第5話&第6話ネタバレ解説『仮面ライダーBLACK SUN』仮面ライダーの台頭と過激化する学生運動 あらすじ&考察 | VG+ (バゴプラ)

第5話&第6話ネタバレ解説『仮面ライダーBLACK SUN』仮面ライダーの台頭と過激化する学生運動 あらすじ&考察

©️石森プロ・ADK EM・東映

Amazonプライムビデオ独占配信作品『仮面ライダーBLACK SUN』は、70年代に大ヒットした「仮面ライダー」シリーズの原点に立ち返るイメージで企画された『仮面ライダーBLACK』(1987-1988)のリメイク作品。それをアウトローの世界を描くことを得意とする白石和彌監督らが 撮ることによって日本の社会問題へと切り込む作品に仕上がっている。

Twitterのトレンド入りも果たすほど反響の大きい本作だが、一挙配信ということもあって第5話と第6話まであっという間だ。そして気が付けば物語も後半戦に突入したが、日本の闇を描くといわれた本作はどのような展開を迎えるのだろうか。今回も各シーンを解説していく。

以下の内容は第6話までのネタバレを含むため、必ずAmazonプライムビデオで本編を視聴してから読んでいただきたい。また、本作は視聴対象が18歳以上の成人向けコンテンツになっている。また、露骨な残虐描写が含まれるので苦手な方は注意していただきたい。

ネタバレ注意
以下の内容は、ドラマ『仮面ライダーBLACK SUN』第6話までの内容に関するネタバレを含みます。

葵の失踪

1972年、五流護六ビルゲニア派キャンプ。南光太郎のテントに新城ゆかりが潜り込み、話があると切り出す。ゆかりはビルゲニアに賛同したわけではないが怪人のためにここにおり、真の目的は創世王の殺害だと明かす。現代の光太郎はそんな苦い夢で目を覚まし、朦朧とする頭ながら和泉葵がいないことに気づく。そこへ現れたのはバイクのロードセクターに跨った秋月信彦と雀怪人・小松俊介であった。

俊介の話では葵は母親・川本莉乃を探して怪人たちがかつて暮らしていた村に向かったらしい。だが、そこは二人にとって因縁の地、BLACK SUN(ブラックサン)とSHADOW MOON(シャドームーン)が誕生した場所であった。信彦は俊介に帰るように言うと光太郎はバイクのバトルホッパーに乗り、信彦のロードセクターと共に村へと疾走していく。

村の廃屋に辿り着いた葵とニック。そこにいたのはノミ怪人とビルゲニアで、二人は彼女の母親への愛と怪人になりたいニックを利用してキングストーンを持った葵を誘い込む罠を張っていた。しかし何度も裏切られ続けた葵は臆さない。それを見たビルゲニアは貴重な創世王の体液をニックに使うより、葵に使った方が有益だと考えて彼女の怪人化に取りかかる。

莉乃の悲痛な叫びにも聞く耳を持たず、葵のカマキリを用いた怪人化を進めるビルゲニアにノミ怪人は戦慄。惨たらしく腹を切り開かれる葵に莉乃は死ぬわけではない、生きている間は諦めるなと懸命に励ますが、ビルゲニアは「いつ見てもしびれるな、人間が怪人になるのは」と言って苦痛に叫ぶ葵を眺め、無情にも莉乃を殺害。そこにかつて五流護六で怪人差別撤廃を説いていた青年の姿はない。

仮面ライダーBLACK SUN、誕生

隙を見てノミ怪人は、囚われたニックに「もう怪人になろうと考えるな」と諭して逃がそうとする。そのような二人の耳に入ってきたのは希望の音。それはバトルホッパーとロードセクターのエンジン音であり、視聴者の多くが幼少期に一度は聴いたことがあるだろう仮面ライダーの到来を告げる音だ。二人はその姿に目を奪われる。

完全に怪人化し、光太郎すらも感知できなくなった葵。因縁を持った信彦とビルゲニア。信彦はビルゲニアをゆかりの仇と呼び、ビルゲニアは剣を抜いて変身する。バッタ怪人とカマキリ怪人、バッタ怪人と古代甲冑魚怪人の戦いの火ぶたが切って落とされる。ビルゲニアは「50年経ったんだから、もう時効だろ」と挑発し、葵だと気づかずに惨い方法で彼女を倒してしまった光太郎は悲しみの中、復讐の怒りに燃えていた。

