第9話&最終話ネタバレ解説『仮面ライダーBLACK SUN』「仮面ライダー」神話と視聴者への問い、繰り返される歴史 あらすじ&考察 | VG+ (バゴプラ)

第9話&最終話ネタバレ解説『仮面ライダーBLACK SUN』「仮面ライダー」神話と視聴者への問い、繰り返される歴史 あらすじ&考察

©️石森プロ・ADK EM・東映

2022年10月28日(金)0時より全10話が一挙配信されたドラマ『仮面ライダーBLACK SUN』。アウトローの世界を描くことを得意とする白石和彌監督や、アカデミー賞で国際長編映画賞の受賞と邦画初の作品賞にノミネートされた『ドライブ・マイ・カー』の主演を務めた西島秀俊氏が南光太郎役を演じるなど、新しい「仮面ライダー」として注目を浴びる本作。

SNS上では最終話が大きな議論を呼び、その反響の大きさから『仮面ライダーBLACK SUN』という配信作品が大きなムーブメントになっていることを実感させられる。今回は各シーンを忌憚なく解説、考察していく。

以下の内容は最終話までのネタバレを含むため、必ずAmazonプライムビデオで本編を視聴してから読んでいただきたい。また、本作は視聴対象が18歳以上の成人向けコンテンツになっている。また、露骨な残虐描写が含まれるので苦手な方は注意していただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、ドラマ『仮面ライダーBLACK SUN』最終話までの内容に関するネタバレを含みます。

創世王の真実

2003年、現実の日本では小泉純一郎元総理大臣の第二次小泉内閣が発足した年。『仮面ライダーBLACK SUN』では堂波真一が内閣総理大臣になった年。真一はビルゲニアと教会に訪れてオリバー・ジョンソンを拷問。その幼い息子ニックが隠し持っていたキングストーンを奪取し、残りのキングストーンを得るためにニックと養護する怪人たちを人質に取る。ニックはオリバーの息子であり、それ故に創立時の五流護六の情報を知ることが出来たのだ。

しかし、オリバーはかつての仲間・新城ゆかりの「人間も怪人も命の重さは地球以上、1gだって違いはない」と言って拒絶する。ビルゲニアは「昔からむかつく野郎だ」と吐き捨てて真一と共に教会を去る。まだ幼かったニックはそれをただ見ているしかなかった。この事件にニックが怪人になって強くなることに固執していた理由が感じられる。

海の洞窟に隠されたクジラ怪人のアジト。クジラ怪人はそこで南光太郎・仮面ライダーBLACK SUN(ブラックサン)の千切れた彼の足を繋ぎ合わせようと、命のエキスをかけて治療を試みていた。この設定は『仮面ライダーBLACK』(1987-1988)に近いが、この液体の正体に関しては『仮面ライダーBLACK SUN』では明かされないため、便宜上、命のエキスと呼称する。

海辺の老人ホーム。葵とビルゲニアを前に年老いた秋月博士は罪を告白したビルゲニアに対して罪は自分にあると語る。当時は光太郎の父・南も秋月博士も若く、改造人間計画に逆らえなかったと言う。研究に疑問を抱き始める秋月に南は考えるなと諭す。秋月は知識を平和のために使いたかったと漏らす。南は考えないロボットになろうとし、秋月はそれでも耐えられないというのが為政者に利用される人間の生々しい姿に思える。

そんな中、皆既日食の最中に生み出されたバッタの改造人間が驚異的な力を発揮し、泣きながら他の研究員を殺害したのだ。それこそが怪人の神・創世王であり政府はそれを成功例と見なし、あの村で研究を再開。秋月博士曰く「王や神といった呼び名は後付けでしかなく、創世王に意思はない。ただヒートヘブンと怪人の源となる体液を流すだけ」らしいが、一方で器の人間に強い精神力があれば意志ある創世王の誕生もあり得たと語る。

