「踊る大捜査線」鳥飼誠一はどうなった?
1997年に放送されたドラマ『踊る大捜査線』から様々な人気キャラを生み出してきた「踊る」シリーズ。当時「踊る大捜査線」最終作とされた『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』(2012) から12年、『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』の二部作でシリーズは再開し、物語は再び動き始めている。
今回は、後期の「踊る大捜査線」で印象的な姿を見せた小栗旬演じる鳥飼誠一について解説&考察してみよう。鳥飼はどんな道を歩み、今後どうなっていくのだろうか。なお、以下の内容は『踊る大捜査線 THE FINAL』と『室井慎次 生き続ける者』の結末に関するネタバレを含むので、両作を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』『室井慎次 生き続ける者』の結末に関するネタバレを含みます。
Contents
ネタバレ解説『踊る大捜査線』鳥飼誠一とは誰か
29歳だった鳥飼誠一
小栗旬演じる鳥飼誠一が初めてシリーズに登場したのは映画『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』(2010) でのこと。舞台は2010年3月で、鳥飼の生年月日は小栗旬と同じ1982年12月26日に設定されているので、鳥飼は当時29歳ということになる。ドラマ第1話の織田裕二演じる青島俊作が29歳だったので、刑事なったばかりの頃の青島と同じ歳という設定だったのだ。
そんな若き日の鳥飼誠一は、現実には存在しない管理官補佐という役職のキャリア官僚として登場。室井慎次は『容疑者 室井慎次』(2005) で広島県警に飛ばされた後、警察庁に異動になっており、『THE MOVIE 3』では鳥飼は室井と同期の一倉管理官の補佐を担っている。ちなみに一倉を演じる小木茂光は、室井役の柳葉敏郎が所属していたパフォーマンス集団・一世風靡セピアのリーダーを務めていたことで知られる。
『THE MOVIE 3』の鳥飼はサーバントリーダー、つまり調整役として現場の青島と共に行動する。湾岸署から拳銃3丁が盗まれ、連続殺人が起きる中、犯人グループから青島が逮捕してきた犯罪者たちの釈放を要求される展開に。犯人グループとの交渉は『THE FINAL』で鳥飼の共犯者になる小池が担当している。
2012年を舞台にした『踊る大捜査線 THE FINAL』では、鳥飼の姪が犠牲になった「6年前の事件」が取り上げられたが、『THE MOVIE 3』の時点で少女誘拐殺人事件から4年が経過している。つまり、『THE MOVIE 3』の時点で小池と鳥飼はすでにキャリアの判断で現場の操作が歪められる痛みを共有しており、その上で犯人グループとの交渉に挑んでいたということである。
鳥飼は『THE MOVIE 3』で無期懲役で収監されている日向美奈子と面会し、その後、罠にかかって左目を失明してしまう。そして、犯人グループの要求に応じて釈放する犯罪者たちを即時射殺することを決めており、警察上層部に対するのと同じくらい強い憎悪を犯罪者に向けていることが分かる。その背景には、姪を殺されたという過去があったことが『THE FINAL』で明らかになるのだ。
「踊る」的エリートな鳥飼
故に鳥飼は日向真奈美の射殺と殉教を阻止した室井と青島を憎むようになる。『踊る大捜査線 THE LAST TV サラリーマン刑事と最後の難事件』(2012) のラストでは、室井に「あなたがしてきたことは偽善だ」と言い放っている。
『THE LAST TV』では国際指名手配犯による殺人事件が発生し、鳥飼は管理官として湾岸署に登場する。青島が王さんの結婚式場を舞台にして指名手配犯を逮捕することを提案すると、鳥飼は室井から青島の判断力に賭けてみるかと問われ、その判断は正しいのかと聞き返した。室井は「責任を取る覚悟があれば」と挑発したが鳥飼にはその判断が下せず、結果、室井が責任を取ることになった。
ちなみに「踊る」映画では最後に室井が秋田弁で青島に言葉を投げかけるのが恒例となっているが、『THE LAST TV』のラストでは室井は「偽善だ」と言い放った鳥飼に秋田弁で「へばなすたっちゃ(だからどうした)」と声をかけている。
互いを信じて理想に向かって突っ走るキャリアと現場の刑事。鳥飼にはその二人への嫉妬心のようなものもあったのかもしれない。思えば鳥飼は、青島とコンビを組み、青島の運転で現場に向かい、室井から青島を信じるかとトスをあげてもらい、秋田弁で言葉をかけてもらうという「踊る」的エリート街道を進んでいた。だが、上層部の判断ミスで幼い親族が殺されたという事件が、どうしても鳥飼の心を掴んで離さなかったのだろう。
鳥飼の計画は成功した?
