ネタバレ解説『猿の惑星/キングダム』 シーザーのレガシーとは? 2つの言葉を考察 | VG+ (バゴプラ)

ネタバレ解説『猿の惑星/キングダム』 シーザーのレガシーとは? 2つの言葉を考察

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「猿の惑星」シリーズにおけるシーザーの遺産(レガシー)

記念すべき第10作目の『猿の惑星/キングダム』が2024年5月10日(金)に公開された「猿の惑星」シリーズ。その中でも『猿の惑星/キングダム』は『猿の惑星:創世記』(2011)からはじまる新三部作の続編として制作されたものだ。新三部作の300年後が舞台の『猿の惑星/キングダム』では、新三部作の主人公であるシーザーの遺産(レガシー)とも呼べる教義が重要なものとして登場する。

本記事では『猿の惑星/キングダム』で語られる新三部作の主人公のシーザーの遺したレガシー、そして教義について解説と考察をしていこう。なお、本記事は『猿の惑星/キングダム』のネタバレを含むため、本編視聴後に読んでいただけると幸いである。

ネタバレ注意
以下の内容は、映画『猿の惑星/キングダム』の内容に関するネタバレを含みます。

『猿の惑星/キングダム』でのシーザーの遺産(レガシー)

すべてのはじまり、シーザー

「猿の惑星」シリーズを語る上で外すことのできないのが、最初のエイプの長老であるシーザーだろう。最初に高い知能を持ったチンパンジーのシーザーは、アルツハイマー治療用のウイルスベクター試験薬ALZ112の実験の被検体であったメスのチンパンジーのブライトアイズの子供として生まれた。

父親のアルツハイマー型認知症を治療するためにウイルスベクター試験薬ALZ112を開発していたウィル・ロッドマンに引き取られたシーザーは、そこで人類の知識を学んでいくことになる。しかし、ウィル・ロッドマンの父親のチャールズ・ロッドマンが暴力を受けたと感じたシーザーは、人類に暴力を振るってしまう。

シーザーは暴力行為が原因で隔離施設に送られ、そこでエイプたちが人類にどのように扱われているかを知り、独立を決心する。その間にもウイルスベクター試験薬ALZ112の改良薬である新型試験薬ALZ113の開発が続けられ、それによって高い知能を持つエイプたちが誕生していった。この新型試験薬ALZ113がすべてのはじまりであり、エイプたちの知能は向上させるが、人類の知能を低下させる猿インフルエンザになってしまった。

シーザー原理主義者? オンラウータンのラカ

独立を果たしたシーザーは、猿インフルエンザで絶滅の危機に瀕した人類との軋轢や駆け引きの中、高い知能を得たエイプたちを統一する。そこで重要になるのがシーザーの遺産(レガシー)とも呼べる教義だ。最も重要なものとして、「エイプは一緒なら強い」「エイプはエイプを殺さない」というものが挙げられる。このシーザーの教義は、シーザーの没後300年でどのように受け継がれたのだろうか。

その1つがオンラウータンのラカが守っていたシーザーの教義である。これは時代の流れにより、変化が生じている。例えば、人類とエイプの関係性だ。ラカたちの時代には人類がかつてはエイプ並みの知能を有していたことが記録されておらず、ラカはエイプが人類を保護して教育を施していると考察していた。その他にも人類の残した遺産の使い方も正確には保存されていない。

それでも、ラカはシーザーの持つ平和主義と団結の精神を受け継いでいた。「エイプは一緒なら強い」と「エイプはエイプを殺さない」の2つの教義を守っており、ラカはその最後の1体だった。その教義を守ることだけではなく、ラカにはもう1つ使命があった。それは人類の遺産である書物を守ることである。

ラカの世代は文字を読むことは出来なくなっていたが、書物を大事に保管していた。これはシーザーが人類の持つ知識がエイプたちに繁栄をもたらす最大の武器だと考えたためだと考察できる。武器といっても攻撃するという意味ではなく、未来を切り拓くという意味で書物を武器だと考えていたことが考察できる。そのような意味ではラカはシーザー原理主義者と呼ぶことのできる存在だと言える。

レガシーを曲解するプロキシマス・シーザー

シーザーの遺産(レガシー)とも呼べる教義を受け継ぐもう1つの存在がプロキシマス・シーザーの王国である。しかし、プロキシマス・シーザーの王国はシーザーの教義を曲解していることが、ラカの口から解説されている。ラカと同じようにシーザーの教義通りにプロキシマス・シーザーも書物を保管している。人類のトレヴェイサンにプロキシマス・シーザーは本を読み聞かせさせており、それは千夜一夜物語を想起させる展開である。

プロキシマス・シーザーはそこで古代ローマ史などを学んでおり、その点ではラカよりもシーザーの教義を守っていると考察できる。だが、その内容は自分の都合の良い情報だけを学んでおり、人類の発展の負の側面を学んでいないことが読み取れる展開が多い。例えば独裁政治や専制政治には悲惨な末路や犠牲者が付き物だが、プロキシマス・シーザーにそれを考慮する様子はない。

貯蔵庫のドアを開けるため、奴隷化したエイプたちを使い、ドアを鎖で力だけで引っ張っているがそこに科学的根拠があるとは思えない。プロキシマス・シーザーは歴史書を好み、その中でも自分の都合の良いものを学んでおり、科学分野などは学んでこなかったことが考察できる。

