『室井慎次 敗れざる者』公開中
映画『室井慎次 敗れざる者』が2024年10月11日(金) より全国の劇場で公開された。映画『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』から12年、一度は幕を閉じた「踊る」の物語が再び動き出す。
室井慎次をはじめ、「踊る大捜査線」シリーズではまだ若かったメインキャラクター達も、2023年ごろを舞台にとした『室井慎次 敗れざる者』では定年間近の年齢となっている。キャリアの終盤を迎える警察庁の面々の中でも、今回は真矢ミキ演じる沖田仁美に注目してみたい。
映画版から登場し、「踊る」の重要なキャラクターの一人となった沖田だが、室井が警察を去った今、どんなポジションにいるのか。そして、室井は沖田のことをどう思っているのか、『室井慎次 敗れざる者』の内容を踏まえて考察していこう。
以下の内容は、映画『室井慎次 敗れざる者』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『室井慎次 敗れざる者』沖田仁美はどうなった?
昇進している沖田仁美
『室井慎次 敗れざる者』では、警察で上り詰めて組織を変えるという青島俊作との約束を守れなかった室井は、定年を前に退職して地元の秋田県に帰っていた。警察を離れた室井の家の近くで死体が見つかったことで、室井は警察に捜査への協力を依頼されることになる。
そこで登場するのが、筧利夫演じる新庄賢太郎だ。新城は秋田県警の本部長になっていたのだが、新城がその経緯を話すシーンで沖田仁美が登場する。室井・沖田・新城が所属していた警察の組織改革委員会が解散した後、室井は交通局に行かされ、沖田は室井に最後の花道を用意したという。新城は、沖田は警察庁の官房審議官だから人事は意のままだとして、今の沖田が警察庁長官官房審議官であることを明かしている。
また、秋田県警本部長になった新城は「終わりがここだとは」と正直な気持ちを吐露している。沖田が順調に出世していることも強調しており、キャリア組の室井・沖田・新城の三人の中では、沖田が最も出世していることが分かる。室井は警察を辞め、新城は県警に、そして沖田はまだ本庁で頑張っているというのが、三人の現在地だ。
沖田の室井への計らい
そもそも室井と沖田、新城の三人は、映画『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』(2012) のラストで“組織改革推進委員会”の委員に任命されていた。これは同作で事件を起こした小栗旬演じる鳥飼誠一が警察の腐敗に関する情報をリークしたためで、警察が組織改革に乗り出す第一歩となるかに思われていた。
室井は組織改革推進委員会の委員長に任命されたが、『室井慎次 敗れざる者』の冒頭では、5年間の取り組みにもかかわらず警察組織に変化をもたらすことができなかったことが示唆されている。室井は、長官補佐の坂村から「組織はそう簡単に変わるものではない」という長官の考えを告げられ、長官の決定で交通局担当に左遷される。
室井慎次の履歴書によると、それから約3年が経過した2021年3月に室井は警察を退職。57歳の時である。室井は1月生まれなので、56〜57歳くらいの時に沖田から秋田県警本部長への就任の打診を受けたものと考えられる。
地位としては沖田の方が上だが、室井の方が先輩であるため、命令という形にはならなかったのだろう。地元で引退への花道を用意しようという沖田の計らいを室井は拒否して、室井は警察を辞めたのだ。そして、ポストが空いてしまった秋田県警本部長に新城が就任。県警本部長が定年間近の新城の最後のポストとなってしまったということである。
「踊る」シリーズでの沖田の変化
敵から仲間へ
さらに遡ると、沖田仁美が初めて「踊る大捜査線」に初めて登場したのは『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003)。本庁初の女性管理官として台場役員連続殺人事件の指揮を執った。
沖田はこの時に青島俊作と出会うが、キャリア組と現場の刑事として衝突。沖田は広報を引き連れて自分を売り込む出世欲も見せている。しかし、現場で動いていた恩田すみれが撃たれて負傷する事態を招いてしまい、代わって室井が指揮をすることになった。新城が沖田を引き上げさせながら廊下ですれ違う室井に「本部は頼みました」と告げるシーンは、三人の名シーンである。
嫌なキャリア警察官という印象の強かった沖田だが、続く『容疑者 室井慎次』(2005) では、室井・新城と同じ警視正として登場。沖田は台場役員連続殺人事件で指揮を誤ったことで査問委員会にかけられたが、その会議で室井が沖田を庇ったという設定になっている。室井に恩ができた沖田は、『容疑者 室井慎次』では逮捕された室井の釈放に尽力し、室井を助けている。
そして、新城は警察を辞めようとしていた室井に広島県警本部への異動を命じた。警察をより良くしようとする室井の理想は沖田と新城に影響を与え、沖田と新城は室井の仲間になっていったのだ。
