ネタバレ解説 高橋一生版『ブラック・ジャック』 どのエピソードが実写化された? 考察&感想 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説 高橋一生版『ブラック・ジャック』 どのエピソードが実写化された? 考察&感想

(C)テレビ朝日

24年ぶりに『ブラック・ジャック』が実写

漫画の神様と呼ばれる手塚治虫の代表作の一つである『ブラック・ジャック』(1973-1983)が、2000年以来24年ぶりの実写ドラマ化されることになった。天才ながら闇医者であるブラック・ジャックは高橋一生、助手のピノコは永尾柚乃が演じるなど、現在のスター俳優たちを集めた豪華な作品となっている。しかし、その反面、人気キャラクターであるドクター・キリコの性別の設定変更など論争も起きた。

本記事では高橋一生版『ブラック・ジャック』の下敷きになった原作のエピソードなどの解説と考察、感想を述べていこう。なお、本記事は高橋一生版『ブラック・ジャック』のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、ドラマ『ブラック・ジャック』の内容に関するネタバレを含みます。

高橋一生版『ブラック・ジャック』ネタバレ解説

医者はどこだ!

バルボラ共和国にて事故を起こした古川法務大臣の息子で、薬物依存症の駿斗。父親の古川法務大臣は事故のもみ消しだけではなく、損傷したすべての臓器を取り替えるように部下に命じる。そのような非人道的な手術を請け負う医者として白羽の矢が立ったのがブラック・ジャックだった。このエピソードは原作漫画『ブラック・ジャック』の記念すべき第1話「医者はどこだ!」を下敷きにしていると考察できる。

その臓器提供者に選ばれたのが外国の刑務所に収監されていた後藤一馬だった。後藤は臓器提供者にする自殺扱いにされて始末されてしまう。琵琶丸のライブに一緒に行こうと手紙で約束していた研修医の長谷川啓介は納得することはできない。琵琶丸は原作漫画『ブラック・ジャック』に登場する盲目の鍼師である。後藤の骨壺の中に入っていた奇妙な置物を頼りに、長谷川はギャラリー・アセチレンランプへとたどり着く。そこで長谷川はブラック・ジャックとピノコに出会う。

タイムアウト

ブラック・ジャックは交通事故の現場に出くわす。その事故現場は鉄骨が散らばり、子供の腕が挟まってしまっていた。子供を救助しようにも腕が引っかかってしまう。ブラック・ジャックは鉄骨を運んでいた運転手を脅し、手術代を出させる。このエピソードは原作漫画『ブラック・ジャック』第111話「タイムアウト」を下敷きにしていることが考察できる。

この手術でブラック・ジャックはいつ崩れるかわからない鉄骨の山から子供の腕を切り助け出す時間制限と、腕を再縫合したときに後遺症が残らないようにするための時間制限という2つの時間制限に追われることになる。正しく、少しでも手術が遅れたならばタイムアウトになってしまうのだ。

トラックの運転手に対して、このままだとインターネットで炎上し、家族にまで飛び火するという脅しをするのは非常に現代的な演出だ。24年ぶりの実写化というだけあって、原作漫画『ブラック・ジャック』をより現代的なものにしようと試みていることがうかがい知れる。

灰とダイヤモンド

長谷川は骨壺の中にあった彫刻をつくったのがブラック・ジャックだと確信する。鉄骨が散乱した事故の写真が多くネットに出回っているのにも関わらず、手術をしていた人物の写真が一枚も無いことがその証拠だと考察していた。そして、ギャラリー・アセチレンランプを頼りに長谷川はブラック・ジャックに会いに行く。

ブラック・ジャックは手術ごとに彫刻をつくっており、長谷川は後藤の骨壺に彫刻を入れたのはブラック・ジャックだと睨んでいた。ブラック・ジャックはのらりくらりと長谷川の脅しをかわすも、長谷川はブラック・ジャックについて回るのだった。ブラック・ジャックの回診に同行した長谷川は、ブラック・ジャックが老人の松方の体に50億円のピンクダイヤモンドを埋め込んだ手術をしたと知る。

