映画『インサイド・ヘッド』をネタバレ解説
ディズニー・ピクサー映画『インサイド・ヘッド』は2015年に公開された映画で、世界興収8.5億ドル超、日本での興行収入40億円超を記録した大ヒット作だ。2024年8月1日(木) からは続編『インサイド・ヘッド2』が日本で公開。9年ぶりの続編にして、ピクサーでは6作目となる続編が製作されたフランチャイズ作品となった。
今回は、歴史の始まりとも言える映画『インサイド・ヘッド』のラストについて、ネタバレありで解説し、感想を記していこう。以下の内容は本編のネタバレを含むので、必ず『インサイド・ヘッド』を視聴してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『インサイド・ヘッド』の結末に関するネタバレを含みます。
Contents
『インサイド・ヘッド』ラストのネタバレ解説&感想
ライリーの頭の中の感情たち
映画『インサイド・ヘッド』は、11歳のライリー・アンダーセンとその頭の中に生まれた感情たちの物語。アメリカの中西部に位置するミネソタ州から西海岸のサンフランシスコへと引っ越したライリーは、環境の変化にともなう困難に直面し、感情たちも大慌てでこれに対処することになる。
『インサイド・ヘッド』で紹介される感情は、ヨロコビ、カナシミ、イカリ、ムカムカ、ビビリの5人。ヨロコビはライリーの思い出や、そこから形成される性格づくりをリードしていたが、ライリーの転校先での登校初日、カナシミによって初めて“悲しい特別な思い出”が作り出されてしまう。その思い出が「長期記憶の保管場所」へ行ってしまうことを防ごうとしたヨロコビと、それを止めようとしたカナシミは、チューブに吸い込まれて感情の司令部から長期記憶の保管場所へと送られてしまうのだった。
映画『インサイド・ヘッド』のテーマは、ライリーにポジティブでいてもらいたいヨロコビが、負の感情であるカナシミとどのように折り合いをつけていくかというものである。それは転じて、私たちが負の感情とどう付き合っていくかということでもある。司令部に残されたイカリ、ムカムカ、ビビリだけでライリーの感情を操作する一方、ヨロコビとカナシミは司令部に戻る旅の中で、イマジナリーフレンド(空想上の友達)のビンボンとの出会いなどを経て、ライリーとその感情に対する理解を深めていく。
一方で、新たな環境で成長し続けていくライリーの頭の中では、想像で創られたものが次々と壊れていく。落ち込むビンボンにヨロコビのポジティブな言葉は届かないが、カナシミが共に悲しんであげることで、ビンボンは再び前を向いて歩き出せるようになる。“悲しみ”という感情と向き合うことで、人は前に進むことができる。この時のヨロコビはまだそれを理解していない様子だが、そんなメッセージを踏まえて『インサイド・ヘッド』の物語はクライマックスへと向かっていく。
カナシミが必要な理由
『インサイド・ヘッド』のクライマックスでは、ライリーが母親のクレジットカードを使って高速バスのチケットを買い、独りで故郷のミネソタへ向かうことになる。ちなみに作中に登場するバスステーションはサンフランシスコに実在している。グレイハウンドという会社などのバスがサンフランシスコからミネソタまで運行しているが、片道だけで50〜60時間ほどかかる。母親のカードはもう返していて、ミネソタに着いてしまえば帰ることは難しいだろう。ライリーはそれほどの覚悟で家出を試みていたのだ。
ライリーが母のクレジットカードを勝手に使ったことで、ライリーの中の「正直の島」が崩壊する中、ヨロコビは「ライリーはハッピーな子」と言い切り、カナシミを置いて司令部に戻ろうとする。だが、それに失敗したヨロコビは再び記憶の保管所へと戻され、絶望的な状況の中でようやく“答え”に辿り着くことになる。
ヨロコビは、ライリーの明るい特別な思い出を巻き戻すと、そこには悲しい思い出が同居していたことに気が付く。ホッケーチームの仲間たちに胴上げされ、両親がそばで見守っていた思い出は、決勝戦でシュートを外して一人落ち込んでいたライリーのもとに両親が慰めに来て、そして仲間たちが集まってくれた時の思い出だったのだ。
両親が慰められているシーンは画面が青色であり、まだ悲しい思い出であることが分かる。仲間たちが駆けつけて、ようやく画面がオレンジ色に変わり、明るい思い出になるのだ。つまり、カナシミというスタートがあってこそ、両親と共に悲しんだことも、そのあと仲間たちに助けられたことも、ライリーにとって大切な思い出になる。一面的に楽しい思い出だけが存在できるわけではなく、悲しい思い出もまた、ライリーにとってはなくてはならないものなのだ。
ヨロコビとカナシミが入り混じった思い出
必ず司令部に戻ることを決意したヨロコビは、歌をうたってビンボンのロケットで脱出。中盤で捨てられたビンボンのロケットが谷の底にあったのだ。ヨロコビはロケットが歌で動くのを過去の記憶で見ていたし、ロケットが谷に落とされる前にビンボンが実際に歌ってロケットを動かしたのも見ていた。
だが、イマジナリーフレンドであるビンボンは成長したライリーにとっては不要な存在になっており、ここで姿を消すことに。全てを背負って前に進んでいけるわけではなく、忘れざるを得ない記憶もあるという現実が描かれている。
バスに乗り込むライリーの感情が消えていく中、カナシミの大切さに気づいたヨロコビは、家族の島のトランポリンを使ってカナシミと共に司令部への帰還を果たす。トランポリンは幼少期のライリーが家族と遊んでいたもので、ライリーの家出という家族の危機をヨロコビとカナシミが救う伏線となっている。
司令部にたどり着いたヨロコビは、ライリーを助けるにはカナシミが必要だと言い、ライリーの家出を止める役割をカナシミに託す。バスがフリーウェイに入る直前でライリーは下車するのだが、高速バスからこんなに簡単に降ろしてくれるのがアメリカらしい。
両親がライリーの失踪に焦り始めた頃、ライリーは帰宅して両親と対峙する。ヨロコビはミネソタ時代のライリーの特別な思い出を全てカナシミに託し、楽しい思い出をカナシミに青く染めさせる。そしてライリーは、前の家やミネソタが好きだったこと、笑顔でいようと思っても寂しい思いをしていたと吐露する。
悲しい気持ちを抑え込むのではなく、吐き出すことも大切なことだ。ライリーが正直な思いを共有したことで、両親も哀しみを抱えていることを明かし、家族はリユニオンを果たすのだった。そして、家族3人でのハグが交わされる中、司令部では今度はカナシミがヨロコビをコントロールパネルの前に連れてくる。すると、カナシミとヨロコビが混ざった新しい思い出が誕生し、それが新しい家族の島を輝かせる。この島には、サンフランシスコのゴールデンゲートブリッジも見られる。サンフランシスコで出来た新しい思い出だ。
ラストのアレは誰?