『踊る大捜査線 THE FINAL』では、6年前に鳥飼の姉の娘が誘拐され殺された事件の犯人が無罪になったこと、池神長官がその事件すら忘れており鳥飼の意見書を意に介さなかったことから鳥飼は実力行使に出る。6年前の事件で上層部の指示を飲んだ真下正義の部下だった小池、現場の刑事で鳥飼の姉を献身的にサポートしたが援助を打ち切るよう指示された久瀬と共に、事件で無罪判決を受けた被疑者の殺害と、署長になった真下の息子の誘拐を実行したのだ。
だが、鳥飼にとっては青島と室井がタッグを組んだことが誤算だった。室井は警察庁の人間なのでもう事件の管理官にはならないはずだったが、警察上層部は冤罪事件の責任を取らせるために室井を事件本部に送ったのだ。そのおかげで青島と室井の化学反応が再び湾岸署で起きることになり、事件は解決へと向かっていった。
それでも警察庁長官と次長は辞職に追い込まれ、鳥飼は逮捕される直前に警察上層部の告発文をマスコミに送付してリークした。室井を委員長とする組織改革推進委員会も設置され、鳥飼の狙いは果たされたようにも思える。
「室井慎次」二部作で明かされたその後
5年後に出た答え
警察と刺し違える覚悟で実行された鳥飼の計画だったが、その10年後を舞台にした映画『室井慎次 敗れざる者』では、組織改革推進委員会が5年で解散させられたことが明らかになった。回想シーンでは、室井は警察庁長官補佐の坂村から「組織なんてそう簡単に変わるものではない」という長官からの伝言を伝えられ、「5年もやったんです、もういいでしょう」と言われて交通局担当への異動を言い渡された。
室井は交通局担当として3年勤めた後に警察を退職しており、警察改革は道半ばで敗れた。室井自身も「青島との約束を果たせなかった」と悔やんでいるのだ。つまり、鳥飼誠一の告発をきっかけに始まった改革は頓挫したということだ。「室井慎次」二部作では室井のその後だけでなく、鳥飼計画の最終結果も示されたことになる。
この結果は、罪のない人を巻き込んで誘拐事件を起こし、改革を訴えても本当の解決には辿り着けないという教訓を示しているように思える。トップをすげ替えても、新長官の言う通り「組織なんてそう簡単に変わるものではない」のだ。
一方で、この結果を見ると、『THE FINAL』の終盤で鳥飼が室井に言った「もう時間がない」「こんな組織にまだいるつもりですか?」という言葉の重みが変わってくる。室井は5年というタイムリミットで改革を完了することができなかったし、実際に「こんな組織」を辞めることになった。室井の心のどこかには鳥飼の言葉が残っていたとも考えられる。
今後はどうなる?
