映画『ライオン・キング:ムファサ』公開
“超実写版”「ライオン・キング」シリーズの最新作『ライオン・キング:ムファサ』が2024年12月20日(金) より全国の劇場で公開された。本作は2019年に公開された『ライオン・キング』の続編であり、同時にムファサとスカーのオリジンを描く前日譚として製作された。
ディズニーは『ライオン・キング:ムファサ』を皮切りに“超実写版”「ライオン・キング」を更に拡大することも示唆している。その第一歩として、『ライオン・キング:ムファサ』ではどんな物語が描かれたのだろうか。今回はそのラストに注目して解説と感想を記していこう。なお、以下の内容は結末に関する重大なネタバレを含むため、必ず劇場で本編を鑑賞してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『ライオン・キング:ムファサ』の結末に関するネタバレを含みます。
Contents
映画『ライオン・キング:ムファサ』ネタバレ解説
レジェンド達の青春譚
映画『ライオン・キング:ムファサ』は、マンドリルのラフィキがキアラとティモン、プンバァにムファサについての物語を聞かせる形で進行していく。キアラは前作でプライド・ランドの王となったシンバとナラの娘だ。キアラはシンバとナラの帰りを待つ間、ラフィキから祖父のムファサの話を聞くことになる。
キアラは原作アニメ『ライオン・キング』(1994) の続編『ライオン・キング2 シンバズ・プライド』(1998) の主人公となったキャラクターだ。そのため、『ライオン・キング:ムファサ』は『ライオン・キング2』の前日譚として見ることも出来る。
『ライオン・キング:ムファサ』では、ムファサが川に流されてタカに助けられたこと、ムファサがタカの母エシェから狩猟の腕を鍛え上げられたこと、二人はキロス率いるホワイトライオンの一団に追われて群れを離れ、旅に出たことが明かされた。
ムファサとタカは旅の中でメスライオンのサラビ、サイチョウ(鳥)のザズー、マンドリルのラフィキと出会い、“楽園”とされているミレーレという土地を目指す。サラビに恋をしたタカは、時にムファサが気付いた花の匂いを伝えたり、時にムファサが助けた手柄をタカのものにしたり、ムファサの援護でサラビと距離を詰めていく。
ラフィキはちょっと変わっているが達観しており、グループをミレーレに向けて導いていく。恋をしながら脅威から逃げ、それでも目標を目指していく一団は、青春を謳歌するロックバンドのようにも見えて微笑ましい。後にプライド・ランドを治めるメンバーであることを考えれば、『ライオン・キング:ムファサ』はレジェンド達の青春譚だと言える。
エシェに育てられたムファサ
映画『ライオン・キング:ムファサ』が急展開を迎えるのは、終盤の雪山でサラビがムファサに想いを伝える場面だ。ムファサがサラビを象の群れから助け、「僕がついてる」と言ったことを微かに覚えていたサラビは、タカではなくムファサが自分を助けたことを認めるよう迫り、ムファサもまた葛藤しながらそれに呼応する。
しかし、それを見ていたタカは「ムファサに裏切られた」と感じ、キロスの軍門へくだってしまったのだった。「ムファサは裏切る」という忠告は、タカが父オバシから言われていたことだった。オバシは一族の王だったが怠け者で、良い王とは言えなかったが、「オスといろ」と言われて育ったタカはオバシから受けた影響が大きかったのだろう。
一方のムファサはタカの母エシェが率いるメス達といるようにオバシから指示を受けており、それによってエシェから狩りを学ぶことができた。この辺りは、ライオンの群れではメスが狩りを行うという習性を物語に織り込み、ムファサとタカの育ちの違いを作り出す巧い設定になっている。