葵は何故息子たちにキングストーンを移植したのか問うが、秋月博士は二人なら争わないと信じたのだ。創世王の誕生には蝗害と日食が関わっており、同じく日食の日に生まれた光太郎と信彦なら創世王殺害も継承も可能と考えての決断だった。秋月博士から創世王を不要だと考えていたことを告げられたビルゲニアはその場を去る。創世王を信仰するビルゲニアにとっては人生が崩壊するほどの告白だ。葵は最後に何か秋月博士に質問する。

ビルゲニアは葵に車に乗っていくかと誘うが、葵はビルゲニアを許しておらず、いつか殺すとまで言い切る。だが、ビルゲニアは一緒にいればいつでも自分を殺すことができると言い、二人は同じ車に乗った。国連で先ほどの秋月博士の話とオリバーと両親から遺された資料を発表すると語る葵に、ビルゲニアは「そうか」と一言だけ返す。

カルト教団「五流護六」

元三神官翼竜怪人・ビシュムの案内でゴルゴム党内を案内された真一は新たな五流護六のリーダーになり、革命戦士からまるでカルト教団の教祖のような出で立ちになった秋月信彦から自分は真一の望み通りの体液を垂れ流すためだけの創世王にならないこと、そして創世王は怪人たち五流護六が管理し怪人のために使うことを告げられる。

真一は話にならないと一蹴し、ダロムを呼べと言うがビシュムの態度からダロムの死を悟る。ビシュムは信彦の命令で警護のSPを全員惨殺。かつての真一誘拐時とまったく同じ展開だが、死体の山に怯える真一をビシュムは祖父の道之助はこの程度で動じなかったとなじると、信彦から今後は怪人が人類を支配すると宣言され、真一は逃亡する。

夜景を見渡す高層階でワインを飲みながら創世王の意志について話す信彦とビシュム。ビシュムは王位継承の儀の際に創世王に自身の意志が流れ込むのを感じ、秋月博士と同じ結論を下す。信彦に光太郎か葵を創世王の器にするのかと聞く。そして突然のキスのあと、もしBLACK SUNかSHADOW MOON(シャドームーン)が創世王になった場合、意志を持った創世王になることをビシュムは危惧する。それを聞き、信彦はワインを飲み干した。

ビルゲニアに連れられ、ノミ怪人のいる海辺へ来た葵。ノミ怪人はビルゲニアを警戒するも、葵を光太郎のもとへ案内する。海の洞窟ではクジラ怪人とコウモリ怪人が神妙な顔でBLACK SUNを見つめ、反応がないとノミ怪人に伝える。葵に命のエキスをかけるように勧めるクジラ怪人。それがかけられるとBLACK SUNの体から煙が立ち、クジラ怪人は復活を確信する。僅かに指が動き、そのベルトから眩い光が放たれた。

かつて信彦とビルゲニアが捕えられていた房へ向かうビシュム。そこでかつての五流護六最強の戦闘怪人だった元三神官サーベルタイガー怪人・ベラオムと話す。ベラオムは、ダロムは怪人と人類の戦争の際、上級怪人ではなく戦闘力の低い下級怪人が最初に犠牲になることを恐れて支配される形になっても人類との共存共栄を選んだと言うが、ビシュムは切って捨てる。

ビシュムは、50年前はダロムが勝利し、今度はSHADOW MOONが勝った、信じるのはそれだけと言う。ビシュムの信条は時代の勝利者の陣営につくことのようだ。ビシュムは皆の前にバラオムを連行し、バラオムをこれまで怪人を守ってきた戦士と評価した上で覚悟の証として一人ずつ短剣で彼を刺すように命じる。困惑する党員に覚悟と忠誠を要求する信彦とビシュム。社会から孤立させ、そして共犯者意識を植え付けるのはカルトの洗脳の常套手段だ。

信彦はSHADOW MOONとして説く。兵器「怪人」を生んだのも人間、武力行使をしたいのも人間だ、本能のまま殺し合いを望んでいるのは人間だと。怪人たちは差別され、自分を責め、悲しい歴史なら消すべきであり創世王を殺そうとしたこと、つまりはゆかりとの愛を過ちとし、怪人を守るためにSHADOW MOONが創世王になると宣言する。その姿は完全にカルト教団の教祖であり、党員もといSHADOW MOONの信者たちは熱気にあてられて興奮し、喜んでバラオムに刃を立てた。

