナは渾沌としており、街には犯罪者が溢れ返り、ボーはそのすべてに恐れて暮らしている。ボーはカウンセラーのジャーメインに世の中すべての恐怖を相談しているのにも関わらず、この街を脱出しようとはしない。そのような判断もすべて他人に任せているのがボーの特徴だ。

部屋を街の犯罪者たちに荒らされても、新しいことに挑戦するのを恐れて街を出ないボーだが、そのようなボーに街を出なければならない天命が下る。ボーは母親のモナに会いに行くのも恐れていたが、そこに母親の頭の上にシャンデリアが落ちてきて頭が吹き飛んで死んだという電話が入る。ボーは混乱の中、湯船につかって落ち着こうとするが、屋根に張り付いていた犯罪者とも偶然もみ合いになり、全裸で外へ飛び出してしまう。

そして全裸のまま警察に銃を突き付けられ、誕生日の男に刺されるなど混沌の中でトラックに轢かれるという形でボーは街を出ることになる。しかし、ここでもボーは自分から街を出るのではなく、ボーを轢いた外科医のロジャーとグレース夫妻の介抱という他人任せの形で街を出ていると考察できる。

ボーに降りかかるテスト

トラックに轢かれたボーは2日間眠り続け、目が覚めるとロジャーとグレース夫妻の娘トニの部屋にいた。ここでグレースはボーを養子にしようとしていることが考察できる。ボーは弁護士に電話をかけて母親のモナの葬儀は終わったのかと聞くが、弁護士からはモナの遺言の影響でボーが来ないと埋葬ができないと怒り、ボーに早く故郷であるワッサートンに帰ってくるようにと語る。ロジャーとグレース夫妻のもとで起きることは英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)における通過儀礼だと考察できる。

ここで一度、ロジャーがボーに今夜ワッサートンに帰るか、それとも明日の朝にするか尋ねるが、ボーはここでも周りにどうすればいいのか伺い、明日の朝を選ぶ。そして、その晩にトニがボーを追い出そうと車でボーをワッサートンに送ろうとする。そこでボーはジョイントを吸うことになり、少年時代のエイレンとの思い出などがよみがえる。

そしてワッサートンに帰る翌朝、ボーはグレースからすべてがチャンネル78で監視下にあり、なおかつ未来まですでに決まっていることを知る。そして、トニはボーを戦争で死んだ兄のネイサンの部屋に連れ込み、ボーにテストだと言って部屋をペンキで塗るように叫ぶ。だが、ボーはこの部屋はグレースにとって神聖な空間だとして断るが、トニはテストに落ちたと続けて叫んでペンキを飲み、命を落とした。

ここで、ボーは明確に通過儀礼の中にいることが提示され、それに失敗したとトニの口から解説される。ボーはトニを殺害した濡れ衣によって、ネイサンの戦友であり、PTSDのジーヴスに追われることになる。このことから、ボーは仕組まれた英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)において間違った選択肢を選び続けていたと考察できる。

演劇の中で描かれる英雄の旅

ボーは逃げ込んだ森の中で、森の孤児というコミューンに拾われる。そして演劇を見ることになるのだが、その内容は英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)と親からの自立を描いたものだ。ボーはそこに感情移入し、主人公と自分を重ね合わせるが、実際のボーと演劇のボーは大きく異なる。演劇のボーは自分で選択肢を選ぶが、現実のボーは自分で選択肢を選ぶことができず、結果として誤った選択肢を選び続けていると考察できる。この森の孤児での演劇鑑賞も英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)における通過儀礼の一部だと考察できる。

ボーは森の孤児との出会いによって少年時代のエイレンとの思い出や、過去のトラウマと向き合うことになる。しかし、ここでの出来事すべてが仕組まれた英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)であり、通過儀礼の最中にあることが考察できる。ボーの動きはロジャーが取り付けたヘルスモニターで監視されている。演劇はジーヴスの銃乱射によって終わりを告げるが、その間際にボーの父親は死んでおらず生きていると語る男とボーは出会う。

