20世紀FOX版マーベルヒーローがMCUに参戦
20世紀FOXで制作されていた「デッドプール」シリーズの続編であり、これまでの20世紀FOX版「X-MEN」シリーズがMCUに合流するということで、マルチバース・サーガへの新しい展開が期待されている『デッドプール&ウルヴァリン』。本作では『LOGAN/ローガン』(2017)でウルヴァリン役から引退したヒュー・ジャックマンがカムバックするのも注目を集める要因の一つだ。そんな『デッドプール&ウルヴァリン』が、2024年7月24日(水)に全国で劇場公開された。
『デッドプール&ウルヴァリン』では、MCU以前のマーベル作品に登場してきたキャラクターたちであるヒーローたちが登場するのではないかと公開前から話題になっていた。その代表格がダフネ・キーンの演じるX-23ことローラだ。本記事ではローラを中心に注目を集めるサプライズ出演やカメオ出演したマーベルのヒーローたちについて、解説と考察をしていこう。なお、以下の内容は『デッドプール&ウルヴァリン』の重要なネタバレを含むため、必ず劇場で本編視聴後に読んでいただきたい。
以下の内容は、映画『デッドプール&ウルヴァリン』の内容に関するネタバレを含みます。
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忘れ去られたヒーローたちのカメオ出演
『デッドプール&ウルヴァリン』でのデッドプールは、自分の暮らすアース10005の存続にかかわるアンカーであるウルヴァリンを探していた。様々なアースのウルヴァリンを訪ねて自分の世界を失望させたと呼ばれるウルヴァリンを見つけ出す。それによって事態は収束するかと思われたが、世界を消す計画が進められていると教えられ、止めようとしたデッドプールとウルヴァリンは虚無に送られてしまった。
『ロキ』(2021-)に登場する虚無に送られてしまったデッドプールとウルヴァリンは、強力な能力を持つヴィランのカサンドラ・ノヴァから逃れることに成功する。その後、顔と性格が良いことが自慢のナイスプールから境界線で暮らしているヒーローたちの話を聞き、彼らに会いに行くことにする。
その境界線で暮らしているヒーローたちは皆、MCU以前に制作されたマーベル映画のヒーローたちである。その多くは続編などの計画が立てられていたが、20世紀FOXがディズニーに買収された際、企画が中止になってしまったヒーローたちで構成されている。
このことから『デッドプール&ウルヴァリン』はMCU以前のマーベル映画へのラブレターの要素が強いと言える。制作中止になった作品のヒーローたちや、既に完結している作品のヒーローたちなど、『デッドプール&ウルヴァリン』のエンドロールでのMCU以前のマーベル映画のメイキング映像からも読み取ることができる。そこにTVAのB-15が語った「過去や痛みが今のウルヴァリンをつくっている」という言葉が重なると、マーベルの作品の映像化の権利が様々なところに飛び散っていた時代もあったが、MCUによってまとめられる前にも名作たちが誕生していたことをメタ的に表現していると考察できる。
また、忘れ去られたヒーローたちのメンバーには、ケヴィン・ファイギがキャリアをスタートさせたときに関わっていた映画のヒーローも多い。そういった意味では『デッドプール&ウルヴァリン』のMCU以前のヒーローたちとは、ケヴィン・ファイギの伝記的な要素も持つヒーローチームである。デッドプールとウルヴァリンを救い、元の世界に戻るためにカメオ出演して協力するだけではなく、ケヴィン・ファイギがキャリアを築くきっかけになったMCU以前のヒーローたちのメンバーと経歴を紹介していこう。
サプライズ登場! MCU以前に活躍したヒーローたち
ローラ/X-23 演:ダフネ・キーン
デッドプールとウルヴァリンを助け、世界を失望させたウルヴァリンに対して「ウルヴァリンはヒーロー」だったと教えてくれるのがX-23ことローラだ。ローラはデッドプールとウルヴァリンがカサンドラ・ノヴァを倒すため、ジャガーノートのヘルメット奪取に協力する。
X-23ことローラはウルヴァリンことジェームズ・“ローガン”・ハウレットの遺伝子を回収し、それによって生み出されたミュータントだ。『LOGAN/ローガン』で主人公を務めたローラは、『X-MEN:アポカリプス』(2016)のポストクレジットでエセックス社がローガンの遺伝子を回収する場面で最初に存在が示唆された。