キリスト教的「仮面ライダー」

海辺の洞窟では光太郎が目を覚ます。光太郎は蚊の泣くような声で、最初に葵を心配する。葵は光太郎の言いつけを守ったと涙ながらに話し、彼に力を取り戻すべくヒートヘブンを食べさせようとする怪人たちを制する。もう限界まで戦ったのだから、廃バスで静かに暮らそうと葵は言うが、光太郎は仮面ライダーBLACK SUNとして創世王を止め、信彦を殺すという大罪まで背負いこもうとしていた。

前回の記事で脇腹を傷つけられて鎖で磔にされた信彦の姿をイエス・キリスト、裏切って解放されたビルゲニアをイエス・キリストの代わりに赦免を得て解放されたバラバと称したが、死から復活するもすべての罪を背負おうとする光太郎・仮面ライダーBLACK SUNはカルト教団のリーダーになった信彦・仮面ライダーSHADOW MOONよりもイエス・キリストらしい。

『仮面ライダーBLACK』が世紀王同士の戦いの末に創世王を決めるという「偽の王と真の王の物語」だったとすれば、今作は怪人の世界における真の救世主の思想を持っているのはどちらなのかを決める「偽救世主と救世主の物語」なのかもしれない。この「仮面ライダー」という超人的な聖人に世界の救いを求める点にはどこか宗教的な要素を感じる。

光太郎が食べようとするヒートヘブンを奪い、光太郎が背負うものを代わりに継ぐと言う葵。葵は光太郎だけではなく、怪人の起源と人類の罪を告発しようとした両親、自由を求めた親友の雀怪人・小松俊介の意志も受け継いでいると語る。だが光太郎も50年前の自分が今の自分を見張っている、敗北した過去からその意味を受け継いでいると言い、自分が死んだときには葵に託すと言ってその手に五流護六の最初の理念の無限大の形を描く。

そして光太郎は彼がヒートヘブンを食べる姿を見ていられないと言って立ち去ろうとする葵の腕をつかみ、すべての罪を背負って戦う意味を伝えるかのようにヒートヘブンを食べて見せた。その反動でもだえ苦しみ、暴れぬようにコウモリ怪人、クジラ怪人、ノミ怪人に抑えられる光太郎の胸に葵は血文字で無限大の字を書いて立ち去り、彼女の後に続くようにビルゲニアもついていった。

第四の壁を越えるとき

真一は官房長官・仁村勲から葵が秋月博士に接触したこと、更に過激派の両親から政権のアキレス腱の資料を受け継いだことを報告され、真一は何としてでも葵を止めろと命じる。自分が支配していたはずのゴルゴム党が五流護六に戻り牙をむき、自分の社会的な優位性が揺るがされる恐怖を隠す真一の姿はどこか情けない。ここで彼は自分が優れていたから上に立てたのではなく、偶然マジョリティ側に生まれたから上に立てたことを悟らされる。

夜明けの路地裏。コウモリ怪人は変な怪人に絡まれる。そして変身して戦おうとすると、その怪人は特徴的な髪を見せ自分がニックだと明かし、改造によってコオロギ怪人になったことも明かす。彼の夢がかなったことを喜ぶコウモリ怪人は、ニックを良いところに連れていくといって街へ繰り出した。オリバーの息子であるニックからすれば、コオロギは父親の親友のバッタ怪人を思わせるものであり、彼の憧れだったのかもしれない。

廃バスから葵はリモートで世界に向けたスピーチをはじめる。葵は怪人が戦時中の兵器だと暴露。計画者が真一の祖父・堂波道之助である証拠映像も公開。真一は場所特定を急がせるが、戦慄する世界に怪人の友人の死、怪人を生む人間の恐怖、怪人になった自分の姿も晒し、もう軽々しく共存とは言えないがそれでも怪人との共存の道を探し続けると語った。これは50年前の五流護六と同じ考えであり、葵は50年前の意志も引き継いだのだ。

