ネタバレ解説 メイは何者?『猿の惑星/キングダム』メイ視点の2周目で見える真実を考察 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説 メイは何者?『猿の惑星/キングダム』メイ視点の2周目で見える真実を考察

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『猿の惑星/キングダム』公開

映画『猿の惑星/キングダム』が2024年5月10日(金) より劇場で公開された。「猿の惑星」フランチャイズとしては10作目、リブート三部作から7年ぶりとなる新作だが、製作を手がけていた旧20世紀がディズニー傘下に入ってからは初の新作となり、初めての人でも楽しめる一作に仕上がっている。

『猿の惑星/キングダム』では、ゲーム「ゼルダの伝説」の実写映画版を手がけることが発表されているウェス・ボール監督が指揮を執り、オーウェン・ティーグ、ケヴィン・デュランド、ピーター・メイコンら地球の新たな支配者となった猿を演じる。

そして、注目はドラマ『ウィッチャー』(2019-) のシリラ王女役で知られるフレイヤ・アーラン演じる人間のキャラクターだ。その素性が伏せられたまま本作の公開を迎えたが、今回は、作中で明らかになった事実を元に、彼女が本作で辿った道を振り返りたい。彼女の行動は、背景が分かった上で見直すと、その意味がよくわかるようになっているのだ。

なお、以下の内容は『猿の惑星/キングダム』の重要なネタバレを含むので、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『猿の惑星/キングダム』の内容に関するネタバレを含みます。

『猿の惑星/キングダム』メイは何者だったのか

まず、『猿の惑星/キングダム』のラストで明らかになった“メイの正体”からおさらいしておこう。宣伝の時点では、第1作目の『猿の惑星』(1968) と『続・猿の惑星』(1970)、そして前作『猿の惑星:聖戦記』(2017) に登場したキャラクターと同じ、“ノヴァ”という名前で紹介されていたメイ。過去作の二人と同じく言葉が喋れない人間かと思いきや、劇中では彼女の名前はメイであり、身を守るために言葉が喋れないフリをしていただけだったということが明かされた。

ちなみに身を守るために喋れないフリをしろというのは、『続・猿の惑星』で宇宙飛行士のブレントが猿のコーネリアスから受けた忠告でもある。人間が言葉を話せると分かると、人間を見下しているゴリラ達の反感を買うというのがその理由だ。『猿の惑星/キングダム』で女性キャラのメイにこの役割を担わせたのは、見下している相手が賢いと分かると感情的になる愚かな男性達の姿を知っている、現代社会を生きる私たちに共感を生む手段として見事にハマっている。

『猿の惑星/キングダム』のラストでは、メイは人間がかつてシェルターとして使っていた貯蔵庫で手に入れたハードディスクを人類の基地へ持っていく。そこには洗練された文明を保持した人類が相当数生き残っており、ハードディスクは衛星をコントロールして外部との通信を可能にするためのキーだった。メイがミッションを達成したことによって、人類の逆襲の幕が開くことを示唆して『猿の惑星/キングダム』は幕を閉じる。

メイはおそらくこの基地から任務を背負って旅に出ていたのだろう。基地の人々は防護服を着ていたり、文化的な服を着ていたり、現代の私たちと変わらない姿を見せている。人工衛星にアクセスして衛星通信を起動するなど、テクノロジーも保持している。メイがそうした場所からやってきていたという前提を持った上で『猿の惑星/キングダム』を振り返ると、メイの行動に対する理解が深まる。

メイはなぜ……行動を考察

状況と裏腹な服装

『猿の惑星/キングダム』の序盤で、人間を「エコー」と呼ぶイーグル族の元にメイは現れる。アナヤ、スーナと卵を取りに出かけていた主人公のチンパンジー・ノアは、毛布が盗まれたことに気付き人影を追うが、その人物は毛布を落として禁足地へと去ってしまう。その毛布には血がついており、ノア達は血の匂いでその犯人がエコー=人間であることを知った。次にメイはノアの村に登場する。メイはノアの跡をつけてきたのだろう、魚を干している場所に侵入しているところを発見され、ノアと揉み合いになって逃げ出している。

これらの行動の意味を考察すると、おそらくメイはハードディスクを手に入れる任務の途中でプロキシマス・シーザーの部下に襲撃され、怪我を負い、寒さを凌ぐ毛布と食糧を求めていたのだろう。人間に歴史と文明があったことを認めているプロキシマスは賢い人間を探し求めており、貯蔵庫の扉を開ける方法を知っていると思われるメイを狙っていた。そうした背景もあり、メイはその後、ノアに対しても“野生”として振る舞っていたのだろう。

最初から示されていた“文明”

メイが文明のある場所から来たというヒントはその衣服にもある。『猿の惑星/キングダム』は、前作から300年後が舞台が舞台だが、メイはボロボロのタンクトップはともかくとしても、パンツはしっかりしたものを履いている。後で出てくる野生の人類はやはりボロボロの衣服(胸部と下腹部のみを覆っているもの)を着ており、メイの服装との違いは明らかだ。

