アニメ洋画史上最大のヒット作『アナと雪の女王』
『アナと雪の女王』は2013年に米国で、2014年に日本で公開されたディズニーのアニメ映画。全世界興収は約12億7,4,00万ドル、日本でも254.7億円という歴史的ヒットを記録した作品として知られる。特に日本での興行収入はアニメ洋画としては歴代1位、映画全体で見ても歴代4位という特大ヒットを記録している。
中でも「雪だるまつくろう」や「レット・イット・ゴー〜ありのままで〜」といった劇中の楽曲は社会現象になるほどの人気となり、2019年には続編『アナと雪の女王2』も公開されている。2023年には第3作目の制作が発表されている他、第4作目もあり得るとディズニーCEOが発言したことも話題になった。
ディズニーを代表する一大フランチャイズとなった「アナと雪の女王」。今回は、その始まりの物語について、ラストを中心に舞台やキャストについても解説し、感想を記していこう。以下の内容は『アナと雪の女王』のネタバレを含むので、必ず本編を視聴してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『アナと雪の女王』の内容および結末に関するネタバレを含みます。
Contents
『アナと雪の女王』ネタバレ解説
『アナと雪の女王』の舞台は?
映画『アナと雪の女王』は、架空の国であるアレンデール王国を舞台にしている。モデルはノルウェー王国と見られる。アレンデール王国には港があるが、ノルウェーにはアーレンダールという港のある街が実在する。一方で、製作陣が現地入りして参考にしたのはノルウェーのベルゲンという街だという。
ちなみに2024年6月には東京ディズニーシーに『アナと雪の女王』をモデルにした新エリア・フローズンキングダムがオープンした。そこではアレンデール王国の港やエルサの氷の宮殿が再現されている。
『アナと雪の女王』に登場する“オーケンの店”にはサウナがあるが、フィンランドに負けず劣らずノルウェーでもサウナは人気だ。オーケンの店では時期が「7月」であることに触れられる。また、『アナと雪の女王2』に登場する地図には、アナとエルサの両親が乗った船が沈没した年が「MDCCCXL」と記されており、これは「1840」のローマ字表記となっている。
『アナと雪の女王』の本編の舞台はアナとエルサの両親の船が沈没した3年後となっているため、主な舞台は1843年7月であることが分かる。つまり、『アナと雪の女王』は“1840年代のノルウェー”が舞台と考えてよい。では、この時代のノルウェーはどういう時代なのだろうか。
ノルウェーは1814年までデンマークの実質的な支配を受けていたが、デンマークがナポレオン戦争に負けたことでスウェーデンに割譲され、1814年1月に「スウェーデン=ノルウェー」として併合された。
その後すぐ、1814年5月17日にノルウェーは憲法を制定して独立を宣言したが、スウェーデンが鎮圧。スウェーデン=ノルウェーは1905年にノルウェーが独立するまで続いたが、今でも独立記念日は5月17日とされている。
現代政治においても、ノルウェーはEU(欧州連合)への加盟を国民投票で否決しており、北欧4国の中でも、EUに加盟したスウェーデン、デンマーク、フィンランドとは異なる独自の道を歩んでいる。欧米の人々から見てもノルウェーという国は独特の強さを持った国であり、『アナと雪の女王』にはそうしたテイストも取り入れられていると考えられる。
キャスト&キャラにも注目
『アナと雪の女王』では、アレンデール王国の王女であるエルサは、幼い頃に自分の持つ魔法の力で妹のアナを傷つけて以来、部屋にこもりきりになっていた。その妹のアナは寂しく思っていたが、ある時、二人の両親が海で亡くなってしまい、その3年後に成人を迎えたエルサが女王になる日が来る。
他国の要人も迎えて戴冠式が行われたが、アナが出会ったばかりのハンス王子と結婚すると言い出したことで、エルサとアナは口論になり、エルサの魔法の力が暴発してしまう。エルサはノースマウンテンに氷の城を建てて籠城。アレンデール王国はエルサの魔法の力で雪が降り続けるようになってしまった。
アナはこの魔法を解くためにノースマウンテンに向かう道中、氷売りのクリストフとトナカイのスヴェンと出会う。ノースマウンテンに辿り着いたアナはエルサと話をするが拒絶されてしまい、更にエルサの魔法を胸に当てられたことで病を抱えてしまう。そうして、アナはクリストフとスヴェン、そしてエルサが生み出した喋る雪だるまのオラフと共に病を治し、エルサを癒そうとする。