廃バスに射殺許可の下りたSATたち警官隊が忍び寄る。だがそこに古代甲冑魚怪人へと変身したビルゲニアが乱入し、彼は銃弾の雨を浴びながら警察官たちを怪人の指導者の証であり創世王を守るための聖剣で切り伏せる。ビルゲニアの装甲も次第に銃弾を通し、楯を持った警察官たちに取り囲まれるが、それでも彼は剣を振るう。剣が折れてもビルゲニアは葵のスピーチのために戦い続ける。

葵はその間も語り続ける。怪人であり人間でもある自分を受け容れるためには戦わなければならないが逃げることはできない、どんな友情も愛も夢を持っていても戦わないといけない。後戻りできないなら踏み出すしかない。そして動画を見る相手へ向けてという形をとって視聴者に語りかけてくる。これは現実で起きていることなのにどうして怒らないのか。差別は実在し人の生きる権利と喜びを奪う。この演出には思わず鳥肌が立った。

これまでの『仮面ライダーBLACK SUN』の中で起きていた事件が現実の事件を模している理由の説明がなされた。それは現実の事例をモデルにしているというだけではなく、このドラマがただ虚構ではなく現実と地続きであり、すべて現実で起きていることだという意味だったのだ。だからこそ、私たち視聴者も声を上げなければならない。そして、50年前のビルゲニアや解放されたばかりの信彦が語っていたように私たち視聴者は怒っていいのだ。

同じくAmazonプライムビデオのヒーローの腐敗を描いたオリジナルドラマ『ザ・ボーイズ(原題:THE BOYS)』(2019-)のシーズン3第6話「ヒーローガズム」の冒頭で、実在のセレブと架空のヒーローたちがスマホの自撮りという体でジョン・レノン氏の『イマジン』を歌うという、新型コロナ感染拡大の最中のワンダーウーマン役で有名なガル・ガドット氏らへの皮肉とパロディを行なったが『仮面ライダーBLACK SUN』は更に踏み込んだ演出をしてみせた。

ドロローサへの道

怪人と共存を望む怪人犯罪課の黒川一也は部下を殺され、自分もビルゲニアに殺される寸前だ。その瞬間、無数のワイヤーのフック付き弾がビルゲニアの装甲を貫き、彼を捕える。一也は至近距離でビルゲニアの腹に何度も銃弾を撃ち込み致命傷を負わせるもビルゲニアも一也の首に噛みつき、ワイヤーを振り払い抵抗する。最後の力を振り絞り銃に弾を込め廃バスに向かう一也をビルゲニアも最後の力を振り絞り折れた聖剣でその喉を斬った。

『仮面ライダー剣』(2004-2005)でも同様の場面がある。怪人の一人に共存を見出した仮面ライダーギャレンが敵対する最後の怪人と戦い、追い詰められながらも至近距離でその腹に何度も銃撃を撃ち込み、殴られてマスクを砕かれながらもほぼ相討ちの形で辛勝する場面だ。『仮面ライダーBLACK SUN』は昭和の作品だけではなく平成の「仮面ライダー」シリーズを思わせる演出をよりビターにして行ってくる印象を受ける。

怪人と共存しようとしていた一也と、かつては人間と共に差別撤廃のために戦っていたビルゲニア。理解しあえたかもしれない者たち、政府に利用された者たちが死屍累々と倒れる中で死にかけるビルゲニアが立ち尽くす中、葵のスピーチが重く視聴者に圧し掛かる。「人間も怪人も命の重さは地球以上、1gだって命の重さに違いはない。だから私たちは戦う。奪い合わない世界になるまで」。

葵の世界にむけた宣戦布告を最後にスピーチは終わる。このとき作中世界の国連の様子や映像を見ていた者たちの姿を映さないことで、これまでのスマホ越しの葵の映像を虚構から現実へと書き換え、これまでの作中の事件が現実でも発生したものとまったくと言っていいほど似ていたことや、特定の人物を模しているのか年号がぴったり合う理由がすべて説明されている。この演出は見事としか言いようがない。

