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『ワンダヴィジョン』第5話を徹底解説
2021年1月より配信を開始したドラマ『ワンダヴィジョン』はMCU (マーベル・シネマティック・ユニバース) 最新作。『スパイダーマン: ファー・フロム・ホーム』(2019) に続き、『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019) 後を描いた作品として注目を集めている。
第4話ではシットコム (シチュエーション・コメディ) の世界の外側の様子が明らかになり、『ワンダヴィジョン』もいよいよ後半戦に突入する。「問題エピソード」と題された第5話も衝撃的な展開が用意されている。そのあらすじをネタバレ解説付きでご紹介しよう。
第4話のネタバレ解説はこちらから。
以下の内容は、ドラマ『ワンダヴィジョン』第5話の内容に関するネタバレを含みます。
『ワンダヴィジョン』第5話のあらすじ&ネタバレ解説
疑問を抱き始めるヴィジョン
「何もかもワンダ」というモニカの衝撃の告発で幕を閉じた第4話に続く第5話。オープニングは80年代風だ。二人は双子の子育てに苦労しており、ヴィジョンはダーウィンの『人間の由来』(1871) を読み聞かせるなど、独特な子育てを実践している。『人間の由来』は、動物の人類への進化を扱った書籍だ。それでも、子育てをしながらダンスをするなど、二人は仲睦まじい姿を見せている。
ワンダは泣き出す双子に魔法を使おうとするが効果がなく、子ども達は一向に泣き止まない。そこにやってきたのは、ご近所さんのアグネス。前回のエピソードで、ウエストビューの住人の本来の姿が明らかになる中で、唯一その素性が明らかになっていなかった人物だ。「赤ん坊が泣き止まないと聞いた」と言うが、どこから情報を得たのか、どうも疑わしい。ワンダが「助けが必要かも」と言った途端にアグネスが現れたのだ。ちなみに、アグネスが向かう途中だったという”ジャザサイズ”とはエアロビクスのように音楽に合わせて体を動かすエクササイズのことだ。
「とっておきの秘策がある」というアグネスに対し、警戒するヴィジョン。赤ん坊に触らせたくないようだ。番組の“流れ”が行き詰まり、気まずい空気になったところで、アグネスは「もう一度やる?」とワンダに尋ねる。「最初から撮り直す?」と聞くのだ。アグネスは明らかにこれがシットコムとして収録されている番組だと理解している。
だが、ワンダとヴィジョンはピンと来ず、アグネスは再び元のキャラに戻り、物語を進めようとする。この異変に気付いたのはヴィジョンだ。アグネスが演技をやめた瞬間についてワンダに聞くが、ワンダはアグネスのことを疑わず、劇中のジョークとして流そうとしている。ヴィジョンは思わず「本当に変だと思わない?」と真剣にワンダに問いかけるが、これにもアグネスの邪魔が入ってしまう。
ヴィジョンの問いかけは、視聴者の感情ともリンクしている。第3話までと違い、もはやシットコムの状況を素直に見ることはできない。
オープニングは『愉快なシーバー家』
そうこうしていると赤ん坊たちが泣き止み、なんと子ども達は4〜6歳ほどの年齢に成長している。幼少期の育児の辛さが、ワンダに時間をスキップさせたのだろうか。あまりにも急な展開だが、ワンダとヴィジョンはこれをこれを受け入れ、『ワンダヴィジョン』第5話はオープニングに突入する。
オープニングはワンダの幼少期の写真とヴィジョンの (存在しない) 幼少期の写真が映し出される。ヴィジョンのコスプレはサンクスギビング (感謝祭) のターキー、イースター (復活祭) のウサギ、クリスマスのサンタと、アメリカを代表するホリデーのコスプレになっている。すっかり“アメリカ市民”だ。なお、5歳の誕生日ケーキを吹き消すビリーとトミーの姿も写っており、二人の年齢は5歳だと予測できる。
なお、このオープニングの元ネタになっているのは1985年から1992年まで放送されたシットコムの『愉快なシーバー家 (原題: Growing Pains)』のオープニングだ。YouTubeのWarner Archiveで同作のオープニングが公開されているので、見比べてみてほしい。