『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』では、室井・沖田・新城の三人は揃って警視監に。ラストで室井を委員長に置く組織改革推進委員会の委員に任命されている。室井は東北大学の出身で、沖田・新城は警察の最大学閥である東大の出身だ。それでも、三人は“青島から影響を受けた室井”を中心として理想を追いかけることになった。
沖田に託されたことを考察
室井と和久さんが託した思い
『室井慎次 敗れざる者』では、その夢も敗れたことが明らかになったようではある。しかし、室井慎次を演じた柳葉敏郎は、シネマトゥデイのインタビューで「室井には二人に託したという思いがある」と語っている。つまり、まだ室井の理想は本当の意味では敗れていないのである。
『踊る大捜査線』ドラマシリーズでは、最終話で定年退職する和久平八郎が追い続けてきた警官殺しの犯人と面会したが、最後まで取り調べることをせず後を青島に託した。自分がいなくなっても青島のような刑事がいる限り警察は死なない、それが和久の考えだった。
実はドラマ最終話では、和久が容疑者から自白を引き出す前に取り調べを引き上げ、「後は頼んだよ」と言い残して湾岸署を去る場面に室井慎次が居合わせている。更に、その和久の後ろ姿を見て眉間に皺を寄せる室井の表情の映し出されてもいる。
組織や仲間を信じるということ、自分が去っても仲間が残っていれば理想は叶えられるということ、それが組織であるということ……室井慎次がその和久の考えを引き継いでいたとすれば。和久の思いを引き継いだのが青島なら、室井の思いを引き継いだのは沖田なのかもしれず、青島と室井の約束を実現できる最後の砦が沖田仁美ということになるのかもしれない。
青島の人事は沖田の指示?
沖田仁美には、それだけのポテンシャルがある。演じる真矢ミキ自身は、宝塚を退団し、どん底を味わっていた時期にオーディションを受けて『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』での沖田役を勝ち取った。劇中でも室井・沖田・新城の中では一番歳下で、出遅れていたようにも思えるが、振り返れば沖田には先進的な面もあった。
『THE MOVIE 2』で沖田は監視カメラによるセキュリティシステム“C.A.R.A.S.”を導入。劇中ではグレーな捜査方法として、沖田の冷徹さを演出するために利用されていたが、映画『室井慎次 敗れざる者』では、事件が起きた地域で広範囲に防犯カメラが設置されることになる。
また、『室井慎次 敗れざる者』では青島俊作が警視庁の捜査支援分析センターに配属されていることが明かされた。詳しくはこちらの記事で考察しているが、青島はITに強く、その適性を買われて、防犯カメラの画像解析やスマホのデータ解析などを担当する捜査支援分析センターに配属された可能性がある。
新城は今の沖田について「警察庁の官房審議官だから人事は意のまま」と語った。沖田が人事権を握っているということで、現場にいた青島を本庁の捜査支援分析センターに送ったのは、いち早くカメラを使った防犯システムの需要性に気づいていた沖田だったのかもしれない。
だとすれば、青島が捜査支援分析センターにいることは、あながち不本意なことではないのかもしれない。続編の『室井慎次 生き続ける者』で本庁から青島が現場の室井を支援する展開があるとすれば、沖田の狙い通り、という可能性もあるかも?
また、『敗れざる者』の最後に流れる『生き続ける者』の予告編では、沖田が「室井さんを中に入れてさしあげて」と発言するシーンが見られた。何の「中」なのかという点が気になるが、沖田が室井のために何かを取り計らっていることは確かなようだ。
室井が警察に戻ることがあるとすれば、沖田の手によって、ということになるだろう。それが室井の幸せに繋がるかどうかということは別の問題だが、なんであれ沖田が室井と青島の理想を引き継ぎ、改革を進めてくれることを願いたい。『生き続ける者』では沖田仁美の活躍に期待しよう。
映画『室井慎次 敗れざる者』は2024年10月11日(金) より全国の劇場で公開。続編『室井慎次 生き続ける者』は2024年11月15日(金) より全国の劇場で公開。
『室井慎次 敗れざる者』と『室井慎次 生き続ける者』のオリジナル・サウンドトラックは2024年11月13日発売で予約受付中。
映画『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』は配信中。
Source
シネマトゥデイ
『室井慎次 敗れざる者』ラストのネタバレ解説&感想はこちらの記事で。
『室井慎次 敗れざる者』で示された青島俊作の現在と続編登場の可能性についての考察はこちらの記事で。
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