スピーチを終え、外に目をやると死体の山と血まみれのビルゲニアが目に入り、彼のもとへ走り出す葵。そしてビルゲニアが立ったまま死んでいることを知る。彼女は折れた聖剣を拾い、涙を浮かべ死体で出来た道を歩む。その姿はイエス・キリストが十字架を背負い受難の中で歩いたドロローサへの道を思わせる。その頃、復活を果たした仮面ライダーBLACK SUNの胸に葵の描いた無限大の字が『仮面ライダーBLACK』と同じ形で浮かび上がっていた。

『仮面ライダーBLACK SUN』放映スタート!

懐かしい効果音と音楽が流れ、懐かしいカットと画質で幕が上がる。更に主題歌「仮面ライダーBLACK」のイントロが始まる。間違いない、これは『仮面ライダーBLACK』のオープニングだ。テロップの再現には驚かされる。これまで視聴者は現実の「美しい国、日本」ともがくバッタ怪人を観てきた。葵のスピーチで現実と虚構の境が曖昧になり、そこにバイクのバトルホッパーが疾走。陰惨さと葵の宣戦布告をもとに視聴者に挑戦状を突きつける。

葵は現実世界の日本に訴えかけてきた。画面の向こうで白けた顔や笑って観ている視聴者にこれは現実で起きている差別なのにもかかわらずなぜ怒らないのか、なぜ差別に戦わないのか。私たちは人間であり、怪人だ。だからこそ差別と戦わなければならない。たとえそれがどんなに厳しい道のりでも、どんな友情も愛も夢を持っている相手でも戦わないといけない。葵はそう言って同胞たちの死体で出来た道を歩み出したのだ。

「仮面ライダー」シリーズも現実の日本に訴えかけてきた。仮面ライダーは怪人と戦うヒーローだ。それは怪人だからではなく、相手が悪事を働くからだ。クジラ怪人のような善良な怪人も描かれている。そして子ども達に悪いことはしてはいけない、悪いことには立ち向かおうと教えてきた。今の私たちはどうだろう。悪いことはしていないだろうか、悪いことに立ち向かっているだろうか。そのすべてを詰め込んだオープニングだと感じた。

最終回はAmazonプライムビデオに書かれたあらすじも『仮面ライダーBLACK』を思わせるような文章に変わっているなど、再生前からかなり凝った導入になるようになっている。これは『ザ・ボーイズ(原題:THE BOYS)』(2019-)のシーズン3などでも似た演出が行なわれているが、『仮面ライダーBLACK SUN』はオープニングまで『仮面ライダーBLACK』に寄せるなど凝りに凝っている。

仮面ライダーBLACK SUN 対 仮面ライダーSHADOW MOON

ゴルゴム党へバトルホッパーに乗った光太郎がブルーシートの覆いを潜って乗り込んでいく。彼はバトルホッパーを降りると踏みしめるようにゆっくりと階段を登っていった。同じとき総理官邸では、真一が記者たちから槍のように突きつけられるマイクと怪人の起源についての告発に関する質問から逃げるように足早に階段を登っていく。

ゴルゴム党地下、創世王が繋がれていた玉座に腰かけ自らが創世王になると宣言する信彦。光太郎はそれなら殺すしかないと返してキングストーンを投げ捨てる。光太郎と信彦は鏡合わせのように変身ポーズを取り仮面ライダーBLACK SUNと仮面ライダーSHADOW MOONに変身した。二人の戦い方は同じで、彼らが正反対故に同じだということがわかる。仮面ライダーBLACK SUNと仮面ライダーSHADOW MOON、南光太郎と堂波真一、現実と虚構、すべてが対比的に描かれる。