ワンダの情報が明らかに
オープニングが終わると、シーンはウエストビューの外側に映る。シットコムに入り込んだモニカが、その時の体験を話している。頭の中でワンダの声が聞こえ、「深い哀しみ」に支配されたというモニカ。やはりヴィジョンを失ったワンダの心情が、この一連の現象の根本にあるようだ。
デシメーションから戻ってきた時と同じように、モニカはすぐに仕事に戻る。ウー捜査官とルイス博士、ヘイワード長官らと共に、モニカが得たウエストビュー内部の情報の共有が始まり、ヘイワード長官はワンダを「被害者」ではなく「主犯格」と断定するのだった。ここで初めて、ワンダの詳細なプロフィールが明らかになる。
1989年のソコヴィアでイリーナとオレグの間に生まれ、両親を失ったのはワンダとピエトロが10歳の時だという。ワンダを極悪人に見せたいヘイワード長官は、「魔女」という言葉が入った“スカーレット・ウィッチ”の二つ名を引き出そうと、ウー捜査官に「別名は?」「あだ名は?」と聞くが、ウー捜査官は「ありません」「一つもありません」と答えるばかり。アベンジャーズと対峙した過去についても触れるが、ウー捜査官はアベンジャーズと共に戦った過去を正直に述べる。ウー捜査官のいつもの天然のようにも見えたが、実はワンダの悪口を言うまいとヘイワード長官の意図に気づかないふりをしていたのだ。
被害者であるモニカも「政治的な意図や破壊傾向はない」と報告。確かにモニカはワンダに追放されたが、傷を負ってはいない。モニカは「彼女は私を守ることを選んだ」と述べている。「計画的な侵略行為ではない」と話すモニカだったが、ヘイワード長官はここで極秘映像を共有する。
そこには、ヴィジョンの遺体が安置されていた場所に入り込む9日前のワンダの姿が映っていた。ワンダは能力を使って施設を襲撃し、ヴィジョンを奪い去ったのだという。ワンダがヴィジョンを生き返らせたのだとすれば、ソコヴィア協定36節のB、そして「武器にするな」というヴィジョンの遺言に反すると話し合う一同。ワンダは本当に悲嘆のあまりにこのような行動に出たのだろうか。そもそもヴィジョンを生き返らせた方法は? 疑問は尽きない。ルイス博士は「彼が真実を知ったら?」と案じるのだった。
都合の良い展開に
ここでドラマはシットコムパートに戻る。成長したビリーとトミーは犬を洗っている。二人は犬を飼いたいとワンダに懇願するが、やはりそこにタイミングよく犬小屋を持ったアグネスが登場する。ヴィジョンは不自然なアグネスの登場を既に予感していた。ルイスが言った通り、ヴィジョンが真実を知る時は近いのかもしれない。
犬にスパーキーと名付けたワンダは、魔法を使って名前入りの犬の首輪を出現させる。ヴィジョンはアグネスの前で魔法を使ったワンダに驚くが、ワンダは都合の良い理由をつけて意に介さない。だんだんとルールが緩くなっているようだ。
異変に気づいたヴィジョンは「何を隠しているんだ?」とワンダに問いかけるが、子ども達がそこに割り込む。大事なことはいつも後回しになってしまう。ペットを飼うのは10歳になってから、と言われた子ども達は瞬く間に10歳に成長。アグネスはこの状況も意に介していない。ワンダのコントロールによるものなのか、それともアグネスにも秘密があるのだろうか。
明らかになる“ヘックス”の秘密
その頃、外の基地では、モニカがヘックス (ルイスが付けたウエストビューの名前) に入るために4.5トンの核シェルターを作るアイデアを披露していた。モニカは「作り話に見えるけど、全て現実」と、ヘックスの中で起きていることは幻覚ではないと語る。ワンダの子ども達も本物だという。ビリーとトミーの存在は、今後のMCU作品に影響を及ぼしていくことになりそうだ。
もう一つの現実世界を作り出しているワンダは、とてつもないパワーを使っている。サノスを一人で倒せるほどの力、とモニカが例えたところで、ルイス博士とウー捜査官はキャプテン・マーベルを話題にあげるが、モニカは複雑な表情を浮かべる。キャプテン・マーベルは『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018) で人類の半分が消滅するまで、地球に戻ってこなかった。そのせいでモニカは母マリア・ランボーの死に立ち会うことができなかった。モニカには、キャプテン・マーベルことキャロルに対する複雑な思いがあるのだろう。