エシェから教育を受けて勇敢に育ったムファサと、血ばかりを重視する体たらくなオバシの影響を受けて気の弱い子に育ったタカ。重要なのは血ではなく育ちだということがよく分かる。だが、タカを取り込んだ後のキロスがタカを愛でるシーンにはやられてしまった。あのまま父を失ったタカと息子を失ったキロスが二人が幸せに暮らす未来だってあり得たかもしれないのだ。
『ライオン・キング:ムファサ』ラスト ネタバレ解説
スカーの目の傷の真実
『ライオン・キング:ムファサ』のラストでは、ムファサ達はミレーレに辿り着く。ラフィキはミレーレで待っているはずと言っていた“兄弟”はムファサのことだったと明かし改めて絆を結ぶが、そこにやってきたのはキロスの一団だった。
ミレーレの動物達はムファサがはぐれ者のキロス達をミレーレに連れてきたとして非難するが、ここでムファサはスピーチを披露。ライオンにはゾウやキリンのような強みがないことを認めながら、それぞれが役割を果たす=サークル・オブ・ライフの一員であると説得し、ミレーレを救う戦いに加わるよう呼びかけるのだった。
このムファサの言い分は、食物連鎖の頂点に立つライオンにとって都合の良い言説であるように感じるが、ここで大事なのはムファサがスピーチによって他の動物を動かす才能があったということだ。その理論が飛躍しているように聞こえても、心を動かせるのが王に求められる資質なのだろう。
ムファサとキロスと決戦に挑むが、キロスがムファサを追い詰めた時、そこに割って入ったのはタカだった。この時、タカはキロスの爪によって左目に傷を負っている。アニメ『ライオン・ガード』(2016-2019) では、スカーの目の傷はプライド・ランドにやって来た悪いライオンと一緒にいたコブラによって付けられた傷だったと明かされている。実写版でもムファサではなく敵のライオンからつけられたという設定になったようだ。
タカは兄弟が殺される姿を見たくなかったのだろう、タカとムファサはようやく共闘し、キロスを追い詰めることに成功する。最後はムファサはエシェから教わった自然の動きを感じ取る能力によって水中で落ちてくる岩を避け、キロスを下敷きにすることで勝利を収める。
ムファサが水から這いあがろうとする場面で、タカが両手を差し出すのは前作『ライオン・キング』でスカーが爪を立ててムファサを崖から落としたシーンのオマージュだ。『ライオン・キング:ムファサ』ではタカは口を出してムファサを救っている。
タカはムファサと初めて出会った時も同じ方法でムファサを川から助け出そうとしていた。前作で崖から落ちそうになっている時にスカーに助けを求めたムファサは、こうした二度の過去を踏まえて、三度目もタカなら助けてくれると考えたのかもしれない。
スカーの名前の真実
ミレーレには平和が訪れ、しかもそこには生き別れになっていたムファサの母アフィアがいた。実の母にも会え、ラフィキとも兄弟になり、サラビもいるというムファサにとってはこの上ない状況。だが、問題はタカの処遇だった。
ムファサは自分がいる間はタカはここに住めると宣言するが、その名前を再び呼ぶことはないとイジワルを言う。するとタカは謝罪した上で、自分のやったことを忘れないために今後は「スカー(傷)」と名乗ると言い、去って行くのだった。
アニメ『ライオン・ガード』では、スカーは前述の通り悪いコブラによって目に傷を付けられた後、敵を追い払ったとムファサに報告したところ、褒められると思っていたらムファサから「スカー」というあだ名をつけられたと歌っている。ムファサは傷を勲章のように捉えてそのあだ名をつけたのかもしれないが、スカーはムファサに馬鹿にされたと思っていた。
