“アメリカの黒人”が何を意味するか 『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』メイキングで語られたテーマとは | VG+ (バゴプラ)

“アメリカの黒人”が何を意味するか 『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』メイキングで語られたテーマとは

© 2021 Marvel

『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』メイキングが公開

Disney+で配信されているドキュメンタリー・シリーズ『マーベル・スタジオ アッセンブル』で、『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』のメイキング映像「ファルコン&ウィンター・ソルジャーの裏側」公開された。約60分におよぶドキュメンタリーで、各キャラクターの背景や作品のコンセプト、コロナ禍における撮影の苦労が余すことなく紹介された。

その中でも、とりわけ時間を割いて紹介されていたのが、『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』で描かれた“アメリカの黒人”をテーマに据えたメッセージだ。製作陣や主人公サムを演じたアンソニー・マッキーらがそれぞれの言葉で同作の意義を紹介している。

ネタバレ注意
以下の内容は、ドラマ『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』およびメイキング映像「ファルコン&ウィンター・ソルジャーの裏側」の内容に関するネタバレを含みます。

キャストと製作陣が語る

『マーベル・スタジオ アッセンブル』第2話「ファルコン&ウィンター・ソルジャーの裏側」では、撮影現場の裏側だけでなく作品のテーマについても語られた。『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』は、かねてより“キャプテン・アメリカの盾の継承”をテーマにしていると伝えられていたが、それは黒人がアメリカのイコン(象徴)になることの複雑さを6時間かけて描くということだった。

原案・脚本を手掛けたマルコム・スペルマンは、「何の葛藤もなく黒人男性に盾を引き継がせることは、ファンに対しても、人間としても不誠実だと感じました」と語り、「“アメリカの黒人”が何を意味するか探求する」ことがテーマだったと語った。

サムを演じたアンソニー・マッキーも「この社会で黒人男性が成功するためには、多くの状況、方法、現実を生き抜かなければいけません。常に同じ態度でいるわけにはいきません。二面性を持った厳しい現実を生きるんです」と、アメリカで黒人として生きることの困難さについて話している。

現実の社会を反映

更に、アンソニー・マッキーは、『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』の撮影が進められた2020年春という時期にも言及する。それは世界でパンデミックが広がっていった時期でもあり、ジョージ・フロイドが殺害され、BLM(ブラック・ライブス・マター)運動が急速な広がりを見せた時期でもあった。この時期について、アンソニー・マッキーは「アメリカの黒人であることの大変さを証明しました。しかし、それは黒人にとって目新しい経験ではありません」と語る。『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』第2話には、サムが白人警官から言いがかりをつけられるシーンも挿入されている。

マルコム・スペルマンは『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』で、アンソニー・マッキー自身の出身地でもあるアメリカ南部のルイジアナをサムの出身地として設定。エンディングテーマ曲も「ルイジアナ・ヒーロー」と題されている。南部は歴史的に苛烈な黒人差別が続いてきた場所だ。アメリカで「黒人のヒーロー」が誕生するまでの過程を“出身地=ホーム”から丁寧に描き出したのだ。このように、自分が育ってきた社会からの排除と軋轢を描く手法は、アフリカのワカンダを舞台にしたMCU初の黒人ヒーロー映画『ブラックパンサー』(2018) ではできなかったことだ。

また、難民の出身であるカーリ・モーゲンソウについて、マルコム・スペルマンは「現代の人々の気持ちを汲み取れる設定にしたかったんです」と説明。パンデミック前にも「人々が抱く感情は悪化の一途でした。黒人は常に人生が不正に操作されていると感じているし、トップに立つ人々は無責任になっている」と、排外主義と白人至上主義の台頭に覆われたトランプ政権下のアメリカの状況を示唆した。故に、カーリを「ヒーローとして描きました」と話し、カーリがただのヴィランであることを否定している。

疑問に正面から向き合う

プロデューサーのゾーイー・ナーゲルハウトは、実写で現実世界と重ね合わせて描くという作業において、「“なぜ”という疑問を持つことが重要」と語る。なぜサムがキャプテン・アメリカになるのか、キャプテン・アメリカでなくてはいけないのか、そうした疑問に正面から向き合ったのが『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』という作品だったのだ。

ネイト・ムーアは、原作コミックでも描かれた最初の“黒人のキャプテン・アメリカ”であるイザイア・ブラッドリーについて言及。イザイアの存在が物語を豊かにしたと解説されている。歴史を通して現在の社会が抱える問題に触れ、「黒人はヒーローになるべきか」と、黒人の登場人物が自らに問う展開を経ることで、様々な人々の様々な感情を無視することなく、「黒人のキャプテン・アメリカ」の誕生を実現したのだ。

また、『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』最終話のサムのスピーチは、マルコム・スペルマンとアンソニー・マッキーが電話で話した内容であることが明らかにされている。あのスピーチがコロナ禍にある私たちに届けてくれたメッセージについては、こちらの記事で解説している。

最後にアンソニー・マッキーは、自分の子どもがテレビをつけて「黒人のキャプテン・アメリカ」を見ることについて「感慨深いです」と表現した。アメリカの歴史と現在に正面から向き合うという壁と、パンデミックという物理的な壁を乗り越えて完成した『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』は、確かに「黒人はキャプテン・アメリカになれる」という確固たるメッセージを届けてくれた。「ファルコン&ウィンター・ソルジャーの裏側」で見えた製作陣とキャストの覚悟が、本作を現代アメリカ最高の作品の一つとしたと言っても過言ではないだろう。

『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』はDisney+で独占配信中。2021年4月30日(金) からはドキュメンタリーシリーズ『マーベル・スタジオ アッセンブル』にて、メイキング映像「ファルコン&ウィンター・ソルジャーの裏側」が配信されている。

Disney+

『ブラックパンサー』のキルモンガーから『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』のカーリへと引き継がれたストーリーについては、こちらの記事で。

メイキングでも触れられたパワー・ブローカーについてのネタバレ考察はこちらの記事で。

『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』シーズン2の考察はこちらから。

齋藤 隼飛

社会保障/労働経済学を学んだ後、アメリカはカリフォルニア州で4年間、教育業に従事。アメリカではマネジメントを学ぶ。名前の由来は仮面ライダー2号。編著書に『プラットフォーム新時代 ブロックチェーンか、協同組合か』(社会評論社)。
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