『モアナと伝説の海2』公開
ディズニー映画最新作『モアナと伝説の海2』が2024年12月6日(金) より日本全国の劇場で公開された。前作『モアナと伝説の海』は2016年に公開されると、世界で6億9,000万ドル、日本国内でも51億円超の興行収入を記録した。
モアナはディズニープリンセスの一人に数えられており、ディズニープリンセスの作品の続編が劇場公開の形で制作されるのは異例のことになる(「アナ雪」はディズニープリンセスに入っていない)。2026年にはドウェイン・ジョンソンがマウイ役を演じる実写版映画の公開も控えており、「モアナと伝説の海」はすっかり現在のディズニーを牽引する人気作となっている。
今回は、映画『モアナと伝説の海2』のラストについて、ネタバレありで解説&考察し、感想を記していこう。なお、以下の内容は結末についてのネタバレを含むため、必ず劇場で鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『モアナと伝説の海2』の結末に関するネタバレを含みます。
Contents
映画『モアナと伝説の海2』ネタバレ解説
モトゥフェトゥを求めて
『モアナと伝説の海2』では、前作で半神半人のマウイと出会い、一族をもう一度海の外へと向かわせたモアナが“タウタイ”の称号を背負うことになる。タウタイとは海を渡り人々をつなぐ者のことで、前作でもモアナ達の先祖として姿を見せたタウタイ・ヴァサと同じタイトルだ。
タウタイとなるための儀式の途中で雷に打たれたモアナは、タウタイ・ヴァサが登場したヴィジョンの中で、このまま他の島の人々と繋がることができなければ村の物語が終焉を迎えると知らされる。人々が分断されたのは、ナロという神が島々の中継地点であったモトゥフェトゥという島に呪いをかけて沈めてしまったことが原因だという。
『モアナと伝説の海2』は前作から3年が経過しており、その間モアナはずっと航海に出ていたが、他の人が住む島を見つけられずにいた。その理由は、モトゥフェトゥが沈められていることにあったのだ。モアナは1000年ぶりの繋がりを求めて旅に出ることになる。
実際の古代ポリネシア人の歴史においても、東アジアから開拓に出たポリネシアの人々は1000年ほど開拓を止めた時期があったとされている。その1000年間で大枠のポリネシア文化が築かれ、再び開拓が始まったのが紀元1世紀ごろ。つまり、私たちが生きている現代から2000年前の物語ということになる。
新しいディズニープリンセスのリーダー像
まだ見ぬ人々との出会いを求め、そして村の物語を終わらせないため、モアナは言い伝えに従い彗星を追って旅に出る。前作と異なる点は、今回のモアナは人間の仲間を連れていることだ。船大工のロト、農家のケレ、マウイファンで絵が得意なモニ、そして鶏のヘイヘイと豚のプアと共に旅に出たモアナは、道中でマタンギに捕えられたマウイとも再会を果たすことになる。
マタンギはナロに仕えていたようだが、同時に巨大な貝の中に閉じ込められたという背景も持っていた。マタンギはモアナに「迷う」ことを勧め、それがモトゥフェトゥに辿り着く道になると歌う。そして、『モアナと伝説の海2』においてはマタンギとの出会いがモアナにとっての成長の機会をもたらす。
結果的にモニを死の寸前まで追いやってしまったことで、モアナは落ち込み、前に進めなくなってしまう。正しいと思うことをやっても、すぐに全てが変化してしまう——モアナが吐露したこの苦しみは、次々と正義とトレンドが移り変わる現代社会を生きる若者にとっては、等身大の悩みだ。
そんなモアナを元気付けたのは、前作でモアナから勇気をもらったマウイだった。日本語版の「できるさ!チーフー!」、英語版の「Can I Get a Chee Hoo?」は聴いているだけで元気が出てくる名曲だ。「Chee Hoo」はハワイで前向きな気持ちを表現する言葉である。なお、日本語版の訳詞はラッパーのDiggy-MO’が手掛けている。
そしてモアナは、仲間達を率いるリーダーとして再び立ち上がった。『モアナと伝説の海』では、モアナはこれまでのディズニープリンセスとは違う、自由で活発な冒険家というプリンセス像を提示した。『モアナと伝説の海2』では、そこから更に成長し、クルーを率いるリーダーとしてのディズニープリンセスの姿を提示している。
