『室井慎次 敗れざる者』過去作とのつながりに注目
「踊る大捜査線」シリーズ最新作『室井慎次 敗れざる者』が2024年10月11日(金) より全国の劇場で公開された。『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(2003) で実写邦画史上最高となる173.5億円の興行収入を記録した伝説のシリーズから、新たな物語が紡ぎ出される。
室井慎次が主人公となる作品は、『容疑者 室井慎次』に続いて、『室井慎次 敗れざる者』が二作目になる。2024年11月には『室井慎次 生き続ける者』の公開も予定しており、室井慎次の知られざる物語が描かれ続けることは、室井ファンにとっては願ってもないことだ。
今回は、映画『室井慎次 敗れざる者』に登場した『容疑者 室井慎次』につながる要素について考察していきたい。室井慎次の過去と現在を繋ぐ重要な要素は、どのように示されていたのだろうか。
以下の内容は、映画『室井慎次 敗れざる者』の内容に関するネタバレを含みます。
『室井慎次 敗れざる者』弁護士の正体は?
タカに忍び寄る奈良育美
映画『室井慎次 敗れざる者』では、警察から引退した室井慎次が秋田の田舎町で暮らす姿が描かれる。里子のタカとリクと暮らす室井は、青島との約束こそ果たせず警察を辞めていたが、これまでに持つことができなかった“家族”と“平穏”の中で暮らすことができていた。
『室井慎次 敗れざる者』ではそんな室井の平穏を脅かす出来事が立て続けに起きるのだが、そのうちの一つが里子のタカのもとを生駒里奈演じる弁護士の奈良育美が訪ねてくるという一件だ。タカは元々母子家庭で、母を殺人事件で殺された被害者遺族である。奈良はその事件の加害者を弁護する立場にあり、加害者からの謝罪の手紙をタカへ送り続けていた。
だが、奈良がタカを訪ねた目的は、事件から3年が経過しても結審していないその事件の裁判で、被告に有利な証言を被害者遺族であるタカから得ることだった。被告は反省しているという証言を被害者遺族から取りたかったのだ。
室井は青島から学んだと思われる被害者遺族に寄り添う姿勢を守り、タカに寄り添う。奈良が訪問時にタカの母に手を合わせなかったことを指摘するなど、弁護士というよりかは人としての瑕疵を指摘して、奈良が反省するきっかけを作るのである。
後日、奈良はタカに謝罪に来たというが、室井はタカに奈良を許してやるよう助言する。奈良はこれが初めて弁護する事件であり、焦りがあったという。このシーンでは、映画『容疑者 室井慎次』で室井が田中麗奈演じる若手の女性弁護士・小原久美子に助けられたことが振り返られている。
「T&O」とは
実は、この『室井慎次 敗れざる者』の一連の展開は、『容疑者 室井慎次』と更なる繋がりを持っているように思われる。そのヒントは、奈良育美が持っているトートバッグにある。
奈良が持っていたトートバッグには「T&O」と書かれており、天秤の絵が描かれている。天秤は弁護士バッチにも描かれている「公正と平等の象徴」だ。このことから「T&O」は法律事務所の名前であることが予想できる。そして、「T&O」から想像できるイニシャルの人物は、「津田(Tsuda)」と「小原(Ohara)」である。
『容疑者 室井慎次』では、小原は津田法律事務所から派遣されていた。津田法律事務所の所長である津田誠吾は、映像化されていない潜水艦事件で自衛隊から告訴された青島俊作を弁護したこともある。しかし、それがきっかけで仕事を失い、事務所の弁護士は皆いなくなってしまっていた。そこに新米弁護士の小原がやってきて、室井慎次の弁護を担当することになったのだ。
小原は室井の学生時代に恋人が自死した件について、室井の責任ではないことを突き止め、閉ざされていた室井の心を開いた。これがきっかけで室井は復活し、最終的に室井にかけられた特別公務員暴行陵虐罪の共謀共同正犯の容疑を晴らすことになる。室井は、「新米の女性弁護士」に対してこの時の恩義を感じているのである。
上記の理由から『容疑者 室井慎次』の時点では、津田法律事務所には津田と小原しかいない。あの後、小原が順調に弁護士としてのキャリアを積んでいったのだとすれば、津田と小原は事務所を分け合い、事務所名を連名にしたと考えられる。つまり、「T&O」というのは津田と小原の弁護士事務所ということであり、奈良はそこから派遣されているという考察が成り立つのだ。
室井も気づいていた?
そうだとすれば、奈良が室井の元を訪ねたのは偶然ではないだろう。奈良の上司にあたる小原が、室井という人物に一度会っておいた方がいいと考えて奈良を秋田まで送ったのかもしれない。それに、室井の方もT&Oのロゴを目にしていれば、小原の事務所だということに勘付いたはずだ。
タカの面会シーンを経て、なおも新米弁護士を許してやるよう助言した背景には、自分が恩義を感じている小原の部下/後輩だから、という気持ちもあったのではないだろうか。初めて担当する事件だったという奈良の姿を小原に重ね合わせたのだろう。
小原もまた、奈良を通して室井の近況を知ることができたかもしれない。『室井慎次 敗れざる者』には、「踊る大捜査線」過去シリーズから様々な要素が取り入れられていたが、“弁護士”という存在をめぐる愛憎もその一つと言える。『室井慎次 敗れざる者』で大事なことを教わった奈良は、『室井慎次 生き続ける者』では活躍を見せるのだろうか。小原の再登場にも期待しつつ、続編の公開を楽しみに待とう。
映画『室井慎次 敗れざる者』は2024年10月11日(金) より全国の劇場で公開。続編『室井慎次 生き続ける者』は2024年11月15日(金) より全国の劇場で公開。
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『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』は配信中。
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