『LOGAN/ローガン』のスピンオフ続編として、映画『ローラ(原題:Laura)』の企画が存在しており、『LOGAN/ローガン』の監督であるジェームズ・マンゴールドは再びダフネ・キーンが演じるローラが観たいと明かしていた。製作のサイモン・キンバークは脚本を執筆中であると米The Hollywood Reporterのインタビューで答えている。
映画『ローラ』は『LOGAN/ローガン』と同じ2017年に公開された『ワンダーウーマン』にインスピレーションを受けたとジェームズ・マンゴールドが語っており、製作に原作コミックのローラ/X-23のクリエイターであるクレイグ・ポール・カイルも参加するということだった。2019年に20世紀FOXがディズニーに買収されると、20世紀FOXの幹部であったエマ・ワッツが『ニュー・ミュータント』(2020)を「X-MEN」シリーズの「最終作」と呼んだため、映画『ローラ』は製作されるのかという疑問がファンの間で残った。
その後、『ニュー・ミュータント』にアーカイブ出演という形でローラ/X-23は登場しているが、「X-MEN」シリーズ自体の製作が止まることになった。その一連の経緯をメタフィクション的な演出として取り入れたのが、ローラ/X-23は虚無送りにされていたという設定だと考察できる。また、ローラは『デッドプール&ウルヴァリン』と『LOGAN/ローガン』が同じアース10005と設定されたことで、デッドプールと同じユニバースから虚無に送られている登場人物だと考えられる。
ブレイド 演:ウェズリー・スナイプス
ローラと共にカサンドラ・ノヴァを倒すためにジャガーノートのヘルメット奪取に協力してくれるのが、ヴァンパイアハンターのブレイドだ。戦いでは刀やナイフなどを駆使した剣術やパニッシャーから譲り受けたロケットランチャーでジャイアントマンの死体を吹き飛ばし、デッドプールとウルヴァリンが侵入する手助けをした。
妊娠した母親がヴァンパイアに噛まれたことで、人間とヴァンパイアの混血として生まれたのがブレイドだ。ヴァンパイアの力を持ちながら、人間の要素も持つため日の下を歩けるブレイドは“デイ・ウォーカー”と呼ばれて恐れられている。1998年にスタートした映画「ブレイド」三部作では、ブレイド役をウェズリー・スナイプスが演じた。
「ブレイド」三部作の監督は作品ごとに異なり、第1作『ブレイド』はスティーヴン・ノリントン監督、第2作『ブレイド2』(2002)はギレルモ・デル・トロ監督、第3作『ブレイド3』(2004)はデヴィッド・S・ゴイヤー監督が務めている。ウェズリー・スナイプスは主演だけではなく制作にも携わっており、第3作『ブレイド3』では監督で脚本、製作を務めていたデヴィッド・S・ゴイヤーに不満を持っていたことが米UPROXXで語られている。
また、デヴィッド・S・ゴイヤーも「あの映画に関わった誰もが、あの映画で良い経験をしたとは思わないです。もちろん私自身もそうでした。あの映画に関わった誰もが結果に満足していないと思います。とても苦しい制作でした」と米The Hollywood Reporterに語っている。
2008年に第1作に登場したブレイドの宿敵ディーコン・フロストが登場する前日譚三部作の企画が中止され、2016年には同じくヴァンパイアが登場する映画「アンダーワールド」シリーズとのクロスオーバー企画が中止されたことが明らかになった。2013年にはMCUで『ブレイド』を映画化するにあたり、ウェズリー・スナイプスが再演するべく話し合いの段階にあったとも言われている。
結局、MCU版『ブレイド』はマハーシャラ・アリが演じることになったが、マハーシャラ・アリはドラマ『ルーク・ケイジ』(2016-2018)でコットンマウスという別のキャラを演じていたことで2人のキャラクターを同一人物が演じることになり、観客が混乱するのではないかと危惧された。MCU版『ブレイド』はその後も監督や脚本の降板が続くなど混迷を極めている。
そんな『ブレイド』だが、ウェズリー・スナイプス演じるブレイドは「ブレイドは俺一人」と発言している。そのときのカメラ目線のデッドプールの表情から、MCUで新しく『ブレイド』が制作されるとウェズリー・スナイプス演じるブレイドが知らないことをデッドプールが少し哀れんでいると考察できる。
また、パニッシャーに武器を借りたというブレイドに「どのパニッシャー?」とデッドプールが聞くのはパニッシャーが様々な俳優で複数回映画化やドラマ化されていることを反映していると思われる。
