『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』公開
MCU映画第35弾『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』が2025年2月14日(金) より全国で公開され、大ヒットを記録している。本作はアンソニー・マッキー演じるサム・ウィルソンのキャプテン・アメリカが主人公となる新シリーズの第1弾。日本が登場するということでも話題になっている。
今回は、『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』での日本描写と尾崎総理、そしてMCU世界の日本について考察してみよう。以下の内容は本作の結末に関するネタバレを含むため、劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』の内容および結末に関するネタバレを含みます。
Contents
『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』日本はどう描かれた?
アメリカ、フランス、インド、そして日本
映画『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』では、映画『エターナルズ』(2021)でインド洋に出現したティアマットの“死骸”を巡って国際関係に緊張が走っている。洋上に突き出たティアマットからは“最も万能な金属”とされるアダマンチウムが採取できるという。
どうやらアダマンチウムを狙ってティアマットに拠点を作った主な国はアメリカ、日本、フランス、インドの4ヵ国のようだ。インドは場所がインド洋なので分かるし、フランスは映画『ブラックパンサー:ワカンダ・フォーエバー』(2022) でもワカンダからヴィブラニウムを盗もうとした野心的な国として描かれている。
それに、現実においてはアメリカ、フランス、インドは核保有国である。現実の国際社会では存在感の薄い日本が、『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』ではなぜインド洋まで出張ってアダマンチウムの獲得に動いたのだろうか。
しかも、最初にアダマンチウムの精製に成功したのは日本だという。背景に迅速な意思決定と高い技術力があることは明らかだ。その日本政府を率いる優れたリーダーとして、『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』で印象的な姿を見せるのが日本国総理大臣の尾崎だ。
尾崎総理の立場
『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』で尾崎を演じた平丘大は、ドラマ『SHOGUN 将軍』(2024-) の石堂和成役でエミー賞助演男優賞にノミネートされたことが記憶に新しい。日本生まれで15歳で渡米、日本でも多くの作品に出演しているが、映画『グランツーリスモ』(2023) で山内一典役、ドラマ『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ』(2023-) でヒロシ・ランダ役を演じるなどハリウッドでも活躍を見せている。
英語も流暢な50歳の平丘大が尾崎を演じたことで、通訳なしで米国大統領と対等に渡り合う若き日本のリーダー・尾崎が誕生している。大統領襲撃事件の後には、フランスとインドが会議の場に日本がいないなら話してもしょうがないという態度を見せており、アダマンチウムを巡っては日本はかなり強い立場にあることが示されている。
ロスは尾崎について、旧知の仲であることに触れつつ、尾崎が「再選を控えている」から交渉に乗ってくるはずだとも主張している。大統領制のアメリカと違い、日本は国会議員の指名によって首相が決まる。なので、アダマンチウムをめぐるいざこざが直接尾崎の首相再選に関わってくるとは言い難い。
だが、尾崎がそれ以外のこと(裏金問題とか)で窮地に追い詰められており、アダマンチウムが逆転の一手だとすればロスの主張も理に適う。あるいは、指パッチンでの人口半減も経て、日本でも首相公選制(市民が直接投票して首相を選ぶ制度)が取り入れられたため、国民感情がより重要になったという可能性も考えられる。
尾崎総理の危うさ
いずれにせよグイグイ押していく尾崎総理は、来日したロス大統領との会談で、アダマンチウムが盗まれた事件が米国の自作自演だと指摘する。そもそも米国の大統領が慌てて日本に向かうなど現実では考え難いが、これはMCUのファンタジージャパンだ。受け入れよう。
ロスは関与を否定するが、尾崎は自国の調査機関が間違っているというのかと強気に反論する姿を見せる。日本の調査機関とは公安や別班だろうか。だが後にこの情報はスターンズが流した嘘の情報であったことが明らかになる。
アダマンチウム強奪とキャプテン・アメリカによる奪還、サミットでの銃撃事件はスターンズが仕組んだものだったのだ。スターンズはこれをロスの自作自演であるように見せ、怒った日本がアダマンチウム独占に走り、ロスが暴走してレッドハルクとなることでロスを失墜させようと企んでいたのである。
尾崎はリーダーシップがあり決断力と行動力もあるようだが、スターンズの偽情報を「信頼する部下が上げてきた情報だから」ということで受け入れてしまう危うい面も持っていると考えられる。相手の話を聞き、対話を求めるサムのキャプテン・アメリカとは真逆の人物なのかもしれない。
尾崎総理の危うさは、インド洋上でスターンズに操られた米軍機が日本を攻撃して日米が衝突しかけた際にも垣間見える。原因はロス大統領が黒幕であるスターンズの存在を明かせなかったことにあるが、尾崎も尾崎でロスを見限って強硬路線を崩さない。
ちなみに米空軍のパイロットは「日本は我々の……」と言っており、2026年のMCUでも日米は同盟国であることが示唆されている。最終的にキャプテン・アメリカがパイロットを救いながら米機を撃墜したことで日米開戦は免れた。ともすれば新たな世界大戦の幕開けとなっていた事件だった。
サムが尾崎に与えた影響
キャプテン・アメリカが米軍機を撃墜したことで、米政府の自作自演ではないということが証明され、尾崎は態度を軟化させたようだ。直後には新協定の調印式の日程が決まったことが発表されている。
ロス大統領がレッドハルクとして暴走し、収監された後、ロスは全てを明らかにして責任を受け入れた。そして、アダマンチウムの共同利用に関する“尾崎=ロス協定”が結ばれたことが明かされている。
サムはレッドハルクを力で倒すのではなく、対話で終戦に導いた。日本は敗戦後、平和を重要な価値として(少なくとも建前上は)掲げてきたが、MCUでは日本でさえ力に訴える時代になっている。サムの働きは、力で状況を変えてきたアメリカのやり方を改めるという宣言でもあり、その姿勢が尾崎にも影響を与えたのではないだろうか。
尾崎がホワイトハウスに招かれた時、サムは拙いながらも日本語で挨拶をした。サムは、ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』(2021) ではリビアの市民にアラビア語で語りかけ、『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』の序盤でもメキシコでスペイン語を使って人質に語りかけている。
相手の立場に立ち、耳を傾け、対話を試みる。キャプテン・アメリカは、指パッチン後の新たな世界で衝突したロス大統領と尾崎総理に、そうした姿勢の重要性を伝えたのである。
日本はなぜ変わった?
