『室井慎次 敗れざる者』公開
映画『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』(2012) から12年、「踊る大捜査線」がスクリーンに帰ってきた。柳葉敏郎主演、映画『室井慎次 敗れざる者』が2024年10月11日(金) より全国の劇場で公開されている。
警察トップになり、現場とキャリアが一体となった警察組織を実現すると「踊る大捜査線」シリーズの主人公・青島俊作と約束した室井は、なぜ秋田に帰ったのか。そして、室井を襲う新たな事件とは——「踊る大捜査線」ファンなら見逃せない作品に注目が集まっている。
「踊る」ファンならやはり気になるのは、青島俊作がどうなったのかということ。今回は、『室井慎次 敗れざる者』では青島の現在はどうなっているのか、そして続編ではどうなるのかという点を考察&解説していこう。なお、以下の内容は本編の重大なネタバレを含むので、必ず劇場で本作を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『室井慎次 敗れざる者』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『室井慎次 敗れざる者』青島はどうなったのか
随所に見られた“青島要素”
映画『室井慎次 敗れざる者』では、『THE FINAL』の5年後に左遷され、青島との約束を果たせずに警察を退職した室井慎次の姿が描かれた。青島俊作は回想以外では本編に登場しなかったが、作品を通して青島という人間の存在感が感じられた。
室井は里子との新たな生活に満足を感じているようだが、一方で青島との約束を果たせなかったことをずっと引きずっている様子だ。もしかしたら、結婚せずに里子を引き取るという生活も、青島への複雑な思いが断ち切れないことから選んだ道だったのかもしれない。
室井が秋田にやってきて家をリノベーションする回想シーンでは、室井はキムチラーメンを食べている。言わずもがな、キムチラーメンはドラマ『踊る大捜査線』(1997) で青島と和久さんが張り込みをする際に食べていたものだ。
また、『室井慎次 敗れざる者』公式パンフレットによると、室井家に置かれている「全集 黒澤明」は、映画『踊る大捜査線 THE MOVIE』(1998) で青島が『天国と地獄』の話をしたことをきっかけで室井が黒澤明にハマったという裏設定に基づいているという。『天国と地獄』は1963年に公開された黒澤明監督の映画で、『踊る大捜査線 THE MOVIE』では、青島が煙突から色がついた煙が上がる光景を見て『天国と地獄』のワンシーンを思い出している。
それ以外にも、室井が里親になったタカや、本庁から秋田県警にやってきた桜章太郎など、若き日の青島を思わせるキャラクターも登場している。ちなみに「桜」という名前は、青島が勤務していた「桜交番」と同じ名前だ。しかし、肝心の青島本人はどうなったのか。あの人から語られた“青島の現在”を考察していこう。
明かされた青島の現在
捜査支援分析センターとは
青島の現在について明かされたのは、筧利夫演じる新城賢太郎と室井慎次が囲炉裏の前で酒を飲むシーンだ。青島との約束を守れなかったから警察を辞めたと明かした室井は、新城に青島の現在について聞く。すると新城は、青島は警視庁の捜査支援分析センターにいると明かすのだ。秋田県警本部長の新城が青島の動向をしっかり把握している辺り、新城も青島のことが忘れられずに動向を追っているのだろう。
捜査支援分析センターは実在する組織で、警視庁の刑事部に属する。つまり、ずっと所轄(支店)にいた青島は現在は本庁(本店)にいるというのだ。新城の口ぶりや反応を見るに、栄転というよりも好き勝手にやりすぎて現場を離れさせられたという印象もある。
一方で、捜査支援分析センターは青島の経歴を考えればピッタリな場所だとも考えられる。青島は警察になる前はシンバシ・マイクロシステムというIT企業で働いていた。営業職だったとはいえ、コンピュータには強いところも「踊る」シリーズでは幾度か見せている。
例えば、ドラマシリーズ第8話「さらば愛しき刑事」では、青島はITに特化した警視庁科学捜査研究所のプロファイリングチームに認められ、プロファイリングの作業を手伝っている。ドラマ最終話での処分により練馬の桜交番勤務となった後、杉並北署の資料室に配属され、そこでは資料を活用してPCで犯罪者のデータベースを作成していた。
