Drabbleに注目
日本から二つの“Drabble”が、英語誌に掲載された。Drabble (ドラブル) とは、英語で100ワードちょうどで綴られた文学作品のことで、1980年代にイギリスのSFファンダムから生み出されたジャンルだ。今回、日本からDrabbleに生まれ変わった作品は、勝山海百合の「竜岩石」と紅坂紫の「ケサランパサラン」。両作品をDrabbleに“翻訳”したのはToshiya Kameiで、若干のアレンジを加えつつ、100ワードちょうどの英語作品に仕上げている。
第二回『幽』怪談文学賞で短編部門優秀賞を受賞した勝山海百合の「竜岩石」は、英Fortnightly Review誌に掲載された。Fortnightly Reviewは1865年に創刊された歴史ある文芸誌の精神を継いで2009年に開設されたオンライン誌。「竜岩石」は原稿用紙約30枚の短編小説だったが、Toshiya Kameiが100ワードのDrabbleに仕立て直したものが「Dragon Rock」として掲載された。
なお、Fortnightly Reviewには同時に、『みちのく怪談傑作選2011』(2013) に収録された800字以下の“てのひら怪談”「山の人魚」が「One Last Shriek」として、ブンゲイファイトクラブのオープンマイクで公開された約400字の「純金」が「Pure Gold」として、同じくToshiya Kameiの翻訳で掲載されている。
Three Micro-Fictions by Umiyuri Katsuyama
「竜岩石」は『竜岩石とただならぬ娘』(2008) 所収、「山の人魚」は勝山海百合のブログで、「純金」はブンゲイファイトクラブのオープンマイクにて「008番」で公開されている。
紅坂紫の「ケサランパサラン」は「Kesaran-Pasaran」として、A Story In 100 Wordsに掲載。同誌は毎平日にDrabbleを一作品ずつ掲載しているオンライン誌で、2009年12月から10年以上にわたって運営されている。紅坂紫は11月にも、「Under the Cherry Blossom Tree」がNew World Writingに掲載されたばかり。こちらもToshiya Kameiが原作「桜の木の下で」を100ワード以内に翻訳した作品である。
また、Toshiya Kamei自身が執筆したDrabble「Skyward」も12月13日(日)に掲載された。こちらも、伝説の鳥を題材にした素敵な作品だ。
紅坂紫は「超短編小説」として220字~240字の作品をカクヨムで公開している。勝山海百合と同じく、紅坂紫もブンゲイファイトクラブのオープンマイクには55番「夏の庭、あるいは遺言」で参加。ニュースターが短編小説の舞台で輝きを放っている。
なお、Insigniaが2020年4月にKindleで刊行した『Japanese Fantasy Drabbles』はDrabble 79作品を収録した作品集で、Toshiya KameiがDrabbleに翻訳した樋口恭介、高井ホアン、たなかなつみの作品が収録されている。
日本でも、2020年12月9日(水)に発表された第41回日本SF大賞最終候補に北野勇作の『100文字SF』がノミネートされた。北野勇作がジャンルとしての定着を提案した約100字の文学 “マイクロノベル” は瞬く間にTwitter上に広がり、プロアマ問わず様々な書き手がハッシュタグ「#マイクロノベル」を使用して次々と作品を発表している。
紙幅に束縛されないウェブ媒体にフィットしたこれらのジャンルが、文学に新たな可能性を開いている。