その後、豪邸暮らしではない老人ホームにいるような人物を手術するのかと長谷川はブラック・ジャックに問う。このエピソードは一代で財を築くも、他人を信用できずに自分の体内に30億円のダイヤモンドを埋め込んだ原作漫画『ブラック・ジャック』第25話「灰とダイヤモンド」が下敷きだと考察できる。このエピソードでは、ブラック・ジャックはダイヤモンドの代わりにアクリル玉を埋め込んでおり、ダイヤモンドは老人ホームに寄付されている。

長谷川は自分を庇って刑務所に収監された後藤に責任を感じていた。後藤の自殺を調査する中で法律事務所の伊丹治郎弁護士の調べにより、後藤が刑務所で自殺未遂した後、バルボラ共和国の最高峰の病院に運ばれていたことを知る。ここで伊丹が例に出しているのは自民党と統一教会や、ドリルで証拠データ破壊というのは小渕優子議員にかけられた疑惑など現実の日本の政治問題がモデルだと考察できる。

獅子面病

ブラック・ジャックは伊丹弁護士を法務大臣の部下によって喉を裂かせ、始末させる。それに加え、ブラック・ジャックが最初に治療した鉄骨の交通事故は子供の飛び出しが原因とされ、トラックの運送会社からは手術代は支払われない事態となっていた。

そんなブラック・ジャックのもとに獅子面病の患者の六実えみ子がやってくる。ブラック・ジャックはえみ子の手術代に2億円を請求する。笑顔が宝物というのなら2億円でも支払うはずだと語るが、えみ子の夫の明夫は支払えなかった。それどころかブラック・ジャックは獅子面病になった妻を愛せない明夫を責めるのだった。獅子面病についてのエピソードは原作漫画『ブラック・ジャック』第33話「獅子面病」が下敷きだと思われるが、そのエピソードでは獅子面病の患者は警部の息子であり、ドクター・キリコは登場しない。

精神的に追い詰められたえみ子はドクター・キリコに接触する。そのえみ子を心配していたのはピノコだった。ピノコは18歳だが、姉の奇形腫として誕生し、年齢相応の容姿を得られないことにコンプレックスを感じていた。一方、自分の容姿についてコンプレックスを感じたことはないと語るブラック・ジャック。ブラック・ジャックは幼少期の不発弾の事故で大怪我を負い、友人のタカシから皮膚を移植されている。ブラック・ジャックはその肌の色の違いに誇りを持っている。

ドクター・キリコは元軍医で、戦場で助かる見込みのない兵士たちを見て、安楽死を提供する「死に神の化身」と呼ばれるようになった医者だ。ドクター・キリコが安楽死を提供するのはあくまでも助かる見込みのない患者のみであり、原作漫画『ブラック・ジャック』ではブラック・ジャックとは意見が対立することはあるが、助かる命や自殺志願者に安楽死を提供することはない。高橋一生版『ブラック・ジャック』でドクター・キリコは性別が変更されているが、えみ子の自殺願望に気が付くと安楽死を提供することを一度は拒むなど共通した信念として描かれている。

ふたりの黒い医者

安楽死用の薬品が急激に体内に入ったことで、えみ子は心不全を引き起こす。ブラック・ジャックは明夫に対し、えみ子の獅子面病は治せないが2億円払って命を助けるかどうか問う。えみ子のいない地獄といる地獄。どちらを選ぶかと問い詰められた明夫は自分の臓器を売ってでも、えみ子のいる地獄で暮らす世界を選ぶ。

ブラック・ジャックは脳に至るまで細かな血管を避けながらメスを入れ、その姿に長谷川は驚く。長谷川はブラック・ジャックの神業と呼べるほどの手腕に感銘を受けるが、ピノコからブラック・ジャックが助けられなかった人の遺骨から彫刻をつくり、自省の念を込めて部屋に飾っていることを知る。

それだけではなく、喉を裂かれたはず伊丹弁護士は治療を受けた上、ギャラリー・アセチレンランプで保護されていた。更に謎の人物から琵琶丸のライブのチケットが届き、長谷川はライブ会場で古川駿斗と遭遇するがその所作から後藤だと気が付く。ブラック・ジャックが古川駿斗と後藤一馬の顔を入れ替えていたのだ。

