Contents
『ザ・フラッシュ』2023年6月16日世界同時公開
「シャザム」シリーズ主演のザッカリー・リーヴァイの物議を醸す不謹慎発言に、パティ・ジェンキンス監督やワンダーウーマン役ガル・ガドットらが意気込みの投稿直後に『ワンダーウーマン3』がキャンセルされ、さらには『ザ・フラッシュ』(2023)の原作とも言うべき『フラッシュ・ポイント』で重要な役割を持つサイボーグ/ヴィクター・ストーン役のレイ・フィッシャーがスタジオを告発後に去るなど、トラブルの絶えないDCEU(DCエクステンデッド・ユニバース)。
そのDCEUをリセットし、新たなDCU(DCユニバース)に変える『ザ・フラッシュ』の新予告が2023年4月26日に公開された。予告編の内容は日米で異なっており、原語版の予告編の方が長い。『ザ・フラッシュ』は前述の通り、原作コミックにおいて世界を再構築(リランチ)することになった『フラッシュ・ポイント』を下敷きにしていると思われ、これを機にDCUは文字通りすべてが変わるとされている。
その一方、フラッシュ/バリー・アレン役を務めるエズラ・ミラー自身が暴行、強盗、子供への不適切行為、グルーミング(子供への性犯罪などにおいて、巧みに被害者の心をつかんで接近する準備行動、幼い子どもの従順さや思春期特有の悩みにつけ込み、被害者と信頼関係を結ぶこと)などの告発がされており、これを機にフラッシュ/バリー・アレンのリキャストの噂も囁かれている『ザ・フラッシュ』。
本記事では『ザ・フラッシュ』の新予告で公開された情報をもとに見どころや考察、そして解説をしていこうと思う。なお、本記事の内容は公式から発表されている範囲のキャラクターの設定に関する情報を含むので、情報を入れずに鑑賞したいと思われている方は注意していただきたい。
なぜ彼らは犯罪者と戦うのか
ヒーローたちの過去
『ザ・フラッシュ』の物語の核となるのは「ヒーローたちの過去」であることは前回の予告編からも読み取れる。そもそも、フラッシュ/バリー・アレンが超高速のヒーロー、そして警察の科学捜査官として働く理由は母親のノラ・アレンを殺害した罪で収監されている父親のヘンリー・アレンの無実を証明するためだ。
まだフラッシュ/バリー・アレンは若く、父親の無実の証明のために科学を学び、ヒーロー活動にいそしんでいるが、父親であるヘンリー・アレンからは過去に囚われずに前に進めと言われている。しかし、フラッシュは前、つまりは未来ではなく後ろの過去に進み、歴史を変えてしまう。過去に囚われ、そのトラウマを払拭するためにヒーロー活動をする人物として描かれているのが特徴的だ。
英語版予告では、歴史を変えてしまったことと共にバリー・アレンたちヒーローが過去に囚われてしまい、未来へと前進できずにいる人物であることを強調した場面や台詞が散りばめられている。特にその代表格が路地裏で強盗に銃で両親を殺されたバットマン/ブルース・ウェインだ。
過去、現在、未来
そして、今回目玉となるサプライズ・キャストの二人のバットマン/ブルース・ウェインも過去に囚われたままの人物として描かれている。当初こそ、ティム・バートン監督作『バットマン』(1989)のマイケル・キートン演じるバットマン/ブルース・ウェインの名台詞「I am Batman」や「Let‘s Get Nuts」などが注目されたが、新予告では白髪を伸び放題にした世捨て人のような姿のマイケル・キートン版バットマン/ブルース・ウェインが登場している。
そして、『ザ・フラッシュ』でバットマンから卒業することを発表しているベン・アフレックの演じるバットマン/ブルース・ウェインは自分たちの抱える心の傷と自分自身を見つめ直すように忠告している。ベン・アフレック版バットマンは『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(2016)の時点で自分に課したルールを変更して犯罪者に焼き印をつけるなど、スーパーマンとゾッド将軍の戦いと被害を目の当たりにして以降、暴力に歯止めができなくなっている姿が描かれている。