メイがしっかりした服を着ている一方で、猿達にはまだ衣服を着る文化は定着していないことから、前作が300年が経過した時代においても、ちゃんとした人間の衣服を調達するための技術や工場が存在していることが示されている。ラストで登場する基地の人々もきちんとした衣服を着ており、メイの服についての伏線が回収されている。

ノアとの出会い

イーグル族の村が襲撃された後、メイはノアについていく。メイはプロキシマス・シーザーがイーグル族の人々を自分の王国に連れて行ったことを理解しており、イーグル族を取り戻そうとしているノアについていけばあの貯蔵庫に辿り着けると考えたのだろう。

それでもメイは空腹と寒さを克服できておらず、ノアが旅で出会ったオランウータンのラカから食べ物を、ラカの説得でノアから毛布を分けてもらっている。おそらく基地を出る時に持ってきたサバイバルセットや食料を旅の途中で失ってしまったのだろう。同時に野生を装っているメイは、ラカの話から元祖シーザーの教義をめぐって猿達の間で分裂が起きていることを知ったはずだ。

野営中にノアが天文台の望遠鏡を覗く場面では、ノアが夜中の間に一人で出発してしまっては貯蔵庫に辿り着けないと考えたのだろうか、メイはノアについて来ている。メイも望遠鏡を覗いて驚きの表情を見せるのだが、人工衛星にアクセスするという目的を持っていながらも、宇宙を見たことがなかったメイにとっては驚きの経験だったのだろう。

あわや野生に……過去作のオマージュも

その後、ノアとラカ、メイは野生の人間達に遭遇。ラカはメイと共に野生の人間に合流し、知識を授けて共存していくことを、ノアは一人でプロキシマスのもとへ向かうことを決める。このとき焦ったのはメイだ。メイには、貯蔵庫からハードディスクドライブを取り出して基地に持ち帰り、人工衛星を動かして人類の手に通信を取り戻すという壮大なミッションがある。なのになぜか野生の人間達と暮らすことになろうとしている……!

ノアが馬で走り去ろうとしている時のメイの焦りようは、彼女が抱える任務を知った後に観直すと、非常に共感&同情できる。ここにプロキシマスの部下達が現れ、『猿の惑星』第1作目を思わせる人間狩りが始まる。メイは草むらで身を隠すも、徐々にい追い詰められ、ついに助けに来たノアに助けを求める。

メイが「ノア」と声を出すシーンは、『続・猿の惑星』で喋れなかったノヴァが遂に「テイラー」と名前を呼んだシーンのオマージュだ。また、そのシーンのオマージュである『猿の惑星/創世記』(2011) でシーザーが初めて「ノー! (No!)」と声を上げたシーンとも重なる。前者に対しては同じノヴァというキャラクターが初めて言葉を発するという演出で、後者は「Noa」と「No」の発音が近いという演出だ。一方で、三つとも当事者の人間と猿の立場が異なっているという演出が粋だ。

メイと俳優が明かした過去

遂に言葉を発して、ノアとラカに自分が喋れること、メイという名前があることを明かしたメイは、続いて母から身を守るために喋らないように言われていたことを明かす。また、過去にその母を失ったことも示唆している。

Critwalのインタビューでは、メイを演じたフレイヤ・アーランがメイというキャラクターの背景についてこう語っている。

彼女は両親に関係するバックストーリーに突き動かされており、映画では描かれていませんが、それが彼女の頭の中を占めていることです。彼女より前にミッションに失敗した人々がいる。それが彼女にとってこのミッションを成功させなければならない、少なくとも挑戦しなければいけないという動機になっていて、例えそれで命を落としたとしても、それが彼女にとっての全てなんです。

かつて彼女がいた場所では、まだ彼女が気にかけている人々が生きていますが、彼女が愛していた人々は死んでしまった。それが彼女を突き動かし、ミッションに集中させているものであり、彼女の中の炎となっているのです。

『猿の惑星/キングダム』の日本語版パンフレットでも、フレイヤ・アーランは監督と共にメイの両親に関するバックストーリーを築いていったと話している。メイの両親はおそらく猿達に殺されてしまったのだろう。この場面では、ノアとラカが自分たちがメイの仲間だと声をかけてやっているが、おそらくメイの心には届いていない。メイは背負った任務に突き進んでいく。

野営中には、夜にノアがスタンバトン(電流が流れる棒)を修理した姿を見るメイの姿も描かれている。スタンバトンはプロキシマスの軍団が使っていたもので、メイには何らかのトラウマがあるのかもしれない。メイの側にいてくれるノアに対しても、「武器を手に入れたエイプ」として警戒心を強めた可能性が高い。

トレヴェイサンへの言葉

そして、襲撃を受けたメイはプロキシマスの拠点へと連れて行かれる。そこで出会ったのは猿に仕える人間のトレヴェイサンだった。トレヴェイサンはインテリだが、人類の未来を諦めており、プロキシマスの保護を受けて生きていくことを決めている。メイは、「どこから来た?」と聞くトレヴェイサンに対して、「あなたから」と返し、自分が基地から来たことを明かそうとしない。“猿側の人間”であるトレヴェイサンを警戒しているのだ。