その後の司令室には、ヨロコビとカナシミが入り混じった思い出のほかに、ホッケーをやっている時のヨロコビと怒りが入り混じった思い出なども置かれている。本を読んでいる時の思い出は、ムカムカの緑とビビリの紫が入り混じった色になっているが、ミステリーかホラーでも読んでいるのだろう。繰り返しになるが、ポジティブな感情でなくても大事な思い出はあるということだ。
感情たちは新しく出来たり拡張したりしたライリーの島を眺めているが、カナシミは「憧れの先輩に片想いの島」が好きだと話す。このセリフは日本語吹き替え用のもので、英語では「Tragic Vampire Romance Island=悲劇のヴァンパイアとの恋の島」になっている。おそらくフィクションの話だが、日本語では分かりやすくするために「先輩への片想い」としたのだろう。悲しいストーリーを好んで読むのが人間の不思議なところである。
続編につながる要素も
ちなみにビビリが見つける「イケメンバンドの島(Boy Band Island)」は、続編『インサイド・ヘッド2』への小さな伏線になっている。司令部のコントロールパネルは最新のものになり、たくさんの新しいボタンも加わった。そして、その中には「思春期」と書かれた赤いランプも。こちらもライリーがティーンエイジャーになる続編への布石である。
アイスホッケーチームに入ったライリーは、両親が応援に来る中、試合に臨む。3人はサンフランシスコに残って新しい生活に臨んでいるのだ。このシーンでライリーが水筒を拾ってあげた男の子は、スピンオフ短編「ライリーの初デート?」に登場するジョーダンだ。同作は『インサイド・ヘッド』のDVDに収録され、ディズニープラスでも配信されている。
ラストシーンでは、12歳になり、ホッケーに挑むライリーには様々な感情が共存している。ネガティブな感情だからと排除する必要はなく、全ての感情がライリーを構成しているのだ。そして、そのことをヨロコビは前向きに捉えており、私たちもそれで良いのだ思わせてくれるラストとなっている。
エンドロールの意味
エンドロールでは、様々なキャラクターの頭の中の様子が描かれる。学校の先生はジョーダンを当てているが、これは先ほどのホッケー場の少年のことだと思われる。先生は次のバケーションのことを考えており、ピザ屋の店員はなぜ自分が不機嫌なのかと自問自答し、強がっている少女は意外と格好つけるのに疲れていたり、ピエロは子どもに見向きもされないことにがっかりしたりしている。
このピエロは潜在意識の保管庫にいたジャングルズにそっくりだ。ジャングルズはライリーにとって怖い存在として登場しており、エンドロールでピエロが「子どもはピエロが好きって言ったの誰だ?」という疑問は作中の内容とリンクしている。また、バスの運転手の頭の中では、ライリーと同じようにトリプルデントガムのCM曲が脳内で流れている。最後には犬と猫にも感情があること、猫は勝手にボタンを押して暴れてしまうというあるあるネタも。
学校の先生もバスの運転手も、動物にもそれぞれに感情があり、イカリやヨロコビ、カナシミといった感情のせめぎ合いの中で生きている。当たり前だが忘れがちな現実をコミカルな形で提示して、映画『インサイド・ヘッド』は幕を閉じる。
11歳のライリーの頭の中という舞台を用いて、感情の働きとカナシミという感情の大切さを描いた映画『インサイド・ヘッド』。分かりやすく客観的に人間の感情のマネジメントについて描かれた作品でもあり、米国ではマネジメントの授業で利用する大学もある。2015年に公開された本作だが、今後も長く愛される作品になっていくだろう。
2024年8月1日(木) から日本の劇場で公開された続編の映画『インサイド・ヘッド2』では、ライリーは13歳に。そして、シンパイ、イイナー、ハズカシ、ダリィという新しい感情が登場する。ライリーの新しい冒険と、更に複雑になっていく感情たちのドタバタ劇をお見逃しなく。
映画『インサイド・ヘッド2』は2024年8月1日(木) より全国の劇場で公開。
映画『インサイド・ヘッド』はBlu-rayが発売中。
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『インサイド・ヘッド2』に登場する新たな感情であるシンパイの設定についてはこちらの記事で。
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