ちなみにマウイに「プリンセス」と呼ばれたモアナが「プリンセスじゃない」と言い返し、マウイが「みんなはそう思ってるみたいだけど」と言う場面は、ディズニーがモアナを12番目のディズニープリンセスに加えたことを指している。
『モアナと伝説の海2』ラストをネタバレ解説
島を釣り上げるマウイの伝説
『モアナと伝説の海2』のクライマックスでは、モアナ達はナロが作り出した嵐と対峙する。モアナは、ナロがマウイではなく呪いを解こうとする人間を止めようとしていることに気づき、モアナがナロを引きつける間にマウイに神の釣り針を使って島を引き上げるよう依頼する。
「モアナと伝説の海」がモデルとしているポリネシアの神話では、半神半人の英雄マウイは魔法の釣り針で島を釣り上げたという伝説がある。ハワイ神話では、ハワイ諸島はマウイによって釣り上げられたことになっている。
ナロの嵐を乗り切ろうとするモアナの波乗りは、ディズニーアニメでも屈指のクオリティの海上戦になっている。ディズニーアニメにおける海の上の戦いは、もはや「モアナと伝説の海」の専売特許になったと言ってもいいだろう。
マウイは島を釣り上げようとするが、ナロから雷を落とされ、タトゥーを消されて半神の力を奪われてしまう。前作でマウイは元々人間だったが神から力を与えられたという過去が明かされていた。与えられたものは、簡単に奪われてしまうのだ。
タトゥーの意味
そしてモアナは、「別の道がある」と自分で泳いで沈んだままのモトゥフェトゥの島に辿り着くことを目指す。モアナは島に着くことができたが、同時にナロの雷に打たれてしまった。マウイがモアナの元に辿り着いた時には意識がなくなっていたが、マウイは歌を唄ってタウタイ・ヴァサとモアナの祖母タラを含む先祖達が召喚すると、共に歌いモアナを復活させるのだった。
マウイも力を取り戻し、魔法の釣り針でモトゥフェトゥを釣り上げた。モアナの左腕にはタトゥーが現れており、神の力が与えられたことが示唆されている。「タトゥー(Tatoo)」の語源はタヒチやサモアで「刺青」を意味する「タタウ(Tatau)」だ。ポリネシアの神話では、最初のタトゥーはタアロア(カナロア)という神に彫られたもので、その二人の息子マタマタとツライポが人間にタトゥーを伝えたとされている。元来タトゥーは神のものだったのだ。
復活したモトゥフェトゥに立つ岩の壁面には、海図のようにマウイ達がやってきたモトゥヌイ島を含む島々の場所が記されていた。そして、モトゥフェトゥから伸びた光は島々に繋がり、モアナはよその島から海を渡ってきた人々との出会いを果たすのだった。
モトゥヌイに戻ったモアナは妹のシメア達と再会。今回はマウイもモトゥヌイを訪れており、シメアは冒頭で宣言した通り、マウイの耳を引っ張って強気な態度を見せている。
ラストの意味は?
大団円を迎えた『モアナと伝説の海2』だが、ミッドクレジットシーンが用意されていた。そこでようやく姿を現したのは、ナロだった。モアナと助けたマタンギを責めるナロだったが、そこに巨大カニのタマトアが登場。タマトアは『モアナと伝説の海』で登場した中ボスで、前作でもポストクレジットシーンに登場している。
『モアナと伝説の海2』では、モアナはチームのリーダーとして活躍する姿を見せたが、ラストではヴィラン達のチームアップを思わせる結末が待っていた。第3作目の制作を予告する展開とも言え、今後の展開に期待がかかる。
最後に歌われる『モアナと伝説の海2』の主題歌は「Beyond」。日本語吹き替え版は「ビヨンド〜越えてゆこう〜」だ。人々の思いを背負い海を越えてゆく、それが自分であると強く歌い上げる、勇気をもらえる曲だ。多くのポリネシアンの少女少年たちがこの歌に励まされ、強く育っていくことになるのだろう。
『モアナと伝説の海2』ラストのネタバレ感想
ルーツを守り、外の世界を志すこと
『モアナと伝説の海2』は、ハワイやニュージーランドを含むポリネシアの文化をレペゼンするスタイルを前作から更に推し進めていた。島を釣り上げるマウイや、神から与えられるタトゥーが登場するなど、ポリネシア文化のフルコースという様相だった。