国会では真一が葵の告発に関して野党から問い詰められる。真一は「あれは絵空事だ」と言い切り彼は書類を棒読みし、のらりくらりと躱す。現実の国会そっくりだが、かつて道之助はコントロールでき、痛みに不屈の無敵の人間兵器である国民が必要と新聞で語っていた。そして野党は切り札「防疫研究所による改人(怪人)製造についての関係資料」を持ち出す。それはオリバーが集めた資料であり、葵はオリバーの意志も受け継いだのだ。

『仮面ライダーBLACK SUN』で1936年に道之助は「~業部総務司長」となり改造人間の兵器化を行っていたが、現実でもモデルと考えられる岸信介元総理が1936年に満州国国務院実業部総務司長に就任、そして満州国には人体実験を行っていた関東軍防疫給水部本部、通称731部隊(石井部隊)が存在した。ここも現実とリンクしており、本作で描かれていることが単なる虚構ではなく現実と地続きであることが示される。また怪人が改造人間の略称、「改人」であったことも明かされた。

その頃、地下では仮面ライダーBLACK SUNと仮面ライダーSHADOW MOONの戦いが続いていた。二人は残された互いの第二の腕を引きちぎり、それで剣戟を繰り広げる。SHADOW MOONはBLACK SUNの腹を突き刺し念動力で吹き飛ばすが、BLACK SUNはベルトに力を溜めて仮面ライダーとしてライダーキックを放った。一度は劣勢に回るSHADOW MOONだったが再び念動力で逆転し、父親たちが二人が争うことを知っていたことへの怒りを込めた拳で殴り、この戦いを運命と語った。

BLACK SUNは、父親たちは争わせるためではなく、争わない自分たちだったからこそキングストーンを託したのではないかという秋月博士と同じ考えを抱いていた。一度投げ捨てたキングストーンを握った仮面ライダーBLACK SUNと仮面ライダーSHADOW MOONの念動力の戦いの末に、BLACK SUNの再び仮面ライダーとして打つライダーパンチが勝敗を分けた。SHADOW MOONは玉座の下に倒れ、二人は変身を解く。

南光太郎と秋月信彦

変身解除した二人の顔は激しい戦いの末に腫れあがっているが、仮面ライダーBLACK SUNと仮面ライダーSHADOW MOONとしてではなく、親友・南光太郎と秋月信彦として対話をする。たとえ新城ゆかりが裏切り者のスパイだったとしても、ゆかりの語った「人間も怪人も命の重さは地球以上、1gだって命の重さに違いはない」という言葉と信じた世界に嘘はなかったはずだと光太郎は語る。

50年前、五流護六を立ち上げたときに何が正しいかわからなくても、それを受け継いで次の世代に託すのが歴史の通過点である自分たちの役目だと語り合った日々が、怪人と人間の集合写真と共に思い出される。信彦は内紛の末にみんないなくなってしまったと涙をこぼす。この結末は山岳ベース事件など連合赤軍などの結末に近いのが生々しい。そこに光太郎のあの頃の自分が今の自分を見張っているという言葉が沁みる。

信彦は自身の腹からキングストーンを引きずり出し、自分の戦いは終わったことを悟り死んでいった。残された光太郎の手の中でキングストーンが輝きはじめ、そこに心臓だけになった創世王が這いよる。そして光太郎の拳が引き込まれ、彼の叫びが響くとまばゆい光の中、ビシュムはそれを見つめていた。創世王が心臓の形をしているというのは『仮面ライダーBLACK』と共通しており、オマージュやリスペクトを感じられる。

裏切り者たち

廃バスの中、ビルゲニアが残した聖剣の刃が輝く。葵はそこで秋月博士にした最後の質問を思い出す。それは創世王の倒し方であり、秋月博士らは政府と道之助らへの最後の抵抗として創世王を殺す武器をつくりあげていた。それは表向きには創世王を守る剣とされた聖剣サタンサーベルであった。秋月博士は神に守られていると考え皇軍を名乗る日本軍とその兵器への対抗策にキリスト教の神の敵対者の名前・サタンをつけたのだ。