”雪の女王”ことエルサの英語版の声を担当したのはイディナ・メンゼル。『アナと雪の女王』の挿入歌「レット・イット・ゴー」でアカデミー歌曲賞を受賞している。イディナ・メンゼルは、ロシアからのユダヤ系移民の良心を持つ。エルサの日本語版は俳優で歌手としても紅白出場経験のある松たか子が演じた。松たか子が歌う「レット・イット・ゴー」も高い評価を受けている。
妹のアナを演じたのはクリスティン・ベル。ポーランド系の母とドイツ、スコットランド、アイルランドの血を引く母を持つ。日本語版は神田沙也加が演じており、「雪だるまつくろう」は幼い頃のアナ→子ども時代のアナ→大人のアナによって歌われるが、それぞれのパートを稲葉菜月、諸星すみれ、神田沙也加が歌っている。2021年に神田沙也加が逝去した後、『ディズニー・オン・アイス』や『ワンス・アポン・ア・スタジオ -100年の思い出-』(2023) でのアナは清水理沙が担当しているが、過去作の差し替えは行われていない。
オラフの英語版の声はジョシュ・ギャッドが演じており、日本語版は元々ピエール瀧が演じていたが、ピエール瀧が薬物で逮捕された後、出演を控えていた『アナと雪の女王2』は降板となり、代わって武内駿輔が起用された。ディズニープラスで配信されている『アナと雪の女王』のオラフも武内駿輔の声に差し替えられている。
クリストフの英語版の声を演じたのは、2021年に『マトリックス レザレクションズ』でスミス役を演じたことでも知られるジョナサン・グロフ。2009年にはゲイであることを公にしている。日本語版は劇団TipTapの原慎一郎が演じている。
続編で深掘りされるが、クリストフはトナカイと暮らす北欧の先住民族であることが示唆されている。ノルウェー先住民のサーミ人はトナカイと暮らす遊牧民で、ノルウェー政府から迫害を受けてきた立場でもある。『アナと雪の女王』はサーミ文化を世界に伝えたとして評価されている一方、ノルウェーを舞台に選んだ『アナと雪の女王』が加害の歴史に触れなかったことには少なからず違和感があった。そのアンサーは次作に持ち越されることになる。
『アナと雪の女王』ラストをネタバレ解説
オラフの「愛」
映画『アナと雪の女王』の終盤では、凍った心を溶かすには“真実の愛”が必要だとトロールから教えられ、アナは婚約したハンス王子の元へ向かう。そこでハンスのキスを請うのだが、なんとハンスは国を乗っ取るためにアナに近づいており、そこに真実の愛はなかった。“王子様のキス”で物事が解決するというセオリーを否定する展開だ。
更にハンスは捕らえたエルサを処刑しようとするが、エルサは氷の力で逃げ出すことに成功する。去ろうとしていたがトナカイのスヴェンに怒られたクリストフは城へ向かう一方、アナを助けたのはオラフだった。オラフはアナに「愛は自分より人のことを大事に思うこと」と教え、更にアナを温めようとして「アナのためなら溶けてもいい」と言い、オラフなりの「愛」を見せる。
氷の像になったアナ
エルサの魔法が暴走して王国が吹雪に包まれる中、ハンスはアナが死んだと聞いて倒れ込んだエルサを斬ろうとするが、そこに割って入ったのはアナだった。しかし、その瞬間にアナは完全に氷の像になってしまう。病が進行した結果だろう。
氷像となったアナの姿は、聖書でロトの妻が塩の柱になった話を想起させる。ロトとその家族は神に救われた後に「振り返るな」と言われていたのに振り返ってしまい、塩の柱になった。この塩の柱とされる岩塩はイスラエル東部のソドム山に現存する。なお、『モアナと伝説の海』のラストでも、モーセがイスラエルの民を逃すために海を割ったという話を想起させる展開があった。
ロトの妻が塩の柱にされたのは捨てなければいけない過去に未練を持ったからで、アナもまた仲良く遊んでいたエルサとの過去にこだわり氷の柱になってしまった。しかし、『アナと雪の女王』は聖書と異なる結末が用意されている。
オラフが言った「愛は自分より人のことを大事に思うこと」という言葉の通り、アナがエルサのために行動したことでエルサもまたアナのことを思い、エルサの魔法は解けることになった。エルサは、愛を持つことで魔法をコントロールできると気づき、アレンデール王国を覆っていた雪は消え去ったのだった。
流れた曲は?
