空前の大ヒット映画『アナと雪の女王2』
2019年に公開された映画『アナと雪の女王2』は、2013年に公開された前作を超えるヒットを記録し、全世界興収は14億ドルを超えた。2024年12月現在、ディズニーのアニメ映画としては歴代トップのヒット作(ディズニー・ピクサーも含めるとトップは『インサイド・ヘッド2』)で、映画全体でも歴代興収第14位という歴史に残るヒット作になった。
第3作目と第4作目の製作も進められており、「アナと雪の女王」はディズニーを代表するフランチャイズの一つとなっている。今回は、『アナと雪の女王2』のラストについて、ネタバレありで解説と感想を記していこう。以下の内容はネタバレを含むため、必ず本編を視聴してから読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『アナと雪の女王2』の内容に関するネタバレを含みます。
Contents
『アナと雪の女王2』ネタバレ解説
エルサは一人で未知の世界へ
前作『アナと雪の女王』で城を開いたエルサは、引き続きアレンデール王国の女王として、妹のアナは王女として幸せに生活している。ところが前作のラストから3年が経った時、エルサの耳に歌声が聞こえるようになると、風・火・水・大地の精霊がアレンデール王国を襲い、人々は避難を余儀なくされる。
『アナと雪の女王2』では、エルサとアナ、クリストフ、スヴェン、そしてオラフはアレンデール王国の謎に包まれた過去を解き明かすため、閉ざされた魔法の森へと旅立つことになる。かつてアレンデール王国と共存していたノーサルドラの民との出会いを経たエルサとアナは、前作の冒頭で亡くなった二人の両親が、エルサの魔法の力の秘密を解き明かすために海に出て難破したということを知る。
そして、エルサは自分の責任を感じて、一人で過去の記憶が眠る魔法の川・アートハランを目指すことになる。前作で“扉”を閉じていたエルサが、自分が知らない未知の世界/歴史を切り拓いていくというのが『アナと雪の女王2』のストーリーになっていく。
注目はオラフとクリストフ
映画『アナと雪の女王2』では、前作と同じくクリステン・ベル/神田沙也加演じるアナ、イディナ・メンゼル/松たか子演じるエルサ、ジョナサン・グロフ/原慎一郎演じるクリストフ、そしてオラフが物語の中心になる。
オラフの英語版の声はジョシュ・ギャッドが続投しているが、日本語版はピエール瀧から武内駿輔に交代になっている。なお、前作『アナと雪の女王』のオラフの声も配信やテレビ放送は武内駿輔の声に差し替えられている。
『アナと雪の女王2』のオラフはかなり自由に声色を変えてユニークな動きを見せており、本作のMVP級の活躍を見せている。一方、クリストフはアナへプロポーズをするというミッションに追われながらも、アナ、エルサ、オラフとは離れてノーサルドラの人々と過ごす時間が長くなる。
この展開は、元々『アナと雪の女王』の舞台のモデルになっているノルウェーの先住民であるサーミ人がクリストフのモデルとなっていることに由来する。前作『アナと雪の女王』は、トナカイと共に暮らすサーミ人のカルチャーを世界に発信したとして称賛する声もあったが、サーミ人が受けた迫害の歴史が描かれていないという問題点もあった。
「アナ雪」の課題だったサーミ人の歴史
遊牧民だったサーミ人は、かつて国境を分けたノルウェー、ロシア、スウェーデンの間で分断され、支配される立場に置かれた。ノルウェー王国もサーミ人に対して特別な徴税を課した。土地に根ざした近代的な国家が編成されていく中で、サーミ人は定住を迫られるようになり、サーミ人は森や川、湖に住んで、それぞれ異なる生活様式を持つようになった。
クリストフは氷売りをして暮らしていたが、『アナと雪の女王2』ではノーサルドラの民は森の中で暮らしている。生活様式は異なるが、トナカイと暮らしているという点は一致しており、クリストフとノーサルドラの民は同じルーツを持っていることが示唆されている。
ノルウェーは国家としてスウェーデンからの独立を勝ち取ったが、一方でサーミ人はノルウェーを含む国家から迫害と支配を受けてきた。サーミ人は暮らしてきた土地を取り上げられ、強制移住させられ、使う言葉を強制される同化政策を1980年代まで受け続けた。