当初、ゆかりの語る出自から聖剣はイスラームのシーア派初代イマームのアリー・イブン・アビー・ターリブの象徴の剣ズルフィカールと考察したが、それは偽りの歴史であり、実際は神を裏切った者の象徴だった。この点は詫びなければならない。また、王を守る武器が王を殺す武器という点は『仮面ライダー555』(2003-2004)における仮面ライダーの設定を想起させる。

真一ら民の党の与党幹部らは高級料亭で会食し、今後のことを話し合う。官房長官・仁村勲は葵を即刻捕えることを提案するが、真一にもう遅いと言われて酒を顔にかけられる。幹事長は衆議院の解散でことをうやむやにし、国民の目をどこかにやるしかない、そうすれば国民は忘れると国民を舐めた発言をする。だがこれも現実と地続きで、実際にあり得る話だ。

帰りの車中、真一が小便をしたがり勲は運転手に路地裏に車を止めさせた。そこで怪人の命を下品に嘲笑うが、そこにコオロギ怪人ニックが現れる。真一は逃げるが、その先にはコウモリ怪人がいた。彼を50年前と同じく懐柔しようとする真一だったが、あんたの約束は信用できないと言われニックに首を刎ねられて死亡。そこで「仮面ライダーBLACK」のイントロが流れるのが皮肉的で、オリバー・ジョンソンを忘れるなという叫びが耳に残る。

光太郎との約束

創世王の心臓に取り込まれ、ゴルゴム党地下で新たなる創世王となって意識なく体液を搾り取られ続けられる光太郎。溜まっていく体液を三神官唯一の生き残り・ビシュムはどこか満足げに見つめている。これまでの屈辱などの経験からかビシュムはバラオムに語ったように、50年前はダロム、現代ではSHADOW MOON、そして今は創世王となった光太郎と常に勝者につく主義なのだ。

サタンサーベルの刃を持ってゴルゴム党に向かう葵。葵はゴルゴム党員の怪人に取り囲まれると、仮面ライダーBLACK SUN・南光太郎と同じ変身の構えを取る。その腰には新たなベルトが現れ、葵はカマキリ怪人に変身した。約束通り生きて戦い、光太郎の意志も受け継いだ葵。そこにクジラ怪人とノミ怪人も現れ、彼女が創世王のもとにいけるように怪人たちを引き受ける。

創世王となった光太郎に駆け寄る葵。光太郎は意思がないはずなのに葵の名を呼び、葵は光太郎が背負うものも受け継ぐと約束するが光太郎は殺してくれと懇願。後ろから彼女を抱きしめるように光太郎は自分が最初に教えた護身術の体勢を取る。そして葵はもう泣かなくていいと言って止めを刺し、光太郎はそれを聞いて笑みを浮かべて消えていった。

「仮面ライダー」シリーズ共通のテーマである仮面ライダーは泣きながら戦っているというテーマを仮面ライダーBLACK SUNである光太郎では笑顔で終わらせ、葵は塵となった遺体を前に涙を流し、「同胞殺し」「親殺し」「泣きながら戦う」というテーマを葵は光太郎から受け継いだ。これで『仮面ライダーBLACK SUN』は終わりを迎えるはずだった。

賛否両論の結末

しかし現実は変わらない。怪人が警察官たちに逮捕され、やめてくれ息ができないという命乞いを無視して首を膝で踏みつけ拘束される姿が流れる。市民がスマホで撮影しようとするのを警察官が制止するが、これは完全にジョージ・フロイド氏が亡くなったときを再現している。他にも第1話や第2話の頃より激しくなっている怪人差別の映像が続き、ゴルゴム党の事件と葵の告発のせいか怪人への恐怖も差別も悪化しているように見える。

ジョージ・フロイド氏は2020年に息ができないと言ったにも関わらず、白人警察官の過剰な暴力によって首を押さえつけられ続けて亡くなった黒人男性である。彼の「息ができない(I can’t breathe)」という言葉は 2014年に同じく息ができないと11回も訴え続けたにもかかわらず白人警察官に首を絞められて亡くなったエリック・ガーナ―氏の言葉と共に、ブラック・ライヴズ・マーター(BLM)のスローガンとなっている。

