ハリウッドの常識を覆す! 『第9地区』ニール・ブロムカンプ監督が短編映画を作る理由 | VG+ (バゴプラ)

ハリウッドの常識を覆す! 『第9地区』ニール・ブロムカンプ監督が短編映画を作る理由

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SF映画界のニュースター、ニール・ブロムカンプ監督の現在地

『ロボコップ』最新作に抜擢

先月、『ロボコップ』(1987)の続編となる『RoboCop Returns』(公開時期未定)に、ニール・ブロムカンプ監督が抜擢された。1979年生まれ、南アフリカ出身のニール・ブロムカンプ監督は、2009年に『第9地区』で長編デビューを果たすと、『エリジウム』(2013)、『チャッピー』(2015)と、立て続けにSF映画史に残る傑作を生み出した。今回『RoboCop Returns』の監督にも抜擢され、今最も勢いに乗っているSF映画監督の一人だ。

3Dで造型されたニール・ブロムカンプ監督

『チャッピー』から4年…

ニール・ブロムカンプ監督といえば、『第9地区』から『チャッピー』まで、自身が手がけた脚本でオリジナルSF作品を製作してきた。確実な集客が見込め、大きな予算が付きやすいシリーズ物や続編作品が増えている時代にあっても、独自の感性で新境地を開拓してきたのだ。『チャッピー』の公開から既に4年が経過、その後は『エイリアン5』の脚本を担当することが決まっていた。だが、この企画自体が立ち消えになってしまったため、『RoboCop Returns』が久しぶりの長編作品ということになる。一方で、この間にも、製作の手を止めてはおらず、自身のスタジオを通して短編作品を発表してきた。8月18日には、AmazonプライムビデオとiTunesで配信されることも発表されている。

長編映画で成功を収めたニール・ブロムカンプ監督が、なぜ短編製作に情熱を注いでいるのだろうか。今回は、彼が短編映画を製作し続けるその理由に迫ろう。

実験的な短編映像を作り続けるオーツ・スタジオ

ファンからの資金で運営

2017年、ニール・ブロムカンプ監督は、兄弟のマイク・ブロムカンプと共にカナダのバンクーバーでオーツ・スタジオ(Oats Studios)を立ち上げた。非常に小規模なスタジオで、従来のように巨大スポンサーが付いているわけではない。運営はファンからの資金援助で賄われており、設立以来、次々と短編作品を発表している。無料公開されている短編動画が気に入れば、ゲーム・動画配信プラットフォームの「Steamh」で作品の資料集などを購入し、オーツ・スタジオを支援することができる。ファンは、ブロムカンプ兄弟が率いる「オーツ・スタジオ」を支援しているのであって、資金を回収する必要はない。ファンにとっては質の高い作品と出会えることが何よりの「報酬」だ。確実に資金を回収する為に、続編やリブート、実写化が増え続けているハリウッドの状況を余所目に、ファンの支えによって実験的な短編SF映画を作り続けているのがオーツ・スタジオなのだ。
今年4月には、ニール・ブロムカンプ監督がツイッターでスタジオの写真を公開し、以下のようにコメントを残した。

オンライン経由でファンから直接資金援助を受けるスタジオ、このアイデアは本当に最高だよ

by ニール・ブロムカンプ

スタジオのトップがこのようなツイートをすることも、「ファンメイド」のスタジオならでは。小規模ながらスタイリッシュなスタジオの写真が添えられており、「作りたいもの」を作っている雰囲気が伝わってくる。では、このオーツ・スタジオで、どのような短編作品が製作されてきたのか、動画と共に振り返ってみよう。

オーツ・スタジオが公開した短編作品

注意
以下の動画には、暴力シーンやグロテスクな場面など、刺激的な描写が含まれている場合があります。また、各動画は日本語字幕で視聴することができます。

「Rakka」(2017)

2017年6月に発表されたオーツ・スタジオの短編シリーズ第一作。エイリアンに支配された2020年のテキサスを舞台に、エイリアンに立ち向かうレジスタンスの闘いを描く。主演は、「エイリアン」シリーズのヒロイン、エレン・リプリーを演じたシガニー・ウィーバー。ウィーバーは、『チャッピー』にも出演しており、ブロムカンプ作品への参加は二度目。「エイリアン」シリーズのファンにとっては、再びエイリアンに立ち向かうシガニー・ウィーバーの姿を拝めるチャンスだ。

「Firebase」(2017)

「Rakka」と同じく、2017年6月に発表されたオーツ・スタジオの初期作品。ベトナム戦争を舞台として、米軍と、超人的な姿に変貌するベトナムのゲリラ兵の戦いを描いている。ベトナム戦争といえば、同じくベトナム戦争にヒントを得て製作されたジェームズ・キャメロンの『エイリアン2』(1986)。ニール・ブロムカンプ監督は、ベトナム戦争の中にSF的要素を持ち込むという逆転の手法を用いている。

『ADAM』(2017)

ゲームエンジンのUnityを利用して製作された短編作品。タイトルの表記は「Episode 2」となっているが、「Episode 1」はUnityチームが製作・公開を行なっている。過去の記憶を失い、アンドロイドの姿に変えられた人々を軸として、謎が多くも引き込まれるストーリーが展開される。特筆すべきは、Unityを用いた映像のクオリティの高さである。メイキング映像も公開されており、こちらも必見だ。

ハリウッドの常識を覆す!

長編制作へクラウドファンディングも…

実は、ニール・ブロムカンプ監督は、『第9地区』での長編デビューの前には、数本の短編映画で監督を務めていた。『第9地区』は約5分の短編「アライブ・イン・ヨハネスブルグ」(2006)を、『チャッピー』は約1分の「Tetra Vaal」(2004)を長編化した作品なのだ。短編から長編へ—-こうした成功体験を持つニール・ブロムカンプ監督は、オーツ・スタジオを通して、同様の、けれども違った道のりでの長編映画づくりの方法を模索している。
この1月、ニール・ブロムカンプ監督は「単体作品と新作の短編映像、どっちのクラウドファンディングをするべき?」とツイート。4,000近い投票があり、70%のファンが単体映画を支持した。

4月には、これまで公開してきた短編の内、上記でも紹介した『Firebase』の長編映画化を実現するためのクラウドファンディングを実施。先に短編を公開し、視聴者から評価の高かった作品の「完全版」として、長編映画化を目指す——従来のハリウッドとは全く異なり、大資本に頼らないこの資金調達方法は、大きな話題となった。

ニール・ブロムカンプ監督が示した道筋

だが、クラウドファンディング開始から10日後には、ニール・ブロムカンプ監督からプロジェクトのキャンセルが発表された。支援額が目標額の1億ドル(約110億円)に到達しなかったのだ。やはり巨額の予算を掛けた映画製作には高い壁が立ちはだかる。それでも、短編製作からスタートし、試行錯誤しながら行動に移していく姿は見事なものだ。少なくとも、大スポンサーに頼らずとも製作陣とファンの手によって、クオリティの高い長編映画を制作できる道筋があるということを示すことができたのだ。ニール・ブロムカンプ監督は、短編映画を通して、着実に、SF映画の作り方を変えようとしている。

オーツ・スタジオ公式サイト

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