他にもピンクダイヤモンドは老人ホームに寄付され、えみ子の獅子面病は治されていた。ブラック・ジャックは政財界の闇を知りつつ、それを利用して他人を救っていたのだった。馬の彫刻は後藤一馬の遺骨ではなく、古川駿斗のものだった。同じ馬の意味を持つ名前を利用した叙述トリックとも言える展開である。

ブラック・ジャックに感謝してブラック・ジャックの家を去った六実夫婦だったが、2人が山道の崩落によって死亡したことがニュースで流れる。ブラック・ジャックはまだ息があるかもしれないと現場に向かう。何故患者を救うのかと聞かれ、「自分が生きるためにだ」とドクター・キリコに言い返すブラック・ジャック。これは原作漫画『ブラック・ジャック』第56話「ふたりの黒い医者」での名台詞である。

高橋一生版『ブラック・ジャック』ネタバレ考察&感想

容姿のコンプレックス

高橋一生版『ブラック・ジャック』は原作漫画『ブラック・ジャック』の名エピソードを厳選し、それを組み合わせて一本の番組にしていた。その中でも中心にあったのが「獅子面病」だろう。ここでブラック・ジャックは容姿にコンプレックスは無いのかとピノコに問われ、少し考えた後に無いと答える。ここでブラック・ジャックは自分に皮膚を提供してくれたタカシのことを思い出していたと考察できる。

タカシはブラック・ジャックが幼少期に不発弾事故で大怪我を負った際、唯一皮膚を提供してくれた少年だ。アフリカ系の血を引くタカシの肌を移植したため、ブラック・ジャックは皮膚の色が違う容姿となった。それを警察署で“つぎはぎ”と揶揄される場面があるが、ブラック・ジャックの中では文字通り身を挺して命を助けてくれたタカシの肌の色は誇りなのである。

そのようなブラック・ジャック以外は容姿にコンプレックスや悩みを抱える人物が多い印象を受ける。たとえばピノコは奇形腫の中に18年間閉じ込められ、年齢相応の容姿を得られないことを悩んでいるキャラクターだ。他にも後藤一馬と古川駿斗の顔を入れ替えるなど、高橋一生版『ブラック・ジャック』は容姿にまつわるエピソードを中心にしていると考察できる。

ドクター・キリコの設定

単独のドラマ作品として考えると、高橋一生版『ブラック・ジャック』は悪くない完成度だったと言える。しかし、ドクター・キリコの設定変更は論争を呼ぶと考えられる。ドクター・キリコは性別が男性から女性に変更されたことでドラマ放送前から話題を呼んでいた。

ドクター・キリコは元軍医であり、あくまでも救える見込みのない患者に安楽死を提供している。そのため、容姿に激しいコンプレックスを抱いているという六実えみ子に安楽死を提供するのかどうかは意見が分かれると考察できる。えみ子にはうつ病のような症状があり、ドクター・キリコにとってそれは救える見込みのない命に入るのだろうか。

原作漫画『ブラック・ジャック』第56話「ふたりの黒い医者」では、ドクター・キリコが頸椎損傷により首から下が動かない女性に安楽死を提供しようとする。彼女は自分の介護によって子供に迷惑をかけたくないという理由で安楽死を希望していた。このエピソードでブラック・ジャックは頸椎損傷を治療するが、その後に一家は交通事故で死亡する。最後のブラック・ジャックの台詞など、ドクター・キリコとのやり取りの下敷きになっているのはこのエピソードだと考察できる。

それと比較して、えみ子はドクター・キリコの基準で安楽死を提供するのに値する状況なのだろうか。ドクター・キリコはただの自殺志願者の安楽死は受け付けないというのが原作漫画『ブラック・ジャック』での設定だ。この点については、『ブラック・ジャック』ファンの間で論争の的となりそうだ。現代を舞台としたドラマとしては素晴らしいものだったが、論争の的になりそうな部分も多かった高橋一生版『ブラック・ジャック』。放送後の反響次第では続編が制作される可能性もあり得る。今後の実写ドラマ版『ブラック・ジャック』に注目だ。

高橋一生版『ブラック・ジャック』はTVer、ABEMAにて見逃し配信中。また、TELASAでも配信開始。

高橋一生版『ブラック・ジャック』公式サイト

 

原作漫画『ブラック・ジャック』はkindleなどで発売中。

 

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鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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