『踊る大捜査線 THE FINAL』から12年
映画『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』は2012年に公開された「踊る大捜査線」の映画シリーズ第4弾。主演の織田裕二、柳葉敏郎、深津絵里ら、シリーズのレギュラーメンバーはもちろん、小栗旬、小泉孝太郎ら劇場版から登場している豪華キャストが集結している。
中でも今回は、印象的な演技を見せた香取慎吾が演じた久瀬智則に注目してみよう。俳優としての香取慎吾は、ドラマ『沙粧妙子-最後の事件-』(1995) や『ガリレオ』(2007-)、『一千兆円の身代金』(2015) で犯人役を演じてきた一方で、大河ドラマ『新選組！』(2004) の近藤勇役、『西遊記』(2006) の孫悟空役、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(2009) での両津勘吉役など、明るい主人公を演じることも多かった。
香取慎吾は、2021年には『アノニマス 〜警視庁“指殺人”対策室〜』で元捜査一課の刑事で生活安全部に配属された万丞渉を演じている。『踊る大捜査線 THE FINAL』で演じた久瀬智則も警視庁捜査一課の刑事だが、一体どんな役だったのだろうか。
以下の内容は『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる野望』の結末に関するネタバレを含むため、必ず本編を視聴してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる野望』の結末に関する重大なネタバレを含みます。
Contents
『踊る大捜査線 THE FINAL』久瀬は何者だったのか
久瀬が起こした事件
映画『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる野望』では、警察が押収した拳銃を利用した連続殺人が発生。6年前に発生した「品川小1女児誘拐事件」で警察上層部を恨む警視庁の鳥飼誠一、小池茂、そして久瀬智則が暗躍していたことが明らかになる。
連続殺人事件の二人目の被害者は、6年前の事件で逮捕されたが証拠不十分で無罪判決が出た元被疑者だった。一人目の被害者については説明がなかったが、終盤で鳥飼の告発文の内容が報道される中で、「少女殺害にも関与したと記されていて、事実かどうか確認が急がれています」という声が最後に流れる。これが一人目の被害者のことを指していたのだとすれば、久瀬達は6年前の事件の加害者と思われる二人を殺したことになる（6年前の事件は複数犯による犯行であることも触れられていた）。
もしかすると、この6年間で久瀬は独自に捜査を行い、無罪判決が出た二人目の被害者の共犯者（＝一人目の被害者）を見つけ出していたのかもしれない。このセオリーが事実だとすれば、捜査一課の刑事であった久瀬が主要な役割を果たしたことは想像に難くない。
計画の三つの段階
久瀬は最後に真下正義と雪乃の息子を誘拐。6年前の少女誘拐事件で上層部の判断に従い交渉を打ち切る判断をした真下正義への復讐を成し遂げようとする。今回の事件での久瀬らの目的は3段階になっており、①6年前の事件の容疑者を殺害すること、②警察が押収した銃を使用することで上層部の隠蔽とでっち上げを誘発して世間に告発すること、③鳥飼の姉と同じ被害を真下に経験させること、という計画的な犯行だったように思われる。
室井慎次と青島俊作、そして恩田すみれの活躍によって③は失敗したが、①と②は成功。この計画で久瀬はすべての段階の実行犯を担っており、子どもを含む3人を殺すことになっていたと思われる。小池の役割は不明確だが、確かなのは子どもの写真が入った真下からの年賀状を久瀬に渡していたことである。久瀬は住所と見た目を頼りに真下の子どもを誘拐したのだろう。
小池は実行犯ではなければ捕まらないという考えもあったのかもしれない。鳥飼は警察官僚の判断のせいで姉の娘、つまり姪を殺され、池神長官に出した建白書（意見書）も拒否されたという背景があった。では、久瀬はなぜ連続殺人という凶行に走ったのだろうか。
久瀬が凶行に及んだ理由
『踊る大捜査線 THE FINAL』では、早い段階で久瀬智則が被害者遺族である鳥飼の姉を公私に渡ってサポートしていたことが指摘されている。その支援を打ち切るよう指示したのが池神長官だった。犯人との交渉を打ち切られたばかりでなく、その後の支援まで上層部に打ち切られたのだ。
その事実を知った警察幹部は「付き合っていたのか」と、久瀬と鳥飼の姉の関係を予想している。終盤の回想シーンでは、捜査本部のホワイトボードに少女の名前として「新谷ひろみ」、父の名前として「新谷和義」、母の名前として「新谷綾子」と記されている。しかし、父・新谷和義の名前の横には「死亡」と書かれており、鳥飼の姉の夫は既に他界していたことが示されている。