これはトレヴェイサンが生き残るためにプロキシマス・シーザーの好む分野の書物のみを読んでいた可能性もあるが、そうだとすればトレヴェイサンのモデルに千夜一夜物語があると考察できる。どちらにしても、プロキシマス・シーザーは科学分野の知識が乏しいと考察でき、自分の好む分野のみを学ぶ姿勢がシーザーの教義を曲解したプロキシマス・シーザーの独裁政治の基礎を築いていると考察できる。

「エイプは一緒なら強い」

プロキシマス・シーザーが曲解したシーザーの遺産(レガシー)とも呼べる教義として、ラカも解説していた「エイプは一緒なら強い」と「エイプはエイプを殺さない」の2つが挙げられる。これらのシーザーの教義は、1つは違う意味で語られ、もう1つは語られることさえなかった。プロキシマス・シーザーはこれらの教義を意図的に曲解することで、王国の基盤を盤石なものにしていた。

かつて、シーザーは隔離施設で個体ごとにエイプたちが引き離され、虐待を受ける様子を見てきた。その状況を変えたのが「エイプは一緒なら強い」という教義だ。シーザーは分断されたエイプよりも、団結したエイプの方が強いと考えた。これが「エイプは一緒なら強い」の原義だ。しかし、プロキシマス・シーザーの考える「エイプは一緒なら強い」は違う。

プロキシマス・シーザーは、エイプたちが様々な部族に枝分かれしたため、それら王国をまとめ上げる存在が必要だと考えていたことが考察できる。原義通りなら、それらの部族が結束するというのが「エイプは一緒なら強い」という教義に繋がるはずだ。しかし、プロキシマス・シーザーはそのように考えなかった。プロキシマス・シーザーはすべての部族の頂点に君臨する王が必要であり、それによってエイプをまとめ上げるということを考えていた。

つまり、プロキシマス・シーザーにとって「エイプは一緒なら強い」という教義は王の出現を予言するものであり、自分の独裁政治や専制政治を肯定するものと位置付けたことが考察できるのである。これは民主主義的なシーザーの教義をかなり曲解しており、ラカたちシーザー原理主義者がプロキシマス・シーザーを嫌悪するのにも納得できる。

「エイプはエイプを殺さない」

ここまでプロキシマス・シーザーがシーザーの「エイプは一緒なら強い」という教義を曲解し、それによって自身の独裁政治や専制政治を正当化したと考察してきた。だが、シーザーの教義の中には、プロキシマス・シーザーの独裁政治や専制政治の根本を揺るがしかねないものがある。それが人類とエイプは違うものであるとした「エイプはエイプを殺さない」である。

シーザーは『猿の惑星:聖戦記』(2017)で、人類同士が殺し合うのを見てきた。シーザーの考える最も愚かな行為が、同種同士の殺し合いだったのである。それを禁じることで知能が低下して絶滅していく人類に対して、同種同士の殺し合いを禁じることで知能が高くなったエイプを繁栄させていくことに成功したのである。

しかし、「エイプはエイプを殺さない」というシーザーの教義は、独裁政治や専制政治をする上で邪魔になる教義だった。プロキシマス・シーザーは自身の地位を絶対のものとするため、恐怖政治を行ない、逆らうものを殺害してきた。他の部族を襲い、奴隷化させるためには反逆者の殺害は必要不可欠な行為である。そのため、プロキシマス・シーザーは「エイプはエイプを殺さない」という教義を意図的に削除した。

これこそ、ラカの解説するプロキシマス・シーザーはシーザーの教義を意図的に曲解している行為そのものだが、それによってプロキシマス・シーザーは王国を創り上げた。シーザーの教義はエイプを単なる動物ではなく、知的生命体へと引き上げた。そのため、「猿の惑星」シリーズにおけるシーザーの教義は重要であり、その教義をどのように扱うかが物語の鍵を握ると考察できる。

『猿の惑星/キングダム』の主人公のノアは「エイプは一緒なら強い」と「エイプはエイプを殺さない」の2つのシーザーの遺産(レガシー)とも呼べる教義を、どのように受け入れたのだろうか。ノアはプロキシマス・シーザーとの最終決戦で「エイプは一緒なら強い」の教義のもとイーグル族の文化の力で一騎打ちに勝利した。しかし、間接的とは言え崖下にプロキシマス・シーザーを落す行為は「エイプはエイプを殺さない」に反しているように思える。

ノアはラカから聞いたシーザー原理主義的な教義だけではなく、独裁者や敵対者に立ち向かうためのものとしてプロキシマス・シーザーの曲解された教義を一部受け入れたと考察できる。それほどまでに「猿の惑星」シリーズに大きな影響を与えたシーザーの教義。米Hollywood Reporterのインタビューで脚本家兼プロデューサーのリック・ジャファとアマンダ・シルバーが『猿の惑星/キングダム』の後に5作品制作したい旨を語っているため、今後の作品でシーザーの教義がどのように遺産(レガシー)として語り継がれるのか注目したい。

映画『猿の惑星/キングダム』は2024年5月10日(金)より全国の劇場で公開。

映画『猿の惑星/キングダム』公式サイト

Source
Hollywood Reporter

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『猿の惑星/キングダム』のラスト解説と考察はこちらから。

続編についてのネタバレありの考察はこちらから。

「猿の惑星」全10作の時系列とタイムラインの解説はこちらの記事で。

『猿の惑星/キングダム』に登場する独裁者プロキシマス・シーザーについての解説と考察はこちらから。

メイ視点で振り返ることで見えてくる事実はこちらの記事で解説している。

『猿の惑星/キングダム』の全世界興行成績はこちらから。

ウェス・ボール監督が手がける実写版『ゼルダの伝説』の情報はこちらから。

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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