ネタバレ考察 映画『夏目アラタの結婚』品川真珠はどの殺人犯に分類される? 犯罪心理学から解説 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ考察 映画『夏目アラタの結婚』品川真珠はどの殺人犯に分類される? 犯罪心理学から解説

(C)乃木坂太郎/小学館 (C)2024映画「夏目アラタの結婚」製作委員会

死刑囚との結婚からはじまる真相ゲーム

児童相談所の職員が死刑囚と結婚し、情報を聞き出そうとする。そのような一見、荒唐無稽に思える物語を映画化した『夏目アラタの結婚』が2024年9月6日(金)に全国の劇場で公開された。原作は「次にくるマンガ大賞 2020」U-NEXT特別賞コミックス部門を受賞し、2019年から2024年にかけて連載された乃木坂太郎の漫画だ。

本記事では、映画『夏目アラタの結婚』の中心人物である品川真珠がどのような殺人犯に分類されるのかについて、犯罪心理学の観点から考察をしていこう。なお、以下の内容は映画『夏目アラタの結婚』の重大なネタバレを含むため、劇場で本編を鑑賞後に読んでいただきたい。また、映画『夏目アラタの結婚』は残酷な描写に触れるため、注意していただけると幸いである。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『夏目アラタの結婚』の内容に関するネタバレを含みます。

『夏目アラタの結婚』連続殺人犯の類型ついてネタバレ考察

品川ピエロ事件

『夏目アラタの結婚』の中心となる事件が、社会的に成功している男性3人を毒殺し、バラバラにして処分した“品川ピエロ”事件だ。“品川ピエロ”とは、死体をバラバラにしていた犯人である品川真珠が、逮捕時にピエロのメイクをしていたためマスコミによりつけられた名称である。

品川真珠がピエロのメイクをしていた理由は、幼少期に母親の品川環を真似てメイクをした際、ピエロのような姿になってしまったことがきっかけとされている。連続殺人犯を語る上で、あだ名をつけることは避けるべきこととされている。あだ名をつけてしまうと、連続殺人犯を神格化することに繋がってしまい、被害者が軽視されてしまう傾向があるからだ。そのため、警察によっては連続殺人犯にあだ名をつけることを注意しているところもある。

被害者の軽視の防止はフィクションにも及んでおり、「ミルウォーキーの食人鬼」というあだ名をつけられたジェフリー・ダーマーを題材にしたドラマ『ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語』(2022)では最後に被害者の名前をすべてクレジットすることで、被害者が軽視されないようにしている。

そういった連続殺人犯の類型や注意点を踏まえて、『夏目アラタの結婚』の殺人犯である品川真珠について、考察と解説をしていこう。それでは、連続殺人犯の類型から考察をしてみよう。

品川真珠を考察する上で重要な連続殺人犯の類型

安楽型の可能性

『夏目アラタの結婚』で品川真珠は一見すると社会的に成功している男性が実は人生に疲れ切っており、その男性たちを救うために殺害したと裁判で証言している。被害者の男性たちは品川真珠と親しい間柄だとされるが、親しい間柄の人物を殺害する類型として安楽型が挙げられる。

金銭などを目的とし、長期的な計画で親類縁者を殺害するのが安楽型の連続殺人犯だ。その犯行は理性的かつ計画的とされ、殺害後に得られる利益をもとに殺害相手を選ぶ傾向があるとされている。

犯行方法はナイフなどによる刺殺や事故死に見せかけるものから、毒殺など時間をかけて殺害することもあるなど様々である。しかし、被害者が親類縁者という身近な存在であるため、機会をうかがうなど一件の殺人が長期化するケースが多い。

安楽型で特に有名なのが、自分の夫を殺害する「黒い未亡人」と呼ばれる連続殺人犯の類型だ。「黒い未亡人」はさらに細分化されて研究されており、心理学者の越智啓太などが細かく分類している。

映画『夏目アラタの結婚』において品川真珠は犯行の目的が金銭などではなく、犯行も毒殺という短期的なものであったため、安楽型ではないとは言えるだろう。だが、被害者は親しい人物だったため、安楽型の要素も少し混ざっていると考えられる。品川真珠は安楽型と後述のパワー探求型が混ざったものではないだろうか。

品川真珠と正反対な信奉者型

一方、品川真珠と正反対と言えるのが信奉者型の連続殺人犯だ。信奉者型の連続殺人犯は、カリスマ的なリーダーのもとで犯行をするのが特徴であり、その目的は自分が信奉するリーダーに認められることである。

実行犯は女性だが、被害者はリーダーによって選ばれるため、犯行の実態はリーダーの意志によるものが大きい。リーダーに従って犯行をする信奉者型の連続殺人犯はリーダーに認められることで、認められている心理的な満足感が犯行の動機となる。

当初、品川真珠は父親である三島正吾に脅迫されて死体の処理を行なっており、殺人はしていないと裁判で証言していた。その後、三島正吾が3人目の被害者だと発覚すると、殺害の動機は三島正吾に自分の存在を否定されたためと証言を変更した。

もし、品川真珠が信奉者型の連続殺人犯だとしたらカリスマ的なリーダーにあたるのは三島正吾だが、三島正吾にカリスマ性は無い。三島正吾は品川真珠に金をせびるような男であり、品川真珠はその存在に怯え、嫌悪していた。そのため、信奉者型の連続殺人犯には当てはまらないと考察できる。

最も当てはまるパワー探求型

このパワー探求型が一番、映画『夏目アラタの結婚』の品川真珠に近いかもしれない。パワー探求型は「死の天使」とも呼ばれ、男性ではパワー・コントロール型に分類される。パワー・コントロール型とは、相手の生死を支配することで、支配欲を満たすことで快感を覚える秩序型の連続殺人犯だ。

パワー探求型は医者や看護師に多いとされ、患者が被害者になることがあるとされている。これは医者や看護師が弱った人物と接する場面が多い職業であるためであり、必ずしもパワー探求型の連続殺人犯が医者や看護師であるという意味ではない。

その精神面での背景には低い自尊心や無気力感があるとされている。品川真珠は母親の品川環から心中を提案され、その後の品川環の苦しそうな姿を見て、自分と一緒に死なせてあげるべきだったと考えるなど、低い自尊心と無気力感があった人物だ。

パワー探求型では、患者を毒で弱らせ、それを自分で回復させることで生死をコントロールしていることを実感するとされるが、品川真珠にはそれがない。映画『夏目アラタの結婚』の品川真珠はパワー探求型に分類されるが、安楽型に近い要素も持っていたと考察できる。

この二つの分類が混ざっているのが品川真珠の実態だと考えられる。品川真珠は自身の殺人衝動を俯瞰しており、夏目アラタに「ただの人殺し」だと見抜かれることを望んでいたと思われる発言をしている。このような詳しい分類で品川真珠を考察することで、『夏目アラタの結婚』は新しい側面を見せてくれる映画だと考えられる。

映画『夏目アラタの結婚』は2024年9月6日(金)より全国の劇場で公開。

映画『夏目アラタの結婚』公式サイト

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映画『夏目アラタの結婚』のラスト解説はこちらから。

【ネタバレ注意】映画『ラストマイル』ラストの解説はこちらから。

【ネタバレ注意】映画『エイリアン:ロムルス』ラストの解説はこちらから。

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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