トレヴェイサンが自己紹介をして、「君は何者だ? (Who are you?)」と聞くと、メイは「猿に仕えない人間 (I’m human not helping the apes)」と答える。人類の希望を追い求めているメイにとって、希望を捨てて自分だけ生き延びようとしているトレヴェイサンは軽蔑の対象だったのだろう。自分とトレヴェイサンは違う人間だということを強調する回答になっている。

プロキシマスがトレヴェイサンとノアと共にメイを食事に招いた際には、プロキシマスはメイが貯蔵庫に入る方法を知っていることをノアに明かす。このシーンは、プロキシマスが過去にメイかメイを知っている人々と接触していたことを示すものだ。やはりメイの両親はプロキシマスの兵に殺されたことのかもしれない。

メイのコンバットスキル

その後、メイは貯蔵庫の中に人類が言葉を取り戻すためのアイテムがあることをノアに伝え、二人は協力することになる。メイが防波堤を破壊するための爆弾を作る方法を知っていたのは、メイが基地からやってきたエージェントだったからだ。もしかすると軍人のバックグラウンドもあるのかもしれないし、基地では人類は皆訓練を受けているのかもしれない。

メイがただものではないことを再度証明するのが、トレヴェイサンを殺すシーンだ。メイ達が工作をしていることに気づいたトレヴェイサンは、説得を受けるも寝返らず、メイは背後からトレヴェイサンを襲うと首を絞めて殺してしまう。この時のメイのコンバットスキルは素人のそれではなく、やはり訓練を受けたエージェントであることを示唆している。

ノア達と共に貯蔵庫に入ったメイはハードディスクドライブを入手。武器庫の中からピストルだけを持ち出していた。入り口で待ち伏せしていたプロキシマスの部下ライトニングにノアの母ダーを人質に取られると、メイは銃を発砲してライトニングを射殺。ダーを抱えてナイフを突き立てているライトニングの心臓部に見事に命中させる射撃の腕前を披露した。このシーンもやはり、銃の扱い方も含めてメイが正規の訓練を受けていることを窺わせる演出になっている。

ラストシーンの銃の意味

そしてメイは猿達の避難が済んでいない内に防波堤を爆破し、人類の遺産が詰まった貯蔵庫に海水を流し込み、姿を消した。メイの目的は一貫して猿という種族との戦いにあったのだ。それでも、メイは村に帰還したノアの前に現れた。手に拳銃を持って。その理由は二通り考えられる。

一つはメイは彼女の言葉通り、「お別れを言いに来た」だけだが、ノアを裏切ったという経緯があるため自衛の手段として銃を持っていたという説。その場合は、ノアが共通の友人であるラカの名前を挙げて、大事な形見でもあるシーザーのシンボルをメイにあげたことで警戒を解いて銃をしまったのだろう。

二つ目は、スタンバトンを修理し、プロキシマスを倒し、イーグル族のリーダーとなったノアを人類の脅威になると考えて殺しに来たという説だ。この場合も、「自分たちは学んだ」と主張して分け合うことを選んだノアの姿勢に突き動かされ、銃をしまったと考察できる。

また、このシーンではメイは「人間のために作られたものは猿のために作られたものじゃない」という旨の主張をするが、これに対してノアは「猿のためのものはどこにある?」と反論し、「喋れなかった時代に戻れと?」と抗議する。メイは身を守るために言葉を奪われていたからこそ、ノアのこの言葉が刺さったのではないだろうか。

このように、メイのバックグラウンドを知った上で『猿の惑星/キングダム』を見返すと、納得できる演出や新たな発見が多い。ウェス・ボール監督は米Colliderのインタビューで、本作は「ノアの物語として始まり、ノアとメイの物語として終わる」と発言している。今後も様々な展開の続編とスピンオフが考えられるが、まずは『猿の惑星/キングダム』を再鑑賞して新たな発見を楽しもう。

映画『猿の惑星/キングダム』は2024年5月10日(金)より全国の劇場で公開。

映画『猿の惑星/キングダム』公式サイト

Source
CritwalCollider Interviews (YouTube)

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『猿の惑星/キングダム』ラストのネタバレ解説はこちらから。

「猿の惑星」全10作の時系列とタイムラインの解説はこちらの記事で。

ウェス・ボール監督が明かしたエンディングの意図とノア&シーザーの血縁関係についてはこちらから。

『猿の惑星/キングダム』続編についてのネタバレありの考察はこちらから。

『猿の惑星/キングダム』におけるプロキシマス・シーザーについての考察はこちらの記事で。

『猿の惑星/キングダム』におけるシーザーの遺産(レガシー)とも呼べる教義についてはこちらから。

ウェス・ボール監督が手がける実写版『ゼルダの伝説』の情報はこちらから。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。 訳書に『デッドプール 30th Anniversary Book』『ホークアイ オフィシャルガイド』『スパイダーマン:スパイダーバース オフィシャルガイド』『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース オフィシャルガイド』(KADOKAWA)。正井編『大阪SFアンソロジー:OSAKA2045』の編集担当、編書に『野球SF傑作選 ベストナイン2024』(Kaguya Books)。
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