警察組織に変革がもたらされなかった以上、鳥飼が再び動き出す可能性も考えられる。『室井慎次 生き続ける者』では、小泉今日子演じる日向真奈美が再登場を果たし、獄中から室井を苦しめた。“ヴィランの帰還”をやってくれるのが「踊る大捜査線」シリーズであり、鳥飼が獄中から再始動する可能性も捨てきれない。
『生き続ける者』では、日向真奈美のファンサイトが出来ており、悪のカリスマのような立場になって信者を抱えていることが明らかになる。鳥飼も警察の腐敗を告発した、いわばダークヒーローであり、SNSの時代に陰謀論が広まると共に鳥飼支持者が増えていても不思議ではない。
久瀬は二人を計画的に殺したようなので死刑になる可能性もある。死刑確定まではかなり時間がかかる上、判決から執行までの期間もばらつきがある(2022年の法務省の発表によると、過去10年の平均は約7年9ヶ月)。久瀬の裁判に動きがあれば、鳥飼も動き出すかもしれない。
厄介なのは、日向真奈美と鳥飼誠一の共闘だ。鳥飼は『THE MOVIE 3』で青島と共に日向真奈美と面会しており、青島から「目見ない方がいいっすよ」と忠告されている。青島は感覚的に日向真奈美と鳥飼誠一が共鳴する危険性を察知していたのかもしれない。
「バットマン」で言えば悪のカリスマであるジョーカーと、法に裏切られて悪に堕ちたトゥーフェイスという立場の日向真奈美と鳥飼誠一。『室井慎次 生き続ける者』では日向真奈美に続き青島俊作もカムバックを果たしたが、『THE MOVIE 3』のあの中庭で話をした三人が再会することはあるのだろうか。
【考察】鳥飼を止めるのは?
新城・沖田と鳥飼
「踊る大捜査線」再始動にあたって脅威となる鳥飼誠一の存在。室井が去った今、そんな鳥飼を止めてくれる人物として期待したいのが新城賢太郎と沖田仁美だ。鳥飼は他の多くの警察官僚と同じく東大法学部卒という設定になっている。新城と沖田の後輩にあたるが、二人はこれまで鳥飼との絡みがない。
エリートではない青島と室井の絡みに鳥飼は疎外感を感じていたかもしれず、新城と沖田が『THE MOVIE 3』や『THE FINAL』の本編に登場していれば、鳥飼に優しく諭す役割を果たせていたかもしれない。青島は年上相手でもキャリアには下手に出て接するし、室井は不器用で後輩を叱るのが下手だ。鳥飼とようやく向き合った時には対立関係になっており、強い言葉をぶつけるしかなかった。
「室井慎次」二部作の時点で、沖田仁美は警察庁長官官房審議官になっており、新城賢太郎は秋田県警本部長になっている。鳥飼は同じ東大出身で、改革推進委員会のメンバーだったのに成果が出せなかった二人を逆恨みして事件を起こす可能性もあるだろう。
室井モデルが鳥飼を止める?
だが、『室井慎次 生き続ける者』では、新城賢太郎が室井と青島の約束を果たすために「室井モデル」を秋田県警から全国に広める構想を打ち出した。沖田とも相談したことを明かしており、かつて鳥飼が建白書(下の者から上の物への意見書)を出して警察を改革しようとしたように、ボトムアップで警察改革を進めようとしているのだ。
新城がやろうとしているのは、①青島と室井の理想を土台に、②地方からモデルケースを作り、③沖田というコネを頼って全国に広める、というかなり現実的な計画だ。長官への直談判、誘拐事件、マスコミへの告発文リークという方法をとった鳥飼とは全く異なるアプローチでキャリアと現場の警察が連携できるシステムを作ろうとしている。新城がきちんと計画を進めれば、もはや鳥飼の出番はないかもしれない。
心配なのは鳥飼の姉だ。娘が殺され、その後を支えてくれた久瀬は死刑囚、弟も捕まったとあれば、被害者遺族としても加害者家族としても苦しい立場に立たされているはず。「室井慎次」二部作では犯罪に巻き込まれた家族のケアがテーマの一つになり、室井は日向真奈美の娘・杏に向き合った。かつて雪乃に寄り添った青島が、鳥飼の姉に寄り添う展開もあり得るだろう。
鳥飼誠一は2024年11月時点で41歳。再始動した「踊る大捜査線」に小栗旬演じる鳥飼誠一は登場するのか、続報を期待して待とう。
映画『室井慎次 生き続ける者』は2024年11月15日(金) より全国の劇場で公開。
シナリオ全文と、その詳細な解説やスタッフ&キャストのインタビューで二部作の魅力を深堀りする 『室井慎次 敗れざる者/生き続ける者』シナリオ・ガイドブックは2024年11月29日(金) 発売で予約受付中。
『室井慎次 敗れざる者』と『室井慎次 生き続ける者』のオリジナル・サウンドトラックは予約受付中。
映画『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』は配信中。
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