『室井慎次 敗れざる者』公開
「踊る大捜査線」シリーズ最新作となる映画『室井慎次 敗れざる者』が2024年10月11日(金) より全国劇場で公開を迎えた。映画『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』(2012) から12年、警察を退職した室井慎次の新たな物語が動き出す。
『室井慎次 敗れざる者』では、「踊る大捜査線」シリーズから懐かしのキャラクターが続々と登場した。一方で、「踊る」シリーズから去った、いかりや長介演じる和久さんと繋がる要素も多く見られた。今回は、『室井慎次 敗れざる者』の内容の内、和久さんに繋がる内容について解説しよう。
以下の内容は、映画『室井慎次 敗れざる者』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
青島と室井/和久と吉田の約束
室井が背負った想い
映画『室井慎次 敗れざる者』では、定年まで2年となった室井慎次が警察を退職していたことが明かされた。室井はその理由を「青島との約束を守れなかった」と話すが、この室井の姿を見て、和久のことを思い出した人も多かったのではないだろうか。
1997年に放送されたドラマシリーズでは、湾岸署に青島がやってきてからベテラン刑事の和久が定年で引退するまでの物語が描かれた。和久は青島に「正しいことをしたかったら偉くなれ」と助言し、青島は警察の中で上り詰めて組織を変える仕事を室井に託した。
映画『踊る大捜査線 THE MOVIE 湾岸署史上最悪の3日間!』(1998) では、警視庁副総監の吉田敏明が誘拐される事件が発生。指導員になった和久が単独で捜査に乗り出し、吉田副総監と和久が古い友人だったことが明かされた。
かつての和久と吉田副総監は、青島と室井のような関係だった。和久が青島と同じくらいの歳の時期に所轄で殺人事件が起き、当時の吉田が管理官としてやって来た。それ以降、何度か捜査を共にしたという。二人はぶつかりながらも、ノンキャリの和久は現場で頑張って、キャリアの吉田は上に行って偉くなり現場が正しいことをできるようにするという約束を交わした。
青島と室井が交わした約束は、かつて和久と吉田が交わした約束でもあったのだ。さまざまな人の思いを背負い、それが実現できないと分かった室井は、沖田に用意された秋田県警本部長という引退の花道を辞退した。室井には単に青島との約束が果たせなかったということ以上の思いがあったのかもしれない。
“和久と吉田”になれなかった青島と室井
和久さんの無念
『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003) では、吉田副総監が再登場。室井は『THE MOVIE』の終盤で本庁幹部の指示を無視したことで北海道に左遷されていたが、吉田副総監の計らいで本庁に戻ったことが明らかになった。
『THE MOVIE2』では、吉田副総監が室井を本庁に戻したことについて和久が聞くシーンがある。この時、吉田副総監は「君との約束を果たせなかったからな」と答えている。幹部に逆らった室井を本庁に戻したのは、本庁の官僚主義を変えることができず、和久との約束を果たせなかったことへ贖罪だったということだ。
そして、和久は「まだまだ期待してる」と言うのだが、吉田は退官を決めたと明かす。それを聞いた和久も引退することを決め、「若い者に何一つしてやれなかったな」とこぼしている。室井はこの時の和久さんと吉田副総監の話を部屋の外から聞いており、『THE MOVIE 2』のラストでは、青島と室井は和久から和久と吉田の想いを託される。
確かに室井は和久と吉田の想いを実現できなかったかもしれない。けれど、『室井慎次 敗れざる者』で室井が犯罪被害者・加害者の親族を里子として預かっている背景には、「若い者に何一つしてやれなかった」という和久の言葉があったのではないだろうか。
警察組織を変えることだけが「若い者」に対してできることではない。青島との約束を果たせなかった室井だが、室井なりに和久さんの想いを引き継いでいるのかもしれない。
組織の外で想いを繋ぐこと
室井が逮捕された映画『容疑者 室井慎次』(2005) では、湾岸署の袴田課長から和久さんが室井のことを心配しているということが伝えられた。この時、室井は「青島は?」と聞き、袴田から「何やってんだ、我らの室井さんが」というメッセージが伝えられる。室井にとっては、和久と青島は共に大切な存在だったはずだ。
ドラマ『踊る大捜査線』最終話では、和久が追っていた警官殺しの容疑者が逮捕されたが、和久は容疑者を最後まで取り調べなかった。青島のような刑事がいる限り警察は死なないというのが和久の考えだった。それは、自分が達成できなくても想いを繋いでいくことができる、それが組織の強みなのだということでもある。
そう考えれば、『室井慎次 敗れざる者』で室井が秋田に帰って子ども達と向き合っているということは、組織の外でも和久の想いを繋げていくことができることを証明しようとしているのかもしれない。
実現した和久の想いとは
ドラマ第7話の助言が現実に?