ここで何かを思いついたモニカは自身がヘックスから弾き出された時に着ていた衣装を見にいく。モニカがこの衣装に銃弾を打ち込むと、弾ははじき返されてしまった。ヘックスに入る時に着ていた防弾素材の服がそのまま衣装に変異している。つまり、ワンダの能力は幻覚を見せるのではなく、現実を書き換える「現実改変」能力だったのだ。これは原作コミックにおけるスカーレット・ウィッチの代表的な能力でもある。そしてモニカが思いついた作戦は、“改変する必要がないもの”をヘックスへ送り込むことだった。
遂にワンダが口を開く
場面はヘックス内のヴィジョンの職場に。80年代らしく、職場にパソコンが導入されたようだ。そのパソコンに届いたメールはソードからのもの。ヘックスについてのレポートが混入したのだ。メールの内容について「作り話だよ」と話す同僚のノームだったが、ヴィジョンは能力を使いノームの洗脳を解く。すると、ノームは我を取り戻し「彼女を止めてくれ」と助けを懇願するのだった。
その頃、ビリーとトミーは犬と遊んでいたが、土曜日のはずなのにヴィジョンは会社に行っており、話の辻褄が合わない。良い感じの音楽で良い話にまとめるワンダだったが、兄弟の存在について聞かれ、ピエトロのことを思い出していた。
と、そこに現れたのは一機のドローン。80年代のドローンを潜入させることで、現実改変を起こさせずにワンダに接触することに成功したのだ。モニカはワンダとの対話を試みるが、ヘイワード長官はワンダへの攻撃命令を出す。これを口火にワンダはヘックス外に姿を現し、ソードと対峙する。この時のワンダの服装は、おなじみの赤ジャケットになっている。
ワンダは自分の“ホーム”に侵入しないよう警告。町の人々を人質にとっているにもかかわらず「脅しているわけではない」と居直る。モニカは説得を試みるが、ワンダは「望みはかなえた」と助けの申し出を拒否し、ヘックスの中へ戻っていくのだった。
CMの“ラゴス”とは?
ここで、久しぶりのCMが入る。出演者は以前と同じままだが、今回はヒドラの製品ではなく、“ラゴス”の紙タオルが紹介されている。舞台は80年代とあって、少し進歩しているのは、ビールをこぼした夫に自分で掃除をさせているところだ。字幕でも吹き替えでもキャッチコピーは「好きで失敗したんじゃない」となっているが、英語では「For when you make a mess you didn’t mean to. (わざとじゃないけど、めちゃくちゃにしてしまった時に)」となっている。
なお、ラゴスとは、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016) においてヒドラのブロック・ラムロウが生物兵器を盗むために潜伏していたナイジェリアの街の名前だ。ワンダはキャプテン・アメリカ、ファルコン、ブラックウィドウと共にラゴスでラムロウと戦った。この時、ワンダは自爆しようとしたラムロウからキャプテン・アメリカを助けたことで、民間人を爆発に巻き込んでしまった。自身もアベンジャーズの戦いに巻き込まれて両親を失っていたことから、この時ワンダは強いショックを受けている。このCMのキャッチコピー通り、ワンダはわざとではないが、ラゴスの街をめちゃくちゃにしてしまったのだ。
CMに“ラゴス”が出てきたということは、やはりワンダの記憶がCMに影響を与えているのだろう。キッチンペーパーで汚れを拭き取るように、ワンダは嫌な過去を消してしまいたいのかもしれない。それにしても、CMはなぜヒドラ関連のものばかりなのか、そこには疑問が残る。
第5話までのCMについてのまとめと解説はこちらの記事から。
衝突するワンダとヴィジョン
ワンダ、トミー、ビリーは犬のスパーキーを探すが、アグネスの庭のツツジを食べたスパーキーは死んでしまっていた。哀しみから逃れるために歳を取ろうとするトミーとビリーに、ワンダは「逃げてはいけない」と語りかける。「死んだものも戻せるよね」と問われたワンダは「命にはルールがある」と話すが、自身の行動と辻褄が合わないことは一目瞭然だ。