このことから、事件以前から久瀬が鳥飼の姉である新谷綾子と親密な関係にあった可能性も残されている（ちなみに回想シーンでは久瀬は終始、新谷綾子の肩に手を置いている）。そうであれば、久瀬にとっては娘を殺されたも同然であり、その容疑者に無罪判決が出て凶行に走ったということになる。この辺りは想像に委ねるしかないが、久瀬が子どもを含む3人の連続殺人に及ぼうとした背景には、そうした苦難があったのではないだろうか。
久瀬はもう一人の青島？
『踊る大捜査線 THE FINAL 新たな希望』の終盤に差し込まれる6年前の事件の回想シーンは、コメディシリーズとして愛されている「踊る大捜査線」らしからぬシリアスさと暗さを持っている。真下正義も好感度が急落しかねないヴィランっぷりを見せており、“救いのなさ”が強調される演出となっている。
このシーンで久瀬を演じる香取慎吾は、被害者の母・新谷綾子に寄り添い、真下に抗議する小池を哀しそうに見やる繊細な演技を見せている。被害者遺族に寄り添う久瀬の優しさは、ドラマシリーズで父を殺された柏木雪乃に寄り添った青島の姿を思わせる。
青島を演じる織田裕二も、久瀬を演じる香取慎吾も、明るく爽やかな演技ができる役者であり、青島と久瀬は同じ問題意識を持ちながら違う道を歩んだ表裏の存在だったと言える（香取慎吾はコントで青島のモノマネもしていた）。二人を分けたものがあったとすれば、久世の場合は被害者が身近な存在だったこと、そして、久瀬には室井のような存在がいなかったことだろう。
久瀬と青島には、現場で行動に出たかどうかという違いもあるが、久瀬のケースは動くことより捜査一課が動き出すのを止めることが必要だった。室井もまた青島のような存在と出会うことがなければ、鳥飼のように怒りを募らせるキャリア警察になっていた可能性だってある。
青島・室井・真下の三人は、ダークサイドに落ちて久瀬・鳥飼・小池になる可能性もあり、久瀬は「裏・踊る大捜査線」の青島的存在だった。明るい主役を演じることも多い香取慎吾の起用には、そんな意図があったのではないだろうか。
今後はどうなる？
香取慎吾は公式SNSにも登場
2024年11月15日(金) からは「踊る大捜査線」最新作『室井慎次 生き続ける者』が公開され、「踊る」シリーズはまだ続いている。『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』のテレビ放送と『室井慎次 生き続ける者』の公開に際しては、香取慎吾が室井パネルに収まる写真が公式SNSで公開された。
慎吾ちゃん出てるよね！#踊る大捜査線 THEFINAL新たなる希望 今夜9時からだ#日本一の最低男 は来年1月から https://t.co/nD347oKOnE
— 香取 慎吾 (@ktrsngofficial) November 16, 2024
香取慎吾は2025年1月の木曜22時から放送されるフジテレビ系の木曜ドラマ『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』で主演を務めることになっている。こちらではフリージャーナリストの大森一平を演じ、「踊る」で織田裕二が「Love Somebody」を歌ったように、主題歌「Circus Funk（feat. Chevon）」も担当している。
久瀬の再登場も？
香取慎吾が『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』で演じた久瀬智則は、警察を辞職させられた後に「元警察」の肩書きで逮捕された。警察から盗んだ銃を使って二人以上を計画的に殺し、子どもの誘拐殺人未遂も起こした久瀬は死刑になる可能性も高い。
法務省によると、2007年以降は死刑判決から執行までの期間は平均で約6年8カ月だという。それでも、判決が出るには時間がかかる上に、被告が判決を不服として控訴する可能性もある。警察の不祥事が絡む事件なだけに、世間の同情を買えば刑の執行も先延ばしになるだろう。
『THE FINAL』から12年が経過した「踊る大捜査線」だが、無期懲役となった日向真奈美がシリーズに度々登場しているように、久瀬の再登場もあり得るかもしれない。まずは、今後のシリーズがどのように展開されることになるのか、映画『室井慎次 敗れざる者』と『室井慎次 生き続ける者』を観ながら、続報を楽しみに待とう。
「踊る大捜査線」最新作『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』は劇場で公開中。
シナリオ全文と、その詳細な解説やスタッフ＆キャストのインタビューで『室井慎次 敗れざる者／生き続ける者』の魅力を深堀りするシナリオ・ガイドブックは2024年11月29日(金) 発売で予約受付中。
映画『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』は配信中。
『踊る大捜査線 THE FINAL』ラストのネタバレ解説＆感想はこちらの記事で。
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