ここでバットマンとフラッシュが双方とも両親を同時に失い、そのトラウマを帳消しにしようと犯罪者との戦いの身を投じるという同じ境遇の人物であることが明らかにされている。バリー・アレンと二人のブルース・ウェインは両親の喪失というトラウマと過去に囚われた人物が青年、中年、初老と時間と共に変化していく流れが読み取れるようになっている。
バリー・アレンは母親が殺害され、父親が無実の罪で服役したことで両親を一日で同時に失ったと英語予告版では語られている。超音速のヒーローのフラッシュと犯罪への復讐に燃えるバットマン。バリー・アレンにとってはブルース・ウェインは未来であり、ブルース・ウェインにとってはバリー・アレンが過去であることを想起させる場面が見受けられる新予告。バリー・アレンとブルース・ウェインが互いを救えるのかにも注目だ。
崩壊する時間軸とバリー・アレンの心
過去とトラウマに執着したままのバリー・アレンはとうとう「フラッシュ・ポイント」、つまりは母親のノラ・アレンを助けるという時間軸の改変を引き起こしてしまうのだが、それによって一つの宇宙にバリー・アレンが二人存在することなり、スーパーマンは消失、バットマンはDCEUのベン・アフレック版バットマンとアース-89と思われるマイケル・キートン版バットマンの二人が存在してしまっている。特に二人のバットマンは新予告の最後で異なるバットマンのシンボルが特徴的に描かれている。
原作の『フラッシュ・ポイント』では母親のノラ・アレンが死なず、父親のヘンリー・アレンが無実の罪で服役しなかったことにより、バリー・アレンはフラッシュではない未来を生きることになる。それによってスピードスター(超高速で動けるキャラクターたちの総称)ではなくなってしまう。
しかし、コミックではバリー・アレンはフラッシュとしてスピードを取り戻すために、スピードを得た瞬間を再現すべくもう一度落雷に遭い、薬品を浴びようとする。この場面は新予告でも描かれているが、新予告では二人のバリー・アレンが様々な方法で苦悶に満ちた表情で雷を浴びている姿が描かれている。
『フラッシュ・ポイント』では時間改変により、アクアマン率いるアトランティスとワンダーウーマン率いるアマゾネスが戦争を起こし、ヨーロッパを海底に沈めている。コミックでは戦争を食い止め、本来の時間軸に戻すべく、フラッシュ/バリー・アレンは失敗を繰り返しながらもスピードを取り戻そうとするのだが、新予告では本来の時間軸に戻そうとするバリー・アレンと母親を含めて誰一人犠牲者を出さない道を模索するバリー・アレンの自問自答が描かれており、バリー・アレンの精神的な危うさが垣間見える。
深まる謎
フラッシュのコスチュームの変化
『ジャスティス・リーグ』(2017)の時点では、フラッシュのコスチュームはバットマン/ブルース・ウェイン曰く「二酸化ケイ素のファブリック、耐摩耗、耐熱性、スペース・シャトルの素材だ」と評されるSFチックなデザインだったが、『ザ・フラッシュ』ではコミック寄りのタイツに近いものに変更され、目元にもゴーグルが装着されている。
更には、もう一人のバリー・アレンはアース-89のバットマンを思わせるマッシブなスーツを身にまとっており、デザインも全く異なっている。また、二人のバリー・アレンの稲妻の色も異なっているのが特徴的だ。時間改変以前のタイツに似たスーツを着たフラッシュは黄色い稲妻を放ち、もう一人のフラッシュは青白い稲妻を放っている。『ジャスティス・リーグ』の時点ではフラッシュの放つ稲妻は青白かったため、コスチュームと合わせて何があったのだろうか。
日本語版予告と英語版予告ではこのコスチュームについて描写に差があり、日本語版予告では冒頭でコミカルながらコミック寄りのタイツに似たスーツを見せ、戦闘場面ではそのスーツを着たフラッシュと並んでアース-89のバットマンに似たスーツを着たフラッシュが対比的に描かれている。