一方で、実は和久さんの想いは実現したと見ることもできる。それは、『室井慎次 敗れざる者』で明らかになった青島俊作の現在と関係している。『室井慎次 敗れざる者』では、新城賢太郎から現在の青島が警視庁の捜査支援分析センターにいることが明かされた。
つまり、これまで現場の刑事として(時に交番のお巡りさんとして)活躍してきた青島が現場を離れて本庁にいることが明かされたのだ。青島が現場を離れたということは、「踊る」シリーズのファンとしてはネガティブなことのようにも思えるが、ここで思い出したいのは和久さんの「正しいことをしたかったら偉くなれ」という言葉だ。
和久は青島に更に具体的な助言をしている。ドラマ『踊る大捜査線』第7話では、和久は青島に「偉くなって警視庁に行け」と助言する。それが、30年間警察でヒラとしてやって来た和久の結論だと言うのだ。
1967年生まれの青島は、2023年頃を舞台にしている『室井慎次 敗れざる者』では55歳くらいになっている。青島も室井と同じようにキャリアの晩年を迎えた。そして、あの頃の和久とも年齢が近くなり、青島はあの時の和久さんの助言通りに警視庁に行くことになったのだ。
青島が現場を離れることになった経緯はまだ不明だ。捜査支援分析センターは監視カメラの画像解析やスマホのデータ解析を担当する部署であり、ITのバックグラウンドがあって、ドラマ第8話では科学捜査と共存していくと宣言した青島にはピッタリな部署ではある。
『室井慎次 敗れざる者』の時点で断言できることは少ない。だが、少なくとも、警視庁の捜査支援分析センターに行くという話が来た時、青島は和久の「警視庁に行け」という助言を思い出したはずだ。
それぞれが引き継いだ和久さんの想い
室井慎次を演じた柳葉敏郎は、公式パンフレットのインタビューで、青島と室井が和久さんと吉田副総監のようになれば面白いのではないかと考えていたこともあったと明かしている。
吉田副総監と和久の関係とは異なり、室井も青島もそれぞれの道を歩むことになった。だが、室井が“若い者”の面倒を見て、青島が“警視庁”に行ったという現在は、それぞれが和久さんの想いを引き継いだ結果と考えることもできる。
一方で、2024年11月15日(金) 公開の続編『室井慎次 生き続ける者』ではどんな展開が待っているかはまだ分からない。『踊る大捜査線 THE MOVIE』で和久さんが言った「諦めんな、想いは実現するから」という言葉を思い出しつつ、『生き続ける者』の公開を楽しみに待とう。
映画『室井慎次 敗れざる者』は2024年10月11日(金) より全国の劇場で公開。続編『室井慎次 生き続ける者』は2024年11月15日(金) より全国の劇場で公開。
『室井慎次 敗れざる者』と『室井慎次 生き続ける者』のオリジナル・サウンドトラックは予約受付中。
映画『踊る大捜査線 THE MOVIE 湾岸署史上最悪の3日間!』と『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』は配信中。
『室井慎次 敗れざる者』ラストのネタバレ解説&感想はこちらの記事で。
『室井慎次 敗れざる者』で示された青島俊作の現在と続編登場の可能性についての考察はこちらの記事で。
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