超実写版『ライオン・キング:ムファサ』では、傷はムファサにつけられたものではなく、「スカー」も自分から名乗ったという設定になった。ムファサの高潔さを守るための設定のような気もするが、興味深いのはタカが「スカー=傷」と名乗るようになったことで、タカの存在自体がムファサにとっても消えない傷となったということだ。
ムファサは仲間と家族、理想の土地を手に入れたが、心のどこかにスカーという傷を負って生きていくことになる。前作の冒頭でわざわざスカーの場所までやって来ていたのは、シンバが生まれてもなお、命の恩人であるスカーに対する気持ちの整理がついていなかったからなのかもしれない。
キアラに繋がる物語
そうしてムファサは王となった。この物語を聞いたキアラは、空に向かって咆哮をあげ、空からもムファサの形をした雲から咆哮が返ってくる。前作『ライオン・キング』では、ムファサが父からの教えとして「星を見れば歴代の王達が私たちを見守ってくれている」とシンバに教えていた。その言葉通り、ムファサは死んだ今も次の王になるキアラを見守っているのだ。
そして、キアラをラフィキ、ティモン、プンバァに預けていたシンバとナラが帰宅。そこにはキアラの弟の姿があった。このライオンは原作アニメでカイオンに該当するキャラクターだろう。
カイオンは『ライオン・キング2』には登場していないキャラクターで、アニメシリーズの『ライオン・ガード』の主人公として登場している。キアラの弟の登場は、今後の超実写版で『ライオン・ガード』の要素が扱われる伏線と考えることができる。
『ライオン・キング:ムファサ』は、ムファサとスカーの哀しい過去、ラフィキらプライド・ランド建国勢の青春、かつて魅力的なホワイトライオンのヴィランがいたことを示しつつ、今後描かれるであろうキアラの物語に向けての前日譚としても機能している。先祖に見守られながら新しい王になるライオン達の今後の物語にも期待が持てるラストだった。
『ライオン・キング:ムファサ』ネタバレ感想&考察
先祖を大事にする理由
ジョン・ファヴローが監督を務めた前作『ライオン・キング』に対し、本作『ライオン・キング:ムファサ』は黒人監督のバリー・ジェンキンスが監督を務めた。また、「スター・ウォーズ」のダース・ベイダーの声で知られ、前作でムファサの声を演じ、2024年9月9日に逝去したアフリカ系アメリカ人の名優ジェームズ・アール・ジョーンズに捧げられた作品でもある。
「ライオン・キング」は超実写化にあたって、アフリカを舞台にするということで黒人俳優を中心とした声優の起用が行われている。アフリカンビートをベースにした楽曲も超実写版「ライオン・キング」の特徴だ。
「先祖」は、かつてアフリカ大陸から強制連行されたアフリカ系アメリカ人にとっては重要な存在だ。アメリカで奴隷にされ、富も力も歴史も奪われたアメリカ黒人達は、「ブラック・パワー」のムーブメントの中で、かつて自分達は王族だったかもしれないと考え、自分たちのルーツを追求することで自尊心を取り戻していった。
先祖のことを知り、今も先祖が見守ってくれていると考えられるようになることは非常に大切なもので、本作ではムファサの物語とそれを聞くキアラを通してそのプロセスが描かれた。そう考えれば、ディズニーは「アナと雪の女王」でノルウェーの歴史を、「モアナと伝説の海」でポリネシアの歴史を掘り下げており、二作品をかけて社会的に重要な要素を探求するという姿勢は一貫しているように見える。
ムファサは自業自得?