実家への帰宅

ジーヴスの銃乱射から逃げ出し、ヒッチハイクでボーは実家であるモナの家に帰る。しかし、モナの葬儀はすでに終わっており、ボーは間に合わなかった。1人で家にいるボーのもとに現在のエイレンが訪ねてくる。エイレンは1週間前まで、モナの会社であるMW社で働いており、ボーと同じく葬儀に遅れたのだった。この実家への到着は英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)における元の世界への帰還だと考察できる。

この仕組まれた英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)において、エイレンはボーにとってヒロインにあたる存在だと考察できる。ボーは仕組まれた英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)の末にエイレンと体を重ねるが、絶頂に達した瞬間、エイレンは死亡する。そして死んだはずのモナが現われ、この仕組まれた英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)は終わった考察できる。

ボーにおける太母殺し

仕組まれた英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)の末にボーと母親は再会するが、両者の関係性はユング心理学の太母殺しだと考察できる。ユングは母親とは生み育てる者と同時に、呑み込み殺す存在だと考察している。母親は愛情を注ぐが、それによって子供の主体性が奪われること、そしてそのような母親を裏切るとも捉えられる形で自立するのがユング心理学の太母殺しだ。

エイレンはモナの寝室を訪れた際、モナを「ドラゴンみたい」と形容しているが、これもユング心理学の太母殺しの一部だ。ユング心理学においてドラゴンは姫を幽閉し、水中に棲んでいる。そして英雄はドラゴンを打ち倒し、姫と結ばれる。これは母親の支配から男子が脱却して自分の選んだ妻と結ばれる物語であり、ドラゴンは母親の原型だと考察されている。

エイレンの言葉はそのようなユング心理学の一場面を比喩していたと考察できる。他にもワッサーとはドイツ語で水という意味であり、複雑な造りの家も姫を幽閉する塔を暗喩していたとも考察できる。

その後、カウンセラーも母親のモナに雇われていたため、ボーは仕組まれた英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)に向かう前の母親からの自立を母親への裏切りだと思ってしまうことを暴露されてしまう。それを母親からひどく責め立てられるボー。そしてボーは死んだはずの父親に会わせられるが、父親は巨大な男性器の怪物であり、恐れをなしたボーは母親にすがりつくのだった。

最後、責め立てられてボーは母親のモナの首を絞めてしまう。しかし、結論として最後の裁判シーンからわかる通り、ボーは母親に仕組まれた英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)も、ユング心理学の太母殺しも失敗に終わったことが考察できる。そのため、『ボーはおそれている』は英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)と太母殺しという2つの自立までの道のりを失敗する中年男性の姿を描いた作品だと考察できる。

残酷すぎるまでのボーの自立までの道のり

すべてはボーの頭の中で起きた出来事なのかどうか。それすらも観客の判断に委ねる難解さを持った『ボーはおそれている』。そこではボーという1人の男性が赤ん坊から中年になるまで自立できるかどうかが描かれていた。しかし、それは失敗に終わり、ボーはボートと共に沈んで溺死して終わる。

『ボーはおそれている』はコメディとしているが、あまりにも残酷な物語とも言える。自分たちは自立できているのだろうか。ボーのような存在は自分の中にもいるのではないだろうか。そのような様々なことを訴えかけてくる作品だったとも考察できる。強迫的な不安の中でボーの自立を描く『ボーはおそれている』だったが、このような観点からもう一度映画を観直してみるとまた新しい発見もあるかもしれない。

映画『ボーはおそれている』は2024年2月16日(金)より劇場公開。

『ボーはおそれている』公式サイト

『ボーはおそれている』のラストとメッセージについての解説はこちらから。

『ボーはおそれている』の劇中にあった8つの伏線の考察はこちらの記事で。

マライア・キャリーのあの曲のエピソードも含む流れた音楽の解説はこちらから。

A24制作、アカデミー賞7冠を達成した映画『エブエブ』のネタバレ解説はこちらから。

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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