独裁者プロキシマス・シーザーとは何者だったのか
2024年5月10日(金)に、「猿の惑星」シリーズの第10作目にあたる最新作『猿の惑星/キングダム』が全国公開された。監督を務めるのは実写版『ゼルダの伝説』でも監督を務めることが発表されているウェス・ボールだ。新たな「猿の惑星」シリーズの幕開けとなる『猿の惑星/キングダム』では、主人公のノアと対立する存在として独裁者であるプロキシマス・シーザーが登場した。
『猿の惑星:創世記』(2011)からはじまる新三部作の主人公のシーザーの後継者を名乗る独裁者のプロキシマス・シーザーは、何者だったのだろうか。本記事では『猿の惑星/キングダム』におけるプロキシマス・シーザーについて解説と考察をしていこう。なお、本記事は『猿の惑星/キングダム』のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただけると幸いである。
以下の内容は、映画『猿の惑星/キングダム』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
初代シーザーになろうとしたプロキシマス・シーザー
プロキシマスの意味
『猿の惑星/キングダム』でヴィランを務めた独裁者プロキシマス・シーザーのプロキシマスとは「近い」や「次」を意味している。そのため、プロキシマス・シーザーは「近シーザー」や「次のシーザー」という意味になる。自分の名前をプロキシマス・シーザーと名付けていることからも、プロキシマス・シーザーの傲慢さと、彼が初代シーザーを如何に神格化しているのかが垣間見える。
プロキシマス・シーザーが好んでいた学問からも、初代シーザーを神格化していたことが読み取れる。プロキシマス・シーザーは知能が低下していない人類のトレヴェイサンに本を読ませる際、好んで古代ローマ史を読ませていた。初代シーザーの名前は、シーザーとも読む古代ローマの政務官にして野心家、そして皇帝の語源となったガイウス・ユリウス・カエサルから来ている。
そして、古代ローマ帝国において、皇帝が最も重要視していたのが、死後の神格化である。古代ローマ帝国では、為政者は死後。市民と元老院によって神格化されていたとされる。それは単なる人気の指標だけではなく、神格化されない為政者は元老院から嘲笑の的にもなったと言われている。そのため、古代ローマの皇帝にとっては死後の神格化は、自分の政治手腕の物差しであり、神格化されないということは死後も政治手腕のない為政者だったと晒されることを意味していた。
初代シーザーとプロキシマス・シーザーに血縁関係は?
プロキシマス・シーザーが初代シーザーを神格化しているのは、自分も初代シーザーが息子のコーネリアスによって、新天地で神格化されたことにあやかろうとしていたと考察できる。初代シーザーの人気にあやかろうとした結果として名前と教義を利用していたと考察できる。おそらく、その神格化による人気の獲得を学んだのはトレヴェイサンに古代ローマ史を読み聞かせしてもらっていたときのことだとも考察できる。
神格化された初代シーザーの名前と教義を利用していたプロキシマス・シーザーだったが、プロキシマス・シーザーは初代シーザーと直接の血縁関係はないと考察できる。その理由は種族の違いだ。初代シーザーはチンパンジーだが、プロキシマス・シーザーはボノボだ。新三部作のボノボと言えば、初代シーザーと対立した主戦派のコバが有名だ。
最も人間らしいエイプ
ウェス・ボール監督は米Colliderのインタビューで、『猿の惑星/キングダム』のプロキシマス・シーザーに関して、「人間のファン」「最も人間らしいエイプ」と回答している。それは貯蔵庫に眠る様々な物資や記憶を手に入れようとしていたことからも考察できるが、もう1つ人間らしい要素があるとも考察できる。それはトレヴェイサンを利用して、自分の都合の良い情報のみを読んでいた点だ。
もし、古代ローマ史を本格的に学んでいたとすれば、皇帝による独裁政治の負の面も学んでいたはずだ。しかし、プロキシマス・シーザーは皇帝のように振る舞い、イーグル族を連れ去ったように様々な部族などを誘拐して奴隷化させている。
プロキシマス・シーザーは歴史書を好むことがトレヴェイサンの口から解説されているにも関わらず、専制政治や独裁政治の負の側面を知らない、もしくは考えないのは妙だ。その反面、科学に関してプロキシマス・シーザーは疎いような場面が多々見られ、電気棒を使える技術力はあるも、貯蔵庫の扉に対してはただ鎖で引っ張るという原始的な手法で開けようとしていた。
その他にもスーナを人質に取った部下のライトニングがメイによってリボルバー式拳銃で撃たれたとき、銃を初めて知ったかのような態度を取っていた。リボルバー式拳銃のようなものが他にも貯蔵庫にあるのかと興味を示していたものの、銃の存在を詳しく知っていたとは思えない。
心地の良い情報に浸っていたプロキシマス・シーザー
前述の通り、歴史書を好んで学んでいたとすれば第一次世界大戦や第二次世界大戦など、銃を用いた大規模な戦争の歴史を知っていてもおかしくないと考察できる。これは人類がALZ113ウイルスこと猿インフルエンザで知能の低下する前に残した歴史書の中でも自分にとって心地の良い情報のみを学んでいためだと考察できる。これはトレヴェイサンが生き残るために、古代ローマ史の中でもプロキシマス・シーザーにとって心地の良い情報のみを選んでいた可能性も考察できる。