では、『ライオン・キング:ムファサ』のストーリーについて考えてみよう。本作ではムファサの過去と共にスカーが闇堕ちする過程も描かれた。どうしてもスカー贔屓に見てしまうのだが、やっぱりムファサにも問題があったように思える。
ムファサは何も結果を残していないスカーに手柄を与えようとしていたが、あれは甘やかし過ぎである。花の匂いが分かるようになることも、勇敢にサラビを守ることもスカーが自分で出来るようにならなければならなかったのに、ムファサはあろうことか手柄を譲るという行動をとってしまったのだ。
このムファサの甘さは、シンバに対する教育にも現れていたように思う。前作ではしっかり王としての思考をシンバに伝えてはいたが、無条件にシンバを次代の王に指名しており、そこには身内への甘さが見え隠れしていた。その結果、シンバがスカー叔父さんに無神経な態度を見せたことが、ムファサの死を招いたと言える。
スカーの父にも問題があり(というか父のオバシが結構な元凶であり)、自分で狩りをしようとせず、のんびりしているオバシは、スカーの他力本願な性格に確実に影響を与えてしまっている。だが、冒頭ではタカは母エシェと共に行動しており、ムファサの登場によってタカはエシェとの時間を奪われたと考えることもできる。
だからこそ、ムファサにはラストでタカが謝罪した時にはそれを赦し、再び家族に迎え入れてあげてほしかった。そうしてしまうとお話が繋がらなくなるのでしょうがないが、後にスカーから報いを受けるのも仕方がないかという気にはさせられた。
それでも、プライド・ランドの幹部になる者たちが皆「はみ出し者」であり、気づいた時には権威の側にいたラフィキたちもそれなりに苦労していたことが知れたのは良かった。ラフィキがムファサに執着したこともタカが闇堕ちする要因になったとは思うが、元は皆若く、群れを追われた者の集まりだったと考えれば、運営にうまくいかない点があったとしても仕方ないのかもしれない。革命で成立した国家が強権的な世襲制になる例は現実でも珍しくない。
前作と繋がる部分も
レジェンド達の青春譚・冒険譚は楽しく、『ライオン・キング』でザズーがハイエナに囲まれた時にラフィキがザズーを守ったシーンにも、「かつての旅の友を守った」という深い意味が加わった。同時に、ザズーは前作の冒頭で「今朝の式典に出なかった理由について、ムファサ王にご説明を」とスカーを詰めており、知らない仲じゃないのにそんな態度ないんじゃない? と思わされることにもなる。
一方で、「サラビ王妃を心から慕っている」「最前列にいたよ、忘れたのか?」というスカーからムファサへの言葉が、『ライオン・キング:ムファサ』の内容を踏まえていることも分かるようになる。式典の最前列にいるべきだと指摘されたスカーが「最前列にいたよ」と答えるのは、キロスとの戦いの中で最前線にいたことを主張していたのだろう。
また、スカーがムファサに言う「挑まんよ、二度と (again)」という言葉も、一度目はキロスの側についた時のことだったということが分かる。このように、『ライオン・キング:ムファサ』は前日譚ということもあり、前作『ライオン・キング』が更に楽しめる作品にもなっている。
続編はどうなる?
『ライオン・キング:ムファサ』でスカーと一味違う魅力を放っていたヴィランがキロスだ。英語版ではマッツ・ミケルセン、日本語では渡辺謙が吹き替えを演じたキロスは、冷酷に見えるが息子を失った復讐に燃えており、それでいて「バイバイ」を決め台詞にするお茶目さも持ち合わせている。
全ての日の当たる場所を自分のものにしようとしたり、頻繁に“伸び”のポーズをしていたりと、他のライオンたちよりも猫っぽい特徴も見られ、意外と柔軟にタカを受け入れるなど、キロスはなかなか良いキャラだった。「ライオン・キング」はどうしてこうも魅力的なヴィランを作るのが上手いのだろうか。
今後はキロスのオリジンも見いてみたいところだが、順当な線はキアラを主人公にした『ライオン・キング2』、カイオンを主人公にした『ライオン・ガード』の超実写化だろう。『ライオン・キング:ムファサ』には登場しなかったが、アニメ『ライオン・キング2』にはヌカとビタニというスカーの息子と娘が登場している。『ライオン・ガード』ではスカーは霊体として登場し、知られざる過去を明かした。今後もまだまだスカーの物語が描かれる余地はあるのだ。
ディズニー前社長のショーン・ベイリーは2023年6月に「ライオン・キング」シリーズは「大きく、壮大なサーガ」に発展し得るとし、「物語を見つけることができれば、多くの余地がある」と話した。ディズニーでは2025年に実写版『白雪姫』『リロ&スティッチ』、2026年には実写版『モアナと伝説の海』の公開が控えている。超実写版「ライオン・キング」フランチャイズはどこまで拡大していくのか、今後も楽しみだ。
『ライオン・キング:ムファサ』は2024年12月20日(金) より劇場公開。
『ライオン・キング:ムファサ』サウンドトラックは特典付きバージョンが発売中。
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