その他にもチェルノブイルの原発事故によりトナカイに被害が出るなど、近代国家から生活を破壊されてきたという背景もある。2023年にもサーミ人のトナカイ放牧地に風力発電所が建設され、後に違法と判断されてノルウェー政府が謝罪した。サーミ人への権利侵害は決して過去の話ではない。
『アナと雪の女王2』では、前作で棚上げにされていたこの問題を比喩的に扱っていくことになる。
『アナと雪の女王2』ラストをネタバレ解説
アレンデールとノーサルドラの過去
『アナと雪の女王2』の終盤では、エルサはアートハランに辿り着き、水の記憶を通してアレンデール王国とノーサルドラの知られざる歴史を知ることになる。ちなみにこのシーンで若き日の父アグナルが「デンマークの童話」を読んでいるのは、「アナと雪の女王」の原作『雪の女王』が1844年に発表されたデンマークの童話だからだ。
冒頭でアナとエルサの父アグナルは、二人の祖父にあたるルナード国王が友好の証としてノーサルドラの民にダムを送ったが、ノーサルドラの民がある日突然アレンデールを攻撃したと語っていた。しかし、その話は事実ではなかった。
実は、エルサの祖父であるルナード国王は魔法の力と共存するノーサルドラのことを恐れ、ノーサルドラを侵略しようとしていた。ダムを作ったのはノーサルドラを助ける自然の精霊の力を弱めるためで、アレンデールからノーサルドラを攻撃していたことが発覚する。
これが、精霊がアレンデールに牙を剥き、魔法の森が霧に覆われた背景だった。一方で、この戦いでエルサの父アグナルを助けた人物がエルサの母のイドゥナであり、イドゥナはノーサルドラの民の出身だったことも明らかになる。
エルサを呼んでいた歌声は亡きイドゥナの声で、エルサの魔法の力は、イドゥナがアグナルを助けたことから自然の精霊によって授けられたものだったということも明らかになる。そして、エルサ自身が4つの精霊を結びつける第5の精霊であったことが明らかになるが、アレンデールとノーサルドラの歴史を知ったエルサは、凍りついて動けなくなってしまったのだった。
ハイライトのダム決壊シーン
アナはオラフと洞窟に迷い込んでいたが、エルサが凍りついたことでオラフも消えてしまう。アナがオラフを抱きしめ、オラフが消えていくシーンは涙なしでは見られない。
一人になったアナは絶望の淵に立たされるが、エルサからのメッセージを受けてダムを破壊することを決意。大地の精霊であるアースジャイアントを誘導してダムを破壊させるのだった。
自分の先祖が悪いことをしたのであれば、自分たちが得た生活に被害が及ぶとしても清算しなければならない、この展開にはそんな強いメッセージが感じられる。また、ダム決壊時の水の表現は見事。実写と見紛うレベルの映像表現には驚かされる。
ダムが壊れたことで凍っていたエルサが復活。エルサは水の精霊(馬)と共に駆けつけて、迫り来る水からアレンデールを守ったのだった。魔法の森に閉じ込められていたノーサルドラの民が解放され、トナカイたちが自由に走り回るシーンは、現実において迫害を受けてきたサーミ人とトナカイへ捧げられているように思える。
水には記憶がある?
エルサはアナとクリストフと再会すると、オラフを復活させる。『アナと雪の女王』でアナがエルサに呼びかけ続けてきた「雪だるま作ろう」を、今度はエルサがアナに言うという演出になっている。
そして、「水には記憶がある」の理論でオラフには以前の記憶が残っていた。ちなみに「水には記憶がある」という理論はジャック・バンヴェニストが提唱した説で、水はいくら希釈しても一度溶かした成分が残っているという意味だ。
エルサはこの時点で既に第5の精霊になっており、アレンデールをアナに託す。クリストフはアナにプロポーズして二人は婚約、エルサは第5の精霊として森に残ることに。アナが新たな女王となり、アレンデールの広場にはアナとエルサの父と母の銅像が建てられた。
エルサは森に住みながらも、アナとは引き続き交流している様子が窺える。ラストシーンでは、アートハランへと駆けていく。歴史の真実が眠るアートハランは怖い場所ではない、自分たちが立ち帰るべき場所だ、そんなメッセージが読み取れる。
最後に流れる曲は?