元々東アジアから島々を開拓したポリネシアの人々のルーツを背景に、自分たちのルーツを大事にすることと、外の世界を志して他者との繋がりを求めることは矛盾しないという論の立て方も前作に続いて提示されている。2016年に公開された前作から変わったのは、社会の情勢の方だ。
コロナ禍を経た一方で、アメリカは米国第一主義によって世界から孤立した状況が続いている。2025年にはトランプ政権が復活し、その傾向は更に強くなるだろう。そんな状況で、迷いながらでも外の世界に向かっていく、それが自分たちなのだと力強く歌うモアナには勇気づけられる。
“ポリコレ”を推進した結果
特筆すべき点は、『モアナと伝説の海2』で新たに共同監督を務めたデイビット・ダーリック・ジュニア、ジェイソン・ハンド、ダナ・ルドゥ・ミラーの三人の内、後者の二人はポリネシア文化圏の一部であるサモアにルーツを持つ監督ということだ。結果、先に公開された米国では、ポリネシア系の観客からは高い評価を受けることになっている。
ノルウェーが舞台のモデルになっている「アナと雪の女王」シリーズでは、ノルウェーによる先住民のサーミ人への迫害の問題を『アナと雪の女王2』で扱った。第1作目で扱えなかった/扱わなかった課題を第2作目で扱うというパターンはすでに「アナ雪」で行われたことでもある。
両シリーズともに続編は高い評価を得たが、あえて注目したいのは興行収入だ。「アナ雪」は第1作目が約12億ドルから第2作目で約14億ドル、「モアナ」は第2作目のオープニング5日間の興行収入で歴代最高額を記録した。「アナ雪」も「モアナ」も第1作目への批判を受け、第2作目でポリティカルコレクトネスを推し進めた結果、第2作目の方が興行的にも成功するという例が続いているのだ。
正しいレプリゼンテーションによって、より多くの人が安心して楽しむことができるということは、興行的に見ても良い結果を生むと考えることもできる。『モアナと伝説の海2』の前の作品、2023年のディズニーアニメ映画だった『ウィッシュ』は、ディズニーが支援するイスラエルがパレスチナへの侵攻を強化する中で公開され、ディズニーに対する抗議とボイコットの呼びかけの中で興行収入がわずか2億5,500万ドルに留まったことも記憶に新しい。
ディズニーアニメで描かれる物語はフィクションだが、それを観る私たちは現実に生きる人間だ。物語からメッセージを真っ直ぐに受け取るからこそ、正しく、よりマシに生きたいと思うもの。クリエイター達がより良い物語と表現を追求している中、ディズニー社もそれに恥じない会社であってほしいと思う。
続編&実写版はどうなる?
さて、『モアナと伝説の海2』のラストは、ディズニーアニメ映画では珍しく、明らかに続編を想定しているような終わり方だった。「アナと雪の女王」は2027年11月に第3作目が公開されることになっている。2010年代にスタートした「アナ雪」と「モアナ」は北欧とポリネシアの文化を背景にしながら長寿シリーズへと成長していくことになりそうだ。
「モアナ」については、2026年7月にドウェイン・ジョンソンがマウイを演じる実写版の公開が発表されている。「アナ雪」は実写化はまだ決定していないため、この点では「モアナ」が一歩リードしていると言える。
『モアナと伝説の海3』が製作されるなら、神々チームと人間チームの戦いが描かれることになるだろう。『モアナと伝説の海2』で初めて登場した神のナロは、支配欲によって人々を分断したと解説されていた。その背景に何があったのか、前作のテ・カァのように神の事情についても語られて、モアナとマウイがそれを解決するような展開になれば面白そうだ。
音楽も含めて、楽しめる要素がたくさん詰まっていた映画『モアナと伝説の海2』。続編に期待しつつ、劇場での体験を楽しもう。
映画『モアナと伝説の海2』は2024年12月6日(金) より日本公開。
『モアナと伝説の海2』オリジナル・サウンドトラックは12月13日発売。
『モアナと伝説の海2』ディズニーゴールド絵本は発売中。
前作『モアナと伝説の海』はMovieNEXが発売中。
12月20日公開の超実写版『ライオンキング:ムファサ』の情報はこちらから。
映画『モアナと伝説の海』のネタバレ解説&感想はこちらから。
実写版『モアナと伝説の海』の情報はこちらの記事で。