Kaguya Book Review特別編 坂崎かおる『嘘つき姫』 | VG+ (バゴプラ)

Kaguya Book Review特別編 坂崎かおる『嘘つき姫』

Kaguya Book Review特別編!『嘘つき姫』

3月27日の発売以来各所で話題を呼んでいる坂崎かおる『嘘つき姫(河出書房新社)。Kaguya Planetにもゆかりの深い著者である坂崎さんの単著デビューを記念して、Kaguya Book Review特別編をお届けします。

坂崎かおる『嘘つき姫』(河出書房新社、2024/3発売、本体価格1,700円+税)

物語を読む喜び

 第一回かぐやSFコンテストで審査員特別賞を受賞した「リモート」を皮切りに、コンテストや文芸誌、またアンソロジーなどで活躍する作家、坂崎かおる。満を持して刊行される作品集『嘘つき姫』には、日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト・日本SF作家クラブ賞受賞作、百合文芸小説コンテスト・大賞受賞作、『SFアンソロジー新月/朧木果樹園の軌跡』(Kaguya Books)や『スピン』(河出書房新社)など媒体掲載作、また書き下ろしの作品など全9編が収められている。物語を読む喜びを存分に味わえる名作揃いだ。

物語と文体の絶妙な距離と、心に真っ直ぐ刺さる問いかけ

19世紀末、電気の発明に沸くニューヨークを舞台に、死ねない魔女と女性電気技師の連帯を描いた「ニューヨークの魔女」、1962年の農村で奴隷扱いされている存在〈D〉のひとりと心をわずかに通わせる少年を描く物語「ファーサイド」、軍用ロボットをかばって死んだ若い米軍兵士が本当に守ろうとしたものの謎をひもとく「リトル・アーカイブス」、事故で体が動かなくなり、〈ロボット〉で学校に通う少年の真実に迫る「リモート」、パートナー同士の女性二人がひょんなことからAR赤ちゃんを育てることになる「私のつまと、私のはは」、歯科医師の語り手、友人のあーちゃん、語り手の母親の歯をめぐる語り「あーちゃんはかあいそうでかあいい」、電信柱を切断する仕事をしている人がとある電信柱を愛した「電信柱より」、ドイツ占領下のフランスで、女性たちが誰かのためについたかずかずの嘘の物語「嘘つき姫」、そして、小学校のプランターに爪を植える不思議な掌編「日出子の爪」。

どの作品でも、真ん中からはじきだされてしまうものが自分らしくあろうとするための営みや戦いを描いているが、その筆致は過剰な感傷を排しつつ、確かな慈しみを持っている。この絶妙な距離感はどこから生まれているのだろう。

「ニューヨークの魔女」の語り手は、死に場所を探す不死身の魔女と寡黙な電気技師のそばにいて、サーカス団でふたりといっしょに電気椅子ショーを上演する電気技師の甥だ。電気をめぐる狂騒と、二人の女性の世界に対する抵抗の眼差しを見ている。また「電信柱より」は、(かなり三人称に近い部分もあるが)くだんの電信柱の横の敷地に建つ家の住人が物語の視点人物で、「女性」の電信柱に恋をした女性に最初は怪訝な目を向けるものの、次第にこの女性と電信柱の恋の行方を暖かく見守るようになる。

坂崎は、まさに物語の渦中にいるというよりは、その横にいる人物に物語を語らせることが多い。語り手に明かされる以上の主要人物たちの内面は隠されており、読者は語り手と同じ視点で人々に心を寄せて一緒に物語を追うことになる。主要人物であるふたりの女性のうちひとりが語り手である「嘘つき姫」も、手紙や日記といった作中の文章に語らせることで、読者も語り手と同時に情報を得る作りになっている。ただ例外が「あーちゃんはかあいそうでかあいい」で、触覚や聴覚、嗅覚にダイレクトにくる生々しい描写が続き、本書所収の他の短編とはひとあじ違った幻惑的な魅力を放っている。総じて、物語と文体の適切な距離を見極めるのが、とても上手いのだろう。

 ただ、短編集『嘘つき姫』の魅力はそれだけではない。

冷静で安定した文章のなかに、人間や社会の本質に迫ろうと試みるような、極めて印象深い台詞や一節がしばしば潜んでいる。たとえばそれは「ファーサイド」の結末の向こう側にあらわれる〈国ではなく、個人の紐帯が、物語が、世界を変える〉という一文であり、「リモート」の〈肉体と精神、どちらが優れていると思う?〉という問いであり、「私のつまと、私のはは」の〈人と人、事象と事象の関係は、波のようだと理子は考えている〉から始まる段落である。物語をたどる面白さに浸っているところに、小説と読み手の境界を踏み越えてまっすぐに心に刺さってくる衝撃。いちど味わうと、次のページでも、次の作品でも、と何度もその体験をしたくなってしまう。

海外文学読者にもおすすめ

普段海外文学をよく読んでいて、日本の作家の作品はあまり読まない……という人にも、『嘘つき姫』をぜひおすすめしたい。カレン・ラッセルやローレン・グロフのような凄みのあるストーリーテラーが好きな読者は、きっと坂崎の作品のファンになるだろう。世界の読者が坂崎を見つける日が楽しみだ。

 

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堀川夢

1993年北海道出身。編集者、ライター。得意分野は海外文学。「岸谷薄荷」名義で翻訳・創作も行なう。フェミニスト。

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