どちらにしても、プロキシマス・シーザーは初代シーザーとは異なり、自分に都合の良い情報のみを選ぶ人間らしいエイプだと言える。これは『もののけ姫』(1997)の猩々を想起させ、ウェス・ボール監督が実写版『ゼルダの伝説』をジブリ作品のようなものにしたいと発言していることから『もののけ姫』を意識している可能性が高いと考察できる。ウェス・ボール監督の実写版『ゼルダの伝説』を実写版ジブリ作品にしたいという発言はこちらの記事が詳しい。
『猿の惑星/キングダム』で語られる初代シーザーの教義
「エイプは一緒なら強い」
初代シーザーの教義として、エイプたちを人類から独立させたものが「エイプは一緒なら強い」というものだ。これは個別に檻にとじ込められていたエイプであっても、集結すれば銃器や電気棒を持った人類にも対抗できるというものであり、『猿の惑星:聖戦記』(2017)では猿インフルエンザによって分断された人類に対するアンチテーゼのようなものになっていた。
この初代シーザーの教義を曲解しているのがプロキシマス・シーザーである。初代シーザーの語る「エイプは一緒なら強い」は民主主義的な要素が強く、分断されたエイプよりも団結したエイプの方が強いというものであった。それに対して、プロキシマス・シーザーが語る「エイプは一緒なら強い」は、様々な部族に別れたエイプを統率する者がいればエイプは強靭な群れになるというものだったと考察できる。
プロキシマス・シーザーは、分断ではなく団結を促した初代シーザーの教義を、自分という王の出現の予言であるかのように語っていたことが考察できる。そして、その曲解した教義に反する者は同じエイプであっても殺してきた。その犠牲者がオラウータンで初代シーザーの教義と書物を守っていたラカの仲間や、主人公のノアの父親であるコロであったと考えられる。
この「本来の教義を曲解し、自分と違う考えを持つ同種を攻撃する」というのもプロキシマス・シーザーを人間的にしている要素の一つである。現在の世界情勢を見てみれば、同じ神を信じる宗教同士でも、教義の違いで血を流すような争いを続けている。中には教義を曲解して、迫害や暴力を推奨するものも少なくない。プロキシマス・シーザーは現実の人類の写し鏡のような存在だと考察できる。
「エイプはエイプを殺さない」
プロキシマス・シーザーが初代シーザーの教義を曲解していると考察できるものとして、ラカも解説していることだが、初代シーザーの教義の一部を意図的に削除して語っていることが挙げられる。プロキシマス・シーザーは恐怖政治によって王国を支配している。それはノア曰く「奪われた部族」そのものだ。
その恐怖政治を支えるのが、プロキシマス・シーザーに逆らったエイプはいつ殺されるかわからないというものだ。その殺し方も残虐なもので、トレヴェイサンはプロキシマス・シーザーを裏切ろうとしていたノアたちに対して、皮を剥がれて殺されるだろうと述べている。これは初代シーザーではありえないことだ。
初代シーザーは他者の生命を奪うことの意味について、死の間際まで悩んでいたキャラクターとして描かれている。初代シーザーは人類を殺すことに躊躇がなかったコバを粛清したことに悩み、自分の妻子を殺した人類に復讐しようとするも、人類を殺害することもためらっていた。そして最後は仇と遭遇した際に、猿インフルエンザに感染した仇から自分を殺すように懇願されるも、殺さないという選択肢を取っている。
それほどまで、他者の命を重んじていた初代シーザーに対し、プロキシマス・シーザーは命を軽視するような発言や行動が目立つキャラクターとなっている。他の部族の集落を攻撃してエイプを殺害し、人間狩りを行なっては遊び半分で人命を奪う、貯蔵庫のドアを開けるために何体ものエイプの命を使い捨てにするなど、その行動は初代シーザーの思想からあまりにもかけ離れている。
『猿の惑星/キングダム』では、プロキシマス・シーザーによって過去の英雄である初代シーザーが如何に神格化され、その教義が曲解されていくかを読み取ることが出来た。他にもプロキシマス・シーザーは非常に人間らしい行動を取っており、彼の言動は人類として耳の痛いものも多かった。
プロキシマス・シーザーは最後、「エイプは一緒なら強い」という言葉通り、団結したイーグル族と鷲、そしてノアによって海へと突き落とされている。海に落下したため死体は見つかっておらず、そのため、はっきりとした生死は不明である。もしかすれば、プロキシマス・シーザーはどこかで新たな王国を築いているのかもしれない。『猿の惑星/キングダム』の続編などでのプロキシマス・シーザーの再登場に期待したい。
映画『猿の惑星/キングダム』は2024年5月10日(金)より全国の劇場で公開。
Source
Collider Interviews (YouTube)
「猿の惑星」は、第1作目からリメイク版までの6作品がセットになったBlu-rayセットが発売中。
リブート三部作=プリクエル・トリロジーのBlu-rayセットも発売中。
『猿の惑星/キングダム』ラストのネタバレ解説はこちらから。
『猿の惑星/キングダム』続編についてのネタバレありの考察はこちらから。
「猿の惑星」全10作の時系列とタイムラインの解説はこちらの記事で。
メイ視点で振り返ることで見えてくる事実はこちらの記事で解説している。
『猿の惑星/キングダム』におけるシーザーの遺産(レガシー)とも呼べる教義についてはこちらから。
『猿の惑星/キングダム』の全世界興行成績はこちらから。
ウェス・ボール監督が手がける実写版『ゼルダの伝説』の情報はこちらから。