このシーンで流れる「ナーナーナーヘイヤーナ〜」と歌われる曲は、サーミ音楽家のフローデ・フェルハイムが2002年に手がけた「Eatnemen Vuelie」を元にした「Vuelie」という曲。この歌はサーミ人の伝統的な民謡であるヨイクで、ヨイクは『アナと雪の女王2』でも重要な要素になる。
雪は消えたが、オラフはエルサにオラフだけの雪雲を与えられ生き延びることに。エルサとアナは和解の時を迎え、ハンス王子は国に送り返されることに。ハンス側についていたウェーゼルトン公爵は、今後一切の交易を行わないと告げられる。
この場面で公爵は「ウェーゼルトンだ!」と怒っているが、日本語吹き替えでは「ウィルスタウン」と、日本語字幕では「ウィーズルタウン」と呼び間違えられている。「ウィーズルタウン」方は直訳すると「イタチの街」になってしまう。
他国の人々を追い返すこのラストには、独立心の強いノルウェーっぽさが感じられる。大抵、他国にも扉を開いてやっていこうとなりがちだが、先述の独立の歴史を踏まえると、安易にそのエンディングを選ぶことはできなかったと考察できる。
クリストフは新しいソリを与えられて王国公認の氷配達人に。アナとクリストフは口付けをかわし、オラフは憧れの夏を満喫。オラフは「あこがれの夏」という曲を歌うほど夏に憧れていた。
エルサは門を二度と閉ざさないことを宣言し、アナと昔のように氷の上で遊んで『あなと雪の女王』は幕を閉じる。エンドソングはMay J.が歌う「レット・イット・ゴー〜ありのままで〜」。May J.は2014年に同曲で紅白歌合戦に出場している。
ポストクレジットシーンでは氷の怪物のマシュマロウが登場。エルサが放り投げた女王の冠をつけて“丸く”なる姿が描かれる。その後については、短編「アナと雪の女王 エルサのサプライズ」に登場しており、氷の城の留守番をしていることが明かされている。
『アナと雪の女王』ネタバレ感想
「Let It Go」の意味
映画『アナと雪の女王』は姉妹の絆、シスターフッドをテーマにしつつ、ノルウェーの文化を取り入れた作品だ。エルサは力を恐れられ、押さえつけられて育った結果、力をコントロールできなくなっていた。一方のアナは過去のエルサとの楽しかった思い出を根拠にエルサにこだわり続けた。
エルサの魔法の力は、資本や才能の比喩と考えることもできる。自分を守ることもできるが、コントロールできなければ他者を傷つけることになる。だが、愛=他者への思いやりを持てば、強い力になるというのが『アナと雪の女王』の結論だった(ただし、エルサの魔法の起源については続編『アナと雪の女王2』で描かれることになる)。
また、日本語で「ありのままで」となっている「Let It Go」という歌詞は、「解き放て」という意味で捉えることもできる。最後にエルサがもう門を閉じないと決めたことも含め、他者から解放されるという外に向かう視線から、自分を解放して他者を受け入れるという姿勢に転じられたことが、エルサにとっての成長だった。
そして、これらのメッセージは“隣国の王子様”ではなく、アナとエルサ、そして二人が生み出した雪だるまのオラフによって提示される。『モアナと伝説の海』が描いたディズニープリンセスは、王子もロマンスも登場しない、自由な首長の娘モナアだった。『アナと雪の女王』では王子は登場するが悪人で、女王(クイーン)と王女(プリンセス)の絆によって立ち直る二人の姿が描かれているという点で、やはりシスターフッドの映画だったと言える。
サーミ人をめぐって
残るはノルウェー先住民のサーミ人についての描写だ。『アナと雪の女王』公開時点では、賛否両論があり、サーミ人の文化を世界に紹介するきっかけになったという評価もある。「Vuelie」の作曲を手がけたフローデ・フェルハイムは、『アナと雪の女王』での貢献によってノルウェー・サーミ協会に表彰されることになった。
一方、サーミ人が受けた迫害については十分に描かれておらず、サーミ人をベースにしているクリストフは王国公認の労働者になって終わってしまった。この課題については、ジェニファー・リーが脚本を続投した『アナと雪の女王2』で扱われることになる。
続編の『アナと雪の女王2』、そして制作が進められている『アナと雪の女王3』ではどんな物語が描かれているのか。こちらもチェックしていこう。
『アナと雪の女王』はMovieNEXが発売中。
『アナと雪の女王』で歌われた曲の英語版と日本語版の両方が収録されたサントラは発売中&配信中。
ディズニー最新作『モアナと伝説の海2』は2024年12月6日(金) より日本公開。
『アナと雪の女王』で歌われた歌の全曲解説はこちらから。
『アナと雪の女王3』の情報はこちらの記事で。
『モアナと伝説の海』ラストの解説&感想はこちらから。
映画『ウィッシュ』ラストの解説&感想はこちらから。
『モアナと伝説の海2』のあらすじ&キャストなどの情報はこちらから。
実写版『モアナと伝説の海』の最新情報はこちらの記事で。
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