MCU世界の“日本”
『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』に日本が求められた制作上の理由としては、キャプテン・アメリカがロシアや中国との危機を仲介する展開はセンシティブすぎるという背景があったとも考えられる。
あるいは、外から見ると日本は複数の国と領土問題を抱える国という印象もあるのかもしれない。エンタメ作品で政治的な要素を扱うにあたって、ありそうであり得ないという絶妙なリアリティーラインが“強い日本”だったのだろう。
では、『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』の現実とは全く異なる“ファンタジー日本”はMCUの世界ではどのように生まれたのだろうか。これまで、MCUでは日本が舞台になることはほとんどなく、ドラマ『シークレット・インベージョン』(2023) のような国際政治を扱う作品でも存在感は感じられなかった。
映画『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』(2011) ではキャプテン・アメリカが戦う枢軸国の一つに入っており、映画『エターナルズ』では、広島に原爆が投下され、ファストスが人類に技術をもたらしたことを悔やむシーンが描かれた。これらの描写は現実の歴史に倣った描き方だ。
『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014) ではナターシャ・ロマノフが過去に日本で活動しており、東京と大阪にいたことも明かされている。別のユニバースの話になるが、映画『ウルヴァリン:SAMURAI』(2013) では現役の法務大臣である森信郎がヤクザと繋がりを持っているなど、尾崎にも通じる若くて強気な政治家も登場している。
ローニン事件が絡んでる?
それでも、国際社会では日本の目立った活動はなかった。MCUの正史で最も日本がフィーチャーされたのは映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019) でローニンになったクリント・バートンが東京で暴れる場面だ。ローニンは真田広之演じるアキヒコを含む日本のヤクザ達を殺害していた。
その後、クリントはアベンジャーズに復帰。世界を救って隠居生活を送っていたが、ドラマ『ホークアイ』(2021) ではローニン時代の罪と向き合うことになった。ところが、クリントの贖罪は日本とは関係のないもので、マヤ・ロペスの父とウィルソン・フィスクの組織をめぐる物語で完結してしまった。
指パッチンで人口の半分が消えている中、影でインフラを担っていたかもしれないヤクザはローニンによって壊滅し、日本社会は更なる変革を求められたのではないだろうか。ヴィジランテによる私刑が横行することへの恐怖から、日本市民は尾崎のような強いリーダーシップを求めたのかもしれない。
MCUではロスが大統領になり、ウィルソン・フィスクがニューヨーク市長になる時代だ。尾崎も殺されたヤクザにルーツがあるといった背景があれば、市民の同情を買ったことだろう。
結局、ローニンが日本で暴れていた件は何の真相も明らかになっておらず、日本がいまだにヴィジランテの恐怖に支配されていたとしたら……。ローニンは他国から送り込まれたのかもしれないという陰謀論も出ていそうだ。だとすれば、政府が一刻も早くアダマンチウムを手に入れて、国際的なイニシアチブを握ろうとしたことにも納得がいく。
ローニンが東京にいたのが2023年で、『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』が2026年の出来事。『エンドゲーム』から3年しか経っていないが、人口半減の5年の間にも再編が進んでいたとすれば、日本が現実と違う道を歩んだ8年で大きな変化を経験したとしても不思議ではない。
アダマンチウムの精製技術を持つ日本は、ワカンダほどとは言わないが、今後MCU世界で重要な役割を担うことになるだろう。アダマンチウムといえばウルヴァリンの骨格と爪に使用される素材として知られる。アダマンチウムとウルヴァリンを通して、『ウルヴァリン:SAMURAI』のように再び日本が舞台になる日はそう遠くないのかもしれない。
映画『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』は2025年2月14日(金) より公開中。
『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』オリジナルサウンドトラックは発売中。
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