『ザ・ボーイズ』シーズン2のアノ人に注目
熱狂の中、シーズン2の更新を終えたAmazonドラマ『ザ・ボーイズ』(2019-)。世間を騒がせたシーズン1に続き、全話同時配信から毎週更新に切り替えたシーズン2でも、相変わらず視聴者を虜にした。
中でも、注目を集めたのはクローディア・ドゥーミットが演じたビクトリア・ニューマン議員だ。ニューマンは米上院の若手女性議員で、スーパーヒーローチームのセブンを擁するヴォート社を鋭く批判する人物。デモや抗議集会に自ら足を運び、歯に衣着せない正論で演説を繰り広げ、聴衆を味方につける。
オカシオ=コルテスがモデル?
そんなニューマン議員のモデルについては、29歳で史上最年少女性下院議員となった米民主党のアレクサンドリア・オカシオ=コルテス議員がそのモデルであると思われてきた。シーズン2エピソード5では、ホームランダーがニューマン議員を指して「彼女が“エジプシャン・ダンス”を踊る動画は好き?」と皮肉る場面が登場する。これは、学生時代のオカシオ=コルテス議員がダンスを踊っている動画がSNSで拡散された際に、保守派の陣営から「はしたない」との誹謗が起きたことをベースにしている。
オカシオ=コルテス議員はプエルトリコ系の母を持つ労働者階級出身の政治家で、民主社会主義者としても知られる。2018年にニューヨークの選挙区で民主党のベテラン議員を破って下院議員候補になったが、その少し前まではウェイターとして働いていた。ニューヨークの地元を歩き、地域密着の選挙戦を戦い (シェアライドを活用して後にタクシー業界を守る民主党の方針と矛盾していると批判されることもあったが)、2018年11月に共和党候補を破って下院議員に。議会ではニューマン議員のように鋭い指摘を行い、その答弁の動画は度々SNSを騒がせている。アレクサンドリア・オカシオ=コルテスのイニシャルを取った“AOC”は、今や彼女の代名詞となった。
クローディア・ドゥーミットが語る
ニューマン議員はオカシオ=コルテス議員をモデルにしているのだろうか。ニューマン議員を演じたクローディア・ドゥーミットは、米Deciderのインタビューに「特定の政治的な立場からビクトリア・ニューマンの役にアプローチしたわけではありません」と前置きした上で、以下のように話している。
もちろん、政治家たちが持っている特徴や気質を描き出すことはやりました。そして当然、AOCもその対象でした。彼女のスピーチや身のこなし方などは、大量にチェックしました。
さらに、インタビュアーからの「どれほどAOCをリアルに演じたいと思っていましたか」という問いには、以下のように回答している。
私が表現したかったものは、彼女が持つ特定の要素でした。AOCが代表するもの、例えば、政治の世界で若くて革新的な女性であること。彼女は人々が愛し、惹きつけられる声を持っています。彼女は現在の政治状況の中で、魅力的で新しい役割を担っています。そして、それがこの番組 (『ザ・ボーイズ』) が目指すところなのだと思います。つまり、AOCはニューマンのモデルになっていますが、重要なのは彼女が何を代表しているかということです。このショーは非常にタイムリーな番組ですからね。
一方で、クローディア・ドゥーミットは、これまでに演じてきた他のキャラクター同様、ニューマン議員の“人間性”にフォーカスして同役を演じてきたという。
その人を動かしているものは何なのか、それが最も興味深いことだと思います。“なぜ”を知りたいんです。彼女が政治家“である”ということよりも、“なぜ”彼女が政治家なのか、ということの方が、私にとっては興味深いことなんです。彼女が彼女である背景、彼女が世界に対して提示するものは、私がキャラクターに対して掘り下げていきたい部分です。私はそこから始めるんです。
ホームランダーのモデルはトランプ?
なお、ホームランダーを演じたアントニー・スターは、『ザ・ボーイズ』のアフターショー『プライム・リワインド: インサイド・ザ・ボーイズ』のエピソード1で、ホームランダーのモデルについて話している。司会のアイシャ・タイラーに、ホームランダーを演じる上で参考にした人物を聞かれ、「明らかに参考にした人物が一人います」「現時点では大統領を演じられているT-Dogですね」と、皮肉たっぷりにドナルド・トランプ米大統領を挙げている。「(ホームランダーは) 番組の中で最強だけど多くの問題を抱えている。人間性が彼にとってのクリプトナイト [*スーパーマンの弱点である物質、転じて「強い者の唯一の弱点」の意] なんです」と、説明している。
『ザ・ボーイズ』シーズン2では、バチバチのバトルを繰り広げたニューマン議員とホームランダーだが、現実においても、オカシオ=コルテス議員とトランプ大統領は舌戦を繰り広げている。2019年7月に、トランプ大統領が非白人の民主党女性議員へ向けて「国へ帰れ」という旨のツイートを投稿し、オカシオ=コルテス議員はこれを強く批判した。トランプ大統領は名指しは避けているものの、オカシオ=コルテス議員の影響力を念頭においていることは明らかで、新人議員でも大統領に危機感を募らせるとは、やはり同議員の持つ影響力の強さが窺える。
なお、上記のトランプ大統領の発言には、SF作家のウェズリー・チュウ、N・K・ジェミシン、ジョン・スコルジーらも強く抗議している。詳細はこちらの記事でチェックしていただきたい。
こうしたアメリカの現在進行形の現実を背負って描かれていくドラマ『ザ・ボーイズ』。アメリカ社会にも注目することで、新たな発見があるかもしれない。シーズン3ではどのような展開が待っているのだろうか。
ドラマ『ザ・ボーイズ』はAmazonプライムビデオで独占配信中。
原作コミックの日本語版はG-NOVELSより4巻まで発売中。
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Decider