また、本編で描かれていない潜水艦事件では、青島はコンピュータ技師として自衛隊潜水艦むつしおに潜入している。この事件の詳細は『容疑者 室井慎次』(2005) のシナリオガイドブックパンフレットに記載されており、事件では室井が指揮を担当したとされている。なお、『容疑者 室井慎次』に登場した津田弁護士と津田法律事務所は、潜入した自衛隊から公務員職権濫用罪で告訴された青島を弁護している。
捜査支援分析センターは、防犯カメラに録画された映像の解析や証拠品のスマートフォンのデータ復元などを行う部署だ。コンピューターとの相性が良い青島が捜査支援分析センターに配属されたのは、単に左遷されたということでもないのかもしれない。それに、捜査支援分析センターに勤める捜査員は刑事経験者が多いといい、執念深くデータを分析して犯人を追い詰める仕事は意外と青島に向いているとも考えられる。
青島は捜査支援分析センターで何をするのか
特殊詐欺と防犯カメラ
では、捜査支援分析センターに配属された青島俊作が『室井慎次 生き続ける者』で活躍を見せる可能性はあるのだろうか。その可能性を考察するために重要になるのが、『室井慎次 敗れざる者』で登場した①特殊詐欺、②防犯カメラという二つの要素だ。
『室井慎次 敗れざる者』では、レインボーブリッジ事件で逮捕された犯人グループが釈放された後に特殊詐欺と強盗に手を染めていることが明かされた。そのメンバーの一人の瀬川吉雄が室井慎次の家の近くで遺体で見つかったことから、室井はかつて捜査を担当した犯人グループを再び追うことになる。
現実においては、捜査支援分析センターは特殊詐欺グループの摘発において活躍を見せている。「ルフィ」を名乗る容疑者が主導したとされる通称「ルフィ広域強盗事件」では、捜査支援分析センターが実行役のスマホデータを解析し、警視庁は指示役の逮捕にこぎつけた。
階層化して指示役が実行役をトカゲの尻尾切りに利用する特殊詐欺グループは、捜査支援分析センターが手腕を発揮すべき相手だと言える。室井の前に立ちはだかるこれまでにない相手を倒すには、捜査支援分析センターの青島の援護が必要となるかもしれない。
また、『室井慎次 敗れざる者』のラストでは、室井が済む集落一帯に防犯カメラが取り付けられた。捜査支援分析センターの仕事には防犯カメラの画像解析も含まれており、2018年にハロウィーンの渋谷で若者たちが軽トラックを横転させた事件で、捜査支援分析センターが防犯カメラの画像解析を行い容疑者を特定した(逮捕された4人の内2人は略式起訴、後の2人は不起訴処分)。
『室井慎次 敗れざる者』のラストで警視庁による防犯カメラの取り付けと顔認証システムが強調された理由は、11月15日公開の『室井慎次 生き続ける者』で捜査支援分析センターの青島が活躍する伏線だったのかもしれない。
アノ人たちの登場も?
現実では捜査支援分析センターは2009年に設置された比較的新しい組織で、犯人像のプロファイリングも行う。となれば、ドラマシリーズに登場した警視庁科学捜査研究所のプロファイリングチームが再登場する可能性もあるだろう。
ドラマ第8話に登場したプロファイリングチームは専門職採用の警察官として紹介され、青島よりも若い青年達だった。袴田吉彦演じるリーダーの中央、山下徹大演じる金髪の専修、永堀剛敏演じるメガネの法政が、捜査支援分析センターで青島の部下として登場すれば熱い展開になる。
IT畑出身としてプロファイリングチームとも対話を試みた青島の人柄が花を咲かせ、それが結果的に室井を助けることになるかもしれない。いずれにせよ、『室井慎次 生き続ける者』で“捜査支援分析センターの青島”が登場するとすれば、今までとは逆の「本庁で指示を出す青島と現場で走る室井」という構図が見られるだろう。
かつて青島と室井が嫌った“現場を切り捨てる組織”は警察をはじめとする公権力から市民にも広がり、その結果、特殊詐欺グループという犯罪組織を生み出したとしたら……。青島と室井なら、最後のケジメをつけにいくはずだ。
『室井慎次 生き続ける者』ではどんな展開が待っているのか、公開を楽しみに待とう。
映画『室井慎次 敗れざる者』は2024年10月11日(金) より全国の劇場で公開。続編『室井慎次 生き続ける者』は2024年11月15日(金) より全国の劇場で公開。
『室井慎次 敗れざる者』と『室井慎次 生き続ける者』のオリジナル・サウンドトラックは予約受付中。
『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』は配信中。
『室井慎次 敗れざる者』ラストのネタバレ解説&感想はこちらの記事で。
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