葵の復讐に燃える光太郎は信彦の共同戦線の提案を無視し、ビルゲニアは自分一人で倒すと言い切る。そしてビルゲニアに向けて「ゆるさん」と叫び、変身の構えを取る。そのとき、拳がギリギリと音を立て、初めて変身と言い放った。そうするとバッタ怪人の姿から緑色に煌めき、光太郎は更に別の姿、”仮面ライダーBLACK SUN(ブラックサン)”へと変身した。

「ゆるさん」という名台詞や言い回し、変身の構え、拳がギリギリと音を立てる、バッタ怪人からの二段階変身はすべて『仮面ライダーBLACK』(1987-1988)を踏襲したものだ。変身後の姿もバッタ怪人から情報公開されていた仮面ライダーの姿になり、戦いの構えも変化するなど第5話にしてバッタ怪人・南光太郎ではなく、仮面ライダーBLACK SUN・南光太郎の物語が始まるのだ。

『仮面ライダー』(1971-1973)では恩師、『仮面ライダーBLACK』では育ての親の復讐など、「仮面ライダー」シリーズにおける仄暗いテーマである復讐をきっかけに物語は急展開を見せる。完全体の光太郎の姿を見て驚く信彦。光太郎はビルゲニアを圧倒すると背中の第二の腕を痛々しくもぎ取り、それを剣の代わりにしてビルゲニアの腕を切り落とした。三神官の翼竜怪人・ビシュムが葵とビルゲニアを連れ去ってしまうものの、物語は仮面ライダーの様相を呈しはじめる。

白石和彌監督らが描く仮面ライダー

怪我の処置をするビルゲニアだが失敗に苛立ちを隠せない。怒りを剥き出しにして葵の頭を掴み、ビルゲニアは彼女に怪人として生きろ、最後に殺すのはBLACK SUNと告げる。それに反しキングストーンの一つを奪えたことに興奮する三神官だったが、もう一つのキングストーンを完全体BLACK SUNから奪えそうにない。それでも総理大臣・堂波真一はほくそ笑み、隠し持っていたキングストーンを出すと今後も自分たちが創世王の管理を引き継ぐと告げた。

ルー大柴氏が「悪の総理大臣」と語る真一は、前話でも怪人を三代続くビジネスと発言していた。これは大日本帝国時代から権力を手にし、終戦後も保守政党代表を務めて自主憲法制定やスパイ防止法制定に尽力した岸信介元総理、息子の岸信和元内閣総理大臣秘書官、その甥で強引に憲法改正と安保法制定を推進した安倍晋三元総理がモデルと考察できる。彼ら三代の保守かつ強引な憲法改正などを創世王管理による怪人差別という形で生々しく描いている。

ただの少年だった葵の親友の雀怪人・小松俊介は信彦の訓練の下で手作り爆弾を作る少年兵へ変身していた。周りも近い年齢の少年少女ばかりで、彼らは信彦の指揮でゴルゴム党に突入し、キングストーンと葵を奪還し総攻撃を計画していた。少年たちにこのような教育を施す信彦に光太郎は顔を曇らせる。それから手作り爆弾を見つめていた。

昭和の「仮面ライダー」シリーズでは少年仮面ライダー隊などの子どもの協力者が登場するが、アウトローの世界を得意とする白石和彌監督の目を通してみれば、現在も問題視されている中核派やオウム真理教関連団体に入る学生のように全盛期を知らず組織に入り、過激派になる若者か少年兵として見えるのだろう。『仮面ライダーBLACK SUN』では過激化した70年代の学生運動の残り火と現代の人種差別問題を時間の交差によって共に描く。

ゆかりの計画

1972年、買い物袋を持ったコウモリ怪人を信彦と光太郎が裏切り者ではないかと締め上げる。そこにゆかりが割って入り、コウモリ怪人は五流護六と政府の動きを監視していただけだと明かす。その頃の真一は糞尿垂れ流しで縛られ人間扱いされず、ビルゲニアは時間があれば創世王に祈るなど宗教に傾倒し、分派が過激化していることがうかがい知れる。末期の赤軍そのもののようだ。ビルゲニアはまた拠点を移動することを伝えた。

その晩、ゆかりは光太郎のテントに潜り込み、話があると切り出す。ゆかりはビルゲニアに賛同したわけではないが怪人のためにここにおり、真の目的は創世王の殺害だと明かす。翌日、水汲みにかこつけて信彦にも計画を告げる。ゆかりは少人数では政府と五流護六を相手にして戦い続けることは出来ない、仲間を集めても徒労に終わる、そうして怪人が兵器化されるのなら創世王を殺そうと考えているのだ。