第3作『ブレイド3』は若き日のケヴィン・ファイギがキャリアを築き始めた頃に参加した作品であり、ライアン・レイノルズと協働した作品でもある。だが、その裏側ではウェズリー・スナイプスがスタジオ側が自身の給料を全額支払わなかったこと、プロデューサーの一人であるにも関わらず配役決定や映画製作プロセスから意図的に排除されたこと、共演者のライアン・レイノルズとジェシカ・ビールのためにブレイドのスクリーンタイムが短縮されたと主張して裁判を起こすなどトラブルが続いたようで、そんな苦い思い出も虚無送りにされた理由かもしれない。しかし、『デッドプール&ウルヴァリン』でウェズリー・スナイプスはライアン・レイノルズと和解し、共演が楽しかったことを米Comicbook.comに語っている。
エレクトラ 演:ジェニファー・ガーナー
デッドプールとウルヴァリンをローラの手引きでアジトに迎え入れ、カサンドラ・ノヴァとの戦いでは釵(サイ)を振るって手下のミュータントやヴィランと戦う。そんな正義の暗殺者がエレクトラだ。
昼は弁護士、夜はヒーロー活動をする目の見えないのヒーローのデアデビル。その映画化作品である『デアデビル』(2003)のスピンオフとして制作されたのが映画『エレクトラ』である。『エレクトラ』は『デアデビル』でデアデビルと殺し屋ブルズアイの戦闘の最中に死亡したエレクトラが、デアデビルの師匠であるスティックによって復活し、暗殺者集団のザ・ハンドと戦う物語である。
『デアデビル』では、MCUではハッピー・ホーガンを演じた俳優で、「アイアンマン」シリーズの監督も務めたジョン・ファヴローがフランクリン・“フォギー”・ネルソン役で登場しており、後のMCUに影響を与えた映画と考えることはできる。しかし、『デアデビル』はそれほど高い評価を受けておらず、そのスピンオフである『エレクトラ』は低い評価を受けてしまった。
その評価は散々なもので、映画評価家のスコット・メンデルソンは『エレクトラ』が主演のジェニファー・ガーナーのキャリアを台無しにし、10年間にわたって女性主演のヒーロー映画という概念を葬ったと米Forbesで非難した。2005年3月、製作のアヴィ・アラッドは投資家相手に『エレクトラ』の公開を急いだのは間違いだったと語ったことを米Varietyが報じている。
ソニー・ピクチャーズのメールがハッキングされた事件ではマーベル・エンターテインメントのCEOであるアイク・パールマッターは、利益の出ない女性主演のヒーロー映画の例として『エレクトラ』を挙げた。それでも映画批評家の間では、ジェニファー・ガーナーは真摯な姿勢と情熱でエレクトラ役に取り組んでいたと評価されている。
『エレクトラ』も若き日のケヴィン・ファイギが参加した作品の一つである。ジェニファー・ガーナーが『エレクトラ』で散々な評価をされたのにも関わらず、『デッドプール&ウルヴァリン』でエレクトラを再演してくれた背景にはケヴィン・ファイギの尽力とジェニファー・ガーナー自身の熱意があったのかもしれない。
なお、エレクトラが語ったカサンドラ・ノヴァに挑んで消滅したとされるデアデビルが2003年版デアデビルだった場合、演じていた俳優はDCEU(DCエクステンデッドユニバース)でバットマンを演じたベン・アフレックであった。また、DCEUでスーパーマンを演じたヘンリー・カヴィルがウルヴァリンの1人として『デッドプール&ウルヴァリン』にカメオ出演している。
もし、ヘンリー・カヴィル版ウルヴァリンとベン・アフレック版デアデビルが出会っていたら、MCUで『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(2016)でのヒーロー同士の対決と、二人の母親の名前が同じというネットミームをデッドプールがジョークにしたかもしれない。
ガンビット 演:チャニング・テイタム
MCU以前のヒーローたちの中で唯一、映画が公開されていないヒーローがいる。それがチャニング・テイタムの演じるガンビットだ。そのため、チャニング・テイタム版ガンビットは「自分は虚無で生まれた気がする」といった旨の発言をしている。そのスーツのデザインはウルヴァリンと同様にコミック準拠のもので、独特な訛りはガンビットがルイジアナ州南部に暮らす直系のフランス人の子孫のケイジャンであるためで、ケイジャン・フレンチを話せる設定から来ている。
実は「X-MEN」シリーズが所属しているアース10005にガンビットは登場している。『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(2009)で最初はウィリアム・ストライカー大佐によって人体実験をされていたミュータントとして登場し、この時はテイラー・キッチュが演じた。ちなみにテイラー・キッチュとウルヴァリンを演じたヒュー・ジャックマンは親友である。
