『攻殻機動隊』と『All You Need Is Kill』日本のSF作品をハリウッドの映画監督が実写化 | VG+ (バゴプラ)

『攻殻機動隊』と『All You Need Is Kill』日本のSF作品をハリウッドの映画監督が実写化

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独自の進化を遂げた日本のSFコンテンツ

アニメ、ゲーム、漫画…SFを活かす日本のメディア

アメリカにおけるアメコミ同様、日本でも独自の進化を続けてきたSFコンテンツ。日本では優れたSF文学が数多く誕生しているが、空想と現実の狭間を描くSFというジャンルにとって、アニメやラノベ、ゲームに漫画といったメディアが重要な役割を果たしてきたことを見過ごしてはいけない。近年では、そうした日本のコンテンツに影響を受けたクリエイター達が数多く登場している。日本のSF作品が注目を集めている昨今だからこそ、改めて実写映画化された日本のSF作品たちを復習してみよう。

ラノベからハリウッドへ! ダグ・リーマン監督の実写化術

世界で3億7千万ドルの大ヒット作品へ

桜坂洋のライトノベル『All You Need Is Kill』(2004)を実写化したのは、『ボーン・アイデンティティ』(2002)のダグ・リーマン監督。2014年に公開された『オール・ユー・ニード・イズ・キル』では、トム・クルーズ、エミリー・ブラントといった大物俳優が起用され、世界で3億7千万ドル以上の興行収入を記録している。同作の物語の根幹にあるシステムは、主人公が死ぬたびにある時点まで戻り蘇るというもので、一般的に「タイムループもの」と呼ばれる。SFならではの設定を、爽快なテンポと痛快な映像演出で描き出した同作は、日本語のラノベ原作を英語の映像作品に作り直す、二重の“翻訳”という困難を乗り越えることに成功した。

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大幅な設定変更の理由

ダグ・リーマン監督の代表作である『ボーン・アイデンティティ』は、ロバート・ラドラム著『暗殺者』(1980)の実写化作品だ。すでに実写化映画で実績があったダグ・リーマン監督は、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』の制作にあたって、原作から設定や内容を大幅に変更した。ダグ・リーマン監督はその意図について、作品のコアになるアイデアを表現することに重きを置いたとしている。つまり、原作をいかに忠実に“再現”するかということよりも、物語に込められたメッセージを最大限に表現することに主眼を置き、設定を選んだということである。

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タイトルまで変更! その理由は!?

なお、同作の公開時の英語版タイトルは『Edge of Tomorrow』。DVD・Blu-ray版の発売時には『Live Die Repeat』に変更された。日本では原題どおりの『オール・ユー・ニード・イズ・キル』というタイトルで公開されたが、このタイトルの変更について、プロデューサーのジェイソン・ホッフスは、The Hollywood Reporterで以下のように語っている。

『キル』という言葉をタイトルに入れることは、今日の社会において非常に難しいことです。人々はそうした言葉に晒されたいと思うでしょうか。人々は新聞を開いて、そうした言葉を見たいと思うでしょうか。そうした言葉は、現実の世界において、新聞のタイトルで十分に目にしているではありませんか。映画を見る時くらいは、その必要はないのではないでしょうか。

by ジェイソン・ホッフス

ダグ・リーマン監督はタイトルに『Live Die Repeat』を希望したが、最終的には製作会社のワーナー・ブラザーズの判断で『Edge of Tomorrow』が選ばれた。この判断が功を奏したのか、国際市場でヒットを記録した『オール・ユー・ニード・イズ・キル』は、既に続編の製作が発表されている。

『ゴースト・イン・ザ・シェル』への「ホワイトウォッシュ」批判の影で

日本の「伝説」をハリウッド実写化

もはや日本の伝説的コンテンツとも呼べる士郎正宗原作の『攻殻機動隊』(1991)を実写化したのは、ルパート・サンダース監督。押井守監督による劇場版アニメ『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995)をベースとして制作された『ゴースト・イン・ザ・シェル』(2017)は、最新鋭の映像技術によって数々の名シーンを再現することに成功した。一方で、スカーレット・ヨハンソンを主演に据えたキャスティングは、大きな議論を生んだ。原作者の士郎正宗、押井監督共にヨハンセンの起用については肯定的な反応を示しているが、世間(とりわけアメリカのアジア人コミュニティ)はこれを許さなかった。非白人のキャラクターに白人俳優を起用する“ホワイトウォッシュ”批判の影響もあり、同作の興行成績は1億7千万ドル弱に終わった。伝説的作品の実写化映画としては、物足りない結果である。

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なぜ、『ゴースト・イン・ザ・シェル』は批判に晒されたのか

ここで本記事の前半を思い返してみてほしい。すでに述べた通り、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』も白人俳優を起用し、大胆と言えるほどアメリカ的な設定に改変している。確かに、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』にもホワイトウォッシュ批判は存在するが、興行成績に影響を与えるほど大きな議論になることはなかった。前述の通り、同じキャストを起用しての次回作製作も決定している。何よりも、サンダース監督の『ゴースト・イン・ザ・シェル』は、キャラクターの人種が変わっていることも踏まえたストーリー展開を用い、『攻殻機動隊』というコンテンツの「コアになるアイデア」を抽出することに成功している。それはアイデンティティを巡るテーマであり、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』でのリーマン監督の挑戦よりも、一つ上のステージにおける挑戦であったと言える。では、異なる結果を生んだこの二作品の違いは、一体どこにあるのだろうか。
その違いは、有り体に言えばやはり原作の認知度であり、注目度の違いだと言える。『オール・ユー・ニード・イズ・キル』は英訳の過程で実写映画化の話が出た作品であり、米国では原作はそれほど知られていない。多くの海外クリエイターが影響を受けたと語る『攻殻機動隊』に、自分のアイデンティティを投影するアジア人が多かった事実は頷ける。

『ゴースト・イン・ザ・シェル』におけるホワイトウォッシュを批判する動画も登場した。

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ホワイトウォッシュ批判の裏側で

一方で、失敗が許されない巨大予算作品に有名俳優を起用するのは、商業映画の性でもある。ミラジョボビッチに代わって“SFの女王”の地位を欲しいままにしているスカーレット・ヨハンソンの起用は、“SF”という枠組みだけで考えれば順当な人選だ。もちろん、アジア人の活躍の場がなくなることで、自分たちの居場所を奪われていると考える人々の心情を見落としてはいけないが、ここで一つの問いが生まれる。観る側、つまり消費者達は、アジア人が主役を演じる作品に十分にお金を落として消費しているだろうかという問いだ。映画は何もハリウッドだけのものではない。日本や中国、韓国、その他アジア圏の実写映画作品に、どれだけの需要が生まれているのだろうか。
日本の作品をハリウッドで実写化した二人の監督。作品の出来への評価は別として、その明暗はハッキリ分かれたと言える。そしてその明暗を作り出すのは製作陣だけではない。その一端を担うのは、他でもない消費者たちだ。両監督の仕事に最終的な評価を下すのは、作り手と観る側、そして市場という三者のリテラシーが均衡を保つ未来が訪れた時でも、遅くないのかもしれない。

Source
© 2018 The Hollywood Reporter

VG+編集部

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