この時点でビルゲニアは創世王への祈りという宗教的な思想が混じっているものの、末期の連合赤軍が起こした山岳ベース事件やあさま山荘事件といった自滅の道をたどろうとしているように思われる。そこにあさま山荘事件で一躍ヒット商品となったカップヌードルを食べる場面を入れてくるのだから、何とも皮肉的だ。それを悟った真一はこの革命ごっこは長く続かないから解放してくれとコウモリ怪人の説得を試みる。

ゆかりの計画を聞かされた信彦は怪人に死ねと言うのかと反対し、創世王を守り人間を駆除する過激派路線を崩さない。光太郎も過激派ほどではないものの同意見だと言う。そんな二人にゆかりは次世代の怪人の命を背負えるのかと問い、それよりも怪人たちに今の天寿を全うしてほしいと話す。そして彼女は血文字で掌に五流護六創設時の信念「永遠に差別と戦う」を意味する無限大のマークを描き、二人の手を取って再び誓った。

ゆかりは光太郎と信彦の持つストーンがキングストーンだと確信。それが揃わなければ王位継承は失敗し、創世王は誕生しない、だからこそ自分に託してほしいと語る。光太郎はその覚悟から創世王を殺すことに賛同するが、これを真一に見られてしまっていた。この点は「仮面ライダー」シリーズに共通する「同胞殺し」と「親殺し」を表わしていると思われる。このエピソードは光太郎が”仮面ライダー”になるエピソードであった。

ゴルゴム党突入作戦

次期創世王で揉める三神官とビルゲニア。人間に利用され体液を搾られる偽りの神になりたいものはいない。唯一手を挙げたのはヒートヘブンを食べず歳を取り、怪人絶滅を防ぐために人間に従属し、怪人のためなら命を捨てる覚悟のダロムだった。しかし全員が拒絶され、やはり器はBLACK SUN(ブラックサン)とSHADOW MOON(シャドームーン)しかないという結論を出す。だがビルゲニアは葵にも可能性を見ていた。

その頃、ゴルゴム党前では信彦に訓練された少年兵が爆弾をしかけ、突入作戦を決行していた。それに感づいて葵の王位継承の儀を急ぐ三神官たち。信彦は少年兵らと共に変身して乗り込むが、安全ヘルメットや斧にスコップ、バットなどあり合わせのもので武装している様子は過激化した学生運動や赤軍、革マル派や中核派を想起させる。

葵が強引に王位継承の儀をさせられる最中、突入した信彦一派とゴルゴム党の怪人同士の抗争が勃発する。前述の通り「同胞殺し」は「仮面ライダー」シリーズ共通のテーマだが、差別されて身を寄せ合ってつくったはずの怪人組織同士が殺し合う内ゲバは、捕縛された人間の救助をしていても気持ちの良いものではない。それが噛みつきや殴り合いなど血が伴えば尚更だ。

このように白石和彌監督は70年代や80年代のアウトローの世界を描くことを得意としており、監督らによって18歳以上の成人向けコンテンツとして制作された『仮面ライダーBLACK SUN』は「仮面ライダー」シリーズの大ヒットと過激化した学生運動という70年代を語る上で外せない二つの出来事とそれらが持つメッセージを用いることで、2022年の日本が抱えている病巣に鋭いメスを入れている。

錯綜する1972年と2022年

王位継承の寸前、葵の頭の中にキングストーンの記憶が流れ込む。ゆかりが殺されたこと、彼女の遺志を継いだオリバー・ジョンソンがキングストーンを守り抜いて川本夫婦に託したこと、真一の持っていたキングストーンをオリバーが隠し続けていたものをビルゲニアと真一が強奪したこと、そして葵と両親の思い出。それによって葵は王位継承を振り切り、混乱に乗じて逃げ出すことに成功する。

信彦は想定していなかったSATの介入に困惑するも、素早く銃弾を躱してSATを制圧する。そこで信彦は隊員を撃ち殺さない選択肢を取る。別行動を取って葵を探す光太郎もゴルゴム党怪人から襲われるが、命を取らずに制圧する選択肢を取る。そうして葵と再会した光太郎だったが、葵は自分が恐ろしいと吐露する。光太郎は怖いことは何もないとそれを受け容れ、キングストーンを持って逃げ、生きて戦えと泣く葵を抱きしめて言うのであった。

