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神は細部に宿る。ニール・ブロムカンプ監督のこだわり
『第9地区』に続く期待作として登場した『エリジウム』
ニール・ブロムカンプ監督作品の特徴は、「神は細部に宿る」と言わんばかりのディテールへのこだわりだ。長編作品だけでなく、自身が立ち上げたオーツ・スタジオでも、随所にこだわりが感じられるレベルの高い短編作品を公開してきた。そんな中でも今回注目したい作品が、2013年に公開された『エリジウム』だ。ニール・ブロムカンプ監督にとっては二本目の長編映画で、デビュー作『第9地区』(2009)のヒットを受けて制作された期待作であった。
この作品では、環境汚染が進み貧困層が住む地球と、あらゆる病気を治療できる理想郷であり富裕層が住むスペースコロニー・エリジウムという舞台を用いて、格差社会が描かれた。『第9地区』が3,000万ドルという、ハリウッドとしては低予算の部類に入るバジェットで製作されたのに対し、『エリジウム』の予算は1億1,500万ドル。そして、この予算をもってニール・ブロムカンプ監督が同作で実現させたのは、メカを含むディテールへのこだわりだった。
ブロムカンプ作品を支えるウェタ・ワークショップ
3Dプリンターでリアルさを追求
ニール・ブロムカンプ監督の作品を語る上で、まずチェックしておきたいのが、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズや『アバター』(2009)などでクリーチャーデザインを手がけたウェタ・ワークショップ (WETA Workshop)の存在だ。ウェタ・ワークショップはニュージーランドに拠点を置くチームで、『第9地区』ではエイリアンのデザインを手がけている。ウェタ・ウェークショップはリアルさを追求するために、3Dプリンターを利用した小道具制作も行なっている。
『エリジウム』では、強化外骨格のエクソスーツや、マット・デイモン演じる主人公マックスが交戦するロボット警察など、メカを中心に手がけている。そのリアリティは、現実世界のものかと見紛うほど。ガジェットの細部まで追求されたリアリティは、強化外骨格を用いた人間同士の戦いを描く『エリジウム』にとって、必要不可欠な要素だったのだ。
ブロムカンプ監督が惚れ込む職人芸
ニール・ブロムカンプ監督は『第9地区』の構想段階から、デザインをウェタ・ワークショップに依頼すると決めていたというほど、その職人芸に惚れ込んでいた。ニール・ブロムカンプ監督が手がけた三作は、配給会社の変更に伴って製作会社も変更されているが、ウェタ・ワークショップは全ての作品に参加している。
ニール・ブロムカンプ監督は、自身が脚本を手がけるとされていた『エイリアン5』の企画が立ち消えになった際、『第9地区』の続編製作の可能性に触れ、「またウェタと仕事ができるとしたら、それはクールなことだよ」とコメントを残している。既に自身のスタジオであるオーツ・スタジオが動き出していたことを考えれば、ニール・ブロムカンプ監督とウェタ・ワークショップは、まさに盟友関係にあると言えるだろう。
アルマーニにベルサーチ!? 『エリジウム』が追求したリアリティ
ブレードランナー、∀ガンダムを手がけたデザイナーが参加
ウェタの起用は、転じてニール・ブロムカンプ監督のディテールへのこだわりを証明するものでもある。『エリジウム』では、ふんだんな予算を活用して、多数のデザイナー・企業が映画に登場するガジェットのデザインを手がけている。中でも注目すべきは、『ブレードランナー』(1982)、『トロン』(1982)、そして『∀ガンダム』(1999-2000)を手がけたことで知られるデザイン界の巨匠、シド・ミードの参加だ。『エリジウム』では、その物語の土台となるスペースコロニーのコンセプトデザインを担当している。シド・ミードは、フォード車などの工業デザインを手がけていたことで知られており、SF作品のデザインにおいても機能性を考慮する。ここにもまた、リアリティを追求する職人の技が隠れていたのだ。
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— Elysium (@elysium) 2013年7月17日
ブロムカンプ監督が描いた2154年の富裕層
『エリジウム』でデザインを手がけたのは、SF作品に馴染みのある面々だけではない。ジュディ・フォスター演じるエリジウムの防衛長官、ジェシカ・デラコートが着るスーツのデザインを手がけたのはアルマーニだ。フォルクスワーゲンが展開する高級自動車メーカー・ブガッティが、富裕層が利用するシャトルをデザインした他、医療用ポッドのデザインをベルサーチが手がけている。2154年を舞台にしても、富裕層がハイブランドを身にまとい、“高級車”に乗る習慣は変わらないということだ。
こうしたディテールに込められたこだわりによって、観客は、SFエンターテイメントでありながら現実の延長として作品に没頭することができる。これに、ニール・ブロムカンプ監督が得意とする王道SFと現代社会が抱える問題を交差させる手法が加わり、映画をより濃厚で重厚な次元へと引き上げてくれるのである。
これらのニール・ブロムカンプ監督のディテールへのこだわりを感じながら、改めて『エリジウム』を観てみると、また違った感覚が得られるかもしれない。