【連載】Kaguya Book Review第6回 ケヴィン・ブロックマイヤー『いろいろな幽霊』 | VG+ (バゴプラ)

【連載】Kaguya Book Review第6回 ケヴィン・ブロックマイヤー『いろいろな幽霊』

Kaguya Book Review、第6回は『いろいろな幽霊』

月に一冊ずつ、新刊・既刊問わず素敵な翻訳作品を紹介するKaguya Book Review。第6回は、ケヴィン・ブロックマイヤー著・市田泉訳の幽霊だらけな掌編集『いろいろな幽霊』をご紹介します。

ケヴィン・ブロックマイヤー/市田泉訳『いろいろな幽霊
(東京創元社、2024/4発売、本体価格2,400円+税)

 

人間がたくさん!もうたくさん!

ここで生きていると、ここは東京なのだけれど、どんなにひとりになりたくてもひとりになることはほぼ不可能だ。集合住宅の一部屋である自室の、壁を挟んだ上にも下にも横にも人が住んでいるし、夜の公園で散歩をしようにも、夜の公園には人がたくさんいる。遠出をして海や森へ行き、ひととき視界から人間を消し去ったとしても、帰りの電車は満員だ。人間がたくさん!もうたくさん!という気持ちになって、幽霊がたくさん出てくる『いろいろな幽霊』を手に取った。

いろいろな幽霊のさまざまな在り方

『いろいろな幽霊』には、ほんとうにたくさんの幽霊が出てくる。物語の数としては100個(100話収録の掌編集というのもすごい話である)だけれど、少なくないお話が幽霊で混雑している。本全体に出てくる幽霊の数を数えようとしたけど、20話目で早々に「幽霊の雨」(「空から降ってくるもの」)が出てきたので諦めた。
そして、それぞれの物語に、リアリティがある。幽霊のお話にリアリティというのも不思議な話だが、「ああ、そういう在り方の幽霊もいるだろうね」という説得力がどの掌編にもあるのだ。怖い幽霊もいれば、人間に怯える幽霊もいる。空気のような幽霊もいれば、人間っぽい幽霊もいる。というか、死んだことに気づかず、日常生活や口論や死の直前にやっていたことを続けている幽霊が、けっこう出てくる。人間は案外あっけなく死ぬから、死んだことに気づかない人が意外といるのかもしれないと思うと、納得だ。
ある物語と別の物語で、幽霊の在りかたが対立することもある。そういうときにも、どちらかが嘘っぽいわけでもないので、「まあ、幽霊だしな」と思わされてしまう。

それぞれの短編のあいだに関連性はないので、どこから読んでも大丈夫。頭から読んでももちろんいいし、「幽霊と運命」「幽霊と視覚」などのセクションごとに分けられて並んだタイトルから直感で選んでもいいし、巻末にはキーワードから引ける(著者は「不完全な」と言っているけれど)便利で愉快な
索引もついている。なんとなく共通していそうなのは、幽霊は時間的にも空間的にも広がりを持った存在だということ。幽霊たちは生前の小さな心残りを永遠に繰り返していたり(「注目すべき社交行事」)、過去に向かって成長したり(「中間地点」)、あの世へと現世の色を持ち去ったり(「いっしょに連れていく」)、遺してきた愛する人と体臭で抱擁をかわしたり(「〈香り│ブーケ〉)、コマ撮りアニメ状に移動したり(「ファンタズム対スタチュー」)、罪人の魂を集めすぎた悪魔によって小銭扱いされたり(「666」)、霊の見える娘との別れの機を逸したり(「非凡な才能」)している。幽霊のあり方には本当にいろいろあるし、生きている人間とは色んな意味で異なっているし、違うから得体がしれなくて怖い部分だってあるけれど、まったくもう、まるで人間じゃないか、と感じるような部分もある。幽霊にもこんなにたくさんの在り方があるんだから、人間ももっとたゆたうように、それぞれが曖昧なままに過ごしていてもいいんじゃないか、と思わせてくれる。

どうせ孤独にはなれないなら

私が死んだら、どんな人生、もとい幽霊生活を送ることになるのだろう。いい感じの素敵な幽霊になれるだろうか。怖い幽霊もいいな。傍からみたら間抜けだけど自分にとっては切実な、なんらかのくびきに囚われてしまうかもしれないけれど、それはちょっと嫌だな。どちらにせよ、あの世にもおそらく他者がたくさんいて、死んだからってひとりにはなれそうもない。そのことに寂しさをおぼえながら、人間がたくさんいるこの世でもう少し頑張ってみよう。もうたくさん!となってしまったら、また『いろいろな幽霊』をひらけばいいのだから。

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堀川夢

1993年北海道出身。編集者、ライター。得意分野は海外文学。「岸谷薄荷」名義で翻訳・創作も行なう。フェミニスト。

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