このハッピーエンドと思われた後に現実で今も続く差別の映像などを挿入して視聴者を差別に満ちた現実に引き戻す演出は、スパイク・リー監督の犯罪伝記映画『ブラック・クラウンズマン』(2018)のエンディングを思い起こさせる。これによって視聴者は再び虚構と現実の境が曖昧になり、虚構の差別が現実の差別と同じであることを突きつけてくるのだ。

官房長官だった勲は総理大臣になり、真一と同じような安保法制の成立や憲法改正を目指していることが作中のテレビで流される。勲の内閣にはビシュムがおり、勲が真一は私腹を肥やすことを選んで没落したが自分は道之助と同じ道を往くと語り、彼女はゴルゴム党として支援することを告げた。オリバーらの目指した倒閣は成し得ず、民の党は政権与党であり続けた。更に井垣渉が死んでも反怪人団体は存在し続けていることも明かされる。

現実と見紛う差別的な移民受け入れ反対運動が行われ、人々は移民受け入れで日本が破綻すると叫ぶ。唯一それに抗議していた少女の訴えは無視され、転んだ少女の手を葵がつかみ、少女を少年兵たちの墓へと連れて行く。葵は五流護六の負の面すら受け継ぎ、クジラ怪人とノミ怪人と共に少年兵に殺人術や爆弾製造を教えているのだ。そしてテレビで悪がある限り戦うと言う勲に葵も悪がある限り戦うと言い、日食とBLACK SUNの旗が映し出されて終わる。

賛否両論を呼ぶ結末だが、これは製作陣が議論を起こすためのものだと考えられる。現実と虚構の境を曖昧にし正義の御旗の下で憎しみ合う。人は歴史の通過点であり、井垣渉が死んでも差別はなくならない。何が正しいのかもわからず、私たちも現実で戦わなければならず、逃げることはできない。友人と衝突することもあるだろう。それでも私たちは議論しなければならない。その議論を起こすために救世主のいない結末にしたと感じた

その一方でこの描き方は危うさがあり、マジョリティによって追い詰められたからといってマイノリティが暴力に頼ってしまうことや次の世代にその負の面も受け継がせてしまう描写は偏見と差別の助長に繋がるようにも思える。結局怪人は悪役になってしまうのか、こんなことをしていたなら差別されても仕方ない、そう受け取られかねない描き方でもある。ベルトを持ちながらカマキリ怪人で留まった葵にはその危うさが現われていると感じた。

この点の評価に関しては未だはっきりとした答えが出せず、ある意味ではゆかりの「歴史の通過点でしかない」という言葉や、オリバーの「幸福かどうか答えを出すのは自分たちではない」という言葉のように危うさの中で議論を重ねるべきことのように思える。この点の批判も踏まえ、評価を出すのは敢えて先に延ばしたいと思う。だがこれが最適解の演出ではなく、他の余地があったのは紛れもない事実だと考えられる。

それでも、これまで築き上げた怪人像をオープニング再現と共に旧来のものにもどしてしまうような演出は悪手としか言えない。現実のマイノリティの鏡像として怪人を9話もかけてじっくり描いたにもかかわらず、最終回でそれを旧来の「怪人=悪」に戻してしまうのは、現実のマイノリティにも同じく悪のイメージを与えてしまう悪手中の悪手だ。この点に関してはしっかり考えるべきだったと言える。自分たちが現実と虚構の境を曖昧にしたのだから、その責任をもっと深く考えるべきだと感じる。

この責任に製作陣は今後どのように向き合っていくのか、葵らに対するアンサーとして『仮面ライダーBLACK SUN RX』を製作するのか、それとも沈黙するのか。葵に「声を上げるべき、怒るべき」と言われた一視聴者として今後の動向も追っていきたい。

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第1話&第2話のネタバレ解説はこちらから。

第3話&第4話のネタバレ解説はこちらから。

第5話&第6話のネタバレ解説はこちらから。

第7話&第8話のネタバレ解説はこちらから。

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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