『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』でもウルヴァリンと共闘するなど、人気キャラクターであったガンビットは『X-MEN:アポカリプス』(2016)でチャニング・テイタムがガンビットを演じるはずだった。チャニング・テイタムがガンビットを演じるという計画自体は2014年にスタートしており、その後、チャニング・テイタムが主演を務める単独映画『ガンビット』の企画が進行し、ルパート・ワイアットやダグ・リーマン、ゴア・ヴァービンスキーなどの複数の人物が単独映画の監督候補にあがったが決まらずじまいだった。
その後、20世紀FOXが買収された際にディズニーによって多くの映画の企画が精査と仕分けが行われ、多くの企画と共に単独映画『ガンビット』の企画中止が決定した。単独映画『ガンビット』についてはこちらの記事が詳しい。
長年、仕事をしてきた制作パートナーのリード・カロリンと共に脚本を執筆していたチャニング・テイタムは相当なショックを受けたという。その後、チャニング・テイタムはショックからマーベル映画を観られなかったと語っており、いつでもガンビットを演じたいとしている旨を2022年に米IGNは報じていた。その夢が『デッドプール&ウルヴァリン』で叶った形になったと考えられる。
虚無から他にもヒーローは登場するか?
スピンオフ続編映画の企画が消えてしまったローラ/X-23に三部作で完結したブレイド、酷評されてしまったエレクトラ、そもそも出演するはずの映画自体が消えてしまったガンビットなど、様々なヒーローが登場した虚無。デッドプールとウルヴァリンに協力して世界を救い、元の世界に帰っていったMCU以前のヒーローたち以外にもケヴィン・ファイギがかつて製作総指揮を務めた『ファンタスティック・フォー [超能力ユニット]』(2005)からヒューマン・トーチ/ジョニー・ストームも虚無にカメオ出演した。
これにより、マーベルがMCUを立ち上げる前に制作した名作映画たちにも日の目が当てられることが明らかになった。虚無送りにされたという設定や、TVAの装置を使って移動したという設定で、様々なヒーローやヴィランが登場する可能性が高まる。
今後公開される予定の『アベンジャーズ:シークレットウォーズ(原題:Avengers:Secret Wars)』はマルチバース同士の衝突を描くものとされている。ニコラス・ケイジ版ゴーストライダーにヴェノム、クレイヴン・ザ・ハンターのカメオ出演や、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021)の再来のようなマーベルヒーローの大集合も期待できる。虚無やTVAを利用した、これまでマーベルが生み出してきたヒーローやヴィランたちの再発掘に期待したい。
『デッドプール&ウルヴァリン』は全国の劇場で公開中。
原作コミックでデッドプールが歩んできた道をまとめて紹介! デッドプール30周年の歴史を振り返るムック本『デッドプール 30th Anniversary Book』は発売中。
『デッドプール&ウルヴァリン』のオリジナル・サウンドトラックは発売中。
『デッドプール』『デッドプール2』は2枚組のBlu-rayコレクションが発売中。
ダニエル・ウェイ&スティーブ・ディロンによるコミック『デッドプール VS. ウルヴァリン』は、吉川悠による邦訳版が発売中。
Source
The Hollywood Reporter 1/UPROXX/The Hollywood Reporter 2/Comicbook.com/Forbes/Variety/IGN
『デッドプール&ウルヴァリン』ラストのネタバレ解説&考察はこちらから。
ポストクレジットシーンは『シー・ハルク』に繋がる? ラストの更なる考察はこちらの記事で。
続編と今後のMCUの展開についての考察はこちらの記事で。
『ロキ』と『デッドプール&ウルヴァリン』の繋がりについての解説はこちらから。
ライアン・レイノルズは本作でデッドプールとウルヴァリンが抱える問題を「恥」と語った。詳しくはこちらから。
マルチバースで登場したウルヴァリンの変異体についての解説はこちらから。
デッドプールの変異体であるレディ・デッドプールについての解説はこちらから。
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