稲妻の色
高速移動時に体から放たれる稲妻の色はスピードスターにおいて重要な意味を持っている。ドラマシリーズのアローバース版『THE FLASH/フラッシュ』(2014-2023)で登場する未来に存在するフラッシュの偉業を称える博物館「フラッシュ博物館」のスピードスターの解説では、以下のように分類されている。
フラッシュことバリー・アレンやキッド・フラッシュことウォリー・ウェストなどは黄色。ネガティブ・タキオンなどを利用し、高速移動を行ってバリー・アレンの母親を殺害したリバース・フラッシュことイオバード・ソーンたちは赤色。バリー・アレンの妻であるアイリス・ウェストや娘のノラ・ウェスト・アレンことエクセスは紫色。そして、「ベロシティ9」というスピード増強剤に依存しているズームことハンター・ゾロモンやゴッドスピードたちは青白い色となっている。
『ジャスティス・リーグ』以降、なぜコスチュームと稲妻の色が変わったのか。そしてもう二人のバリー・アレンの稲妻の色が違うのはなぜなのか。この点に関しても謎は深まるばかりだ。ここまでのことと合わせて新予告で『ザ・フラッシュ』全体の謎が深まったと言っていいだろう。
『フラッシュ・ポイント』後のDCUの未来
DCとワーナー・ブラザーズ・ディスカバリーは「『シャザム~神々の怒り~』(2023)の興行成績が予想を下回ったのは『ザ・フラッシュ』によるリセットで続編が期待されなくなったからではないか」と考えながらも、その反面で「DCU全体はこの『ザ・フラッシュ』によって良い方向になる」と考えていることが一部で報道されている。
事実、DCUのリランチの計画は着実に進んでおり、DCU10年計画第1章『神々と怪物』でジェームズ・ガン共同CEOが脚本を執筆する『クリーチャーコマンドー(原題:Creature Commando)』のキャストも続々と決定している。
主人公のフランケンシュタインの花嫁を『ゲーム・オブ・スローンズ』(2011-2019)のエラリア・サンドや『オビ=ワン・ケノービ』でターラを演じたインディラ・ヴァルマ、花嫁の表向きのパートナーであるエリック・フランケンシュタインに『ストレンジャー・シングス』(2016-)でジム・ホッパーやMCUでアレクセイ・ショスタコフ/レッド・ガーディアンを演じるデヴィッド・ハーパー、リック・フラッグ・Sr.にはMCUでブロック・ラムロウ/クロスボーンズを演じたフランク・グリロ、更にはショーン・ガンがイタチのヴィーゼルを再演することも発表されている。
また、『ザ・フラッシュ』で問題行動を繰り返すエズラ・ミラーをリキャストし、アローバースでバリー・アレンを演じたグラント・ガスティンを再起用するという噂もあがっているが、こちらはグラント・ガスティン自身によって否定されている。しかし、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』でキャスト陣が再登場を隠していたことからファンからは未だに再起用される可能性があるのではと疑われている。
他にもスーパーガールたちクリプトン人たちの描写も英語版予告と日本語版予告で異なり、どこか英語版予告の方がダークな印象を抱かせる『ザ・フラッシュ』。今回の『ザ・フラッシュ』によってDC全体の未来がどう変わるのか。映画と同じようにどちらもわからない上、謎は深まり、憶測が憶測を呼んでいる状況だ。それらも踏まえて、DCUの今後の展開に注目していきたい。
映画『ザ・フラッシュ』は2023年6月16日(金) 世界同時公開。
『ザ・フラッシュ』のヴィランとスーパーガールについての解説&考察はこちらの記事で。
DCU最初の映画となる『ブルービートル』予告の解説&考察はこちらから。
『ザ・フラッシュ』公開までの経緯のまとめはこちらから。
DCU10年計画『神々と怪物』の全作品の紹介はこちらから。
ヘンリー・カヴィルのスーパーマン降板に関する経緯はこちらから。