このシーンで流れる曲は「ナーナーナーヘイヤーナ〜」と歌われる曲は、サーミ音楽家のフローデ・フェルハイムが2002年に手がけた「Eatnemen Vuelie」を元にした「Vuelie」。前作でも流れていた曲で、サーミ人の伝統的な民謡であるヨイクの歌になっている。
エンドソングは中元みずきが歌う「イントゥ・ジ・アンノウン」。英語版はポップロックバンドのパニック! アット・ザ・ディスコ(ブレンドン・ユーリーのソロプロジェクト)が歌っている。ブレンドン・ユーリーはパンセクシャルであることを公表し、セクシュアルマイノリティを支援する活動を行っていることから、この起用にはコミュニティから喜びの声も上がった。
ポストクレジットシーンでは、オラフが『アナと雪の女王2』のあらすじを演じ、前作に登場したマシュマロウがこれを聞いている。マシュマロウの周りにいる小さな雪だるまはスノーギースと呼ばれる、短編『アナと雪の女王/エルサのサプライズ』に登場したキャラクターだ。エルサのくしゃみから生まれたスノーギースは、マシュマロウの住むエルサの城に引き取られている。
なお、オラフがディズニーの名作を語ってくれる『オラフが贈る物語』(2021) はディズニープラスで配信されている。
『アナと雪の女王2』ネタバレ感想
植民地主義と向き合った『アナと雪の女王2』
『アナと雪の女王2』は、フェミニズム映画として高く評価された前作に続いて、忘却された植民地主義の歴史を扱うメッセージ性の強い作品になっていた。トナカイと住むノーサルドラの民はサーミ人を思わせ、平和に見えるアレンデール王国の暗い過去は白人による先住民への植民地支配を想起させる。
ノーサルドラの子孫だったアナとエルサがそのルーツを忘れて生活していることも、同化政策の結果を思わせる設定だ。「友人」を装いながら先住民を同化した国王のやり方は、現実の歴史でも行われてきたことでもある。
ノーサルドラが襲撃された理由は、国王がその未知の力を恐れたからだった。オーストラリアの人類学者ガッサン・ハージは、入植者である白人の方が少数民族に恐怖を抱く心理を「ホワイト・パラノイア」と名付けた。ありもしない脅威をでっち上げ、少数民族から権利を奪う行為は現在も続いている。
一方で、時代が流れて双方の血が混ざり合った今、次の時代を生きる方策を考えなければならないことも確かだ。そんな状況で負の遺産であるダムを躊躇なく破壊するという解決策は爽快だった。
現実においては、2024年11月12日にノルウェー議会がサーミ人、クヴェン人、フォレスト・フィン人に対する1世紀以上に及ぶ同化政策を謝罪した。『アナと雪の女王2』ではアナのエルサの強い思いと魔法の力が解決してくれたが、現実には魔法は存在しない。私たちはしっかり歴史と向き合っていく必要があるだろう。
『アナと雪の女王3』はどうなる?
「アナと雪の女王」シリーズは、第3作目となる『アナと雪の女王3』が2027年11月24日に米国で公開されることが既に発表されている。また、第4作目についても製作に取り掛かっているとされている。
『アナと雪の女王2』では、アナが女王になり、エルサは精霊の一人になって森に住むことになった。第1作目ではエルサの心を開き、姉妹が和解する個人の話が描かれ、第2作目では先住民との負の歴史を清算するアレンデール国内の話が描かれた。であれば、『アナと雪の女王3』では他国との話がメインになるのではないだろうか。
『アナと雪の女王』ではアレンデールを乗っ取ろうとする他国の国の人々を追い返す結末になった。ノルウェーは現在も北欧4国で唯一EUに加盟しておらず、独特な独立精神を持った国として知られる。また、ロシアと国境を接しており、2024年5月からは国境からのロシア人観光客の入国を禁止した。
『アナと雪の女王3』では、EUやロシア、スウェーデンとの歴史や世界情勢が反映される可能性もあるだろう。他国間で戦争や侵略が起きた時に、アレンデールはどのように振る舞うのかということも気になるところ。新たな名曲の誕生とオラフたちのカムバックと共に、到着を楽しみに待とう。
『アナと雪の女王2』MovieNEXはDisney100 エディションが発売中。
『アナと雪の女王』はMovieNEXが発売中。
『アナと雪の女王2』で歌われた曲の英語版と日本語版の両方が収録されたサントラは発売中&配信中。
『アナと雪の女王』で歌われた曲の英語版と日本語版の両方が収録されたサントラは発売中&配信中。
ディズニー最新作『モアナと伝説の海2』は2024年12月6日(金) より日本公開。
前作『アナと雪の女王』の解説&感想はこちらから。
『アナと雪の女王3』の情報はこちらの記事で。
前作『アナと雪の女王』で歌われた歌の全曲解説はこちらから。
【ネタバレ注意!】『モアナと伝説の海2』ラストの解説&感想はこちらから。
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