その夜、スパーキーを埋葬したヴィジョンは、本来のノームと話をしたことをワンダに話す。話を逸らそうとするワンダだったが、ヴィジョンは「僕を操ることはできない」と食い下がる。ワンダは客の拍手と音楽を入れ、エンドロールを流してこの回を終わりにしようとするが、ヴィジョンはこれを無視してワンダを追究する。遂に史上最悪の夫婦喧嘩が始まってしまうのか。
ヴィジョンもらしくない。キャラが一変し怒鳴り声を上げている。「前の暮らしも自分が誰かも思い出せない」と嘆く。そう、ヴィジョンは初めて“恐怖”を感じているのだ。その恐怖に対し、ワンダは自分の夫であり、ビリーとトミーの父親であるということだけで十分ではないかと語りかける。これこそが、ワンダが自分自身に言い聞かせていることなのかもしれない。
それでもこの状況について疑問を投げかけるヴィジョンに、ワンダはこれがどのようにして始まったのかも分からず、全てをコントロールしているわけではないと話す。この状況を維持しているのはワンダだが、始めたのは彼女ではないというのだ。この重要な場面で訪問者が現れる。ワンダは、今回ばかりは自分の意思ではないと主張する。そして、ここで第5話最大のネタバレが登場する……。
衝撃の訪問者
そこに現れたのは俳優のエヴァン・ピーターズが演じるピエトロ。そう、20世紀フォックスによって映画化された「X-MEN」シリーズ版のクイックシルバーことピーター・マキシモフだ。20世紀フォックス版の「X-MEN」は、かつてマーベルが破産した際に20世紀フォックスが映画化の権利を買い取り製作したもの。エヴァン・ピーターズが演じるクイックシルバーの初登場は『X-MEN: フューチャー&パスト』(2014) で、『X-MEN: アポカリプス』(2016) にも登場している。
20世紀フォックスは2019年にマーベル・スタジオの親会社であるディズニーが買収し、「X-MEN」シリーズの製作はマーベルに引き継がれることになっていた。ファンの間では、「X-MEN」シリーズがMCUに合流するにあたっての問題点として、クイックシルバーことピエトロが二人存在しているということは議論になっていた。今回、「X-MEN」は『ワンダヴィジョン』を使ったウルトラCのMCU合流を見せたのだ。
『ワンダヴィジョン』第5話に登場したピエトロは、クレジットでも名前が“Pietro Maximoff”となっている。ピエトロはワンダの兄という自覚があるようで、ワンダにハグを求める。性格は完全に「X-MEN」シリーズの陽気なキャラクターだ。この様子を見ていたルイスは「別のピエトロ?」と口にする。ヴィジョンの存在に気づいたピエトロが「Who’s the popsicle?」と、ヴィジョンをアイスキャンディのポプシクルに例えたところで、『ワンダヴィジョン』第5話は幕を下ろす。
第5話がMCUの転換点に
第5話の邦題は「問題エピソード」だったが、英題は「On a Very Special Episode…」=「とても特別なエピソードで…」になっている。『ワンダヴィジョン』という作品だけでなく、MCUと「X-MEN」シリーズにとっても非常に重要なエピソードになったことは間違いないだろう。
“別のピエトロ”の登場が物語としてどのよう設定となっているのかはまだ不明だ。だが、少なくとも20世紀フォックス版「X-MEN」からのキャラクターが登場するということが“有り”になったという事実は揺るがない。ウルヴァリン、デッドプールをはじめとする「X-MEN」の人気キャラクター達がMCUに合流する一つの契機が生まれたのだ。
新たなMCUが動き出す、その転換点となるドラマ『ワンダヴィジョン』は、このアクロバティックな展開を、ストーリーの中でどのようにまとめて見せるのだろうか。ますます目が離せない。
ドラマ『ワンダヴィジョン』はDisney+で独占配信中。
『ワンダヴィジョン』第1話のネタバレ解説・あらすじ&考察はこちらの記事から。
『ワンダヴィジョン』第2話のネタバレ解説・あらすじ&考察はこちらの記事から。
『ワンダヴィジョン』第3話のネタバレ解説・あらすじ&考察はこちらの記事から。
『ワンダヴィジョン』第4話のネタバレ解説・あらすじ&考察はこちらの記事から。
『ワンダヴィジョン』撮影のメイキング映像と撮影秘話については、こちらの記事から。