二人の前に現れたダロムは三葉虫怪人に変身。光太郎も葵を逃がすために仮面ライダーBLACK SUNに変身する。しかしダロムは光太郎を気で押さえ、怪人存続のために次期創世王にと説得する。彼の最優先事項は人間というマジョリティに従属してでも生き延びることだ。だが光太郎はマイノリティに自由のない現状に未来を見出せず創世王殺害の決意は揺るがない。その裏で捕縛された人間を解放する少年兵たちをSATが銃殺していた。

光太郎は50年前も同じ決断をしていた。姿を見せないゆかりを探す信彦に対し、光太郎は一人でも創世王を殺しに行くと告げる。そこにビルゲニアを追う三神官とクジラ怪人が現われる。騒乱の中でオリバーはゆかりを疑い、自身のルーツを話し、人種差別を知るから同じ境遇の怪人差別と戦うと言う。実際に彼を演じるモクタール氏は日本とセネガルにルーツを持つ俳優だ。ゆかりは誰と戦っているのかという問いに言葉を濁して去ってしまった。

ゆかりたちの失踪や三神官たちの襲撃はすぐにビルゲニアにも悟られ、彼は焦りを募らせていく。オリバーの言葉ははっきりせず、そのタイミングで逃げ出した真一を取り押さえて暴行するビルゲニア。彼の聖剣で首を刎ねられそうな瞬間、真一はゆかりの創世王殺害計画を明かし、ビルゲニアは不信感に苛まれ彼女を追った。この展開は総括の末に身内同士で殺し合った連合赤軍の山岳ベース事件を思い起こさせる。

現代、SATの襲撃から逃げ出した俊介と合流する葵。葵は自分もキングストーンを守ってきた人間であることを悟る。SATは容赦なく人間たちを撃ち殺す。そもそも政府が“生産性のない国民”として見捨てた人間たちなので、かなり衝撃的な演出で政府の弱者の切り捨てを描いていることがわかる。そして俊介から彼らを救うために怪人として共に戦うように求められた葵は、自分の力を恐れるもかつての自分の言葉を胸に戦うことを選ぶ。

1972年、ゆかりを探していた信彦と三神官の一人・バラオムが衝突。サーベルタイガー怪人とバッタ怪人の血みどろで泥臭い戦いが繰り広げられる。最初こそ信彦が優勢で、馬乗りになってバラオムの顔がめり込む勢いで殴りつけたが、隙を突きてバラオムの爪が脇腹に刺さり敗北した。両者は激しく出血し、辛勝ながらバラオムは信彦を確保に成功する。

2022年、ゴルゴム党内宗教施設で信彦は三神官の一人・翼竜怪人・ビシュムと対峙する。同じとき、地下で捕縛された人間救出のために葵と俊介は怪人として戦っていた。しかし人間は撃ち殺されていく。ゴルゴム党突入の中でも怪人は殺すも人間は殺さない選択肢を取った信彦や怪人も殺さない選択肢を取った光太郎とは違い、革命戦士、少年兵になった俊介は人間が人間を殺す惨状に激昂しSAT隊員を射殺する選択肢を取ってしまった。

強力な風を操るビシュムに対して防戦を強いられる信彦。信彦が勝てば創世王は死に、ビシュムが勝てば次期創世王の器にされる。互いに次世代の怪人たちの命運が肩にかかっており、一歩も引くことはない。信彦は自らの背中の第二の腕を居合斬りのように痛々しく血を滴らせながら引きちぎり、抜刀術のようにその腕で一太刀を浴びせてビシュムの翼を切り裂いた。

50年前の光太郎は騒乱のことなど知らずに創世王殺害を決意して、創世王の隠されている旧日本軍施設に辿り着き、その重たい扉を開ける。現代の光太郎も騒乱の中をかき分けて創世王が隠された部屋の前に辿り着き、IDカードでその扉を開ける。だが、かつての光太郎も創世王を殺害できなかったように、現代の光太郎も創世王を前にして何かに感づくのだった。創世王殺害というゆかりの悲願を目前に物語は終盤へと突入していく。

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第7話&第8話のネタバレ解説はこちらから。

第1話&第2話のネタバレ解説はこちらから。

第3話&第4話のネタバレ解説はこちらから。

鯨ヶ岬 勇士

1998生まれのZ世代。好きだった映画鑑賞やドラマ鑑賞が高じ、その国の政治問題や差別問題に興味を持つようになり、それらのニュースを追うようになる。趣味は細々と小説を書くこと。
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